5話
「チャールズ。キューバとこの国がマジで戦争したらどうなると思う? 今じゃなくて、Zが起きる前のお互いの全盛期で。この国がバカな国民に中東の地理を覚えさせるためにイラクやアフガンを攻撃していたころの強さでいい」
「悪いなペドロ。話にならないぜ」
キューバvsスカベンジャーズの試合は日没コールドにより133-0で決着がついた。ペドロはショートを守ってた時間よりもバッターボックスに立っていた時間の方が長かった。彼らキューバ人はベラトリクスがシアトルに帰った後もカリフォルニアに滞在し、しばらくパシフィック・プレイ・ランド跡地で遊んだりして異国を堪能していた。
「そうだな。一〇〇万人のキューバ人が死ぬだろう」
「ああそうだ。だがキューバは一〇〇万人の命を懸けてこの国の兵士を千人殺す」
「難しいだろうな」
「その巻き添えにブロンド巨乳美女を一人殺す」
「なんだって!?」
「これが世界の理やでチャールズ。一〇〇万人のキューバ人が死のうが、千人の兵士が死のうが、ブロンドの巨乳美女一人が死ぬ方が大事なんや。でもそれでええと思わん? ブロンドの巨乳美女を死なせまいと勇敢に戦えるのもええし、戦わんって択を選べるのもええ。戦争がないんならブロンドの巨乳美女を口説くために一生費やしてもええんやで。残念ながら命の重みは平等やないんや。でもそれを拒むより受け入れて出来ることを楽しむ方がええ。そんな巨乳美女に捧げる人生のメリハリが仕事や。俺らは公務員やからな」
「キューバの野球選手は公務員だな」
「キューバは小さくて弱い国や。この国のデブがピザのオトモに一気飲みするサイズのコーラの空ペットボトルに火薬詰めてデブ全員で投げつければ全盛期のゲバラも死んだやろ。小さい国だから、キューバはZへの対応がちゃんとしてた」
「と、言うと?」
「チャールズ。ミランダがゾンビになったら殺せるか?」
「殺す。そう決めてる。だがそれは簡単ではない」
「だからキューバのゾンビは公務員が狩るんや。親しい人のゾンビを殺せん心優しい人たちのために、公務員がZを殺す。どれだけ楽しいものでもやらされると嫌になるもんやぁ。俺らにも親しい人はおったんやで」
「俺たちの国ではZを殺すことは娯楽だからな。やらなくていい。だからたまにはキューバと野球もやる。芸術が理解出来ない俺でも名曲だってわかる『G線上のアリア』をワイフが朝から晩まで歌ってたらワイフも『アリア』も嫌になる。楽しかったぜ、野球が出来て」
「お前ええやっちゃな。モテるやろ」
「ああ。さっきのお前のたとえ話で何故俺があんなに過剰に反応したかを? 俺のワイフはブロンドの巨乳美女だからさ」
「ファファファ! もったいない。ブロンドの巨乳美女なんかに捧げちまっていいのか? チャールズ・ディーン・ノーマンを! そんなに若くしてブロンドの巨乳美女を手に入れちまったら何して余生を過ごす?」
「そうだなぁ」
チャールズは少し考えて葉巻をふかした。
CZK4 15-5-A
「おいアリアァ! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」
「本当にミッキー! 中に入ってるは、えぇ~と」
「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」
「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」
クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中
CZK4 15-5-A
ビッグバンで宇宙が出来たことを受け入れない人間たちもいる。例えばリカルドは神が七日間でこの世界を作ったという聖書の教えを信じている。でもここではビッグバンから宇宙が始まったということにしよう。
ビッグバンが起きてから何が起きて、何が起きて、何が起きて、何が起きて、何が起きて、このZ13年でアリア・アニマは生きている? ビッグバンから四十六億年間連なってきた蝶の羽ばたきやモハメド・アリが散らした汗の位置なんかの“理由”が連鎖し、彼女を作っている。どこまで辿って彼女を構成するものを解析するかはとても難しい作業だ。なので大きな事由から考えていこう。
「痛い!」
「どうしたアリア? ……アリアァァァアアア!!!」
ミッキーがアリアを抱きしめ、滂沱の涙を流して絶叫した。この慟哭でショック死したゾンビのことはどうでもいい。
コウガが強く刀を振って首を刎ねたロット・チェイニー(享年49歳 ゾンビ年齢10歳)の骨の尖がアリアの手首に傷をつけ、雪原で生き物が死ぬように真っ白な肌に黒い色の染み……。
「なんてこったのテラコッタ! アリア……」
「どうしたのミッキー? ちょっと切っただけよ」
「……死ぬ。お前は数分以内に死んでゾンビになる」
「そう……」
小指の爪の幅ほどの長さ、爪の厚みくらいの深さの傷が出来たその痛み、彼女のリアクションはそれだけで終わった。本当は感情を隠すのに必死だったよ!
