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California Zombie Killers  作者: 三篠森・N
EP 5 ザ・スカベンジャーズ ‐ザ・ファーストアベンジャー‐
21/86

6話

 ……。


「今日からあなたのお母さんになるのよ」


 ……。


「あなたはお兄ちゃんになったのよ。あなたの妹のミランダよ」


 ……。


 チャールズ・ディーン・ノーマン(30歳 職業:ゾンビ殺し→農業兼ヒモ)はソファに寝転がって大昔の夢を見ていた。

 幼い頃に母が死に、父がその数年後に妻として連れて来たアビゲイルという女性は若くて美しく、雑誌や新聞に載る広告の手のモデルをしていたので手がとてもきれいだった。父と結婚してからは家事をやるようになったので肌も荒れてその仕事は引退してしまった。そして父とアビゲイルの間に子供が出来、その妹はミランダと名付けられた。血の繋がりのある父と繋がりのない母、半分繋がった妹の四人家族にチャールズは特に不満もなく過ごし、高校卒業後軍に入ったが、彼は軍人としてゾンビと戦う前に逃亡し、カリフォルニア州オレンジ郡の家族の元へ駆けつけた。父と妹は無事だったがアビゲイルは行方不明になっていた。家族三人でアビゲイルの帰りを数年待ったが父は妻の帰りを待たず他界した。常日頃から「マッキンリーが見たい」と言っていたマーク伯父さんはゾンビ現象が始まった直後に「もう会社に行かなくてもいいぞ!」と、キャプテン・オレンジに変身し、ハーレーに乗ってどこかに行ってしまったが、家のすぐ近くで愛車と共に死体で発見されたので、父の他界でチャールズの肉親は既に妹のミランダしかいなかった。口数が少なく、クールな妹だったが彼女は彼女にとっての母、アビゲイルが大好きで大好きでいつも甘えていて、ミランダは毛布を手放せないスヌーピーの誰かのようにアビゲイルが昔旅行先で買ってきたジャパニーズサムライソードアンブレラを大人になっても持ち歩いていた。自分の肉親は妹以外いなくなってしまったが、ミランダには兄の他にも行方不明の母がいる。なら自分が唯一の肉親である妹のために出来ることは、妹の母を一緒に探すことなんじゃないだろうか。チャールズは短い軍人生活と、ゾンビの蔓延る故郷で自分と妹が生きるために必需品を探してサバイバルした経験で身に着けたスキルを妹に教え、二人で旅に出た。その途中でチャールズは後に妻となるナタリアに出会い、ミランダは荒野のオッサンに出会った。

 ナタリアとの間に子供が出来た時にチャールズは旅を中断することにした。妻と子供が出来たことも一つのきっかけだが、チャールズは薄々気付いていた。アビゲイルはもうこの世にはいないだろうと。きっとミランダも同じことを思っていただろう。でも探さずにはいられなかったのだ。ミランダにとってはそれが人生を賭けてもいいほどの全てだったのだ。しかしチャールズには妻も子もいる。妹とアビゲイルを軽んじるのではないがもう命は賭けられない。ミランダにももうやめろと言いたいのに言えなかった。ミランダには母探しもゾンビ殺しもやめてほしいが、それが全てだったミランダがそれをやめてしまったら、妹はこれから何のために生きていくかを見つけられるだろうか? そうした葛藤の最中に、荒野のオッサンが殺された。ミランダは復讐に燃えた。母を探しながらゾンビを殺すのではなく、ゾンビを殺すのが目的になってしまった。

 クララの誕生と荒野のオッサンの死が兄妹を離ればなれにした。


「誰が間違っているかなんて、まっさらになったばかりのこの国じゃわからないから」


 と、妻は言った。




 〇




 @MP製薬カリフォルニアラボ:東外壁


「……」


「……」


「……」


 新鮮なチビデブとノッポと、大デブのゾンビがゾンビの破片の湿原の中に倒れている。


「OOOOAAARRGGHH!!」


 立っているのは、左腕を失い、怒り狂ったツギハギだらけのジャイアントゾンビただ一人。




 〇




 ベラトリクス・サンダーランド(29歳 職業:看護師→ゾンビ殺し)自分の力が必要になる時は、きっと大ピンチか超余裕の時のどちらかだと思っていた。今は大ピンチ!


「クソガキ」


 華奢な体つきのベラトリクスは、足を負傷して走れないミランダを背負ってMP製薬カリフォルニアラボから脱出しようとしていた。東洋人を拷問してワクチンの場所を吐かせたところまではよかった。しかし東洋人が吐いた場所は偽の保管室で、そこでワクチンを探している間に東洋人は隠し持っていた銃でワクチン探しに夢中になるミランダの足を撃った。幸いにもベラトリクスはファッションナースではなく昔はリアルナースだったので致命傷ではないことはわかったし、応急処置も出来た。東洋人が死んでもワクチンの場所を吐かないと悟ったミランダとベラトリクスは、大量の血を失い、逃げる体力のない東洋人を置き去りにして逃げることにした。


「私を生かしておいたことをいずれ後悔するぞ。果報は寝て待て。禍根はすぐ絶てというからな」


 と最後まで東洋人は心を折らなかった。苦しめてから殺してやりたかった。それはわたしの得意技だ。でも時間がかかる。今は時間がない。ラジオDJから手紙が来て以来、ずっとわたしは不満と不本意ばかりだ、とベラトリクスの苛立ちは加速する。


