1話
(銅鑼)
♪(Theme song『東方的英雄』)
“続・CZK ~中国僵尸殺手~”
“~霊歳拳墓~ 櫻桃道士 和 病嬌殭屍” #1
今から約250年前。
史上最強と呼ばれる伝説の道士がいた。その名は桃冠文。僵屍退治の名人であり、風水や占術に長け、達筆で彼の書いた護符の効果は棺桶の中のキョンシーが地中を掘って地獄に逃げるほどと噂された。容姿端麗、眉目秀麗、文武英傑。13歳から25歳の間に倒したキョンシーの数は一説には50、一説には5000。とにかく伝説が独り歩きするほど優れた道士で、一代で大きな財を成し、桃家は道士の名門となった。
しかし2代目の冠英が生まれた頃には、冠文のキョンシー退治のピークは過ぎていたとされる。
そんなキョンシー退治の専門家、桃家を15代も支え続けた、一人の女性がいた……。
「蘋~!!」
「どうしたの、櫻。もう帰ってきたの?」
「チャンに仲間外れにされたぁ~~! 悪いな櫻、この麻雀は4人用なんだ、って僕だけハブって麻雀やってるんだよぉ~」
「いい加減にしなさい! わたしはあなたのお母さんじゃないの! それにもうあなたは23歳でしょう!? 遊んでないで働きなさい!」
「いやぁだぁ~」
桃櫻泉はキョンシー退治の専門家桃冠文の250年後の子孫。まるで陸に上がった鯉のように無力なヘタレだ。道士としては品性と精神面での脆さがあり、風水、占術の腕はイマイチで、初代の冠文には及ばない。しかし、“キョンシー退治の専門家”としての道士であれば桃家どころか、史上最強の道士である。そんな彼は親しみと侮蔑を込め、“櫻桃道士”と呼ばれている。
蘋は……。初代である冠文の頃から、桃家のキョンシー退治に付き添ってきたキョンシーだ。
スゴウデ道士の初代が蘇らせた美しい女性で、並のキョンシーにはない知性と感性があり、生前より跳ね上がった膂力とカンフーの腕を持っていた。この完成度のキョンシーを作り、後世に遺したことこそが初代最大の偉業である。
史上最高のキョンシーだが、その完成度の高さゆえに蘋が完璧ではなかったこと、もし蘋がバグってしまった場合、倒せるのは15代目である櫻のみであること、勤続250年の蘋がついにバグってしまう出来事が、この物語で描かれる。
「わたしはあなたのお母さんじゃないの!」
「みんな貧乏人のくせに! 家柄もないくせに! おい蘋! また僕の部屋を勝手に片づけたのか? あれは散らかってるんじゃないんだよ、ああいう風に置いているんだ! 畜生! 今日は燕も来る予定だったのにぃ!」
「……あの女が来るなら行かなくて正解よ」
櫻の口から燕の名前を聞いた蘋は、青白いキョンシーのはずでありながらこめかみに青筋を浮かばせて顔を鬼灯のように紅潮させた。
「わたしはあなたのお母さんじゃないの」。まさにその通りだ。
250年間、真面目に桃家のために働いてきた蘋は、櫻に恋心を抱いた……。
櫻の憧れているコケティッシュ巨乳美女の燕の名前を聞くだけで激しい嫉妬にかられて全身の気が燃えそうだ。彼女はリラックスするためにカンフーの型をとり、呼吸を落ち着けた。
250年前……。自分がまだ生身だった251年前なら燕には負けないはずだったのにぃ! 尽くすタイプだし顔だってかなりきれいだ。燕みたいな胸がないが……。だからと言って負けているわけじゃあない! たかが22年しか生きていない小娘が……。ブチ殺してやろうか。
「ねぇ櫻。まだわたしに勝てる……。勝てるよね?」
「ああ、残念なことに蘋。僕はまだお前に勝ててしまう」
「ならよかった」
……続!
