3話
ハロー! 元気かい!? ロイド・ロレックス・ロールスロイスだ! ここまでのおさらい!
……
「キャー! ロイドがこっちを見てくれたわ!」
「ハハハ! お嬢さんたち、落ち着いて落ち着いて! ロイドはどこにも行きませんよ!」
……
「ゲハハハハ! ワシがやっぱりこの町のチェス・チャンピオンだァ! 次の挑戦者は……。ほほぅ? ロイドか」
「お手柔らかにお願いしますよ、一時間後には元チャンプになっているミスター・レインズ」
……
「ハハハ! みなさん、第三次ロイドブーム、来てますね! いや、私の勘違いだ。ロイドブームは第一次から途切れたことがないからまだ第一次ロイドブームのままだ!」
……
「何故、私が大統領にならないかって? それは大統領選が行われていないだけさ!」
……
「私は法律界のバリー・ボンズさ。ただし彼と違ってステロイドは使っていないけどね。ステロイドと違ってロイドという生まれ持ったドーピングを使いこなせるのは私だけさ」
……
「ハハハ! サンフランシスコではカカシに裁判長をやらせるのかい?」
「法廷侮辱で退場!」
……
「イッヒッヒ。ロイド、お前がナンバーワンだ。お前は誰より頑張ったし誰よりもスゲェ」
「そうだね。一〇〇万ドル札の肖像画は私がやるべきだ。君は一〇〇〇万ドル札の方を頼むよ。私よりスゴイヤツなんて君しかいない」
……
「僕は史上初の天国へ行く弁護士だ」
なんてクールで膝を打つ程クレバーで憎たらしいほどエレガント……。でも結構気さくでジョークのセンスもアメフト部の腐れジョックスよりもいいし、そしてルックスもイケメンだ。完璧すぎてとっつきづらいって言われるけど誰だって大歓迎だよ。もちろん、ジョークのセンスが腐ってるアメフトゾンビだってね! それに今じゃ誰よりも首筋が赤い弁護士さ!
さぁ、そんな僕とU.S.Zの世界を見てみよう! Have a nice day!
「着いたぞ、ロイド」
「ウゥ……。このロイド・ロールスロイスが……。車酔いだって!? ありえない……知性のゲボを吐きそうだ」
「ここでは吐くな。運転席はもうビールの染みでいっぱいだ」
チャールズとロイド。意外な組み合わせ? そうでもないぞ。ロイドはゾンビに強い人間とのコネが欲しかった。チャールズはミランダとロイドの不穏な因縁を気にかけていた。ロイドが信頼に足る人物かどうかはまずはチャールズが見極めるべきだ。ミランダの心の器は未完成だ。だからすぐにキレてしまうし、逆に潜り込まれるのも簡単だ。今のミランダは何かあればすぐにロイドを殺すだろうし、逆にロイドに懐柔される可能性もある。
チャールズがロイドに対して持っている想いは「信じたい」だ。ミランダにはまだ「信じる」と「信じない」の二つしかできない。共にシアトルを救い、自分たちに復讐する気はもうない。スペイン王の隠し財産を見つけたら分け前もくれるし、ロイド自身もスペイン王の隠し財産を狙う理由は「友との約束」。
こいつは頭がいい。こいつは外面もいい。こいつはポテンシャルが高い。
世紀の大悪人で“大陸最高の弁護士”ロイド・ロールスロイスは、皮肉にも法律の裁きのないU.S.Zでもう一度チャンスを与えられた。ロイドが自分を浄化することが出来るなら、それはいつかミランダへの救いにもなるだろう。
そのロイドのテストの為に、二人はカリフォルニア某所の大型イチバンマーケットに来ていた。ここは全知全能のフィル・サリバンの預言により、スペイン王の隠し財産が眠っている可能性が高いとされているビアガイザーという廃墟の街で、ミランダ、チャールズ、ロイドの三人でここを訪れた時はゾンビとフランケンが多すぎて撤退せざるを得なかった。それでもロイドはアステカのコインと思しきメダルを手に入れた。その後、スカベンジャーズのメンバーとここに来た時はあの“キュンストレーキ”に妨害されて目的は果たせなかった。前回と同じくエントランスで一息つく。ここまでのクエストは簡単だった。
「今回は探るだけだぞ。フランケンに見つかり次第撤退。そういう約束だ。それが終わったら」
「It`s miller time! ですね!?」
