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California Zombie Killers  作者: 三篠森・N
EP9 ザ・スカベンジャーズ -スーパーハイパーウルトラシャーマン‐
39/86

4話

「あら? チャールズ、お砂糖が切れたわ」


 VOWは平和な夜を迎えていた。本当にいつも通りの……。ナタリアは畑で取れた小麦でパンを焼き、それに塗るマーマレードを煮詰めていた。


「ああ取ってくるよ」


 二〇〇二年にオラクル・パーク(旧パシフィックベルパーク)で行われたサンフランシスコ・ジャイアンツvsアナハイム・エンゼルスのワールドシリーズのガビガビになったテープを観ていたチャールズは、倉庫へ砂糖を取りに行くためにソファを離れる。キッチンでナタリアのほっぺにチューし、スプーンを一本拝借した。マーマレードの味がするスプーンを舐めながら、チャールズは玄関を出て倉庫ではない方角へ歩き出す。


「チ、チャールズ……」


「ピーター」


「チ、チャールズ……すまねぇ……あんなもんが町に……チャールズ……俺を殺してくれェ……」


「安心しろピーター」


 チャールズはスプーンを逆手に握り、ピーターだったものの頸動脈に突き立てる。ドス黒い血が噴き出し腐った肉がしたたり落ちるが、ピーター・ホランド(享年26歳)は人のまま死ねた。


「チャールズ。チャールズ」


「アンドリュー。お前、何をした?」


「ぶっ殺してやるよチャールズ……。逃げるなよこの泥棒野郎」


 暗がりから現れたのは、平和な田舎町VOWには似合わない、見覚えのある高級腕時計を巻いたアンドリューだ。現れたのはアンドリューだけではない。青白い肌にドス黒い血を塗りたくり、ウーウー唸る生きる屍たちだ。


「逃げる? とんでもねぇ。待ってたんだよ」


 チャールズは落ちていたバンブーで先陣を切ったゾンビをブン殴る! すぐさまゾンビが膝から崩れ落ちる。暗闇の中のチャールズの顔は誰にも見えない。


「……?」


 暗闇だがチャールズの頭上には「?」が浮かぶ。軽いバンブーの棒ではあるが、あれで殴ればゾンビは死ぬはずだ。しかし殴られたゾンビは死にもせず、機敏かつ賢い動きでチャールズの足を狙い、後ろからジャパニーズ・カレッジで起きたアメリカンフットボールの悪質タックルめいた突撃をブチかます。Mega-SalamenceのAerilate『Double-Edge』やMega-KangaskhanのParental Bond『Double-Edge』以上に問題がある!

 ゾンビではありえないタフネス、アジリティ、知性! ゾンビを殺したつもりだったチャールズは不意を突かれた!


「残念だったなぁチャールズ。トリックだよ! ゾンビかと思ったか? 人間さ」


「トリックか」


「トリックさ。さぁどうする?」


「こうする」


 チャールズは自分の足にしがみつくフェイクゾンビAの眼窩にバンブーを軽く押し当てる。そしてポン! 軽く叩いただけで、フェイクゾンビAの眼球が飛び出してバンブーに収まり、ゾンビになれば経験しようのない激痛にフェイクゾンビAが呻……呻くことも許さない。チャールズはフェイクゾンビAの顔面を声ごと踏んづけ、トドメを刺した。フェイクゾンビAことハービー・ランスロット(享年35歳)。カルト教団“オラクル”は、彼を救ってくれただろうか?


