4話
「首の周り苦しくないですかお客様~」
町のレッサーポリスマン、キース・ロッドマン(享年22歳(内定) 職業:レッサーポリスマン)が目を覚ましたのは町の北にある荒野だった。西部劇の見せしめのように柱に縛り付けられ、布を噛まされた上に口にテープを張られている。全く身動きが取れず言葉にならない呻き声しか上げられないが、唯一、右足だけは自由に動く。そして足首に小さな尖った金属片がやはりテープで固定されている。そして、その右足の下にはどこかで見覚えのあるパックが。
「こいつはミッキー&マロリー社のチキンブリトーつってな。ゾンビの大好物だ。これのスメルをかげばゾンビは目の前にどれだけ新鮮な人間がいようとこれに食らいつく」
目の前のチャールズはキースの右足をミッキー&マロリー社のチキンブリトーのパックのすぐ上まで持ち上げる。
「つまり、お前が右足でパックを破っちまったら俺たちにとってものすごく都合のいい囮になる訳だが、そう上手くもいかねぇ。遅かれ早かれここにいたらお前は動けないまま食われて死ぬ。さぞかし恐ろしいだろうな。だからこれは俺がお前に用意してやったお前にとって都合のいい選択肢の一つだ。ビビってもういっそ死にたいと思ったらこれのパックを破れ。恐怖に怯える時間が短くて済む。だがその判断を下すタイミングは実にシビアだ。俺たちが圧倒的すぎるくらいにゾンビに勝っちまったらゾンビがお前のところまでたどり着くことはない。ただしパックを破った場合は違ってくる。ゾンビは最優先でお前を殺しに来る。正確にはお前の足元のチキンブリトーを食いにだが……。さらにこっちの都合で悪いが舌は噛めないようにしてある。ゾンビを制圧し終わった後にまだお前が無事だったらその時はお前を生かして町に帰してやるよ。俺からは以上だ」
チャールズは芝居がかった仕草でサングラスをかけ、涙を流すキースの頬をパシパシと叩いた。
「俺からは以上だがミランダからもあるらしい」
ミランダが手に持っていたタバコのパッケージ大の何かを操作するとキースの全身に激痛が走った。あまりにも痛い! 痛すぎて震える!
「コメディアン御用達の気絶しない程度のビリビリマシンよ。スイッチはわたしが持ってる。以上よ」
「OK、ポリスマン。頑張ってくれよ。出来るだけお前の遠くで戦うからさ」
チャールズが高枝切バサミを肩に担ぎ、ミランダと共に最前線へ向かう。
「ShelfからRice cakeね」
「なんだそりゃ」
「なくてもいいけどあったら嬉しい程度のラッキー。ドクターが言ってた」
「あいつの言うこと信じない方がいいぞ。軽くバグってるからな」
「バグってるのに医者?」
「考えてもみろ。俺が十八の時にゾンビ現象が起きてあいつは俺の同級生だ。医師免許なんかとってるわけないだろ」
「かもしれないけど、医者として患者が来る以上ある程度大丈夫なんじゃない?」
「まぁ、そう言われるとそうだな。おっと。お客様今日はどういたしますぅ~? ちょっと軽くしますか?」
一番乗りゾンビのベンジャミン・ワットスン(享年44歳 ゾンビ年齢7歳)はキュートでお転婆な双子の娘とヤンチャな息子、元マイナーリーガーの弟を持つビッグダディな家庭裁判所調査官だったがチャールズの高枝切バサミで髪と頭を失恋したティーンのように思い切りバッサリ行っちゃってゾンビ歴も終了。まだレッサーポリスマンとしてのキャリアが短く、ゾンビパトロールに出かけたことのなかったキースは急性ゾンビショックで嘔吐!
「今回はお前らも死ぬって言われたな」
「たまぁにそういう笑えないジョークを言うからドクは町のチンピラにもイカれ野郎扱いされるのよ」
「でもいいじゃねぇかよ。助けてくれるんだから。それにお前、この間なんか変なDVD貰ってただろ?」
「プレイヤーがないからまだ観てないわ。あら、兄さんお客様よ?」
「よし。おやおやお嬢ちゃん、そんな派手な髪形はまだお嬢ちゃんには早いでしょ~。もうちょい清楚にしないと!」
ゾンビが危ないってのに外で遊んでいてゾンビに噛まれたキンバリー・バウアー(享年17歳 ゾンビ年齢10歳)の生意気なヘアーもバッサリ。よかったねキム! これでパパから外出禁止を食らうこともない! 今後はパパの言うことや忠告をよく聞いて行動するように。通信簿も隠しちゃだめだぞ!
