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California Zombie Killers  作者: 三篠森・N
EP15 ザ・スカベンジャーズ -ジ・アンダーテイカー:レボリューション-
67/86

4話

 スカベンジャーズvsキューバの試合はやる気のあるメンバーとないメンバーのハッキリ別れたように見えた!! やる気がないのはたった一人だ。


「ベラトリクス、下がるか?」


「そうする」


 ベラトリクスが下がってもオレンジの町にはキューバと一戦交えてみたい人間がいっぱいいる。お飾りのレフトはスタメンにだけいてくれればもういらない。既にスコアは30-0でキューバのリードだ。レフトの美女はミッキー・ローリネイティスを超えるゾンビ殺しをするにはどうすればいいのかばかりを考えてしまう。自分の得意な()り方では2位が最高なのか、これだから2位まで来ることが出来たのか。


「そんな細い脚でレフトを守ると筋肉がついて邪魔になるだろうな」


「栄養管理もバッチリ。野菜中心に決まったものを食べて細くする。計算された細い脚よ」


「栄養管理も? スゲェな。昆虫でも目指してんのか? あいつらは太らない」


「成虫になったら、ね。……よかったわチャールズ! アンタがバカってことを既に知っていたおかげで、あのチャールズから生物学的な嫌味が飛んでくるなんて想定もしないで済んだ。辞書を片手にようやく半分まで読めた『ファーブル昆虫記』はミランダのおさがり? サードも下げて」


「そうだな。シスターがサードから送球すると肩を壊す」


 レフト→その辺のオヤジ

 サード→犬の散歩の帰りの小僧


「シスター。この試合が終わったらすぐにシアトルに帰りましょう」


「急ぎの用でも?」


「ええ。ゾンビを殺す。1位を狙う。あなたはわたしのアシスタント。悪いけどここはわたしの顔を立たせて」


「あなたに従う。ベラトリクス、あなたが今までやってきたことは全て実を結ぶ。聖書にはこう書かれています。神と富、同時に仕えることは出来ない、と。でもあなたは子羊じゃない。やれるわ」


「わたしが神に祈るような女に見える? もし誰かがわたしが跪いている姿を見たって言うのなら、それは待ちガイルよ。神が天から握手を求めて来たらサマーソルトキックを、人間が自分たちの仲間だと握手を求めて来たらソニックブームを撃ちこむための待ち。下を向いて落ち込むってことはないわね。金貨が落ちてても拾わない」


 キューバ人たちは自分たちの野球をした。自分にしか出来ない殺しってなんだ? 虫みたいな足でミッキー・ローリネイティスを超えるパワフルな殺しを?


「……見つけた。早くシアトルに戻りたいわ」


「どんなゾンビ殺し? 聞かせて」


「“見つけた”の。その手段を使ってゾンビを殺さない」


 ああ! チャールズぐらい太い足でアクセルを踏んだらフォードは早くベラトリクスをシアトルに帰してくれるだろうか!?




 〇




 数日後。シアトルの近くを一匹のハエが飛んでいた。このハエはとても非力だ。ハエも殺せない。なんかから滲み出た甘ーい汁で泥酔気分になったハエはうっかり、ウォービル・マーチソン(享年28歳 ゾンビ年齢1歳)に触れてしまった。

 ZAP!

 なんてヒドい……。飲酒運転のハエがぶつかっただけでウォービルはヒーローがビームを撃つみたいに腹膜から内臓を発射して死んだ! Z13年、北米大陸のゾンビの歴史はまだ十三年だが、二度目の死因が「ハエ」ぐらい虚弱だったゾンビは未だかつていない!


