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California Zombie Killers  作者: 三篠森・N
EP16 ネイキッド・レディ・アンド・ゴールデン・ジェントルマン
71/86

2話

 “K-Force”

 ヤツの名前は“喧嘩鴉(ケンカラス)”!

 カランカランと下駄が鳴りゃ、拳の弓箭、怒の威勢。

 嬰鱗知らずのバンカラ通る、ケンカの斯道、百尺竿頭、加持祈祷。

 神風吹いて学ラン靡けば、命の汀著を血で語れ!

 ヤツの拳を枯らして見せろ!


「ケンカラスは日本に住んでたけどイギリス人とイタリア人の血を引いていて、ケンカとカラテに命を懸けているバカ野郎なんだ」


「これは日本の衣装?」


「学帽と学ラン。頭と骨の硬い日本人のユニフォームだよ。カラスはすごく強いけどまだ若くて、インテリジェンス・ゼータの監視下にある。でもゼータがスパイ活動をするためには陽動に派手な戦いも必要だから二人は手を組んでいるんだ。ケンカ道の“K(ケンカ)-Force”にはどんどんメンバーが集まってくる」


 真っ黒な帽子に学ランウェア、白い肌はまるでパンダの色彩で、日焼けしていない肌は彼が夜の闇に生きる人物だと教えてくれる。

 これがサミーのマンガの主人公、ケンカラスだ!

 サミーのマンガ“K-Force”は、イギリスの凄腕サイキック諜報員インテリジェンス・ゼータが、南極に潜む悪のサイキッカーであるカトーの世界征服の野望を防ぐため、日本に住む遠縁のケンカ自慢ケンカラスをスカウトし、カトーが放ったアサシン・サイキッカーと戦いながら旅をする壮大な大河ドラマだ!


「ケンカラスのサイキックは?」


「特にない。彼はケンカに武器もサイキックも使わないから、鍛えた鉄拳のみで戦う。でも有り余る気迫と強さは、彼の拳に大鴉(レイヴン)のビジョンを浮かばせる。ゼータが戦う理由は世界平和のためだけど、カラスはただケンカしたいだけなんだ。しかしカラスも正義の心に目覚めていく。バグリサーチとは東京で出会って、彼女も正義の心に目覚めた一人。これが“K-Force”の最初の三人」


 KenKarasu(ケンカラス)

 |Intelligenceインテリジェンス Z(ゼータ)

 |Bugresearchバグリサーチ

 ペン先で紙をガリガリ削ったような太い線と毛筆の払いで描かれるカラスの拳の軌道には、確かに飛来する大鴉の気迫がこもる。カラス渾身の連打のこの一枚だけはスケッチブックに直じゃなく、高級な紙に別で描きこまれていてサミーのこだわりが感じ取れた。


「これはシンガポール編。カラスが刺客と戦っている間、ゼータとバグはティータイムを楽しんでいた」


「耽美……」


 ゼータはカラスとは対照的に極限までスリムなデザインで知的さが精緻に描写されている。カラスの荒々しい気迫に慣れた後にこの気品と優雅さのギャップは……。少女の心に効く!

 口元を隠すような白い襟、サミーのものより長いまつ毛に穏やかと鋭さを備えた二重瞼のユニセックスなグッドルッキング女スパイは、仲間である可愛いジャパニーズガール(ハァハァ)とティータイム……。しかもゼータのサイキックはこのティーポットを通した水を自由自在に操って凶器を残さず敵を暗殺するものなのだ! なんという大胆で詩的な公私混同! 大英帝国万歳!


「ミランダの推しが決まったようだねぇ」


「おかしいわ! だってゼータは……女性じゃない!」


「へへへ」


 サミーの不慣れな笑みで右耳の絆創膏が少し引っ張られた。




 〇




「どうした? プルトニウムの切れたデロリアンみたいになってるぞ」


 話は少し飛んで、二組の兄弟がサンフランシスコについた翌の晩。ミランダ、チャールズ、スタンリー、サミーに加え、ドクとミセスの六人はセントラルフィールドブロードウェイにいた。

 ここからの話は少し迂遠だ。ヒマならそこに転がっているガムでも噛んでいてくれ。新品じゃないけど味と噛み応えは保証する。

 北米大陸で旅をするなら、現時点ではサンフランシスコにコネを持つことはとても重要だからチャールズはストーンヘンジ兄妹をドクに紹介する必要があったし、サミーはミセスに会ってみたかった。それに情報も集まるし、サンフランシスコでレーベルに売り込んで本になれば晴れてプロだ。サミーも旅のアウトプットというたった一つの用途以外にもマンガを描くことになるだろう。

 そのためにはこのU.S.Zで生き延びる方法を知らなきゃいけないので、スタンリーにはゾンビ殺しの経験が必要だった。それを最も簡単に行うことが出来、さらにサミーの創作的冒険心を刺激する場所にうってつけなのは、かつてのオタクの聖地セントラルフィールドブロードウェイだったということだ! そしてそれを提案したのはスタンだ。

