2話
やぁ、私の名前はベンジャミン。ヤンチャな長男ダニーと、キュートでお転婆な双子の娘ステファニーとマーガレット、元マイナーリーガーで現在は居候の弟デュークと暮らすシングルファーザーだ。今日も家庭裁判所調査官という立場から若者のドラッグ、セックス、バイオレンスにずばずばメスを入れていくぞ!
『ビッグダディ・ベンジャミン ~パパは家裁調査員~』
SNOチャンネルで毎週火曜23:00~(吹き替え版は木曜23:00~)
ミランダは軽くキレていた。暗殺者が正体不明の女性であることから、念を押したブル市長の命により身体検査を受けさせられたのだ。配慮により女性の部下の手で別室にて行われたが軽くキレていた。
「機嫌を直せよ。そりゃ俺だって多少ムカついてるけどよ」
「あいつ嫌い」
ブル市長が兄妹に用意してくれたホテルはそれはもう質素なものだった。そりゃあ、もう質素だった。よそ者を受け入れないこの町にホテルは必要ないのだ。
「市長のやり方は一見見栄えが悪い。だが間違ってない。金と権力の対義語はラブ&ピースだが、この町は平和だし、市長はまだ英語も覚えていない犬に本気でスペイン語を教えてるイカれ野郎の名前まで覚えてるほどこの町の住民を愛してる。やり方が間違ってたってことにしても、十五年それで安定してたんならそれはそれで結局悪いのはその均衡を崩したSis.Tだ。それに」
チャールズは久々の出番を迎えるかもしれない愛用のナイフに光を当て磨き具合を確かめた。
「協力すれば金がもらえる」
「市長は間違ってないかもしれないしまだ英語も覚えていない犬に本気でスペイン語を教えてるイカれ野郎の名前まで覚えてるほど町と町民を愛してるかもしれないけど、結局金を介すから嫌な見方をされるのよ」
ミランダは枕の下に銃を置いて寝る準備を整えた。
ブル市長の計画はこうだった。
明日、町民全てを市庁舎前に集め、近頃続いている殺人事件に関して会見を開く。そこでSis.Tの凶行を絶対に食い止めることを宣言する。チャールズはその用心棒だ。ブル市長がエサになる作戦だが、ブル市長直属の部下であるレッサーポリスマンたちは襲撃の際は市長を「守る」ことしか出来ない。つまり盾だ。しかし用心棒のチャールズは守らなくていい。敵が現れ次第追いかけて、場合によっては殺害も許可されていた。
「まぁ、誰かが犠牲にならなきゃいけないのさ。俺はバランスが取れてると思うね。重税とヨゴレ役」
「旅人にヨゴレをやらすヨゴレはいくら洗っても落ちないぐらいの腐った染みよ」
「そういうなよ。お前は知らないだろうがFOXニュースの偏向報道の腐れ具合はこんなもんじゃなかったぞ」
ミランダはベッドに寝転がり布団を被ってしまった。こうなってしまったミランダはもう意固地だ。そうなると理屈は通じない。気に食わないの一点張りでなかなか機嫌を直さない。チャールズはバドワイザーの空き缶をゴミ箱に投げ捨て、道具を片付けた。
「そういえば兄さんって人殺しってしたことあるの?」
「ある。ゾンビ現象の直後に火事場泥棒やってた頃にな。誰かが犠牲にならなきゃいけなかった。でもあの時の犠牲は俺やお前や親父じゃなくてメイスじいさんじゃなきゃいけなかった」
「なら……」
「なら?」
「安心したわ。いざって時に腰が抜けることはなさそうだもん」
CZK3 6-2-A
「ミランダ! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」
「本当に兄さん! 中に入ってるは、えぇ~と」
「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」
「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」
クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中
CZK3 6-2-B
「よって……」
ブル市長のスピーチは荒れた。とにかくタマゴが飛んできたが、チャールズは投げつける程タマゴがある、タマゴの生産もしくは流通ルートの出来た町であると、そしてミランダは市長の嫌われ具合と、違った感想を抱いていた。
「犯罪を鎮圧するまでこの町の用心棒を務める人物を紹介する。中国のカンフーマスター、リウ氏、そしてこちらは旅の間の数日だけだが、チャールズ・ノーマン氏。元軍人だ」
「ひっこめバカ野郎が!」
「誰の金で呼んだんだこのブルドック野郎が!」
「お前のオプティマス・プライムを今度は二度と乗れないようにしてやるぞ!」
市長に紹介された東洋人、リウとチャールズにもタマゴが投げられるが、遠い国のカンフーマスターは投げつけられたタマゴを全て無傷でキャッチ。スゴウデのデモンストレーションにしてしまう。
「狙撃、可能性アル。引ッコム、一番イイ」
リウがタマゴから市長をかばったその瞬間! その褐色の腕が伸びる肩にナイフが突き刺さる! どこからともなく現れた黒衣の人物が遠い国のカンフーマスターに悟られず! 避けさせず! 反撃もさせずに先制攻撃!!