「それにミランダは日本好きだろ?」
「わたしが好きなのはファンタジーの日本よ。ニンジャとサムライとゲイシャとテンプラの日本。でもリアルジャパンはきっと違うわ。わたしが好きなのは全員カウボーイで馬に乗ってて毎晩バーベキューなアメリカと同じレベルの日本よ」
「日本は本当にニンジャとサムライの国かもしれないぜ?」
「実在したら戦争に負けてないわ」
「なるほど。おっと、団体様のお付きかな? ロットンハイスクールの皆さまですか? こちらのクラブではワンランク上の天使様や小悪魔ちゃんと出会えますが」
チャールズが高枝切バサミからハンマーにスイッチ。
「チケット代わりにブラックライトで光るスタンプを手の甲に押しますよ! っと!」
スージー・ハナム(享年21歳 ゾンビ年齢9歳)、ナンシー・バーバンスキー(享年50歳 ゾンビ年齢10歳)、デイビット・スタイルズ(享年29歳 ゾンビ年齢8歳)がチャールズの入館証明スタンプで真っ二つ!
「それでは快適なナンパをどうぞ。成功の秘訣は下半身と脳ミソを別物として考えることだ。そろそろ密度が増してきたな。どうする?」
「あそこにいるレッサーポリスマンを囮として計算できるなら、わたしがライトに回るわ。センターに兄さん、レフトにレッサーポリスマン。どう?」
「OK。好きなだけ持っていきな」
ジャキッ、ダァンッ! ミランダの今日の一発目はそこそこに名の売れたイケメンだけど頭が空な俳優、ジェシー・リンカーン(享年30歳 ゾンビ年齢10歳)のスカッスカの頭蓋骨を一閃。イケメンフェイスも台無し。
「今のは俺がやりたかった」
「なんで?」
「なんでもねぇよ。ほら持ってけ」
チャールズに促され、ミランダは身の回りにあるゾンビ殺しに使える日用品や弾薬、爆薬、ラジコン、ミッキー&マロリー社のチキンブリトーをサイドカーに積みバイクを走らせゾンビのフォーメーションを変えさせる。そしてコメディアン御用達のビリビリグッズのスイッチをクリック! レッサーポリスマンのうめき声が荒野に響く。ゾンビたちが何かに気付き、群れの先端が恐竜の足跡のように三叉に分かれる。
「こっちを見ろ!」
ジャキッ、バァンッ! 元名子役だが子役の殻を破れなかったただの人、エヴァン・ワイト(享年24歳、ゾンビ年齢10歳)の貧相な胸から腐った血肉が弾け飛ぶ!
「今の爆発は人間じゃねぇ。次はお前だ!」
シーザー・ジャーヴィス(享年34歳 ゾンビ年齢5歳)は気の利く執事、ルーファス・カービー(享年41歳 ゾンビ年齢6歳)は中堅の実業家、ハービー・レイサム(享年19歳 ゾンビ年齢9歳)は陸上競技のカリフォルニア代表、ニーナ・サザーランド(享年28歳 ゾンビ年齢10歳)は実は某国のスパイと、生前はそこそこに秀でた何かを持っていたが今は等しくゾンビだ。まさか軍人崩れのチンピラとそのネクラな妹に一方的にやられるとは生前は思いもしなかっただろう。
突如、ゾンビの群れの一部が生焼けハンバーグとして弾け飛ぶ。哀れレッサーポリスマンのキースはゾンビの恐怖とコメディアン御用達のビリビリの恐怖で声も出せずに静かに嘔吐。
「安心しろ。今のは人工衛星! 人工衛星の発射実験だ! 経済制裁はよしてくれ!」
後方での爆発による爆風で少しつんのめったバッキー・ストーン(享年24歳 ゾンビ年齢10歳)の眉間にセブンイレブンのゲームコーナーで銃の腕を鍛えたチャールズの銃弾がストライク! チャールズはああ言っているがさっきの爆発、本当は彼の妹ミランダが爆弾を搭載させたラジコンヘリをゾンビの群れにカミカゼさせたのだ。だが、チャールズとミランダのノーマン兄妹はあまり裕福じゃないから経済制裁はよしてやれ!
「!!!!!」
レッサーポリスマンのキース、大ピンチ! 人工衛星の発射実験で生じた爆風に押された数人のゾンビが、土煙に隠れてレッサーポリスマンのキースに迫る!
