2話
ハロー! あなたの未来から愛を込めて! マーリィよ! ここまでのおさらい!
「引っ叩いてやるわ!」「死にたいの? マヌケ」「ブッ殺されるのと裁判、どっちか選んで」「君が若い!」「ハードだわ」「“パワースポット”」「“ストレンジ・ゾンビ”」「“レールガンの設計図”」「“ピープル・ガス”」「V8インターセプター」「お前でスシを握る」「“チャーリー・シーン”のキめすぎ」
少しハードね……。でもTake it easyよマーリィ! あなたの未来で待ってるわ!
世紀末というジャンルがある。
世界の勢力図の書き換え? 若者による凶悪犯罪? カルトな文化に侵食されて現実逃避? 暴力、暴言、腐敗、窮屈……?
「終わってくれ」と願われる時代こそが、悪魔の住まう時代、世紀末だ。
@カリフォルニアのどこかの田舎町 ツームストンオブフェニックス
「ヒャッハー! 水と食料と女と乗り物とクスリと燃料と金と武器をよこしなぁ!」
おぉ、救いはないのか!? 大型バイクに乗ったモヒカンの大男がボウガンで街を襲う!
水と食料と女と乗り物とクスリと燃料と金と武器を!? そんなにたくさん奪われたらこの小さな町、ツームストンオブフェニックスには地元出身のガッカリバンドのクソアルバムしか残らない! みんながカラス除けに使ってるってのに!
「ワシらが一体何をしたっていうんですかぁ~」
モヒカンのボウガンがボロキレを纏った老人の心臓を貫いた。
「アッヒャッヒャッヒャ! 所詮俺らはアリとキリギリス。だがZの炎のせいでキリギリスが生き残る世界なのよぉ悲しいけどこれ! ご苦労、アリンコども!」
“Duster” 二十二歳 一九〇センチメートル 一〇〇キログラム
「ヒエッヘッヘッヘェ! どこかなどこかなァ~?」
牧場では服を乱暴にちぎられた娘たちが柵に閉じ込められ、目隠しをしている化け物じみた巨漢に追い回されている。柵には牛を逃がさないための高圧電流が流されており、遅かれ早かれ娘たちは死ぬ運命が決定されている。感電死しないのなら、この巨漢に捕まるまで牧場を逃げ回る運命なのだ……。
「ギャッ!?」
美しいブロンドに脳ミソの中身を全て吸われたおバカ娘、アマンダが捕まってしまったぞ! 貧相な田舎町ツームストンオブフェニックスの娘たちの体は再び世紀末を作ろうとしているような無法者の剥き出しの暴力と欲望に耐えきることが出来ない。アマンダの体が胸を中心に水風船のようにムニュっと変形し、無法者の腕のスキマから破裂してバラバラになった骨が転がる。娘たちはヒトとしての理性を放棄して恐怖の鳴き声を上げた。目隠しをしていても死にゆく娘の体温と鳴き声は彼の気持ちを最高にぞくぞくさせる。ヒトを消耗品にして燃費を悪く消費することが彼の快感なのだ。
“Colossus” 三十歳 二三一センチメートル 二二二キログラム
「オラァッ!」
「ヘグゥ!?」
町の男たちはみんな広場に集められている。この無法者集団に抵抗出来そうな者たちはみんな縛られてしまった。男たちだけではなく、まだ十二歳なのに一七四センチメートルの身長があったニコラスもだ。町で一番優しく力持ちで、ニコラスの栄養になった牛乳や農作物を作り“ファーミング・マッスル”と呼ばれたスーパー農家、マロが利き腕の腱を切れ味の悪いギザギザナイフで切断されてしまった!
「何をするだァーッ! オラたちが何をしたていうだー!」
「何も? ただそのナイフにはドクヘビの毒が塗ってある。お前の命はもってあと三日だ」
「み、三日!? 嫌だ……嫌だァー!」
「なら今死ね!」
STING!
マロの眉間にドクヘビナイフが突き刺さる。一撃で彼の脳まで刃が達し、秘伝の農技も先程コロッサスに殺されたアマンダへの想いも毒液と一緒に刃から引き摺り出される。
「あヒュウー。あああああ」
“Randy” 二十五歳 一八九cm 八八kg
資源も……。将来街を作る子供を産む娘たちも……。復興への労働力も……。
「ワシらが一体何をしたっていうんじゃァ~!」
バギィ~~~ン! ギャリギャリギャリギャリギャァイ~ン!
老人スミスの慟哭が電気に変換された爆音にかき消された。爆音は荒野を埋め尽くし、スピルバーグが再現したがるような砂嵐を引き連れて生バンドを搭載した大型バギーがやってくる!
「頭が高いぞ家畜ども! 控えろ、頭が高い! 偉大なるパンクのイエス・キリスト、“ピープル・ガス様”の、おなぁ~り~!」
ギャリギャリギャリドゥィ~ン! ドゥィ~ン!
