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California Zombie Killers  作者: 三篠森・N
EP11 ザ・スカベンジャーズ -キュンストレーキ・ザ・ストーカー-
49/86

5話

 こんなヤツは必ずあなたの周りにいたはずだ。だから思い出してほしい。

 ボーイスカウトのキャンプで、ランタンの明りを消した後、テントの中でヒソヒソ話をする。どうやらシャロンの本命はジャックらしいゼ! とか噂話をしてきて、しかも見回りの先生が来るのにすぐ気付いた寝たふりを促す。こういう噂話が好きで、カンも鋭いはずだったのに、自分の話で人が驚くのに味を占めすぎ、デマを流すヤツだ。マイケル・ジョーダンが野球転向したからって、サンフランシスコ・ジャイアンツとWWEワールドレスリングエンターテイメントがバリー・ボンズとストーン・コールド・スティーブ・オースティンをトレードするとか、キャメロン・ディアスが男に首輪を巻いてプレイしてる写真が流出したけど首輪を巻かれていたのは実はマット・デイモンだったとか、反応重視でトバシ記事ばかりを書く記者。たまに真実が混ざっているので、みんな見出しだけは読むのだ。

 こいつはそうだ。そしてこいつは、相も変わらず自分が入手した情報を誇張して、みんなにこう伝えた。


「う゛ぅううううぅうぅ……あぁぁあああ……」


 ギャレット・マグワイヤー(享年40歳 ゾンビ年齢11歳)。今回、こいつが掴んだ情報は確かだ。ビアガイザーの大型イチバンマーケットのインフォメーションがある吹き抜けのロビーから、なんかスゴく美味そうなにおいがする! これはデマじゃない。だが一番乗りのギャレットは、美味そうなにおいのもとであるミッキー&マロリー社のチキンブリトーの番人でヒトゲッティミートソース“最強の日本人味”であるミセスのブシドーで小うるさい舌を貫かれ、二度と真偽不明のお喋りが出来なくなった。


「よし! アガリだ! 悪いねみんな。私の勝ちだ。やはりリアルアメリカンは無敵だな!」


「アガリ? おかしいなリカルド」


「……何が言いたいんだねチャールズくん」


「アンタ、『UNO!』って言ってないぜ。アガリはナシだ。ペナルティでリカルドに二枚。ゲーム続行だ」


 休暇明けのスカベンジャーズは、ビアガイザーの大型イチバンマーケットでこのシーズンを始めることにした。リカルドがどっしり構えていたのでしばらくリオ・グランデ川を無断で渡る者はいないだろう。ウィンターパークの町民は、町始まって以来、最高の町長であるキャップの銅像をピカピカに磨き、彼の無事を祈りながら送り出した。サンフランシスコで『ストリートファイターⅡ』ばかりやっていて、ついにダルシムの中パンチだけでベガを倒せるようになったドクは珍品コレクターでもあるので、スペイン王の隠し財産には興味を持ったし、ドクに付き合わされてずっと『ストⅡ』でサンドバッグにされていたミセスは日本生まれ日本育ちで働かないと死んでしまう日本人(エコノミックアニマル)だったので、みんながゾンビ殺しをミセスに任せても、彼女本人はのびのびいきいきと働いている。


「どぉも、シスター」


「……」


 もちろん、ベラトリクスとシスター・グレイシャもビアガイザーのお宝探しとゾンビ駆除には呼ばれていたし、参加していた。ただ、二人の中には不安があった。かつて、こいつを殺すためにスカベンジャーズは集まったことがあるってのに、何故みんな平気な顔でロイド・ロールスロイスを迎えている? キャップは性善説の人だから人を疑わない。リカルドは神と国しか信じていない。ドクとミセスはノーマン兄妹を信じているから、二人が信じるのならロイドを信じることが出来る。だがベラトリクスとシスター・グレイシャは……。

 少し前なら、二人は「みんなが信じているから」とロイドを信じることが出来ただろう。だがシアトルでキュンストレーキの悪意に触れた二人は少し人間不信になっていた。


「あなたと話したかった。神と法律。どっちの裁きが正しいか試そう、なんて言うほど、僕はバカではありませんよ、シスター」


「……」


「ま、今回は僕の絡み方とタイミングが悪かったってことですかね。いつかお話ししましょう」


 そういう理由があったから、シスター・グレイシャはロイドを無視し、ミセスにブシドーのストックを運んでやった。シスター・グレイシャにとってミセスは尊敬すべき存在で、武器の扱いを教えてくれた人だがガールズトークは出来ない。二人の間の無言は気まずいものではない。二人とも無口過ぎるのだ。だがミセスの顔色が変わる! シスターに「下がれ」とサインを出し、ブシドーを置いてジャパニーズサムライソードにスイッチし、胸から提げているホイッスルを咥える。何か異様なものが来る気配がする。