もう死んでもいいんだ!
「アリア、アリア……」
「どうしてそんなに泣くのミッキー? あのアリア・アニマのゾンビを殺すなんて、サンフランシスコでは三十分くらい話題になるわ」
「あんまりじゃねぇか、お前の人生……。俺はお前の辛い過去や経歴を知っている。その集積と破裂がお前を無敵のゾンビキラーにするはずだった。なのにお前は最後まで他人に翻弄されて、最後にはこんなあっけなく死ぬ。お前やお前の家族の人生はなんだったんだよ」
「シュレディンガーのアリアよ、ミッキー。箱は開けないから意味がある。わたしが歌手になれるとか、ベラトリクスを超えるゾンビキラーになれるとか、全部ひっくるめて想像上だから価値があった。箱を開けたら死んだ少女がいるだけ。汚れっちまった悲しみと死んだ少女が」
「遺言はそれでいいか? 殺しやしねぇ。丁重に埋葬する。墓堀人の役目だ。二度とお前が弄ばれないように棺桶は二度と開かないようにする」
「遺言、ね。……殊勝なことをしようかしら。ミッキー。それから前のマネージャーのフォン・ヒドゥン、その前、その前、前、前、前……。みんな最初はわたしに期待してくれた。応えるわ」
アリアは手首の傷から滴る血をエロティックに舐めとり、痛恨の大ミスで両膝をついて茫然自失しているコウガから刀を奪い取った。
「白皙優位!」
SLASH!
アレックス・プラムリー(享年41歳 ゾンビ年齢1歳)はコメディ気質のアーティスト。自ら脚本・主演・監督を務めた『新訳:ロミオとジュリエット』は、破綻したストーリー、ヒドイ演技、クソ薄ら寒いギャグのとんでもない駄作であり、上映後の舞台挨拶にて満場一致で観客から死罪を与えられた。
「せめて一人でもゾンビを殺してあなたに報いるわ、ミッキー・ローリネイティス」
……。
「……アリア。お前、もしかして、何もないのか?」
「どゆこと?」
「ゾンビウイルスに感染していないぞ。こんなことあるはずない! だって傷口にゾンビの血が触れたんだぞ」
「そうなの? これを見てミッキー」
アリアはブーツとソックスを脱ぎ、顔を真っ赤にしながら右足の裏をジ・アンダーテイカーのメンバーに見せてやった。そこには古い跡があった。縫ったような跡が……。
「ワシントンDCから逃げる時、ガラスの破片を踏んでケガしたの。そのままゾンビを踏みつけて血塗れになりながら逃げたわ」
「なんてこった。既に洗足は済んでいたということか。アリア! お前は死なない! お前はゾンビウイルスに抗体を持つ“マンカインド”だ!」
「“マンカインド”? 聞いたこともない……」
一度はゾンビキリングで上がったアリアのテンションが大暴落していく。コウガの刀をポトっと落とし、目から光が消えていく。
「ああ、俺が今作った言葉だ。つまり、お前はゾンビウイルスによって死ぬことはなく、常にスターを持ったマリオの状態でゾンビを殺せる。ここに、正真正銘史上最強のゾンビキラーが生まれた」
「……」
アリアから生気が消えた。脱いだソックスをパペットのように右腕にはめ、ソックスと見つめあってから表情と呼ぶにも無感情に笑い、ソックスのパペットをペコペコさせた。
「アリア~。マタ死ニ損ネチャッタネー。マダマダ生キ地獄ガ続クネー。うん、そうなのソックスちゃん。いえ、ソッコ・ザ・ガール。もうそろそろ死にたいよね。ウン。大変ダヨ、アリア~。ゾンビキリングヲシテルウチハ死ネナイミタイダヨー」
裏声とジャパニーズネコナデゴエでセルフ会話を繰り返す。
お道化うた、サーカス、曇天、失せし希望、わが半生。
ピエロのメイクのような貼り付けた笑顔で笑って、悶えるように踊りながら廃墟の階段を下った。血飛沫が舞い上がる。