生バンドでギターを弾いているのは、無骨なフェイスガード、ベラトリクスを凌駕する巨大なバストをギンギラギンのレザーのビキニで隠して白衣を羽織った巨大な人物だ!
ウインドミル奏法! タッピング奏法! フェイスガードのスキマを巧妙に使った歯ギター!
覆面に隠れていてよくわからないが、この人物は己のギターのテクに酔い、恍惚の表情を浮かべている。実際に地元出身のクソバンドのギタリストよりもレベルははるかに上だ。地元出身のクソバンドのCDは主にカラス除けとして十五枚売れたが、そのうち十人が聴いたとしたら、十人中十人がこの人物のギターの方が上だと知るだろう。
そう! この人物こそが! U.S.Zで最悪の世紀末大悪党、パンクのイエス・キリスト!
“Lord People-Gus”! ??歳 一八五センチメートル ??キログラム
畏敬の念を込めてピープル・ガス様と呼ぼう。
「……」
その生バンドバギーで暴れ狂ってギターをかき鳴らすピープル・ガスの隣には、レザーやモヒカンなどの世紀末要素の一切ない、ゴマ塩頭に老メガネ、アジアのエスニックな衣装を着こんだ小柄な老人が座って本を読んでいる。
「ご苦労! クズ野郎共! さぁ、初めての略奪行為、採点をしてやりな、銃爺!」
ガンジーと呼ばれた小柄な老人は杖を突きながら立ち上がり、懐から古びたリボルバーを取り出した。震える手で弾を三発装填し、プルプルとツームストンオブフェニックスの町に向ける。
「貴様らは落第じゃ」
BLAM! ダスター。享年22歳。
BLAM! コロッサス。享年30歳。
BLAM! ランディ。享年25歳。
老化による手の震えが収まらないガンジーでもコスパの悪い大飯ぐらいの役立たずを始末するためには一瞬あればいい。震える手は標的と弾道が重なる瞬間を逃さず、とんでもないウデマエでまだ給料を受け取っていない派遣の無法者にトリガーを引く。ガンジーの腕ならオリンピックの金メダルや大統領殺しだって簡単に出来る。ガンジーを雇う金は、ゴクブツシに払うと言った分を払えばいい。これがピープル・ガスとガンジーのやり方だ。
「フゥム?」
ジャキッ。もう一発弾を込め、メガネの奥の目を細めて空気の中に潜むほんのわずかな、ダムに一滴だけ垂らされたワインほどの微かな殺気の流れを読む。
「……」
マーリィから聞いた情報を確かめるべく、ピープル・ガスなどという悪人の実在を確かめに来ていたミセスはガンジーの気配を読み、殺気を消して愛車のカタナでその場を去った。
CZK4 13-2-A
「ミランダ! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったわ!」
「本当に!? マーリィ! 中に入ってるは、えぇ~と」
「クラウン・コーラよ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないわ! もちろん人工甘味料はゼロ! 0カロリーで体にもいいわ!」
「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」
クラウン・コーラ 現在・過去・未来のイチバンマーケットにて大好評発売中
CZK4 13-2-B
もし神がいるとして! 人々の運命を司っているとしたら! あなたは神に何と呼ばれているだろうか?
ジャパニーズ・ゴクツブシか? それともツミツクリなグッドルッキングガイか?
きっと神はあなたの名前を覚えていないだろう。いや、そもそも名前をつけられていない。きっと役割で呼んでいる。スポーツだってそうだろう? いつも観ているバスケットボールに新星が現れても、まずあなたはこう言うだろう。バスケじゃなくてもいい。野球でもアメフトでもそのはずだ。
「あのスモールフォワード、いい動きしてんね!!」
「あのキャッチャーは強肩だなぁ!」
「あのクォーターバック、視野が広いのね!」
まずは役割を知ってから名前を知る。サスペンス映画の冒頭で「引き継げだァ!? チッ、CIAだかFBIだか知らねぇが、地元の警官を蔑ろにしやがって! ……おい、署に帰るぞ! その前にいつもの店のベーグルとコーヒーで休憩して、家でゆっくりワイフのケツでもなでてやりな!」って言って早々にスクリーンから消える田舎のお巡りさんに名前はつけられていないのでエンディングで役名は流れない。
あなたは自分の体の部位に名前を付けるか?