「……」 


「ウ、ウヘェ……」


 一人の男が血塗れの足を引き摺ってやってきた。見覚えはないし、ビアガイザーは丸ごと廃墟だったはずだ。


「助けてくれぇ……。それが出来ねぇなら、せめて、アンタらぐれぇは逃げてくれぇ……」


 一番たくさんカードを持っていたドクはゲームから降り、応急処置パックを抱えた後チャールズに目配せした。多分あいつは助からない。こういう場合、治療するふりをしてクスリで眠らせ、安らかに死なせるしかない。


「ゾンビが追ってくるんだよォ……。足が痛くてもう歩けねェ……」




CZK3 11-5-A

「ミランダ! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」

「本当に兄さん! 中に入ってるは、えぇ~と」

「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」

「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」

 クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中

CZK3 11-5-B




 At that time(その頃……)


「それでわたしは言ってやったわ。『セックスアンドザシティ』のセリフみたいな嫌味を言ってるヒマがあったら七面鳥をオーブンに送りなさい、って」


「バカね。間違いなくバカだわ。きっと『500日のサマー』を観て泣くような連中よ」


 ミランダとベラトリクスは外で見張りをしていた。二人は大型イチバンマーケットに向かって流れていくゾンビの背中を監視するのが仕事だ。もし群れにフランケンシュタインが混ざっていれば、中でガンバってるはずのスカベンジャーズのメンバーに知らせる。

 二人のガールズトークは実は弾むほうだ。ベラトリクスはお喋りだし、ミランダは無口だがお喋りのチャールズに付き合ってるおかげでお喋り好きを相手にするのに適した相槌や聞く耳を持っている。その辺がシスターとは違う。義姉のナタリアとは歳が近いが、やっぱり義姉は義姉、という関係だ。ベラトリクスもベラトリクスで、メリーポピンズ製薬で役立たずだった場面をバッチリ全部見られているので、今更ミランダ相手にイキることもなく自然体だ。こんなベラトリクスはまだシスター・グレイシャにも見せたくない、とベラトリクスは考えていた。まだメッキは剥がれていない、と。だからミランダと話すことは、ここ最近気持ちが張り詰めていたベラトリクスの精神衛生上よいものだった。


「スペイン王の隠し財産が本当に出たらどうするの?」


「どうしましょう。お墓を作ってあげたい人はいっぱいいるけど、まずは兄さんのクギバットのクギを銀に変えてあげるわ。それで殴ればゾンビだけじゃなくて悪魔も死にそうだもの。ベラトリクスは?」


「月にでも行こうかしら。ん?」


 大型イチバンマーケットの入口に向かって流線形のはずゾンビのフォーメーションはストッキングに異物を挟んだように歪になった。群れにナニかが入ったのだ。だがフランケンシュタインならその巨体ですぐにわかる。その異物の位置は、ゾンビのフォーメーションから、近づいてきていることが伺える。


「ナニかが来る」


 ミランダは銃を上げる。


「……いえ、銃はダメよミランダ……」


「どうしたのベラトリクス? 様子が」


 ベラトリクスは嫌な汗を浮かばせ、鳥肌を立たせた。理性も感情も全て嫌悪感に変わってしまう。大型イチバンマーケットの中から、ゾンビの群れをくぐって来るのがナニかわかってしまったのだ。


「銃はダメ! 誤射してしまうわ! ヤツに銃は危険すぎる!」


「落ち着いて、ベラトリクス。ナニが来るかわかるの?」


「あいつはゾンビに自分を“無視”させた。来るのは“キュンストレーキ”よ」


 ゾンビの群れの形が正常に戻る。異物が出たのだ。


「Yo! まぁた女の子と遊んでいるのかいベラトリクスゥ!? 子供の頃にバービー人形で遊べなかった分、今は年下の女の子で遊ぶのかい!?」


「ダグラス」


 いつから見えていたのかはわからないが、ゾンビの群れをくぐってきたのは、あのダグラスだ。シアトルでベラトリクスの同窓会に何食わぬ顔で参加した幼馴染でも何でもない男、最初に“キュンストレーキ”と呼ばれた人物を撃った男、ダグラスだ。日焼けした肌、ダサいアゴヒゲの……。見えている今はすぐに名前も顔も思い出せる。


「ミランダァー! そいつをブッ飛ばすのよ! そいつは姿が見えなくなる! 銃はダメ! 殴らないとダメ!」


「話が見えないわ」


 とは言いつつも、異常な気配を察したのかミランダは最短距離で突きを放つ。アンブレラの先は何か捉えたが、その一瞬の感触とともに、ミランダの意識からダグラスが消えた。


「?」


「情けないぞベラトリクス! 年下の女の子に頼るなんてお前らしくない。お前に素晴らしいプレゼントを用意した。今週のゾンビ殺しランキング1位の座だ。シアトルにゾンビとフランケンシュタインを放つ。ベラトリクス、シアトルを救え」


 消えたダグラスはミランダの背後から頭に顎を乗せる。ダサいアゴヒゲと栗色の髪が絡み、ダグラスが喋る度に顎がミランダの頭に触れる。手が出せない……。自分の背後を簡単にとってこんなことが出来るなんて……。こいつはキモすぎる。