D……dizzy……
「グッモーニン。何が知りたい?」
「あなたを殺す方法」
「僕は消えないよ。永久にね。君が僕を呼んだ。君は僕に一生会わないことが出来たのに、君から僕にアクセスした。だから僕は消えないし消せない」
ニューロンを流れるエンドルフィン、ドーパミン、オキシトシンなんかのケミカルな脳内麻薬の海を一匹のイルカが泳いできて、この脳の持ち主にまとわりついた。ちょうどパソコンを泳いで鬱陶しがられていたあいつだ。でも本物のこいつに初めて会ったのはサンフランシスコに来た後だ。
「悔いる?」
「悔いる。だから消えて」
バシッとフってやれ。そして彼女はその簡単なコマンドを実行した。
「わたしを殺したことも悔いてくれる?」
「俺も君に殺された。君でなければ俺を殺せなかった」
「みんなあなただから油断して、うっかり殺されたの」
「そりゃ知らない野盗に殺されるよりはマシかも」
「中には君に裏切られたことへの絶望が最後の記憶になった者もいるけどね」
「ちゃんと理由があったんだよな?」
「ちゃんと理由を説明出来るよな?」
イルカって笑うんだな。ケミカルイルカが下卑た笑みを浮かべた。イルカに決断的拒否の表情を向けていると背中には魂だけの存在……ナギナタでぶっ壊すことも弓で射ることも出来ない、ゾンビよりも厄介なゴーストが手を伸ばしてくる。
「……。アビゲイル。アビゲイル! どこにいるの!?」
彼女は肉体的にはかなりタフになった。しかし精神的にはまだそうでなかった。イルカへのNO、死者たちへの謝罪の祈り、両方から逃れるように頭を抱えた。
数々の行為への贖罪でアビゲイルを探しているのに、彼女は影も形も見当たらない。
贖罪の方法があるって飛びついたのに、シスター・グレイシャはアビゲイルの顔すら知らないのだ。
EP17 The Scavengers -Strider–
Glacier Goldgrape(19歳)のことを?
いや、その前に『スパイダーマン』を? もちろんコミックの方だ。あれは一〇〇巻を超える超大作だけどどれを読んだ? 映画はどれを? 全部読んだり観たりする必要はない。
映画もいっぱいあるけど、あなたが知っているところから観ればいいし気に入ったものを気に入ったといえばいい。もちろん『スパイダーマン:スパイダーバース』だけでもいいぞ。あれは超傑作だ。それは『CZK』でも同じ。『スパイダーマン』好きを名乗るために一〇〇巻を超えるコミックを読破する時間と労力は大きすぎる。それはこれがEP17の1話で、通算73話目で、バリー・ボンズが二〇〇一年十月七日に放ったシーズン新記録のホームランと同じ数の『CZK』でも一緒だ。こいつは一〇〇万ドルの価値があるが全部読む必要はなし。伝説的サムライが旅をするコーモン・ミトだって最初から最後まで全部観た人間はいないだろう。
All right. People. Let`s start at the beginning one last time.(オーケイ、じゃあもう一度だけ説明するね)。
Glacier Goldgrapeは文明の存在すら疑わしいド田舎、ウォールドロワーという町で生まれ育った。彼女がティーンになる頃に市長が庁舎にオフラインのパソコンを一台導入するまで、ウォールドロワー最高のハイテクはシスターの度のきついメガネだったとされる。
「ワァオ、この眼鏡、まるで衛星放送が映りそうなぐらい分厚いわ」
初対面のミランダにそんな風に言われたメガネ越しにカラフルなヒストリーを辿っていこう。
ブル市長は高額の税金と引き換えにウォールドロワーの絶対安全を約束した。犯罪からもゾンビからも。それは十五年間守られた。そんな町でシスター・グレイシャは七歳の時から修道院で秘密裏に人殺しを教え込まれ、“大義”のために多くの人間を暗殺してきた。
しかしそこにあの陽気なノーマン兄妹がやってきて、シスター・グレイシャはゾンビに殺されたと偽装し、サンフランシスコに逃がしてくれた。この時十六歳。
シスターはサンフランシスコのドクの元で勉強を教わり、教師になるという新たなミッションを打ち立てた。
ウォールドロワーの修道女だった頃は聖人の遺体ぐらいのガリガリだったがきちんと栄養を摂取し、成長の最後には間に合ったため、初めての親友ミランダの身長を超えることが出来た。運動神経も向上し、ミセスから教わったナギナタ、ナイフ、弓といったユニークな武器でゾンビを殺す! ただし生まれつき肩を壊しやすい体質ルーズショルダーのため発砲と同時に反動で肩が外れてしまい、銃が使えない。ジョークも苦手だ。
真面目だが素朴で美しく、都会の生活に慣れないカタブツのため隙が多く、その隙に付け込もうとするイディオットからはモッテモテで、ガードとハードルがスゴすぎるベラトリクス・サンダーランドよりも実際モテる。恐ろしいチャイニーズ・マフィアの親分ロー・フォンに拉致され、売り飛ばされそうになったこともあったし、ローは彼女を高値で売れると判断した。
しかし良心の呵責がある。大義があった、人格が形成される前から殺人を正義と教わったとしても、マトモな人間も多いサンフランシスコで暮らしていればかつての殺人を悔いる時が来る。
そしてシスター・グレイシャは、サンフランシスコで大麻の売人から適量では強い鎮静効果と鎮痛作用、過剰摂取でスーパーハイになると噂の薬草、通称“チャーリー・シーン”より強烈な“ロバート・ダウニー・ジュニア”に手を出し、イルカに会ってしまったのだ。こいつは相当強烈で、こいつを吸わせればメカゴジラだってベロンベロンになるからバラしてクズ鉄回収に売り払って小銭を稼ぐことだって出来る。永久機関だ。その金で次のRDJを買い、また次のメカゴジラをバラシて金を稼げるぞ。
