4話
(銅鑼)
♪(Theme song『東方的英雄』)
“CZK ~中国僵尸殺手~”
主演:勇龍
相棒:宝虎
脇役:猛鳳
下端:小星
悪党:火袋至
「好! 前回迄的“中国僵尸殺手”!」
「脅威! “改造功夫僵尸”的威力! 我等“少林功夫道士隊”苦戦! 下端的死去。悪人不許! 我等必死健闘! 遂、発見悪人的違法“僵尸工場”。黒幕、英国人! 工場長的楊博士捕縛最優先事項。但、用心棒的“超英国紳士拳”使手、極悪英国人、査李出現! 彼所持、師父的“功夫珠”十個! 阿阿阿……但、我等不屈! 我拳怒知ー!!!」
ガタン! 蝶番が砕ける程の勢いでチャールズが掃き溜めの町ウェイワードパインの掃き溜めのバー『ウェイワードパイン』のスイングドアを蹴っ飛ばす。もくもくの紫煙と酒とドラッグのにおいに包まれたクズの巣窟を見渡し、カウンター席にあまりにもこの店に似合わない妹の小さな顔を認めた。ミランダの表情は何も変わらない。
こんな町、こんな店に自分がいること、そして既に他の客に拒否されないくらい馴染んでいること。そして、おそらく自分に説教をかまして連れ戻すであろう兄が来たというのに……。
「帰るぞミランダ」
「……」
「ミランダ」
「ナンデ?」
「ミランダ! ミランダ・レイチェル・ノーマン!」
「少し静かにして兄さん」
どうやらウェイワードパイン期待の新星ミランダ嬢は、このマッチョでハンサムな兄貴よりも自分たちの顔色を窺うようだ。クズ共がクスクスと不愉快な笑い声をたて、流しのシンガーはギターのチューニングをする。
「みんなお前を心配している。みんな来てるぞ。ドク、ミセス、シスター・グレイシャ、キャップ、ベラトリクス、リカルド」
「シスター・グレイシャにキャップにベラトリクスにリカルド? 彼らがなんだっていうの。彼らが何かしてくれた? ドクとミセスとシスターは友達よ。でもその他の三人なんて」
「お前を心配して来てくれた人間にその口の利き方は何なんだ」
「誰かわたしに正しい口の利き方を教えてくれたかしら。兄さんはわたしが汚い言葉を使うと罰金ボトルに一ドル入れさせるだけ。正解を教えてはくれなかったわ」
「それとこれとは話が違う」
「いいえ、違わない。わたしも所詮、ここの……」
「言うんじゃない。言えばそうなる。いいかミランダ。世の中には確かにクズがいる。多くの人間はクズだろう。だが人はクズとして産まれてくるんじゃない。人は産まれた時はまっさらだ。クズになるヤツとそうじゃないヤツがいる。生まれ持った性格、環境、教育……。人は確かにクズの道に落ちやすい生き物だ。ミランダ。まだ帰ってこられる。まだやり直せるぞ」
「こんな町にいる今のわたしはクズ? ならわたしはクズでいいわ。兄さんはナニサマ基準で言ってるの? 高校を卒業したから? ドクみたいな友達がいるから? 結婚して子供がいるから? なんでやり直せるなんて言えるの?」
「まだお前に帰ってこい、と言う人間がいるからだ!」
チャールズの喝に何人かのチンピラは怯み、店内の煙に断層が出来た。別の何人かは上唇から歯を覗かせ、酒瓶を握ってチャールズにガンを飛ばす。だがミランダだけは全く動かない。
「……心が死んでいるの」
「何?」
「あんなに怖くて強くて正しかった兄さんが本気で怒ってるのに少しも怖くないし、反省する気にもなれないの。今のわたしには善悪の区別なんてつかない。思うままにゾンビを殺しているのに、少しも気が晴れない。こんなことをしてる場合じゃないって言ってるわたしの心も、少し前まではいた。母さんを探せ、こんなことをしてる場合じゃないって……。でも空しいのよ! だって、母さんが生きてる訳ないじゃない! だからもう疲れたの。もう母さんを探さない。兄さんはいいわよねぇ。ナタリアとクララがいるもの!」
「何が心が死んでるだ。この国じゃ一回ぐらい死んでも生き返る。それにお前はまだ死んじゃいない」
「……」
「ここにいても何も始まりはしないし終わりもしない。……シスター・グレイシャが言っていた。お前が初めての友達だ、と」
CZK3 7-4-A
「ミランダ! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」
「本当に兄さん! 中に入ってるは、えぇ~と」
「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」
「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」
クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中
CZK3 7-4-B
@町外れ
「流石に無事かにゃ」
「なんだ、賭けてたのかドク?」
「ああ、お前が二、三人分の返り血を浴びてくる方に明日の分のライスボールを賭けてたにゃ」
「お生憎ぅ。何にも成果ナシだ。何も……」
「そうは思えないにゃ」
「……そうだな。ミセスから聞いてたが、いざ自分で確かめると幾分ヘビーだ」
チャールズが肩を竦めてやってらんねぇとため息をつくと、シスター・グレイシャが得意げに喘息のクスリを差し出した。
「ありがとうシスター。だが俺はいらない。紙に巻いたヤツに火を点ける派なんだ。で、ドク。こいつはなんだ?」
