3話
そろそろ話さなければならない時が来たようだ。
その前にスマナイ。七十話以上ある『CZK』の全てを読まずこのEP17『ストライダー』から読んでもいいといったが今回は具体的にEP5、EP7、EP9で触れられた内容、そして今後のネタバレになる内容も含むので、どこを読まないとこのEP17『ストライダー』を楽しめないかを明かすことが出来ない。全部読めばバッチリ、しかし全てのエピソードを読むことは大きな労力と時間(たまに苦痛)を皆様に強いるだろう。
空白の三年間の話だ。
度々、断片的に名前が出る謎の人物“荒野のオッサン”のついて少し話さねばならない。
今回は、ベラトリクスからシアトルに呼び出されたチャールズとミランダが、ヒーラーにドク、用心棒にミセス、見習いにマーリィを連れていく旅の最中、タイムトラベルによって歳の差たった三歳の親子のミランダとマーリィの会話から、“荒野のオッサン”の話をピックアップして行こう。
「シスター・グレイシャがまさかこんなことをするなんて。マーリィ、あなたがいた未来にこんな出来事はあった?」
「シスターはわたしの先生だった。勉強も教えてくれたし、ゾンビ殺しの基礎の考え方と技術、サバイバルの方法。彼女はこれ以上にないって程に真面目で誠実で優しい人物だったはず。まるでアラゴルンよ。……若い頃にヤクブツでラリったことがあるって言ってたけど、人生が壊れるほどラリったことはないはず。やはり歴史が改竄されている」
「時空が改竄されているなら、この時空では死んでいる人がマーリィの未来では生きている可能性もあるってこと?」
「そういうネタバレはよろしくないなぁ。未来を知ることは人から生きる気力と努力を奪うことがある。例えばお祖母ちゃん……アビゲイルはZ15年に見つかるよ、なんて言ったらミランダは何もせずZ15年を待つでしょう? でもZ15年にアビゲイルを見つけるためには大きな旅と努力、そして犠牲が必要だとしたら、それを払うのはバカバカしく思えない?」
「Z15年にお母さんが?」
「わたしの未来ではNOよ。例えばの話。わたしの未来は信用出来ない。あなたにとっては未来でも、わたしにとっては現代との整合性と因果関係のない過去の話なの。タイムトラベルというよりパラレルワールド?」
「マーリィの未来にミランダはいるけれど、それはまるでミランダを演じている女優が違う脚本を持ってさらにアドリブをかましまくっているってことなのね」
「そんな感じぃ」
「あなたはこの時代に最初に来た時、ロイドの名前を出したわね?」
「そうだっけ?」
「フィル・サリバンは……」
「フィル・サリバンのことは言えない。フィル・サリバンは多分、わたしがお喋りしたこのパラレルワールドのことも知っている」
「フィルを知っているのね」
「ええ。お母さんから聞いた」
母親の口からかつて好きだった人物や元カレの名前や話を聞くなんて本当にクソッタレな出来事だ。こんなことを経験する人間はいなくていい。クソ……クソォ!