シスター・グレイシャも命は助かったもの、RDJのショックで一度卒倒し、目覚めた時にドクにビンタされてキツぅい説教を食らった。その後、軽度の薬物の後遺症に陥る。だが法律のなくなったこの国で、個々のモラル以上の強い力でどうやってシスター・グレイシャを咎める? “チャーリー・シーン”ぐらいならドクだって一発キめなきゃやってられない時もある。しかし“RDJ”はダメだ。ウォールドロワーに続き、サンフランシスコでも悔いと罪を残してしまったのだ。
全ての罪と悔いから救済されるため、彼女は出会ったほとんど全ての人にノーマン兄妹の母親、アビゲイルのことを話して情報を集めようとした。そのアビゲイル・クエストはクズの町ウェイワードパインに縛り付けられていたスゴウデヒットマンのヴィクター・ヴァレンタイン、自称“大陸最高の弁護士”ロイド・ロールスロイスにも及んだ。
「シスター?」
「ベラトリクス……。悪い夢を見ていた。アリア・アニマの名前がベラトリクス・サンダーランドよりも上に来るの!」
「アラ」
ドクから更生のチャンスを与えられたシスター・グレイシャだが……。RDJまでやってしまった自分が教師になんてなっていいのか? 後悔の永久機関だ。殺人を悔いて薬物に手を出し、薬物を悔いて次は……。何を目指し、何を諦める? この世が適材適所で収まるところに収まるのなら、マザーにも殺し屋にも教師にもなれなかったシスター・グレイシャはいったい何に……? 今はゾンビ殺しだ。身体能力の向上と、彼女が気付いていない殺傷へのセンスによりゾンビ殲滅力はかなり高く、ベラトリクスよりも安全に多くのゾンビを殺せるので、シアトルで彼女のアシスタントをしているのだ。
「何故ならそこでは、ゾンビ殺しの名前をアルファベット順で並べていたから。だからAria Animaが一番上。次にBellatrix Sunderland。その次がCharles Dean Norman」
「身長順が低い順ならその並べ方でも正しい。ミランダが一番前、次にあなた、それからアリア・アニマ、ベラトリクス・サンダーランド、チャールズ。本当にジョークが下手ね。今日は講演会に行ってくるわ。運転は覚えたわよね? わたしを送った後、愛車は軽く洗車してメンテしてから、一番いいガソリンを入れて。あなたも空いた時間で自分をメンテしなさい。五〇〇ドルで足りる?」
「そんなにいらないよぉ。ベラトリクスの講演会のギャラは?」
「今回はタダよ。それに五〇〇ドルだってあなたのためじゃないわ、勘違いしないで。修理工のためよ。だってゾンビ殺しは十三年も前から同じモデルを殺しているけど修理工は毎年新しいモデルを直しているんだからそっちにお金を回さないと」
粋!
CZK5 17-1-A
「ミランダ! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」
「本当に兄さん! 中に入ってるは、えぇ~と」
「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」
「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」
クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中
CZK5 17-1-B
ベラトリクスのフォードの毛づくろいをやっている間、シスター・グレイシャは新しい日記帳を買ったりしてシアトルを満喫していた。
「ようシスター。今日も元気か?」
「こんにちは、マーフィ警部」
「おっと、気をつけろよシスター・グレイシャ。後ろは大丈夫か?」
「えっ?」
「昨日、ウチで育ててる警官のグローヴァーがブーメランをぶん投げた。だがまだ戻ってきていない。我々もそろそろブーメランの帰還に備えなければ。……ザッツオール。まさか君にジョークで負けるとはね。平和って意味さ。警官が自分で投げたブーメランに怯える程ね」
「ハハッ」
「一応、君にも報告しておくよ。新たな“キュンストレーキ”は確認されていない」
「それはよかったです」
「月命日には必ずテオの墓に花を供えるクイーンへの感謝もしなきゃな。じゃあそういうことで。あ、ベラトリクスにはジャパニーズ・ミッカテンカだったことを気にしないように言っておいてくれ。新しいチャンピオン……。アリア・アニマか。あれは普通じゃない。あれは神が『ゾンビキリング』というゲームのデバッグ用に作ったチートキャラだ」
マーフィ警部はベーグルとコーヒーでよろしくやりながらまたブーメランを探しに行った。シスターはジョークが下手だ。ちゃんと意味が理解出来ても上手く笑って相手をいい気分にさせてくれない。でもマーフィ警部はもうシスター・グレイシャの顔を覚え、彼女のようなゾンビ殺しがいるからシアトルは平和だとジョーク交じりに教えてくれたのだ。
「グレイシャ・ゴールドグレイプ?」
「あなたは誰ですか?」
シスターがガソリンスタンドに戻ると、いけ好かないヒゲにいけ好かないストール、いけ好かないロン毛にいけ好かないギターのいけ好かない胡乱な男がベタベタとベラトリクスの愛車に触れて指紋をつけていた。目ン玉からゲロを吐きたいのか?