「!!!!!」
しかし! キースの目の前よりちょっと先でゾンビたちが音もなく、激しい損傷もなくその場に崩れ落ちていく! しかしよく見ると……。倒れたゾンビには小さなナイフが突き刺さっている! これは遥か彼方の遠い国、日本に伝わるトラディショナルな超小型使い捨て投擲用ナイフ、シュリケンだ!
「ミセス! 来るのが早すぎるぜ!」
スーツを着たポニーテールのアジア人女性が一流のスキーヤーの急ブレーキみたいにブレードを走らせ、雪の代わりに血肉を激しく飛ばしてエントリー。紹介しよう! 彼女の名はミセス! チャールズのハイスクール時代の友人で現在はサンフランシスコでクリニック兼バー兼骨董店をやっている日本人ドクター・イマガワのボディガードを務めるスゴウデの殺し屋だ! 大変シャイなため年齢はわからないがチャールズとドクターよりは年上なレディサムライだ! ドクターはゾンビの群れ情報を教えてくれる時に「今回ばかりはお前らも死ぬ」と言ったが、ちゃっかりと兄妹の援護のためにミセスを派遣していたのだ! 長年の友情の秘訣はこの辺にあるぞ! 友達へのさりげない気配りを見習おう!
ミセスは白刃に日光を少し当ててから、ゾンビの群れをちょいちょいと指さしてチャールズにサインを送る。
「裏から回ってくれるのか」
ミセスがコクリと頷いた。
「OK。ミランダ! 援護してやれ」
ミランダがコメディアン御用達のビリビリのスイッチをクリック!
「!!!!!」
レッサーポリスマンのキースの呻き声で元老人マッチョマン、ヴィクトル・マッキンリー(享年71歳 ゾンビ年齢10歳)とジャクリーン・ベネット(ゾンビ年齢31歳 ゾンビ年齢3歳)とレイン・スー(享年45歳 ゾンビ年齢4歳)の注意力が逸れる。しかし次の瞬間にはレッサーポリスマンのキースの声をキャッチした頭部とそれを動かす体はミセスのジャパニーズサムライソードによって離れ離れに。ミセスがレフト線からゾンビの群れに切り込んでいく。
「おいこっちを見ろよ腐葉土野郎。よく見えねぇならこのソーラー電池の懐中電灯を持っていきな!」
チャールズが火炎瓶を投擲! ライト方向ではミッキー&マロリー社のチキンブリトーでおびき寄せたゾンビたちのすぐ近くで再びミランダによる人工衛星の発射実験! 二人の前方は今度こそコンテニュー出来ない死体たちが燃える壁に!
「ラッキーなヤツがいるな」
チャールズ、ミランダ、ミセス、レッサーポリスマンのキースの誘導に引っかからなかった幸運なゾンビが数人、防衛線を超えて町へ向かっていく。しかし死ぬ!
「シスター・グレイシャ?」
町とゾンビの直線上に肩を抑えて歯を食いしばるシスター・グレイシャと、その手元には硝煙を吹く拳銃が。
「なんであんなところにいるんだ!?」
「悲劇のヒロインを気取りたいんなら死ねって言ったからかしら。でもまさか本当にヒロイン気取りで死にに来るとは思わなかったわ」
「銃の反動でどっか壊したみたいだぞ。撃ち方知らなかったみたいだな」
「そもそも兄さんがボサっとしてたせいでジョンソンキャップに肩撃たれてるしね」
「そりゃよくねぇな! 傷口からウィルスが回る」
「そこはラップでグルグル巻きにしてるから一応大丈夫なようにしてるけど、ミセス、あれどう思う?」
『Forces outside』(戦力外)
とミセスが携帯用ホワイトボードで回答。
「そうよね」
『Sorry』
「気にしないで。わたしがどうにかするわ。でも残念ね。レッサーポリスマンはここまで」
コメディアン御用達のビリビリをクリック! レッサーポリスマンのキースがビリビリの限界を超え泡を吹きながら悶え苦しむ! そして震える右足が、ついにミッキー&マロリー社のチキンブリトーのパックに穴を空けた! 後は想像に任せる!
「さぁシスター、ちょっと味は悪いけどとりあえずこの薬草を噛んで」
ミランダがシスターに薬草を噛ませ、すぐ近くまで迫っていたヨーク・ターキー(享年31歳 ゾンビ年齢9年)を再処刑。そもそも彼は生前から女の子大好きモンスターでゾンビ現象直後の混乱期に女の子を襲ってその家族に私刑にされた後ゾンビになったのだ。
「!」
ミランダがシスターに噛ませた薬草は初めて体験する時は激ニガ激マズだが適量では強い鎮静効果と鎮痛作用、過剰摂取でスーパーハイになると噂の薬草、通称“チャーリー・シーン”だ。幸いにもまだミランダはお世話になったことはないがチャールズとドクターは一発キめないとやってらんないような時にたまに適量に火をつけて嗜む。
「……ブラザー・ジョンソンが、ハァ」
「何?」
BLAM!