「アァイ!」
リウが怒声を上げて威嚇し、レッサーポリスマンが市長を守るための盾になる時間は稼いだが威嚇は所詮コワい表情とコワい声! 矢は防げない! 黒衣のボウガンから放たれた矢はファン・リウ(41歳 職業:カンフーマスター)の右目から脳髄を貫き彼を即死させた!
「フリーズ。ナイフとボウガンとは随分ナメた真似してくれるじゃねぇか。『原始家族フリントストーン』の時代のケンカじゃねぇんだぞ」
チャールズがオートマチックの銃口を黒衣の人物に向ける。しかし黒衣の人物はフリーズせずにボウガンをチャールズに向ける。
「一発ずつしか撃てねぇだろうそれはよ。それにこの人数差。大人しく武器を置け……置けって言ってんだろうおい!」
黒衣の人物は矢が装填されていないボウガンをチャールズに向けたまま、フードをゆっくりとめくりその素顔をブル市長、ジョンソンキャップ、レッサーポリスマン、町の住民たちに全く隠さず晒す。
「シスター・グレイシャ……」
黒衣の人物の名をブル市長が呟いた。
「シスター・グレイシャ!? なぜ君がこんなことを……。君は人を殺したんだぞ!」
「そうだシスター・グレイシャ。大人しくゆっくりと武器を置け。そして手を上げろ。ツラ拝ませたところで人殺しの事実は変わらねぇし矢は番えられねぇし人数差も埋まらねぇ。こんなもんは形だけのメキシカンスタンドオフだ。矢のないボウガンと弾のある銃じゃ均衡状態じゃない。投降しろ。ドラマ知識じゃお前には黙秘権と弁護士をつける権利が許される。証言は裁判で不利な証拠として扱われる場合がある。裁判所がまだ動いてるか、もしくはもう動いてるかわからねぇが治安が安定しているこの町ではその権利がお前に発生する可能性は大いにある。お前が乱した治安の下地は何も変わってないからな」
シスター・グレイシャの全容がしっかりと見えてくる。小柄な女性、髪を後ろで縛り、少し頬がこけている少女だ。だがその眼差しはポッと出のシリアルキラーにはない、時間をかけて作られた人殺しのもの。明確な殺意の氷に覆われている。そして彼女はその氷を解かさないままゆっくりとボウガンを持つ手を地面に近づける。その視線が一瞬、ジョンソンキャップに向けられ、その瞬間!
「何をしている!」
ブル市長がジョンソンキャップに掴みかかった。ジョンソンキャップが放った流れ弾がシスター・グレイシャの肩をかすめ、少し血肉を吹き飛ばして遠くに飛んでいく。
「捕まえろ。ジョンソンキャップ以外が捕まえろ。トニー、アンドレ。お前らがシスター・グレイシャを安全なところへ連れて行け」
チャールズがシスター・グレイシャのボウガンを遠くへ蹴り飛ばし、銃を突きつけたままレッサーポリスマンのトニーとアンドレを呼ぶ。トニーとアンドレはシスター・グレイシャの両手首をロープで縛って警察署へ連行して行ったが、シスター・グレイシャの殺意の眼差しは以前凍り付いたまま。ブル市長、ジョンソンキャップ、そして十五年間歩道でのボーリング程度の軽犯罪しかなかった町で突然発生した市長襲撃と用心棒殺害、そして目の前で見知ったはずのシスター・グレイシャが逮捕されたというのに水を打ったように落ち着いている住民に向けられていた。
「シスター・ターミネーターとはよく言ったもんだぜ。全く動じやしねぇ。お前らもな。おかしいと思わねぇか? なぁ、ジョンソン。……お前に訊きたいことがある」
チャールズが銃をジョンソンキャップに向けた。
「ガキが……」
次回多分ゾンビ出ます。