「わたしとフィルはパラレルワールドでも出会ったのね。じゃあ“荒野のオッサン”は?」
「“荒野のオッサン”? 誰?」
カリフォルニア州オレンジ郡からそう遠くないどこかの荒野のオアシス。彼はそこに住んでいた。彼は二十年前に荒野にやってきて小屋を建て、土地を切り開いて農場を作り、ソーラーパネルで発電して誰とも会わずずっと一人で暮らしてきた。なんでそんなそうなってしまったのかは覚えていない。でもなんとなく「俺ぁ人間が嫌いさ」とかトンガってた時期もあったようなないような……。
「あぁ、まったく最低だぜクソッタレ。いつだって女ってヤツはそうさ。男のことをなんにもわかっちゃいない。自分の物差しで物事を測ってまるで自分だけが正しいような口ぶりで追いつめてきやがる。男は女に対して強い物腰をとれねぇってことをあいつらは本能的に知ってやがるんだ。アナタは世界が自分に与える影響に関しては敏感だけど、自分が周囲に与えている影響に関しては鈍感なタイプね、だってよ。偉そうに。だから俺はこう言ってやったんだ。じゃあお前の言う世界ってなんなんだよってな。やっこさん黙りこんじまったぜ。キャンキャン咆えるだけの憐れな犬ってのは、猟犬にもなれずいつかは愛想を尽かされるもんなのさ。猟犬になれないんなら、犬は可愛くなきゃいけねぇ。それがいいオンナになるためのStep1、可愛げのある女になれ、だ」
そんな彼のオアシスに、初めてのお客がやって来た。母親を探して旅をしているミランダという少女に名を尋ねられ、彼は自分が名前すら忘れてしまったことを思い出し、こう名乗った。俺は“荒野のオッサン”だ、と。
自分よりはるかに年上でシブく悲しみを帯びた男性に惹かれるミランダの心の琴線“ジャパニーズ・枯レ専”を弦代わりにジミ・ヘンドリクスのように激しくかき鳴らした。
“荒野のオッサン”は懐かしのヒーロー番組『アンビリーバブル・ニュートマン』のファンだった。でもニュートマンは実在しない。“荒野のオッサン”はニュートマンに会えないくらいなら一生一人でよかったのだ。
しかし中途半端な幸運が“荒野のオッサン”に不幸を呼ぶ。
ミランダの伯父であるマーク伯父さんはZ現象の直後に「もう働かなくていいぞ!」と言ってバイクに跨り、オレンジを出ることなく事故で死んだが彼が「もう働かなくていい!」と死ぬほど喜んだ仕事は、ニュートマンのスーツアクターとしてパシフィック・プレイ・ランドとかの遊園地や大型イチバンマーケットのステージでニュートマンショーに出演するものだったのだ。
今はミランダが乗っているバイクでパシフィック・プレイ・ランドに通勤してショーをしている間だけ、マーク伯父さんはニュートマンだったのだ。
二十年ぶりに会った人間、ミランダ。しかも彼の伯父さんは偽物とは言えニュートマン!
二十年分の人恋しさがこの国では繰り返し放送された怪獣映画の傑作(だと子供は思っている)『ゴジラ対メガロ』のダム崩壊シーンの水の如く押し寄せ、オレンジのノーマン家にあるマーク伯父さんの遺品(主にニュートマン関連)を見物に来た。
しかし二十年間誰にも会わなかった“荒野のオッサン”は、既にこの国で最も簡単に人種を見分けるカテゴリの存在を知らなかった。肌の色や宗教じゃなく、Zかそうでないかだ。
彼はしばらく、Zにビビりながらノーマン兄妹と行動を共にして、ゾンビに殺された。
ミランダは“荒野のオッサン”を死なせてしまった罪悪感に苛まれ、ゾンビへの復讐鬼になった。時を同じくしてチャールズには娘のクララが生まれ、チャールズは兄としての役割以上に父の役割を真摯に演じなければならない、ミランダにとっては過酷なロールチェンジがあった。
ミランダはかつての“荒野のオッサン”みたいにたった一人で悪魔のようにゾンビを殺し続けたが、クレストゲートパークのDJコニーの都合でスカベンジャーズが結成され、ミランダは一人ではなくなった。それでも怒りは消えず、彼女はウェイワードパインにまで落ちた。
「お母さんからその人の話は聞いていない」