「僕はレゴラス。さてクイズだ。サンクチュアリー、パラダイス、サンクタム、シャングリラ、ユートピア、トーゲンキョー。何を意味する? 答えは、人類は“聖域”を求めて多くの言葉を作ったということさ」
「だからなんだと言うのです?」
「サンフランシスコの大麻の売人から君のことを聞いた。君のように若く前途有望な人間を集めてる。新たな聖域の名は“Generic Mordor”。全ての指輪を捨てて婚前交渉とハッパでフィーバーしながら永遠のサマーオブラブを楽しもうって魂胆さ!」
(銅鑼)
♪(Theme song『東方的英雄』)
“続・CZK ~中国僵尸殺手~”
“~霊歳拳墓~ 櫻桃道士 和 病嬌殭屍” #2
女衒街ってのは品のない場所じゃない。遊女や売春の需要が途切れたことはないし、道士の歴史を数えることは出来ても売春婦の発祥を正確に数えることは出来ないだろう。金銭どころか、食い物やなんかの物々交換の頃から売春という職業はあっただろうし、農耕や漁業、狩猟なんかよりずっと古い職業だ。
櫻と蘋の暮らす町にも風俗街があり、櫻もいつかここで遊びまくることを夢見ていたがヘタレのためにまだ行けていないし、その他にも行けない理由はある。
“傾国砦”と呼ばれるこの風俗街は今、大きな転機を迎えていた。
「おはよう、みんな。まさかわたしやあなたたちのような存在が、始業時のあいさつでおはよう、と言えるなんて嬉しいわ」
傾国砦の最深部の遊郭。そこの天蓋付きのゴージャスなベッドで一人の女性が横たわり、手下たちにありがたいお言葉を告げる。
「何か報告はある?」
「はいっ、妲己様!」
「どうしたの?」
「はい、キエンと申します」
スケスケシースルーの妲己がベッドから妖艶に身を起こし、冒涜的背徳的なほどにキエンに顔を近づけセクシーな香りで誘惑する。
この妲己と名乗る女性が傾国砦の新たな経営者だ。少し前にふらっとやってきて、あっという間に傾国砦を掌握し、地上げを行って町全体を飲み込み、世界最大の風俗街を作ろうとしているのだ。
巧みな話術や明晰な頭脳以上に、何より彼女は美しかった。明眸皓歯、羞月閉花、仙姿玉質。その美しさから来る興奮と羞恥にキエンの心拍数が跳ね上がり、自分の呼吸で妲己のまつ毛が揺れることにすら恥じる。
「この町の道士である桃家の15代目、桃櫻泉はヘタレです。恐れるに足らず、我らのような虫ケラでさえ倒すことができます。できますって! 俺でも」
「アラ、頼もしい」
ボッ。寝起きの相槌一つでダウンさ。あぁ、遠い……。ヘタレ道士に勝てるって言えば少しは近づけると思ったのに妲己様の領域はあまりにも遠い。なのにこの色香! 手は届かず、なんのチャンスもないのに妲己様のために何かしたい……。
「厄介なのは桃家に仕えるキョンシーの蘋です。その強さはもはやキョンシーではなく妖鬼、魔物の域に達しております。最大の障害だ」
「まさかできないことを報告しに来たんじゃないわよね?」
「まさか。蘋を倒すことは不可能ではありません。妲己様はキョンシーの弱点をご存じですか?」
「もちろん。まずあの子たちは、死後硬直で体が硬いわ。そして目が見えないの。かわりに生き物の呼吸を感じ取るけどね。だから息を止めるとあの子たちから隠れることができる。日光や強い光も苦手ね。それに鏡に映されることも嫌う。それから黒犬や雌鶏の血、もち米、赤豆、鉄のようなものがあの子たちにとっての毒になる」
「さすがの妲己様。知識の黄河です! しかしまだ、キョンシーの苦手なものがあります」
……続!