「お医者様、わたしの心臓のリトル・ジミーの調子が悪いんです。手首の血管のジョニーがバクバク言うんですの!」
こんなことは言わない。心臓は心臓で血管は血管だ。神にとっての人は“あのスモールフォワード”で“田舎のお巡りさん”で“心臓”だ。
神が彼らを呼ぶならこうだろう。
“ミランダ”は“主人公”で、“マーリィ”は“未来から来たヒロイン”で、“ピープル・ガス”は“悪役”だ。これはほんの一部に過ぎないが、神に与えられた役割を果たすべく、ピープル・ガスは悪行を重ねる。
「……」
カタナをしばらく走らせ、ガンジーから十分に距離をとったミセスは見てきた情報を整理する。日本語も英語も喋るのは苦手なミセスは読唇術が得意だ。そんな技術がなくても十分にわかるくらい、ピープル・ガス一味は殺すに値する悪党で凶悪犯罪者だったし、マーリィの言葉の信憑性が少し増した。
だがピープル・ガスは現在に存在している悪人だったので、マーリィはこの時代でピープル・ガスを偶然知ったラリ娘かもしれないので彼女が未来から来たってことを確信させるには至らない。それでもミセスがマーリィを50%以上信じて行動するのは忠誠を誓ったドクの好奇心、タツジンとして約四十年間人を見定めてきた己の目、そして子を持つ親として、まだ親の愛が欲しいはずの年齢の子供の持つ必死の訴えゆえだ。
ミセスのカンは、今はまだコトを荒立てず、ガンジーから隠れるべきと告げたが、彼女がもう少し我慢強く持ちこたえられていれば得意の読唇術で決定的な場面を見ることが出来ただろう。
「このパワースポットは力が弱い。マーリィは来ないかもしれないね」
「どうかのう、ピープル・ガス様。マーリィがこの時代にいるのなら、藁にもすがる気持ちで弱かろうとパワースポットを全て回るのでは?」
「マーリィにもう少し知恵、力、勇気が揃っていればそうするかもしれないね。あいつはわたしを恐れている。何かいい案はあるかい? ガンジー」
フェイスガードの向こうの異形で凶暴な牙を覗かせ、ピープル・ガスが全米パワースポットの一つである“不死鳥の墓石”を蹴り上げた。象牙のヒールから伝わってくるパワーは、ジョージア州のご隠居、ミスター・グローバー(88)のパンツのゴム紐の弾力より弱い。タイムマシンを動かすには足りないパワーだ。自分がマーリィなら、こんな何もない田舎町じゃなくもっと効率よくパワーを溜められるパワースポットに行くだろう。
「マーリィを捕まえるならオレンジ、サンフランシスコ、VOW辺りで待ち伏せですかのう」
「それはダルぃ。そこらはパワースポットじゃないし」
ジャキッ、パァン!
ソードオフしたショットガンで無意味に村人を射殺し、象牙のヒールで血の池を渡る。足を広げてガンジーがバギーの上に広げている地図を覗き込むが、長身のピープル・ガスの膝の位置はガンジーの頭よりも高い。
「とりあえずここのパワースポットはブッ壊しておくとして」
「ホワッツ!?」
「シャラップ!」
ジャキッ、パァン!
この町のパワースポット、“不死鳥の墓石”がもたらす恩恵(肥沃な大地、安定した天候、ゾンビ除けなど)を知っていた町民が声をあげるが即射殺されて“不死鳥の墓石”に刻まれた文字に血が溜まる。パワースポットまで破壊されたらこの町にはもう本当に何も残らない。完全なゼロになってしまう! ピープル・ガスの蛮行でパワーが弱まったのか、“不死鳥の墓石”の持つゾンビ除けの力が消えて、比較的損傷が少なかったマロの骸がゾンビとして復活した。額からはドス黒い血が流れ、腱を切られた利き手をプラプラさせてガンジーとピープル・ガスを見比べ、ガンジーに向かってとぼとぼ歩きだす。この町ではゾンビにならないはずでは!? 人々が言葉にならない声で鳴き、ピープル・ガスが見せしめにまた一人射殺する。
「ほらな。ここじゃストレンジ・ゾンビにならない」
「ピープル・ガス様がパワースポットに暴力を振るったからじゃないかのう?」
「今まで通り、マーリィを探しながらレールガンの設計図も探して、パワースポットを一つずつ潰していくか」
象牙のヒールが“不死鳥の墓石”を粉砕し、そのまま弧を描いて“ファーミング・マッスル”のアラン・マロ(享年22歳 ゾンビ年齢0歳)の頭蓋骨を粉砕する。ガンジーが一八〇度後ろを向いていたらビキニの脚線美が大きく展開するところを見られたのに! もうガンジーはそんなことで喜ぶ年齢じゃないか……。悲しいけど。
「そのうちマーリィに出会うだろう。殺しておきたいやつはたくさんいる」
神はミランダのことを覚えていないだろう。マーリィのことも、ドクのこともミセスのこともチャールズのこともガンジーのことも。
だが神はこの名前だけは絶対に覚えている。
“Lord People-Gus”
神は絶対にこの名前を忘れない。人間の歴史、過去、現在、未来において唯一無二の存在。『CZK』においての役割は“悪役”で脇役だが、時空のジレンマによって姿を変えられた、人を超える過去・現在・未来を抱えるたった一つの存在。時空に変化が起きて歴史に改編が起きるたびに姿、年齢、性別さえも変化しながら、歪みを一身に背負い、時空の乱れを収束させ調和を保つ運命を強いられ、強い憎しみを持つタイムトラベルの被害者にして時空のスタビライザー。
そう。ピープル・ガスとは、タイムパラドクスそのものなのだ。





