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California Zombie Killers  作者: 三篠森・N
EP 6 天使に鎮魂歌を
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1話

 ハーイ、アタシはサクラメントのセイント・サウス・フェニックスフィスト病院の研修医ジェーン。今日は憧れのマーティンも参加するサウザー先生のホームパーティに招かれてアップルパイを焼いたの。マーティンもおいしいって言ってくれたわ! でもナース長のナンシーだけは「あなたはシゴトも恋も、アップルパイの焼き方もインターンね」なんて言って肩を竦めるの失礼しちゃう! 今度こそマーティンのハートもアップルパイもきれいに焦げ目をつけてやるんだから!

 ミランダには同い年の女の子たちがもう経験したかもしれないのにまだやったことがないことがいくつかあった。目の前の男は緊張した面持ちでこめかみに汗が浮いている。一方のミランダは緊張も恐怖も嬉しさもなかった。ただいつでも発砲できるように万全の構えで銃を突きつけるだけだ。ミランダの人生初メキシカンスタンドオフは二vs五という数的に不利なものだった。さらにもう少し時間が経てばチャールズが銃を奪ってノばしてしまったもう一人も起き上がって二vs六になるだろう。


「お前らは何者だ」


 チャールズに銃を向けているポリスマンたちのリーダー格が炎天下での膠着状態を嫌った。


「旅の者だ。母親を探してる」


 話の分かる相手と判断したのか、チャールズは銃を下げ、ミランダにもそうするように指示する。銃で武装する人間の比率はゾンビ現象後急上昇したが、その銃口が主に人間に向けられていたのはゾンビ現象直後の混乱や火事場泥棒同士の撃ち合いで、現在は被射体のほとんどがゾンビだった。チャールズも久々に銃を人に向けた。相手の力量の程は定かではないが、素人ではなさそうだ。それでも、短期間とはいえ軍人だった自分一人なら逃げ切ることが出来ただろう。だが今はミランダがいる。それに今ここで無駄なケンカをするのは全く得策ではなかった。次のオアシスがどこにあるかもわからないし、ここまでで銃弾も身の回りにあるゾンビ殺しに使える日用品も食料もかなり消費してしまった。


「ゾンビじゃないし噛まれてもいない。一晩でいいから泊めてくれ。そこで泡吹いてる真面目なポリスマンの肩の関節も入れる」


 リーダーポリスマンが銃を下げると子分のレッサーポリスマンも武器をしまう。


「君の名は?」


「ノーマン。チャールズ・ノーマンだ。こっちは妹のミランダ」


「ジョンソンだ。君たちをブル市長のところへ連れていく」






EP6 Sister Kill






 ジョンソンに先導されレッサーポリスマンの群れに保護、或いは包囲されたままノーマン兄妹は市庁に到着した。U.S.Zにしては珍しく手入れがされていて外壁はバカのテストの答案用紙のようにピカピカの真っ白だった。駐車場には巨大な車がいくつも。建物内部も床はピカピカ、見上げるほど高い観葉植物、ホールには少しの曇りもないシャンデリアととにかく贅沢極まりない建物だった。


「ジョンソンです」


「入りたまえ」


 扉の向こうから重低音の声が響いた。扉の向こうにはステンドグラスの窓や彫刻、各種トレーニング器具に囲まれ、黒い革張りのソファに分厚いガラスのジャパニーズザタクに筋肉&贅肉が黄金比のバランスでものすごい肉量を持ついかつい顔をした壮年の男性が葉巻を吸い、その灰をヒスイの灰皿に落としていた。すでにこめかみに血管が浮き出ている。


「旅の者二名を連れてきました」


「よし、貴様はここに座れ」


 男性がソファの自分の隣に指さし、


「旅の君たちはそちらに座り給え」


 とジャパニーズザタクの向かい側のソファに座るようノーマン兄妹を促す。


「市長のブルだ。手荒な真似をしてすまなかったな。なにしろこんなご時世だ」


 と、握手を求めて手を伸ばす。


「ああ、気にすんな。あれぐらいの緊張感がなきゃいずれくたばるのはてめぇらだ」


 チャールズがブル市長と握手を交わし、ポケットからタバコを取り出すとブル市長が葉巻を勧めた。


「いいのか?」


「構わん。特に君はな」


「俺か?」


「セキュリティを一人ノばしたそうじゃないか。それも六人を相手に勇敢に」


「それは正直、すまんかった。おっとこりゃシビれる。市長、悪いな。これはちょっと俺には……」


「そうか気に召さなかったか」


「いや、せっかくだ」


 チャールズはパフパフと葉巻を吹かす。


「妹さんはクッキーとレモネードかな?」


「クッキーとレモネード? そんな大人っぽいものわたしにはまだ早いわ。泊まらせてくれるなら早くしてちょうだい。『ハンナ・モンタナ』が始まる時間だわ。兄さんも、そろそろ『ドラゴンボールZ』の再放送の時間よ。今日はプレゼント応募のためのキーワードの最後の一文字が発表される日だから絶対に観ないと。そこに置いてあるテレビじゃダメなの。市長は知らないかもしれないけれど、今のテレビってカラーで映るのよ」