チャールズは椅子に座ったまま縛り付けられ、口にテープを貼られているチンピラの肩を叩き、瞼を指で押し上げて血色を窺った。ゾンビではないようだ。だがグラサンは片方が砕け散り、痛々しい青アザが出来ている。
「んみゃぁ、こいつは自称ウェイワードパイン一のお喋りで、『WWP』のアナウンサーのオニールだにゃ。なんでも近々、ゾンビとウッドストックばりのデカいギグをやる予定だってさっきシスターのケツを触りながら言ってたにゃ」
「おぉうそうかいそうかいオニール。てめぇに聞きたいことがある。ミランダ・レイチェル・ノーマンについて知ってることを全て話せ。彼女がいつ頃ここに来て、何をしていたか知ってる限り全てな。デカいギグについてもだ」
テープを剥がすと、ぷぇっとオニールがチャールズの顔に唾を吐きかけた。
「もう一度言う。話せ」
「ぽこちーん。早く帰してくれよ田舎モンのクロコダイルダンディ。今日は隣のそのジャップからカラテとハラキリを習う日じゃねぇのか?」
チャールズは一度、オニールの襟を強く掴み、椅子をギシギシと軋ませる。しかしそこまでだ。イラ立つのはしょうがない。だがキレちゃいけない。再びオニールの口にテープを這わせる。
「OK、ドクター。メス寄越しなさい。こいつに自分の食わせてやるわ」
ドクターを侮辱されキレてしまったベラトリクスがオニールの向う脛を蹴り上げ、実際には読者の皆様にお届けすることが出来ない程下品なサインを見せつける。
「落ち着くにゃ、ベラトリクス」
「勘違いしないで。アンタのためじゃないわ。ナメた態度が許せないだけ」
事実ドクターのためである。ベラトリクス・サンダーランドとドクター・イマガワの間にはロマンスや大人っぽいビターな物語はない。だがこの二人だけではなく、スカベンジャーズの面々には、メリーポピンズ製薬カリフォルニアラボで無茶をして共に生き抜いた経験が……。その美貌と頭脳で、誰に対しても高圧的に接してきたエリート、ベラトリクスの人生に、他人からの“助け”は一切存在しなかった。スカベンジャーズに加わるまでは……。
自分が日和ったことはベラトリクスもわかっている。そうでなければ、たかが一人の家出少女とその兄のイザコザに首を突っ込んだりはしない。だがベラトリクスにとってミランダは最早たかが一人ではなかった。彼女がいなければベラトリクスはあの日、メリーポピンズ製薬で死んでいたからだ。その際、ドクターがベラトリクスのメンツが立つように指示したことも忘れない。優秀過ぎたが故に孤独だったベラトリクスの青春は今なのかもしれない。
「見てくれたまえチャールズくん! こいつ、デカいのが好きなようだ!」
「ちょっとリカルド、お前、何言ってる?」
「銃の話さ! 私が貰おう。右のこいつが“デス”。左のこいつが“ロイヤー”だ」
リカルドがオニールの隠していた二丁のマグナムを両手に持ちはしゃいだ。まるで初めてサンタクロースにスーパーファミコンをもらった少年のようだ!
「ハァ……。少し時間をかけるか。シスターを……。あんなとこに連れていくのは気が引けるが、シスター、君にもミランダを説得してほしい」
「どんなヤツらのいる店かにゃ?」
「捨て犬さ! 尊厳のかけらもないクズどもがエサを食ってるだけだ」
「例えばどんなヤツが?」
「ドラッグのやりすぎでイカれたようなヤツらがいる。ヤツら、ドラッグがオリンピック競技だったらイングランドのギャラガー兄弟の全盛期とだっていい勝負してメダル争いするぜ。シスターじゃ予選落ちだ。次に娼婦だ。こう比べると申し訳ないがベラトリクス、はいい女だぜ。ヤツら張りのないダルンダルンの乳放り出してやがる。次にチューニングもマトモに出来ないヘタクソのギタリストだ。ヤツらスリーコードの曲しか作れないぜ、きっと」
「うんうん、他には?」
「どうしたドク。少し奇妙だぞ」
「ストームトルーパーはいなかったかにゃ?」
「ストームトルーパー? あの『スターウォーズ』に出てくる白いプロテクターの雑魚キャラか? いなかったぞそんなもん」
「じゃあチャールズ。あっちから歩いてくるあれは何かにゃ?」
「ん? 確かになんか白いのいるな」
町と真反対の方角から歩いて来る全身白い鎧の人物がいる。チャールズとドクは双眼鏡を覗き込んだ。ストームトルーパーは暑さでやられているのかヨタヨタとしているが、ゾンビではないだろう。ゾンビにコスプレは出来ないし、ストームトルーパーのコスプレイヤーがゾンビに襲われたにしては鎧がきれいすぎる。新品同様だ。
「間違いないな。ストームトルーパーだ」
「ああ、ストームトルーパーのコスプレイヤーだにゃ。難儀なヤツにゃ」
「ああ。あんなの着ててもブラスターで一発だもんな。それどこかイウォークの投石でくたばる連中だ」
「いや、こんな暑い日にあんなコスプレしているオツムがだにゃ」
「違ぇねぇ。ハァ」
チャールズがため息を吐くと、オニールが電気椅子で処された死刑囚のようにガタガタと激しく揺れ、目を見開く。
「どうした?」
ベリッとチャールズがテープを剥がすと、オニールはまず体いっぱいに息を吸い込んだ。
「そのストームトルーパーはゾンビだ!」
「なんだって!?」
「全部話す! 全部話すから、命だけは助けてくれぇ!」