 ありがとう。ガムはもう捨ててくれ。


「紳士は何事も避けては通らない……。紳士は何も恐れない……。思い出せ、ライオンハート!! ゴボーッ!?」


 そしてそこで、初めて見るプロ級のゾンビ殺しでスタンリーは吐いた。


「俺も最初はそうだった。初めてゾンビを殺した日はモーテルに帰ってビールで胃を洗浄して、すぐにソファに沈没」


「これは必要なことだ。必要なイニシエーション。ウッ……強くなれ、強くなれスタンリー! ストーンヘンジの名に懸けて!」


「この数分で随分老けちまったように見えるぞスタン。おぉいミランダ、サミー! 見ろよ! 民主党のサンダース議員にあいさつしたか!? いや、もうよすか。弱いものを叩くとブルースが加速するだけだ。さぁスタン、立て。殺すことが出来なければ今日は見るだけでいい。ゾンビにビビるな、ゾンビを殺すことは楽勝。それだけでも覚えてくれ。ウェイン・ルーニーのフリーキックほどの精度はいらない。ただ蹴り飛ばしてブチ殺せ。これは慣れれば何も問題ないどころかリラックス出来る。きっとセラピーと同じ効果があるぞ」


 その一方でサミーは鉄の女か!? ミランダやミセスのゾンビ殺しをスケッチし、創作の糧へと変えていく。眠たげな瞼の奥の瞳はランランだ。ここはもっと丁寧にスケッチするべきか、それとも次の展開を逃さず捉えるために素早くラフで済ますか。そういった取捨選択も早く、セーフティエリアを直感で見抜いてスケッチに専念する。どうやらゾンビ殺しの才能も有りそうだ。


「いいものは描けた?」


「ミランダ! あなたはこんなにかっこよかったんだね! それにミセスも噂通りのすごい人だ! 百聞は一見に如かず!」


 ケンカラスの拳が浮かばせるビジョンはレイヴンだが、ミランダの丁寧で気まぐれなアンブレラさばきはさながら猫! ミセスの硬い鋼のはずの刀はしなやかにゾンビを切り裂き、サミーに蛇を連想させた。猫も蛇もサミーの熱意とマンガにはやられてしまった。本場ジャパンのマンガを読んできたミセスでさえ唸る迫力、いい動きが出来れば自分も登場出来るかもなんて考えれば、蛇の刃も多少は熱くなる。


「これならサミーの方が上手く殺せるんじゃないか?」


「僕は、僕は……」


 泣いているぞ、ストーンヘンジ家宝の剣も。スタンリーは重過ぎる剣だというのか!? ナイフのような短剣だぞ。それでもストーンヘンジの剣がふさわしくない者を選ばないのならばスタンには残酷なことだ。


「本当にサミーの方が上手くできるのか? サミー」


「どうした?」


()ってみてくれ。君だけでもゾンビ殺しを出来るなら、僕たちの旅は……」


 スタンの手から短剣がこぼれた。このまま落とせば刃が欠けてしまう。

 CLANK……


「ミ!」


「セ!!」


「ス!!!」


 ミランダ、チャールズ、ドクが同時に声を張り上げ、呼ばれたミセスを含む四人がそれぞれの役割を果たすために最速の動きを始めた。

 ミランダは退路を確保し、チャールズは周囲のゾンビの掃討、ドクは応急処置セットを開封し、ミセスは腰からスペアのジャパニーズ・ワキザシ・ソードを抜刀した。


「許せサミー」


 SLASH!

 ふさわしくない者を拒むように毀れた刃は、ストーンヘンジ家の末裔の神聖な右腕の指先に傷をつけ、ドス黒い血を滴らせたのだ。でも今、ミセスに腕を落とされた断面からの血はまだ赤い。間一髪、ゾンビ化だけは防ぐことに成功した。それでも腕を落とされた痛みはそのままだ。サミーは全身から汗を吹いて激痛に呻いた。


「シスコに運ぶぞ。まだ間に合う。まだ間に合う! アップルストアほど高級で清潔な場所で処置をすればまだ間に合う!」


 ドクの応急処置が済み、ミセスに背負われてぐったりするサミー。彼女は親友歴たった二日のミランダの名前を呼んだ。


「ミランダ」


「サミー。残念だけどドクの言う通りよ」


「右手は諦める。持ってこなくていい。でもスケッチブックだけは……」


「安心してサミー。スケブはわたしが絶対に安全に運ぶ」




CZK5 16-2-A

「ミランダ! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」

「本当に兄さん! 中に入ってるは、えぇ~と」

「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」

「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」

 クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中

CZK5 16-2-B




「ストーンヘンジ卿の話を?」


「いや、まだだな」


 サンフランシスコの大型医療施設ではドクを執刀医にサミーへの本格的な手術が始まっていた。待合室では勇敢かつフヌケのジェントルマンが、初めて体験する立ち上がる勇気も湧かない絶望に打ちひしがれていた。