「……」


「……」


「……」


 頭蓋の一部を切除されて脳がむき出しになっているのは、異なる恐竜の骨を一つの個体と勘違いしてとんでもないキメラを作ったマッディ・オラディポ(享年70歳 ゾンビ年齢9歳)。雨粒一つで脳への致命傷になる。

 腹部の表皮を裂かれて内臓が丸見えなのは日本の良質なアニメにダサい副題をつけて台無しにしたクソプロデューサーのカール・ジンガノ(享年66歳 ゾンビ年齢11歳)。

 こんな風に中途半端に解剖され、どれだけ軽微なものであろうとも、〇.〇一の刺激で死んでしまう程のゾンビがあちこちでその刺激に耐えきれず血肉の飛沫を飛ばして死に絶えていく。おおよそ考えられる限りすべての手段で解剖されたゾンビたちはまるで……。“人体模型(KUNSTLIJK)”。


「お前はもう、死んでいる」


 マリア・ジャフィー(享年30歳 ゾンビ年齢2歳)を? 教えてやろう。彼女はスゴウデの走り屋で日本のジャスティン・ティンバーレイクともシュトコーで爆走レースをした。今はベラトリクスのシャボン玉が触れて弾けるのと同時に脳が洗剤に汚染されて死んだ。

 ルネ・ファルケンボーグ(享年18歳 ゾンビ年齢9歳)を? 彼女の父親は善意から各地の学校で性教育の重要さを真剣に講演して回り、ネタにされたイタい医師だった。シスターの投げた紙ヒコーキが腹部のツボをついたのか、シーザーズパレスで飾るのにお似合いの噴水みたいに内臓を噴き出してベラトリクス・サンダーランドの1位を後押しする。

 デラン・アーネス(ゾンビ年齢41歳 享年13歳)はゾンビ現象が発生した時、窓ガラスの保護の為にテープを貼ったがXの字だった。こう貼れば『X-ファイル』に登場するFBI捜査官、モルダーとスカリーが助けに来てくれるかもなんて、ちょっと非日常を楽しんでいた。こいつは鳥の羽が落ちてきただけで脳が爆散して死んだ。

 トッド・ボーズマン(享年52歳 ゾンビ年齢7歳)はギリシャ神話の二次創作をしていた。彼にとってのプロメテウスはベラトリクスが投げ捨てたタバコ。これで全身のバネが彼を体内から弾けさせた。


「医学でゾンビを殺す方法なら一二〇〇通り知っている。わたしの伝記映画(バイオピク)に“あいつ”が登場するのは気に食わないけど、伝記映画が作られるってことはわたしは伝説になる」


 医学の知識とキュンストレーキとの対峙は、チャンスという然るべき場面で炸裂した。ゾンビを殺さないゾンビ殺し方。ミッキー・ローリネイティスはもちろん、スカベンジャーズのメンバーでいるうちも出来ない。付け焼刃ではない非情、冷徹、技術、経験、野心。これがベラトリクス・サンダーランドの集大成だ。

 半殺しにされたゾンビたちの吹っ飛ぶ音で奏でるべき曲はなんだろう? DJコニーに聞かなくてもわかる。『威風堂々』だ。サンダーランド家の墓があるイングランドの墓地でも、今日ばかりは『威風堂々』は不謹慎じゃない。

 シスター・グレイシャの回すカメラに収められていた自信漲る恍惚の美貌は宇宙からでも見えるだろう。




 〇




「これはもうスマネェことだ。タダじゃスマネェし、ミッキー。あんたにもスマネェ。1位をアンタの聖域にすることは出来なくなった」


 1位 (↑) Bellatrix(ベラトリクス) Sunderland(サンダーランド)(ワシントン州 シアトル)


 DJコニーは独り言を呟きながら、五年ぶりに1位の欄にミッキー・ローリネイティス以外の名を書いた。1位の↑が上を向くのも五年ぶり。五年前はミッキー・ローリネイティスが新婚旅行でゾンビ殺しをしなかったから繰り上がりでベラトリクスが1位になった。今度は違う。