「悪いな。ビールはバドワイザー派だ。先にランチを済ますか?」
「Oops、ゾンビのエサなんてここで出さないでくださいよお兄さん! 今度こそ吐いてしまいます」
「これはワイフのナタリアがお前の為に作った弁当だ」
「Shit……」
「なんだ? 今クソって聞こえたのか? 俺の分もあるがナタリアは全く同じものを作った」
「ご馳走様でぇす。おいしい! これの原材料は……。小麦! そして砂糖!」
「ああ、うちの畑で取れた小麦だ」
原材料の小麦と砂糖の何かで腹を満たしたアラサーの二人は大型イチバンマーケットに出入りするゾンビの量を観察する。前回のカチコミでかなりゾンビが減ったようだ。この二人じゃフランケンには何も出来ないが、探索する分ならチャールズとロイドで事足りる。もっとお宝に迫り、場所を絞り込んでからスカベンジャーズを呼ぶべきだ。ベラトリクスだってヒマじゃない。最近は文筆業にラジオ番組に大忙し、法の復活の兆しとしてリカルドを訴えようとする人権団体の動きもある。
「よう、ロイド。お前、未来人がいるとしたら信じるか?」
「未来人? ブッシュ・スティックにいきなりなんです? 信じるか信じないかで言えば、信じますけどね」
「ほほぅ?」
「僕の親友のフィル・サリバンは全知全能の力を持っていました。これから起きる全てのこと、今までに起きた全てのこと、そして死者と交わす言葉さえも持っていました。彼みたいな人はたくさんいるんでしょう」
「そいつがウソツキだって可能性は?」
「わかりません。でもそれを疑うと僕はもう何も信じられないです」
サイキッカーか。そのフィルってヤツ以外にも、キュンストレーキは奇妙な力を使っていた。チャールズからすれば異常IQのアイシャや異常手先器用のルクスだって超能力者に見える。ゾンビだっているんだ。未来人がいたって不思議じゃない。どうやらミランダ、ドク、ミセスはその未来人と接触したようだ。ミランダの娘を名乗るマーリィ・マクフライ。自分にとっては姪、クララにとっては従妹か。
「何か奇妙だ。ゾンビの数が少なすぎる」
「先客でもいるんですかね」
「そのまさかのようだ」
廊下の突き当りにゴテゴテに改造された凶悪なスケボーが激突する。スケボーの先端の棘が壁を抉り取ったぐらいだ。凶悪なスケボーの上にはレザーのビキニ、白衣、フェイスガードの巨大な女が乗っていて、スナップを利かせて斧をブン回す。空腹の犬のように声を立てて呼吸を繰り返し、フェイスガードの向こうからでもチャールズとロイドに狙いを定めたとわかる眼光を飛ばす。
「なんだアレ」
「悪人の目をしていますね。ビールでも奢ってやりますか?」
GIGAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!
チャールズに匹敵する巨体でピープル・ガスが雄叫びを上げる。この怒鳴り声でビックリしたダニー・ボンヤスキー(享年38歳 ゾンビ年齢1歳)がショック死し、吹き抜けの二階から転げ落ちて首がひしゃげる。
「チャールズ・ディーン・ノーマンにロイド・ロレックス・ロールスロイスですかのう。ビンゴですじゃ。マーリィをおびき寄せる人質にはピッタリでしょうて」
ピープル・ガスの後を追ってスゴウデの老人ガンジーもやってくる。懐から写真とリボルバーを取り出し、老眼鏡の弦に触れる。
「あのジジイの方がヤバそうだな。残念だが撤退だ。ロイド! こいつをヤツらに向かってぶん投げろ!」
「いいんですかお兄さん!? これはワイフが作ってくれたお弁当でしょう!?」
「今度のはゾンビのエサだ。お前さっきからマジで言ってるのか? 本当に殺すぞこの野郎。冗談で言ってるならセンスが悪すぎる。マジで言ってるならお前は愛を知らないバカ野郎だ」
ジャキッ。ガスのショットガンが二人に向けられる。ド田舎町ブレス・オブ・ソフィアのハイスクールにはアメフトクラブすらも人数が足りずにチームを作れなかったが、隣町との村人オールスターアメフト試合ではクォーターバックを務めていたロイドのパスが一瞬戸惑う。
「止まるなぶん投げろロイド!」
「Take it!」
THROW!