「ストーンヘンジ卿はイングランドの田舎の貴族だ。立派な人でね。僕が生まれるよりずっと前、彼はこの大陸を旅行中に猫の子一匹いない荒野で事故に遭い、助けを待っているうちに意識を失ってしまった。そこに薄汚い野盗がやってきて彼の金品を奪おうとしたが、ストーンヘンジ卿は偶然にも目覚めた。その高貴な眼差しに野盗も一度は怯んで改心し、ストーンヘンジ卿を助けた。野盗の名はリーバー。リーバーはストーンヘンジ卿の家来になり、屋敷に住み込みで働くことになったんだ。でもリーバーは所詮薄汚い泥棒だったんだよ。ストーンヘンジ卿の目を盗んで屋敷のありとあらゆるものを売り、小銭を稼いだ。賢いストーンヘンジ卿が気付かないはずがない。気付いていたんだ。ストーンヘンジ卿は、たった一度の命の恩を一生かけて返すつもりでリーバーを見逃し続けた。妻を寝取られ、汚れた血の子供が生まれようとストーンヘンジ卿はその子も自分の子供として育てた。最後までリーバーに盗まれなかったものが何かわかるかいチャールズ。それは誇りと、北米大陸の旅で残した隠し財産だけだったんだ。精神まで高潔な貴族だったストーンヘンジ卿は残すべきではないものを二つ遺した。一つは薄汚い野盗に托卵された子。もう一つは北米大陸の隠し財産の手がかり。残すべきではなかったんだ。ストーンヘンジ家最後の二人のうち、一人がその財産を手にすべきでないのなら、永久に行方は分からないか、誰も手に出来ない場所にあるままでよかった。エクスカリバーのように。ストーンヘンジ卿が遺すべきではなかったその二つのものの一つ、要するに僕だ。僕はストーンヘンジ卿の息子じゃない。リーバーと母との間の不貞の子だ。それを知りながらストーンヘンジ卿は僕を本当の紳士にしようとしてくれた。ストーンヘンジ卿は……父は本当の紳士だった。その精神を確かに僕は受け継いだはずなのに。あの酔漢は間違っていた。僕は“銀のスプーン”を持って生まれた子ではなかった。“銀のスプーン”を持っているのは、サンバック……。サミーだけだ。ストーンヘンジ家の誇りも血も財宝を手にする資格も、継いでいるのはサミーだけなんだ」


「義理堅い男だな、スタンリー・ストーンヘンジ。リーバーが盗んだ分の財産を全部サミーに返そうとしているんだろう? そのためにこの北米で遺産を探している。俺がそう思う理由A。お前が金銭欲に塗れた俗物ならストーンヘンジ卿の隠し財産は全部見つけた後にパクって逃げる。サミーのことは放っておいて全部自分で手に入れるか、サミーは消すか。しかしお前は残すべきではないものを残したぞスタンリー。それは北米大陸のチャールズとミランダに、ストーンヘンジ卿の隠し財産があるなんてビッグなネタの存在をバラした。そんなバカな! 理由B。お前はストーンヘンジ卿の精神的息子でサミーの兄。以上(ピリオド)!」


「選択肢C。全員殺すつもり。罪人の血が流れるスタンリーは、混乱に乗じてサミー、チャールズ、ミランダを殺すつもりだった。この場合、使う凶器は剣でも銃でもなく、運命と無能だけどね」


「それが本当ならこんなに苦しんではいないさ。神になんか祈るなよ。祈るなら西を向け。神は今、ニューメキシコでトルティーヤに乗っかってピニャコラーダでフィーバーしてる。お前は簡単なことをするために紳士を目指しているんじゃないだろう? 残念ながらスタンリー。ここからお前が悪の道に走ってサミーを見捨て、紳士を諦め、グリーンしか見えない義眼に入れ替えてドル紙幣を探したり、今度こそストーンヘンジ卿の生物学上の息子に生まれ変われるまで死に続けるよりも、立ち向かって生きていくことの方がよっぽど楽だ。それともこういうのはどうだ? 今から南極に行け。地下の遺跡にクイーン・エイリアンっていう化け物が繋がれてるからそいつをブッ殺しに。プレデターはエイリアン殺しで大人になるからな。ヤツを殺せば一応は一端の大人を名乗れるぞ。しかし今のままじゃお前はサミーに負けたままだぞ。なんていうか悩んでいるお前は……まるで泥の中のブタみたいに幸せに見える」


 手術室からドクが出てきてマスクを捨て、タバコに火を点けた。


「サミーは薬で眠ってる。眠る前にスタンに言っておきたいことがある、と」


「何だい? いや、それよりもお礼だ。サミーをありがとう」


「サミーが言ったのは、“Left”」


「レフト? 左?」


「ああ。まだ左手がある、と」


 あぁ、なんてことだ。なんてこったスタンリー……。お前は、サミーに精神的貴族度数でまだ負けている。決して屈さず逃げない紳士の精神を既にサミーは持っているのだ。

 立ち上がれ、スタンリー!! お前は常に、サミーにとってスタンドだった。スタンドバイミー。今度はスタンドアップトゥでいるべきだ。

 立ち上がれ、スタンリー!!

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