 ミッキーがチームを結成して少し身動きがとりづらい? いや、今週のベラトリクスには敵わない。ありとあらゆる手段で殺してきたゾンビ殺しの蓄積があるから“不殺”が十三年の歴史でトップに立った。




CZK4 15-4-A

「おいアリアァ! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」

「本当にミッキー! 中に入ってるは、えぇ~と」

「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」

「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」

 クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中

CZK4 15-4-A




「いいな、いいな。人間っていいな」


 都市部からそう遠くない荒野でラジオを聴いていたのはジ・アンダーテイカーの面々だ。焚火を囲い、串にマシュマロ、肉、野菜なんかを刺してご機嫌になっているはずだった。でもラジオからのこの発表を聴いて、サノスを殺した後にセラピーを受けるキャプテン・アメリカみたいにシリアスで悲惨な空気になってしまった。気にしていないのはスチュワートだけだ。スチュワートは悔しくないんじゃない。「それもアリ」という思考は彼を二度とシリアスにしない。


「みんな、マクドナルドは好きかい?」


「ああ」


「みんなマクドナルドが好きなくせにヒドい扱いだ。イギリスで食える最大の美味なんて言われる」


「あのサイコ……。いや、もうあいつを“B”で始まるフレーズじゃ呼べないな。参った。Bellatrix(ベラトリクス)も“B”からだ! しょうがねぇ。“B”から始まるフレーズも解禁だ。あの……Bitch……Bimbo……British……。あいつは紛れもなく“A”評価のゾンビキラーになった。血液型もAだろう。俺はOだ。Obsolete(オブソリート)のO。あのイギリス女はもうマクドナルドじゃ満足出来ねぇぞ。ライオンはマメを食わないからな」


「フィレオフィッシュはどうだい?」


「フィレオフィッシュ?」


「フィレオフィッシュに使われる魚をナイルパーチと仮定しよう。アフリカのビクトリア湖を泳ぐナイルパーチ。バンズの材料の小麦はカンザスから来た。タルタルソースの鶏卵はジョージアかな? ナイルパーチは陸に上がれない。小麦は歩けない。鶏卵は泳げない。彼らはようやくフィレオフィッシュで出会えたんだ。死んでからね。お前はどこから来た? コウガ」


 コウガは空気を読んだ。ミッキーを慰めるよりスチュワートに乗った方がチームにも良い。


「ジャパンのキョートというところだ。さすがにそれ以上は言えない」


「お前は忍者だよね? 何が出来る? まさか『キル・ビル』でバカな白人女がやってたみたいに刀を振り回すことだけ?」


「どんな拷問にも耐えられる」


「その話はよすか。忍者がどんな拷問を受けてきたかなんて聞いたらアリアがまた吐いてしまう」


「ああ、じゃあ忍者のスゴい話をしてやろう。なんと忍者は、竹筒一本で一日水の中に潜むことが出来る。それに先祖は凧に自らを括り付けて空を飛んだ」


「拷問の話はやめろって言っただろ。それが忍者の日常なら非常時に忍者が受ける拷問ってどれだけヤバいんだ? あとでコッソリ聞かせてくれよ。ちなみに俺はアフリカ系だがフランスにも先祖がいて、北米に渡った。ミッキーとアリアはずっと北米か? 悪くねぇ。死ぬ前にフィレオフィッシュにしてくれた出会いに乾杯しよう」


 アリアは何も言わなかった。自分にかまっていたせいでミッキー・ローリネイティスは陥落した。


「でも知っていたか? ナイルパーチを食うと世界は滅ぶ。何故だと思うアリア?」


「ナイルパーチって何?」


「子供は殴りたくないがナイルパーチを知らないのか?」


「ゴメンナサイ」


「ナイルパーチはアフリカのビクトリア湖で養殖されていたデカい魚だ。男たちはナイルパーチを採るために船を買うが金がなくなり家の女は売春するしかなく、子供が増えて少年兵になり、世界は滅ぶ。ナイルパーチは食料自給率を考える上でとても重要だ。知っておこうなアリア。ナイルパーチを食おうと食わなかろうと世界はいずれ滅ぶ。早いかどうかだ。悪いアリア。ここから先はお前次第だ。お前の時計の針だけはまだ刻んだ回数が少ないから一つ一つを重くできる」