生前は気絶しない程度のビリビリマシンでお茶の間に笑いを届けていたジェイムズ・フラッグス(享年45歳 ゾンビ年齢4歳)の最後のリアクション芸は喀血!
「わたしに人殺しのやり方を教えた。七歳の時から修道院で……」
BLAM! BLAM!
ゾンビ殺しに一獲千金の夢を見たゾンビ時代のドン・キホーテ、ティアゴ・ベルヘス(享年19歳 ゾンビ年齢1歳)とそのサンチョ・パンサ、セベーロ・ベレンゲル(享年20歳 ゾンビ年齢1歳)はそのアドベンチャーの中でなんとカリフォルニア某所のイチバンマーケットの廃墟の地下にスペイン王の隠し財産を発見した。あそこでお互いが死ぬほど激しく取り分のケンカをしなければ二人とも今頃大富豪だったかもしれないのに。そして二人がゾンビとなり、再び死んでしまったことでスペイン王の隠し財産の在りかはまた不明になってしまった。
「だけど」
「ありがとう。後で聞いてあげる。あそこにクソダサいボロ車があるのがわかる? あれが兄さんの車。そしてこれがそのキー。これを使ってわたしがOKって言うまで中にいてね。歩ける? じゃあ、行って」
BLAM! BLAM! BLAM!
ジャッキー・トッド(享年50歳 ゾンビ年齢9歳)は西海岸一の靴職人!
ローリー・ステイシー(享年27歳 ゾンビ年齢8歳)は「サンディエゴにローリーあり!」と言われた名マジシャン!
ウッディ・アトラス(享年61歳 ゾンビ年齢8歳)は名誉のために報道機関の名は伏せるが腐れ偏向報道でロクサーヌ・レイトン(享年69歳 ゾンビ年齢10歳)の史上初の女性異星人大統領の道を阻んだキャスター!
トーマス・ウェストウッド(享年91歳 ゾンビ年齢6歳)は実はロズウェル事件の真相の全てを知っている、人類史上初めてエイリアンと握手した男!
イーサン・ハーパー(享年31歳 ゾンビ年齢10歳)は特にない! しかし彼のゾンビ年齢の高さがその勇敢さを物語る!
数学教師だったイアン・ハレルソン(享年28歳 ゾンビ年齢10歳)と彼が務めるLA第三ハイスクールの教頭先生パトリシア・キャンベル(享年54歳 ゾンビ年齢10歳)は「LA第三ハイスクールのトムとジェリー」と呼ばれていたが本当は固い絆で結ばれていた! 死んだ後もケンカするほど仲が良い!
アイリーン・ショウ(享年41歳 ゾンビ年齢8歳)はハードボイルドな名探偵! 好きなカクテルはグラスホッパー!
ジェーン・スワン(享年25歳 ゾンビ年齢10歳)は恋愛脳で「リネン室のビッチ」と叩かれた若い女医!
パトリック・ホルト(享年17歳 ゾンビ年齢10歳)は馬鹿野郎! 晩飯抜きと言われたくらいで泣きながら通りを全力疾走していたら自分がゾンビの晩飯に!
全員のド頭にブルズアイ!
ミランダは弾が切れた銃をロナルド・リックマン(享年55歳 ゾンビ年齢3歳)に投げつけ、ジャパニーズサムライソードアンブレラで一閃! 首をへし折る!
「いつになくアツいな」
「たまにはね」
BLAM! BLAM! BLAM! BLAM! BLAM! BLAM!