「じゃああなたの未来でわたしは“荒野のオッサン”に出会わず、彼は死ぬこともなく今のカリフォルニアのどこかでニュートマンのコミックを読んでるってことね。彼を見つけても無視してあげてね。何もなければ彼は何もないままだった」
「なんでその話を今?」
「あの頃のわたしはおかしかった。“荒野のオッサン”を見殺しにした過去は時を経て、“荒野のオッサン”がわたしに仇討ちを命じているように曲解され、お母さんを探すことよりもゾンビを殺すことを優先した。過去という事実に感情が混じると現在と事実は違う顔を見せる。シスター・グレイシャもそう。かつての過ちに囚われて……。ウェイワードパインからわたしを救ってくれたのは、ドがつくほどバカ真面目なシスターのアビゲイル・クエストだった」
CZK5 17-3-A
「ミランダ! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」
「本当に兄さん! 中に入ってるは、えぇ~と」
「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」
「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」
クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中
CZK5 17-3-B
『ロード・オブ・ザ・リング』はすごいぞ。
三作目の『王の帰還』はアカデミー賞で史上最多タイの十一部門を総ナメだァ! モーションキャプチャーを駆使したゴラムの視覚効果もすごいしニュージーランドを中つ国に見立てたロケもすごいぞ。この年に『モンスター』で主演女優賞を受賞したシャーリーズ・セロンが受賞スピーチで「もうニュージーランドに感謝する必要はありませんね」と言った時には、この後に発表される『王の帰還』の作品賞受賞はないのか!? って一瞬ビビっちまったヤツらもいたようだが無事に作品賞も受賞。
旅の仲間はホビット庄から長い旅路を経てモルドールまで指輪を捨てに行ったが、U.S.Zの悪の巣窟ジェネリック・モルドールはハリウッドからほど近いカリフォルニア州にあった。
ジェネリック・モルドールは大きな劇場の廃墟だった。その屋上で焚火を囲み、ギターを弾けるものはギターを弾く。そうでないシスター・グレイシャのような人間は、とりあえず叩くだけでセッションに参加できる空き缶を転用した太鼓をポンポンするのだ。
“ダムファッキスタン!”
“We call it B.S!”
“スクールカースト撤廃”
こういったカラフルな横断幕が張られ、それの色彩がド派手だってことすらわからないくらいラリる。
SNIFF!!
ここに用意されているヤクブツはチャーリー・シーン、RDJ、クラック、アヘン、ヒロポン……。ありとあらゆるキケンヤクブツがある。ジェネリック・モルドールのオークたちはローテーションでヤクブツを吸い、タイムシフトで正気の人間を欠かさないようにしている。まだヤクブツのダメージが少ない新入りを常に補給して、廃人と化した先輩たちの面倒を見させるこれはネンコウジョレツとショーシコーレーカに喘ぐ邪悪なジャパニーズ・ジョウゲカンケイを想起せずにはいられない!
もちろん、ローテを飛ばしてヤクを吸わない選択肢もある。その場合はヤクのやりすぎで前後不覚になった相手を強制的にFで始まるアレしに行くのだ。
正気を保つことで得をするレゴラスみたいな人間は、ラリったやつらの禁断症状による反乱を防ぐため“非暴力”として全ての武器を没収する。シスターのナイフ、ボウガン、ナギナタも差し押さえられてしまった。
「グレイシャにここでのルールを説明しよう。まずここではジョックスの権利を奪う。ここにジョックスの法律がある。まず最初に書かれているのは、アメフトの試合前、もしくは試合中には、戦意高揚のために女子に強制Fしてもよい、ということだがここではNO。アメフトは禁止、ジョックスはここではクズだ。ただしチアリーディングは許す。あれはダンスの一種だ。ここを支配するものは、音楽とダンスだけ。だからジョックスをはじめとした一部のヤツらの権利を奪い、一つの“ナニカ”になるんだ。ガンジスの流れのように。ギターの弦を? あれは六本揃ってギターなんだ。古い時代の自由と権利と奪うことで、保証される新たな自由と権利がある。ジェネリック・モルドールはそれが出来る聖域だ」