 ハッハッハッハとブル市長がブルドックのような顔の肉をパタパタさせて笑った。


「鼻っ柱の強い子だ。こうでなければ今の世の中を兄妹二人で旅をするなんてタフなことは出来ないだろう。子ども扱いをしてすまなかったなミランダ」


「別に。飲み物をくれるなら、ジンジャーエールかコーラを頂戴」


「ジョンソン、クラウン・コーラを持ってこい」


 ジョンソンが「イエッサー」と汽笛のような返事をして冷蔵庫に向かう。

「なぁ、ミランダにブル市長。おかしいと思わねぇか? 町に着いたってだけで銃を突き付けられたのに今じゃ大統領並みの超VIP扱いでお好きな飲み物と葉巻でもてなされてる。この対応の差はどこから出てきたんだ?」




CZK3 6-1-A

「ミランダ! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」

「本当に兄さん! 中に入ってるは、えぇ~と」

「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」

「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」

 クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中

CZK3 6-1-B




「マザファッカー!!」


「くたばれブルドック野郎!」


「腐肉でも漁れゾンビ以下の駄犬め!」


 ガチャ、デロー。突如、罵声と共にタマゴが投げられ窓ガラスに命中、ハイスクールにおけるチアリーダーの視界にいるオタク野郎のように限りなく透明に近かった窓ガラスにヒドい汚れが!


「……この有様だ」


「こんな有様は珍しくもなんともねぇよ。今じゃ弁護士の息子だってあれくらいの言葉遣いをするさ。それにいつだって民衆は為政者のことをなんにもわかっちゃいねぇ。金の使いこみもインターンとのオーラルセックスもな。だがなんてこった! 市長のあの見事なオプティマス・プライムのバンパーがベコベコにされちまった!」


「車ならば乗れれば問題はない。それに今さっき私のオプティマス・プライムのバンパーを凹ませていったディクソンは少しココがイカれてる。この間は本気で犬にスペイン語を教えていた。まだ英語も覚えていないというのに……。この町と私の話を少ししようじゃないか。穿ったものの見方をせず、飽きず、最後までこの話を茶々を入れずに聞いてくれ」


「OK」


 ブル市長はため息をついた。


「私は……」


 プシュー……。ミランダがコーラのプルタブを開けたのだ。ブル市長が口を閉じて呆れたように少しうつむいた。


「ミランダ、次に市長の話の邪魔をしたら罰金ボトルに一ドルだ」


「OK」


「本当にすまない市長。続けてくれ」


 ブル市長は葉巻を灰皿に押し付け、ミランダを一瞥し妨害アイテムがないことを確認してからもう一度口を開く。


「私はこの町の市長であると同時にこの町で唯一にして最大の」


 チャールズが素早く視線を送ってミランダを牽制。


「保険会社の社長であると同時に唯一にして最大の警備会社の社長、そして警察署長を兼任している。そしてハッキリ言ってこの町の住民の生活レベルはあまり高くない。それは私が膨大な額の税金と保険料、警備料を徴収しているからだ。しかし私が十五年前にこの町に来て以降、窃盗やケンカ、未成年の飲酒喫煙、歩道でのボーリングなどの軽犯罪を除いて犯罪は一件も起きていない。放火や殺人、強盗、強姦など一件もない。ジョンソンをはじめとする多くの優秀な人材が私のもとにはいる。彼らに高額な給料を払うことでこの町は重税以外の全てが整っている。もちろん自分が独裁者であることはわかっている。だが徴収した金は私の贅沢や社員の給料だけではなく公共事業にも使用している。保険金や年金も十分給付させている。だから町民は文句を言わなかった。贅沢な暮らしは出来ないが、絶対安全な生活以上のものはないときちんと判断出来たのだ」


「待ってくれブル市長。十五年前? ゾンビ現象の時はどうした?」


「我々で始末した。この町でゾンビに襲われた者はいない。定期的にパトロールもしているのでゾンビの襲撃もない」


「Awesome! だから俺たちをあんなに警戒したのか」


「そうだ。よそ者は危険なのだ。そうやってこの町は平和と安全を保ってきた。だが、この町の現状はさっき見たとおりだ」


「……何が起きた?」


「私のやり方に反対する存在の出現だ。十五年間続いた安全神話は、私の弁護士が殺害されたことにより崩壊した。Memento moriと刻まれた矢が眉間を貫いていた。彼はリビングルームで息子のバースデイパーティの真っ最中だったよ。次に私の会計士。その次はセキュリティの一人がやはりリビングルームで殺された。会計士のリビングルームに落ちていた空薬莢、セキュリティの喉に突き刺さっていたナイフにもはやりMemento moriと刻まれていた。そして全てがカオスだよ。重税と引き換えの安全神話を絶対として身を委ねていた者の怒り、安全神話を維持出来ないのなら税金を払う意味はないと支払いを拒否する者、次に殺されるのは自分だと怯えて私のもとを離れる者……。収入と人員が減れば安全の維持はより難しくなるというのに……。ジョンソンキャップはこの一連の事件の犯人と思われる正体不明の暗殺者をこう名付けたよ。Sis(シスター).T(ターミネーター)と」


「Sis.T」


「だが私には義務がある。諦めず最後まで、この町を見捨てずにやる。チャールズ、君はその手伝いをしてもらいたい」

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