CZK3 6-4-A
「ミランダ! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」
「本当に兄さん! 中に入ってるは、えぇ~と」
「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」
「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」
クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中
CZK3 6-4-B
「ゾンビのことか? ……それなら別に金はいらねぇ。ボランティアだ。ただ俺は本当のことが知りたい。この町は救うに値する町だったのかどうか。先に言っておきたいのはどっちにしろ俺はゾンビと戦った。ただ俺の後味がいいか悪いかの違いだ。できれば後味の悪い仕事……。それからボランティアもあまり気持ちのいいものじゃないから悪い後味は味わいたくない。感謝されるかどうかはまた別だ。俺の求める後味はもっと低いレベルにある。そこのところもクリアできないヤツらなんか俺ももう知らん。助けない。残念なことに助けたくないようなヤツらはこのクソッタレのユナイテッド・ステイツ・オブ・ゾンビには山ほどいる。そんなクソの中に一人でも助けたいと思えば丸ごと助けてやるのが俺の安っぽい正義感だ。だからこの町も助けた。俺はこの町に正義を見たような気がしたんだ。悪役を買って出て住民を守る市長、或いは誰にも押さえつけられずに生きるために悪を討つ聖女、或いはその双方に通じ双方の顔色を窺ってバランスをとる陰の傑物……。そんな期待をしていた。どこまでが……トカゲの尻尾だった?」
市長のオプティマス・プライムのバンパーでブルース・ジョンソン(享年31歳)が、頭部に空いた弾痕から流れ出た脳漿と血液で溺れていた。
「ジョンソンキャップは混乱に乗じた一部の過激な住民に殺されたのだ」
市長がチャールズに事の始末を説明する。
「一部の過激な市民? 犬に本気でスペイン語を教えてるイカれ野郎か? それとも修道院の誰かがシスター・グレイシャを殺そうとしたジョンソンを殺したのか?」
「調査中だ。だが言えるのはジョンソンが膨大な額の借金をしていたことだ。増税の口実のためのマッチポンプをした可能性すらある。貴重な人材を失った。警備ももっと厳戒にしないと」
「狙撃の可能性があるのに演説をしてたな」
「この町の良心に賭けたのだ」
「遅かれ早かれ、俺たちも東洋人のように始末する気だったか?」
「だったらどうする」
「てめぇを殺す。シスター・グレイシャのように殺してやる。犠牲になるのは俺たちじゃない。なんの思い入れもない赤の他人のために死んでたまるか」
「……」
「俺たちは町を出る。今すぐにな。……覚えられるといいな、イカれ野郎の犬がスペイン語を」
〇
At that time(その頃……)
町外れの荒野に女性が三人いた。その中でも一番お喋りなのはミランダというものすごい無口空間だった。
「サンフランシスコはバカの町よ。基本無秩序。白人黒人東洋人ゲイヤク中カラーギャングオタクエイリアンテロリスト予備軍娼婦男娼コミュニケーション障害犬に本気でスペイン語を教えてるイカれ野郎借金王巌窟王。でもみんな生きてるわ。そこだけは安心して。死んでる方が接しやすい人も中にはいるけど、とりあえずミセスの近くにいればどうにかしてくれるわ。生きてる方が辛いと思ったらとりあえず“チャーリー・シーン”を噛めばいいわ。サンフランシスコには最新型の“ロバート・ダウニー・ジュニア”もあるっていうし、そのうちそのメガネじゃなくて本物のテレビにも衛星放送が映るし。見聞を広げましょう。七歳の時から人殺しの方法を教わってたことなんか忘れて。あなた向いてないから半端な技量だったらなかったことにしたほうがマシ。C以上の評価がとれない教科の通知表なんて捨てちゃえばいいわ。なんのために生きてるのかわからなくなって、“チャーリー・シーン”でも“ロバート・ダウニー・ジュニア”でもどうにもならない時は……こうしましょう。アビゲイル・ノーマンっていう女性を探すの。髪はブロンドで背はわたしと同じぐらい。見つけたらわたしか兄さんに教えてね。ドクターかミセスに報告すればわたしたちのところにも連絡が届くから。ゾンビになってたら、殺してもいいわ。あと緑色のタイツでコスプレして『わたしはポイズン・アイビー』とか言いながら片っ端から若い男にキスしてたらその時も殺していいわ。じゃあミセス。彼女をお願い。これは兄さんからミセスに感謝のしるし。こっちはドクターとミスズちゃんの分。ありがとうって伝えておいて」
傷の治療はしたが、もしもの場合に道中で使える医療用のヤバくない薬草と、それ以外の用途に使うヤバい薬草をシスター・グレイシャに、ミセスとドクターへの感謝の品をミセスに渡し、ミランダは一度町の方を窺った。兄は生きて帰ってくるだろうかと少し心配だったが、ロンTにサングラスのタフガイが不機嫌そうに歩いてくる。
「兄さんが帰ってくると鬱陶しいわよ。愚痴や文句の相手はわたしがするから、早く行っちゃって」
「……God breath you」
「You too」
ミセスが鞄を背負い、シスター・グレイシャの肩に手を乗せて出発の合図を送る。
「お帰り兄さん。なんか食べる?」
「“チャーリー・シーン”」