ミッキー&マロリー社のチキンブリトーがガスのショットガンにインターセプトされる。ヒドい悪臭とヒドい見た目の肉塊がガスの右手にまとわりつき、大型イチバンマーケットのあちこちからゾンビの呻きとフランケンの怒声が聞こえてくる。どうやらゾンビたちを起こしてしまったようだ。
そしてこんなものと間違えられたナタリア特製ランチ! 訴えれば相手が“大陸最高の弁護士”以外ならケツの毛までむしることが出来ただろう! だが概ね作戦成功だ! チャールズとロイドは全速力でエスケープを開始する。
悪臭と肉塊にピープル・ガスが癇癪を起す。またも彼女の怒声でアダム・スコット(享年30 ゾンビ年齢1歳)、リン・マウンテン(享年30歳、ゾンビ年齢7歳)が昇天した。
「なんですかアレは!? フランケンの進化形!?」
「人間だろうな。だがもうここの探索は難しいな。あんなのがいるってわかった以上、二人じゃもう何もできねぇ」
「そんな!」
「半裸の女が斧とショットガンで襲ってきたんだぞ! サマーキャンプの寄付金集めにでも見えたか!?」
「ゾンビのエサをぶつけてやったんだ。もう余命幾ばくも無いでしょう!?」
「そうとも言えねぇ。『ダイ・ハード』だって首を吊ってもう死んだと思ったヤツが最後に復活してまた襲ってくるんだ」
CZK4 13-3-A
「ミランダ! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったわ!」
「本当に!? マーリィ! 中に入ってるは、えぇ~と」
「クラウン・コーラよ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないわ! もちろん人工甘味料はゼロ! 0カロリーで体にもいいわ!」
「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」
クラウン・コーラ 現在・過去・未来のイチバンマーケットにて大好評発売中
CZK4 13-3-B
「ドク」
ミランダがサンフランシスコのドクの店に着いたタイミングはベストだった。ちょうどピープル・ガスの偵察を終えたミセスの写真の現像が終わったところだ。マーリィもランチに食べたサンフランシスコ名物、パンダ・エクスプレスのチャイニーズ・ロースト・キャメルの脂っこさで満腹でどこにも逃げられなかった。
「やぁミランダ。マーリィに用かにゃ?」
「随分マーリィと親しいのね、ドク」
「マーリィからいいものを預かってるにゃ。ほい」
ドクがミランダに渡してやったのはマーリィがパクった罰金ボトルとミランダに働いた不適切な行為、そしてチャールズのヴェスパをオシャカにしてしまったことへの手書き反省文だ。チャールズとミランダの父親のロバートがまだハナを垂らしながらオレンジの荒野を無意味にダッシュしていた頃には既に確立されていたノーマン家の反省文フォーマットに則ったものだ。この反省文フォーマットは口伝のはず。チャールズもまだクララには教えていない。
「ええ、多少のクッションにはなったかもね。ドクがあの子をかばうというクッションが」
「それにミセスの撮ってきたピープル・ガスの写真、ルクスが組み立てた時空転移装置、チャールズとロイドの証言もあるにゃ」
「兄さんが?」
グッドタイミング! 既にサンフランシスコに帰還していた彼がドクのクリニックのノーレン・カーテンをくぐり、パンダ・エクスプレスのチャイニーズ・ロースト・キャメルのグッドなスメルを連れてくる。
「これはこれはミランダ! 元気かい? ここだけの話……。君の義理のお姉さんの料理はこのチャイニーズ・ロースト・キャメルよりも素晴らしいよ、本当に。味はね」
「ロイド。まだ死んでなかったのね。天国だけじゃなくて地獄も優秀な人材を欲しがってるからまだ呼ばれないのかしら?」
「きっと僕の出番もないほど平和なんでしょう。それにタイガー・ウッズの登場でゴルフのルールが変わった。天国も地獄も今、ロイド・ロールスロイスが来てしまうと法の再整備を急がないといけなくて大変なんでしょうね!」
暗室からはミセスが。ロイドの後ろからはチャイニーズ・ロースト・キャメルのボックスを持ったチャールズが、階段の上からはだらしなくTシャツの裾から手を突っ込んでお腹をかいてあくびをしながらマーリィがやってくる。
「だらしのない子!」
「まぁまぁ。マーリィもいろいろ疲れてたんだにゃ。マーリィからは大体の話は聞いた。デカいギグになりそうだにゃぁ」
〇
ピン! とピープル・ガスの右の親指がアステカのコインを弾き飛ばす。その足元に転がっているのは、ゾンビに齧られて骨が露出したピープル・ガスの右腕。ワッツハプン!?
ミッキー&マロリー社のチキンブリトーを右腕に浴びたピープル・ガスはその腕を切断し、ゾンビにくれてやったのだ。その代価にゾンビたちの二度目の命はガンジー、そして給料未払いのヒャッハーと共に取り立てた。
何故切断したはずの彼女の右腕がコインを弾けているかはまだお伝えすることが出来ない。
そしてロイドの狙っていたスペイン王の隠し財産の一部を見つけ出し、給料を払う前にヒャッハーたちを殺害してやった。ピープル・ガスとガンジーの睨んだ通り、このビアガイザーではゾンビがやや変異し、ストレンジ・ゾンビになる可能性があるようだ。この微妙な差はストレンジ・ゾンビの概念を知っている者にしかわからないだろう。ストレンジ・ゾンビになった部下たちを始末し、当面の資金を手に入れてピープル・ガスが歓喜の雄叫びを上げる。
ストレンジ・ゾンビは補給出来る。資金もスペイン王の隠し財産の一部があるので問題ないし、そもそも無法者にお金はいらない。全て略奪するからだ。
彼女の狙いはあと二つ。“レールガンの設計図”と“マーリィ”だ。
「早く会いたいねェ、マーリィ。もうすぐお前を、救ってあげられるよ」