 アリアは顔を覆って震えていた。ゾンビの歴史十三年……。変えてしまったのはアリアか、ベラトリクスか。

 ……。


「革命だな」


 コウガの緊張の糸が切れた。コウガの中でも答えが出たのだ。


「やはりお前次第だアリア。少なくとも日本史じゃ、一番面白いのは革命だ。一番面白いのは、ミツヒデ・アケチが当時の日本最強のサムライで、日本のガキが必ず見る『サムライ戦隊』のリーダーの元ネタ、ノブナガ・オダをブッ殺した“本能寺の変”。何が面白いって、ミツヒデもトニー・スタークがネビュラと宇宙を漂流していたのよりも短い時間で農民出身のヒデヨシ・トヨトミに討たれるってことだ。ベラトリクス・サンダーランドの革命は三日天下。アリア・アニマがヒデヨシになる。ブチ殺せアリア。競う相手は必ず殺せ。さもないとヨリトモ・ミナモトを調子に乗らせたせいで政権を転覆されたキヨモリ・タイラになってしまうぞ。革命を起こせ」


「俺の真似してインテリ気取りとは楽しい奴だなコウガ。残念ながらお前の語ってくれたスーパージャパンヒストリーの答え合わせはここにいる人間は誰も出来ねぇ。どこからがテキトーだ?」


「チームメイトは殴りたくないがノブナガとヒデヨシを知らないのか? 日本に興味を持てよスチュワート。解き放て、アリア。俺はそれで気持ちがよかった。俺は忍者として……。忍んできた。己の主張を殺し、目立たないよう、痕跡を残さないよう努めてきた。それは北の方にあるカジノの用心棒をやってた時も同じだ。あそこでも優れたゾンビキラーがいると知られちゃ困ったからな。でも今はいいぞ。気の向くままに殺しをやれている。もっと多くの人に俺を見てほしい。これは本能なんだ。モテるのは羽根がきれいな孔雀なんだよ。美しく派手であり、他人を圧倒して魅了させたいと思うことは本能だ。お前にもあるはずだ。まだガキだからこそいい。勝ちグセをつけられる。革命を起こせ。“本能児の変”だ」


「ない。ないのよコウガ。わたしにはあなたにとっての忍者みたいなプライドがない」


「どうなってるこのガキ。っていうか悪い、頑張ってくれ。お前がどうしようもないと俺たちも沈んだままなんだよ。嫌ならサンフランシスコで『トワイライト』でも観てろクソガキ。きっとバカみたいに楽しいぞ」


「どうしよう、ゴメンナサイ。ゴメンナサイ」


「お前が泣いたところで俺たちはしなびない。張子の虎じゃねぇんだ。ガキの涙程度じゃどうも出来ない。真剣なんだよ」


 燃え上がる謝罪の炎。なんでわたしが……。畜生が。


「どうせわたしを捨てるんでしょう? 殺す……。コウガ。お前はいつか、殺す。わたしが一番辛い、音楽の道すら捨てさせられているこの時期に煽ったことは許さない」


 燃える心とは裏腹に飛び出した殺害宣言は、人間相手に命のやり取りを行ってきたコウガを骨までぞっとさせるような冷たい声だった。アリアの心が燃焼と凍結を繰り返す。

 破壊しつくされた心に、最後に残るものは何だろうか?

 社会に揉まれ、躾どころか去勢されて本能を失った大人たちの道楽に翻弄された不憫な少女の本能……殺意が覚醒する。

 一人の怪物が生まれる。

 その名はAria(アリア) Anima(アニマ)

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