「ッ……」


 アンドリューは歯を食いしばった。チャールズがゾンビ殺しだったことは知っている。だが間近で見るとやはり……。フェイクゾンビ達も腰が引ける。


「チャールズ? 何かあったのー?」


 家の方から声がする。


「何もないさナタリア。ノープロブレム。ピーターのところのアヒルのヘイデンクリステンセンが逃げ出しててな。そんなぐらいさ」


「そう。平和な夜ね」


「ああ。静かな夜だ」




CZK3 9-4-A

「ザック! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」

「本当かいテリー! 中に入ってるは、えぇ~と」

「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」

「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティだ!」

 “ステイツ・ジャック”も大好き! クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中

CZK3 9-4-B




「ねぇフィル」


「どうしたミランダ?」


「なんであんな男が近づいてくるのがわからなかったの?」


 ミランダはフィルのガレージでジャパニーズ・ローリング・ロクロを回しながら皿を作っていた。手は水と土まみれだ。そろそろ、最初に作った皿を窯に入れられる。


「あんな男? ロイドのことか?」


「そう」


「さっき言った通りだ。友達なんだ。俺はこの全知全能を使ってカルト教団“オラクル”を作った。俺とロイドはブレスオブソフィアという貧しい町の出身でね。兄弟同然だった。同じ『ポリスアカデミー』で爆笑して、同じチェリーパイを食った。バンドも組んだ。俺たちみたいな貧しい田舎町の人間がのし上がるには金が必要だった。金を稼ぐためにはフィジカルか優れた頭脳が……。生憎俺たちはフィジカルエリートになれるほどいいメシを食ってなかったから頭で勝負だ。ロイドはバツグンに頭がよかったよ。あいつは本気で努力した。弁護士バッチを手に入れるためにな。あいつならO・J・シンプソンだって楽勝で無罪に出来ると俺も思ってたさ。だがゾンビ現象さ。ゾンビによる大陸均しで既得権益は失われ、俺たちみたいな何も持ってない者には有利かと思われた。実際はそうじゃなかった。ロイドに弁護士バッチをやれる人間もみんなくたばっちまった。ロイドは結局、人を救いたかったのか? それとも金が欲しかったのか? だがそれを知るために全知全能を使うと、俺はマジであいつと友達じゃいられなくなっちまう。それは“オラクル”を立ち上げてからも同じだ」


「金よ」


「そう言うなってェ」


「今の彼にとってはあなたもO・J・シンプソンも同じ。同じ金づる」


「わかってるさ。だが断ち切れねぇんだよ。友達なんだ。俺に出来るのは、ヤツに真に幻滅する前に離れること。ギターを弾けねぇのと同じだ。わかってても出来ねぇ」


「……話をすり替えられちゃった感があるけど聞き入っちゃった。わたしが訊きたかったのはそれじゃないわ。なんで、あの男が来るのがわからなかったの?」


「お答えしよう。俺の全知全能はONとOFFを切り替えられる。“エクスカリバー1000”を使う時はOFFだ。ロイドが近づいててもわからない。そうだな。あとチェスをやる時も使わないぜ」


「そう……。じゃあ今は使って。そして見て。わたしがこの泥でヌルヌルの手を洗った方がいいか、それともこのままやっちゃった方がいいか」


「手を洗えミランダ」


 未来を見たフィルは、ボロキレに包んだ拳銃、サムライソードアンブレラを彼女に渡した。彼女は指の間まで丁寧に泥を拭いて武器を握り、鞄を背負う。


「じゃあちょっと行ってくる」


 フィルのガレージの外はまるでゾンビのウッドストック! ロイドの新しい友達であるこいつらは、日本人のように列も作らないし、赤信号だって平気で渡る。「赤は止まれ」とも知らず。


「うああああ!」


 顔を真っ赤にしたミランダのサムライソードアンブレラがロクシー・チェイニー(享年27歳 ゾンビ年齢7歳)の喉を貫く! 葬儀屋に「このホネがノドボトケです」と言わせることも許さず切っ先が骨を粉砕! だがロクシーは倒れない。後ろにゾンビがつっかえていて、倒れることすら敵わないのだ。


「Fuck it」


 弾が足りない。ミランダは無人の隣家の貯水タンクを撃ち抜き、インスタントの洪水でニッキー・オリン(享年83歳 ゾンビ年齢3歳)、ブラッドリー・ポインター(享年91歳 ゾンビ年齢3歳)を筆頭とした高齢ゾンビを洗い流す。彼らは“オラクル”が設立した有料老人ホームの住人だった。そして今、布で顔を覆われ、そこにパンチを食らって脳がグニャグニャになって死んだエスター・オルセン(享年23歳 ゾンビ年齢3歳)は、仕事を求めて安い金で“オラクル”の老人ホームで働かされ、ジャパニーズ・カローシしてしまったヘルパーだ。“オラクル”は老人ホームごとゾンビにしてしまった。ロイド・ロールスロイスの判断では、この世界に必要なのは歴史の生き字引の老人でも、安い給料でコキ使われる若者でもなくゾンビなのだ。

 次にミランダは、役立たずの携帯電話を地面に叩きつける。水を伝って電気が流れ、多くのゾンビが光に導かれた。

 BLAM!

 “オラクル”の聖書と機関紙を発行するため、タイプライターによるタイピング肉体労働を強いられていたシドニー・エガートン(享年34歳 ゾンビ年齢0歳)、コリーン・クーパー(享年23歳 ゾンビ年齢0歳)、クロエ・レッドフォード(享年31歳 ゾンビ年齢0歳)の頭が撃ち抜かれる。ロイドの説教を文字起こしし、過労でトロけるほどトチ狂ったド頭から叡智と血が噴き出した。明日はもうビジネスがない。休め。

 BLAM! BLAM! BLAM!

 三億ドルかけて制作されたスーパーヒーロー大集合映画のエンドロールじみて、フィルのガレージの外を犠牲者の名前と享年とゾンビ年齢が埋め尽くす。彼らは主役であるミランダを引き立たせるためだけにエンドロールに名を連ねているというのだろうか!?