シスター・グレイシャも焚火のそばに座っているオリーブ色のフードを被った女性の隣に腰掛け、レゴラスのギターに合わせて空き缶をポンポン叩く。彼女はまだここに来てから何も吸っていない。レゴラスの狙い通りだ。シスター・グレイシャのようにまだヤクブツへの葛藤のある人間は吸うまで時間がかかり、吸っても次までのスパンは長い。もうボロボロの中毒になって若さと人生を消費しきった廃人を介護させるにはうってつけだ。
「ナァーイスセッション。まずは新入りたちを過去から解放しよう」
ジャローン。レゴラスのギターが焚火を囲むニュービーたちの過去を清算すべく不思議な音を奏でる。BGM付で自分の過去を語れるなんて若者冥利に尽きる。
「まずはトミー」
「はい……。僕はゲイで、ずっといじめられてきました。でもここにはジョックスがいない。ヤツらの利権を奪った上にアメフトもない。ここから僕の人生が始まる」
「ナイス。フィストだ」
レゴラスがトミーにグータッチ。トミーはいぶかしげに眉をひそめた。
「フィストなんてジョックスの風習だと思ったかい? 確かに僕は元ジョックスさ。でも捨てている。今の僕の生き甲斐はシューズを履かずに裸足でジョイライドをすること。次。ニックス」
「……」
シスターの隣のフードを被った女性がニックスのようだ。ニックスは何も言わずに俯いている。
「ニックス、話したくなければそれでいい。いつか折り合いがついたら話してくれよ。エルフ語でいいからさ。次はピーターの番だ」
「うん。俺は女の子と遊ぶ金欲しさに暗黒格闘技にアルバイトで参加したんだ。でも主催者はギャラを払わなかった。するとそこに強盗がやってきて、金を盗んでいったんだが、腹を立ててた俺は強盗を見逃したんだ。あれは後悔しきれない。だってその後、その強盗は逃げるために車を盗もうとしてドライバーを銃殺したんだ。それは、俺が図書館で勉強していると思い込んで迎えに来てくれた叔父だった。俺が叔父を見殺しにしたんだ」
「ピーター? どこかで聞いた話だな」
「……。ああそうさ、ウソだよ悪かったな! 今話したのは『スパイダーマン』のオリジンだよ。見てみろよ。こんな新種のクラゲみたいにガリガリな体で、暗黒格闘技でギャラをもらえるとでも!? ピーターだって本名じゃないさ。俺の過去は名前も含め、全て思い出したくもない暗黒。レゴラスなんか元アメフトクラブのクォーターバックなんてハイスクールじゃ神だ!」
「神なんて軽々しく言ったらダメだぞ。ここではみんな等しく神なんだ。おっと、こんなことをシスターの前で行ってはいけなかったかな? でもここから先は過去を捨てていかないといけない。グレイシャ。君の話を聞こう」
シスターは極度の緊張で頭をかきむしり、深呼吸と過呼吸を繰り返した。違法じゃないヤクブツも必要な程リラックス出来ていない。
「少し急ぎすぎたかな? 君にはまずチャーリー・シーンでいいかい?」
「ごめんなさいレゴラス。わたしは最初から、ここでは何も吸う気はありません」
「……あぁ?」
ピキッ……。レゴラスの額に血管が浮かび上がる。こいつはヤクブツで前後不覚になったシスターと強制Fしようと考えていたのだ。彼は所詮、元ジョックスなので極度のサディストであり、一方的なFに猛烈な快感と愉悦を見出すのだ。そんな本性を隠してどんどんジェネリック・モルドールに若者を集めるなんて、どこかでビジネスマンになれば役員まで出世しただろう。いや、政治家向きか。
「ここには多くの人がいると聞きました。人生の露頭に迷う多くの人が。ヤクブツの誘惑はまるで『ロード・オブ・ザ・リング』の指輪のように恐ろしいです。しかしそれを乗り越え、未来を生きねばならない。贖罪のチャンスは常に与えられています。これはわたしが与えるチャンスではありません。あなたたちが掴んだチャンスです。こうしましょう。アビゲ……」