「ここでこのおチビちゃんを殺すのなんて簡単~。だが生かしておいてやろう。俺が、俺たちが……シアトルが観たいのは、助けなんて求めないベラトリクス・サンダーランドだ。助けを求めたくても相手がいないんじゃなく、お前の意志で求めない。そういうお前をシアトルは求めてる。このおチビちゃんにも、自分の意志で助けを求めなァい。それが、シアトルが見たい、トガったベラトリクス・サンダーランドだ」


「あなたダグラスって言うの?」


「そうだよォ。ベラトリクスの幼馴染のダグラスだよォ」


「あなたモテないでしょ? 自分のことばっかり話してるもの」


「ワカってないなぁおチビちゃん。確かに自分のことばかり話すヤツはモテないと思われがちだが、例えばベラトリクスやチャーリー・シーンレベルになればむしろ自分語りだけを金を払ってでも聞いていたい気分になるのさ。モテるヤツは何をしても許される」


 自分語りをやめられないダグラスの隙を縫い、ジャパニーズサムライソードアンブレラのストラップをダグラスの首に巻く。


「じゃあそれを後から来るチャーリー・シーンにも教えてあげて。地獄の先輩として」


 ミランダが尻もちをついた。


「?」


 何してるんだミランダ!? 君はそんなに意味のないことや、オチャメに転んでカワイ子ぶってイケメンに手を差し出してもらうのを待つような女の子だったか!? 今、何が起きた? ありのまま今起こったことを話すと、ミランダはダグラスの首にストラップを巻き、そのままダイビングしてダグラスを絞殺、もしくは首をへし折ろうとした。結果的にはしくじってしまい、ミランダがただ尻もちをついただけだが、今のミランダ、そして一連を見ていたベラトリクスにも、この作戦のどの段階から失敗していたのかすらわからない。


「オテンバおチビちゃん。このブラは最近買ったのかな? まだ似合っていないぞォ。これを見せたい好きな人にはまだ出会ったばかりかなァ?」


 そしてダグラスは今、ミランダの激ダサパーカーの裾から胸の方に顔を突っ込んでいる。


「ミランダァー! トドメヲサセー! セクハラデ平常心ヲ奪ウノガソイツノヤリ方ヨー!」


 怒りと羞恥心と嫌悪感でベラトリクスの声が言葉に聞こえない。だがこいつは! このダグラスは、ここで始末しなきゃいけない!


「殺す」


 そして、今失敗した行動も、本当は何をしようとしていたのかもわからないまま失敗する。


「と、まぁこのおチビちゃんは役には立たない。さぁベラトリクス! お前のスゴさを見せるときだ。シアトルで待つ」


「……」


 ダグラスの気配が遠ざかっていく。ダグラスは去ったのだ。ベラトリクスは何も出来なかった。ただ棒立ちで、ミランダに「そいつをやっつけろ」とか「トドメヲサセー」と言って任せることしか出来なかった。三度“キュンストレーキ”に会ったベラトリクス・サンダーランドは、内心キュンストレーキに屈していたのだ。それでもミランダなら……ミランダならどうにか出来るかもしれない。だがミランダにもどうにも出来ず、それどころか自分が役に立たなかったせいで凶悪なハラスメントの憂き目に遭わせてしまった。


「なんなのよ今のヤツ。みんなに知らせなきゃ」


「いえ、その必要はないわ。ヤツが興味を持つのはわたしだけ。ヤツはシアトルの病よ。シアトルの病はシアトルの人間がどうにかする。アンタは何もしなくていいわ。それとも今みたいなヒドい目にまた遭いたい?」


「……仲間じゃない」


「仲間? 仲間ですって? そうね……だからこそ、アンタをヒドイ目に遭わせたくないって思うのかもね。このベラトリクス・サンダーランドも変わったわね。だいぶ日和ってしまったわ。安心しなさい。わたしが確実に殺してやる。そうよ、殺してやるわ。汚されたシアトルもシスターやアンタの分も、全部まとめてヤツを殺してやる。アンタがもし、わたしのことを仲間だと思ってるなら、この気持ちはわかるでしょ? 少なくともヤツの出身がオレンジだったらわたしはアンタとチャールズに任せてたわ。お宝探しはちょっと残念だけど、月は逃げないわ」


 ベラトリクスはミランダにキュンストレーキの詳細を教えなかった。今のキュンは少なくとも二代目であることや、一つ前のキュンは逮捕されていることを。キュンの思い通りに行くのは気に食わないが、新キュンストレーキであるダグラスは以前のキュンより凶暴性が増している。言うことを聞かなければシアトルやみんなに何をするかわからない。キュンの力を使えば、例えば自分を“無視”させたままフランケンシュタインの手を引っ張り、好きな場所に放つことすらも可能だろう。自分が触れたフランケンごと自分を“無視”させ、至近距離で襲わせることだって。だが自分が言うことを聞いて少しは抑えられるなら……。


「ベラトリクス」


「何?」


「わたし、好きな人がいたの。さっきの変態の言う通りにね。その人のこともこんな風に送り出したわ」


「その人はどうなったの?」


「その先のことは、シアトルでパジャマでも着ながら教えてあげる。ベラトリクス。必ず助けに行く」

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