「うああああああ!」


 ミランダは近くにいたキャサリン・ストーン(享年18歳 ゾンビ年齢0歳)からブラジャーをはぎ取り、鞄から引っ張り出したミッキー&マロリー社のチキンブリトーを包む! それをカウボーイのようにぶん回し、投擲! 空中で撃ち抜いてバラまき、ゾンビの優先度と流れを変える。


「Uuuuuuuuunnnnggggg……OOOOAAARRGGHH!!」


「ワッザ?」


 だがこれが思わぬ成果を得る。ミッキー&マロリー社のチキンブリトーのグッドなスメルに酔ってしまった、最後尾の二メートルを超える改造ゾンビ・フランケンシュタインがゾンビたちを押し潰し、食い潰す! フランケンシュタインはゾンビたちにジャパニーズ・デンシャミチを作り、爆心地で手を空に伸ばした。


「二人も」


 ミランダは叩きつけるようにして弾を装填した。あのバケモノは少々手ごわい。弾を何発か撃ちこむにしても的確に頭を狙わねばならない。ジャパニーズサムライソードアンブレラでは威力不足。兄のクギバットフルスイングやミセスのブシドーのような威力はサムライソードアンブレラでは出せない。


「ミランダ!」


「フィル?」


「そのバケモノをやっつけるんなら、銃を撃つのを二秒待ちな。……今だ!」


 BLAM!

 二秒堪えたミランダの銃弾が、フランケンシュタインAの眼球、脳髄、後頭部を貫き一撃ダウン!


「次は五秒! 回れ右だ。そして足元を見ろ。雨の日に傘がなくて困ってる人間に傘を売るように足元を見てやれ!」


「回れ右……」


「今だ!」


 BLAM!


「ギャース」


 フランケンシュタインBの膝蓋骨が木っ端微塵! この距離で動けない的など、ミランダの敵ではない!


「ってな感じだ。チェックメイトだ」


「どっちが?」


「俺に聞くな。駒を動かすのは君だ、ミランダ」


 BLAM!


「……」


 “オラクル”にこき使われ、リサイクルされた最後の一人が休んだ。連れを起こさないでやってくれ。みんな死ぬほど疲れてる。


「やったわ。マジでやったわ、ロイドって男。本気であなたを殺そうとしたのよフィル。あいつの言ってた新しい友達ってこいつらよ。あいつ、死者と話せるあなたをうらやむあまりに最低なことをしたわ」


「いや、ロイドは俺を殺そうとはしてない」


「これを見ても!?」


 砂漠のオアシスは、少し前と同じで真っ平ら、まるで、ミラン……おっとこれはセクハラになる。そこは自重するが、真っ平らでゾンビの血肉で赤い芝生になっている。この赤い芝生の上を“エクスカリバー1000”を持って歩けば、唸るほど銃弾が出てくるだろう。これを見ても、まだフィルはロイドに殺意はなかったと言うのか?


「フィル、変なスイッチがONになってるんじゃない? 意地とか」


「ロイドに詰まされたぜ」


「どういうこと? ごめんなさい、わたしは全知全能じゃないし、大陸最高の弁護士でもないの」


「つまり、こうだ。今のゾンビの群れはロイドが放った。それはきっと間違いねぇ。こんなことが出来るのはロイドだけだ。そしてロイドはわかってたんだ。このゾンビの群れは、ミランダじゃどうにもできねぇと。だが俺が全知全能を使えば二人とも生き残れる。死にたくなきゃ使うしかねぇ。俺は今、思い知ったよ、“全知全能”を……。あいつはもう、俺を殺せるほどの力を身に着け、その力で俺に力を使えと脅してる。次は“オラクル”のために使えとな。ヤツはその“全知全能”の器がどんな人間かも知ってやがった。参ったぜ。詰みだ」


「……逃げましょうフィル。あんなやつのためにあなたがいるんじゃない」


「俺が逃げたら誰が『ブレードランナー』のディスクからホコリを払うんだい? 誰が次の『ゴキゲンロック』を?」


「だからもう全部捨てて逃げるの! わたしが守ってあげるから!」


「ダメだ。この勝負、ロイドの勝ちだ。もう逃げらんねぇよ。人質が出来ちまったからな。君だ。死なせたくねぇ」


 フィルはそっとミランダの頬に触れた。


「流石に逃げられねぇよもう。俺はここで逃げるような人間になりたくねぇ。君が……。俺を始末するために送り込まれたブレードランナーだってんならどんなに楽だったかな。いや、レプリカントかな? レイチェル。俺はここで、君が俺に愛想を尽かすには十分な言葉がどんなものかもわかる。だが言わせないでくれ。まぁロイドも悪魔じゃねぇ。上手くやるさ。親父がブルーのボタンを三回押して帰った時みたいに、仲良くやるさ。……じゃあ支度するからよ。ガレージある好きなモン、持ってけよ。じゃあな、ミランダ。楽しかったぜ、この数日。ロイドに妬くなよぉ。イッヒッヒ」

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