彼女はもう十七年前に生まれた―――・―――ではなくなってしまった。存在そのものが“アリア・アニマ”に書き換わり、それまでの彼女を知る者でさえこの人物がかつて―――・―――であったことすらわからないだろう。それぐらいこの笑顔は違うのだ。生まれてからサンフランシスコに移住するまでの十三年間に見せた生来の笑顔、サンフランシスコで振りまいた愛想の笑顔、そして今、三番目の笑顔に……。
抑圧と葛藤と絶望と狂気と倒錯と歪曲の果てに新たな“人類”が誕生した。
ジ・アンダーテイカーというチームはようやく最後のピースが揃って完成した。
もう自分は死なない。それを理解したアリアは有刺鉄線で輪を作って冠のように被り、フェリッサ・マケイン(享年19歳 ゾンビ年齢7歳)にヘッドバッドをブチかまし、ドス黒い血と人類の真っ赤な鮮血を混ざり合わせた。
「スチュワート」
「どうしたアリア?」
あのスチュワートですらビビってしまっている。本当は死にたかったのにもう死ぬことすら出来ないアリアの笑顔に戦慄した。
「ゾンビを食べてあげる。ありがとう。いつだってあなただけは優しかった」
BITE!
EAT!
腕の繊維を食いちぎられたステイシー・クロスビー(享年24歳 ゾンビ年齢3歳)は一日に十五台もキャデラックを売った名ディーラー!
咀嚼される彼女はマリリン・ステイプルトン(享年41歳 ゾンビ年齢9歳)はジャパンから輸入されたアニメーションの主演を務めたボイスアクター!
脳や心臓といったもう機能していない主要な臓器をアリアのきれいなピンク色の胃に収められたブレイク・メディカ(享年15歳 ゾンビ年齢9歳)の宝物は、彼の曽祖父がペリリュー島で殺したジャップから奪った金歯!
文字通りの噛ませ犬だ。
アリアを美しく彩るルージュは彼らの血肉を体の奥に運び、アリアにセクシーな大人の魅力を呼ぶ黒のネイルはゾンビの肉を引き裂いてアリアの甘いマスクに人体の一部だったものを飛散させる。
「わたしを食べてごらん? 白皙! 優位!」
アリアの新しいお友達、靴下のソッコ・ザ・ガールをシモン・ミースター(享年39歳 ゾンビ年齢5歳)の口に突っ込んで拷問し、激しく痙攣させる。ソッコ・ザ・ガール越しにアリアの手に歯形がつくのに何も感じない。
「白皙優位!」
シモンでは自分を殺せないと察したアリアは彼の下顎を掴み、一般的女の子の腕力で顎とそれに引っ付いている皮膚と肉を鎖骨までチーズのフィルムみたいに剥がして放り投げた。頭蓋が吹っ飛んでジ・アンダーテイカーのキャンプのラジオに直撃し、その拍子に電源が入って雑音のないクリアな音でDJコニーの番組が流れ出す。
「よぉうリトルキラァーッ!? 嫌になるか? お前らの事情なんて知ったことか。今日も流すのはアリア・アニマの『白皙優位』だ!」
聴き慣れた小気味よいイントロ。死ぬ程嫌いだった。アリアは急いでコウガの吹き矢を強奪し、モスキートの針みたいにトレバー・ドネリー(享年79歳 ゾンビ年齢2歳)の頸動脈に突き刺してチューチュー吸った後、吹き矢をマイクの代わりに手に持った。ラジオとアリアの声がシンクロする。
「It`s not my style…… I don`t feel anything.」
“Good‐looking Absolutely”
(邦題:『白皙優位』)
It`s not my style……
I don`t feel anything.
We go with my plan.
To be simply, Say only once
Let`s fucking kill him. Let`s go in.
Let`s kill the fucking lot of them.
I don`t like losers.
I'm talking about you.
Sorry losers and haters,
But my face is Absolutely
And you all know it.
The Absolutely is that
I`m very good-looking.
On the other hand, how about you?
You should die. for evolution. for Darwin. for me.
Smart-ass, pain in the ass.
Are you moron?
Goof ball, failson, bum, incel, trash and sophomoric.
I can`t stay mad at you.
Things that can be done regardless of beauty and ugliness.
If it's one side passes.
All right. People let`s start at the beginning one last time.
Good‐looking Absolutely.
Good‐looking Absolutely!!
It`s not my style……
I don`t feel anything.
@サンフランシスコ
サンフランシスコの風俗街のポン引きであるアンジェロ・ニーロン(22歳)は今日、しつこくしすぎて学生にまで殴られた。仕事の合間にラジオを点けて、咥えたシケモクの火すら消せないほどの量でうっすら涙ぐみ、思わず口ずさむ。
「白皙優位~」
@シアトル
テストでいい点が取れなくてオモチャを全部救世軍に寄付され、以降引きこもりになったおかげで体力皆無なのにゾンビと無縁だったニート、イヴァン・グッドソン(29歳)はいつか外出するならアリア・アニマのいるサンフランシスコのライブハウスに……。今はまだ無理だ。ラジオを聴いて口ずさむ。
「白皙優位~」
@ニューオーリンズ
旅行先で人身売買組織に娘を誘拐されたが、たった96時間でマフィアを皆殺しにして娘を奪還した高度で専門的な知識を持つ元エージェントの最強の親父ブライキング・ミッションズ(66歳)は、Zの時に結局娘を失ったが、歌手を夢見ていた娘に思いを馳せながら口ずさむ。
「白皙優位~」
@サンディエゴ
『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』を世界一面白い映画だと思っているトースター以下の知性の持ち主コービー・ウィックス(32歳)は、本当にアリアを危険な差別主義者だと思っている大バカ野郎だ。誰の目から見ても無理している姿に心を揺さぶられるってのに。ある意味幸せだが手を叩きながら口ずさむ。
「白皙優位~」
@バークレー
転職先の上司が聖人のような優しさを持っていて、その姿に人間の美徳とは温厚篤実であると見出し、彼を見習っていたらただの無口で陰気なヤツになっていた優しさの才能に欠けるヤツ、ユーリ・ブックス(30歳)は趣味だけ過激だ。温厚篤実にも狼子野心にもなれなかった半端な己の人生を悔いたり誇ったりしながら、孤独に一人口ずさむ。
「白皙優位~」
そして今、ゾンビの骸をステージに歌うアリアの笑顔が裏返る。彼女の人生観が変わり、ゾンビを殺すことに快感と快楽を覚えるようになったのだ。人間の本能である残酷と殺戮衝動に従って革命……コウガの言う“本能児の変”を起こし、人間性のスクラップアンドビルドで十七年前にDCで生まれた―――・―――の心の骸の上で“アリア・アニマ”が本物の笑顔を浮かべながらマイク代わりの吹き矢で歌い、たった三人のオーディエンスとコールアンドレスポンス。
「白皙ィ~?」
「優位ィー!!」
紙吹雪の代わりに血吹雪。
「よう、コウガ、スチュワート」
「なんだいミッキー?」
「俺には妻がいる。つまりストレートだ。お前らの性的指向がどうだろうと俺は構わん。それにお前らを選んだのはツラでもないしな。力だ。でも無駄話もしたい。お前ら、ストレートか?」
「ああ」
「OK。じゃあ女を相手にした時以外にアソコが立ったことはあるか? あるだろう? 例えばコウガ。お前は初めて、殺しの道具である刀を持った時。スチュワートは料理の必需品の包丁を持った時。立ったろ? 俺ァ今ビンビンだぜ、おい。思い出すなぁ。あれはまだ初めてマスをかくより前の八歳の時だ。親父が昔仕留めて暖炉の上に飾ってあったシカの頭のはく製の中身をくり抜いて、頭巾にした時クソ怒られて、真っ暗なガレージに閉じ込められた。そこで足をネズミにかじられて俺は泣いていたんだが、手探りで金槌を見つけた時。ビンビンだったぜ。そいつでネズミを殴り殺した」