「やや、お嬢さんたち戻って来たな」


 しばらく進むとロビーに到着した。最後の最後の抵抗にあの東洋人が解き放ったのか、ロビーは夥しい量のゾンビに埋め詰めつくされており、まるで人気バンドのコンサート会場だ! 全ゾンビが興奮している。きっと新鮮なエサをしばらくもらっていないのだろう。リカルドとミセスが応戦しているが、ミセスのブシドーブレードはもう最後の二枚のようだ。傷を負ったミランダとそれを背負ったベラトリクスが無事に通り抜けるにはもっと数を減らさないといけない。


「降ろしてベラトリクス。考えがあるの」


 ミランダがベラトリクスの肩をペシペシ叩く。ベラトリクスには反論も文句も言えない。ゾンビ殺しのキャリアと年齢はベラトリクスが上でも、この状況ではミランダに従う他ない。注文通り、ベラトリクスはミランダをゾンビの血で汚れていない部分に降ろす。膝が砕けそうだ。

 ミランダは鞄に入っていたミッキー&マロリー社のチキンブリトー三袋をロープで縛り、結び目に手榴弾をぶら下げた。


「ベラトリクス、これを振り回して、どこか遠くに投げて。とにかく遠く。でもわたしから見えて、なるべくゲートから遠いところに」


 ミランダが立膝を突いたまま銃を構える。


「早く!」


「わかったわよ!」


 ベラトリクスは手榴弾付きチキンブリトーをカウボーイの投げ縄のように勢いをつけて振り回し、天井の高いMP製薬カリフォルニアラボに綺麗な放物線を描く。

 BLAM!

 ミランダの放った銃弾が空中で結び目の手榴弾を撃ち抜き爆発、悪臭とチキンブリトーがまき散らされる! ゾンビたちの優先順位が変わった! ヒトゲッティミートソースよりもミッキー&マロリー社のチキンブリトー! これは絶対だ。ゾンビたちがチキンブリトー爆発地点に向かって大移動を始める。活路が開いた! ミランダの今日のベストショットだった。


「ハッハァ! やるねぇお嬢さん! さぁ、外でバラチ兄弟と合流するとしよう」


 リカルドが口笛を吹いた。ベラトリクスの体力の限界を察したのか、ミセスがミランダを背負おうとするがベラトリクスがそれを拒んで再びミランダを背負い、ゲートを通過する。しかしそこにバラチ兄弟はいなかった。大量のゾンビと巨大な人造ゾンビ、フランケンシュタインだけだ!


「Oops……」


「まさかバラチ兄弟、死んだのか!?」


「ベラトリクス」


 またペシペシとミランダがベラトリクスの肩を叩いた。


「自決用に……」


 ミランダがカバンから別の拳銃を取り出す。


「渡そうと思ってた銃を渡さなくてよかったわ。あと十七発撃てる。足になってくれない?」


「ハッハァ! さすがリアルアメリカンはテロリストとは気概が違うな! ここに星条旗を立てよう!」


 ミセスはブシドーを捨ててジャパニーズサムライソードを抜き、フランケンシュタインと向き合う。

 ベラトリクスの心残りは、クレストゲートパークのラジオDJを殺せなかったことくらいかな、だった。


 ジャッ! ジャァ~ンジャジャジャンジャジャジャジャッジャァ~ン! ジャジャジャ……


 突如、大音量のローリングストーンズの『ジャンピンジャックフラッシュ』共にミランダたちの前方のゾンビが爆発四散!


「イェアー! 全米五十万人のゾンビ殺しのみんな元気かぁ~い! 今日は『今週のゾンビ殺し』特別編! リビングレジェンド、ミッキー・ローリネイティスと愉快な仲間たちの生ゾンビ殺しをライブでお届けするぜぇ~!」




CZK3 5―6―A

「ミランダ! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」

「本当に兄さん! 中に入ってるは、えぇ~と」

「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」

「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」

 クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中

CZK3 5―6―B




 While ago(少し前)……


 『今週のゾンビ殺し』のDJを務める北米大陸で最も多くのリスナーを持つラジオDJ、クレストゲートパークのDJコニーのベストナンバーは『ジャンピンジャックフラッシュ』だった。もちろん番組のオープニングも『ジャンピンジャックフラッシュ』だ。

 趣味は釣りとガーデニング。今日はレコードの手入れでもするかねぇと一日のスケジュールを立てて、庭に水やりをしに行っていたらちょっと目を離した隙にラジオ局の扉が蹴破られていた。DJコニーが警戒して落ちていた斧を握って蹴破られた穴を覗き込むと、超人ハルクのような大きな腕が伸びてきてガリヒョロのDJコニーの首根っこを掴んで引きずり込み、壁に叩き付ける。


「こりゃぁどういうこった!?」


 スキンヘッドに丸メガネのサングラス、口ヒゲ、袖のない革ジャン。そう! 彼こそが北米大陸最強のゾンビ殺し、ミッキー・ローリネイティス!! 『今週のゾンビ殺し』放送以来、新婚旅行に出かけていてゾンビ殺しが出来なかった週に一度だけベラトリクス・サンダーランドに週間1位の座を譲ってしまったが、その週を除いて1位以外に座ったことのないリビングレジェンド!


「MP製薬カリフォルニアラボとゾンビワクチンを破壊しなければお前をランキングから永久除外する。ほぉう?」


「ミッキー、アンタにそれは送ってないハズだぜ」


「どうしてだ?」


「それは……」


「言わなくてもわかってるけどな。俺だけは除外したくねぇからだろ」


「その通りだ……」


「あのサイコ・ビッチやサイコ・パトリオットなしでやっても少しも面白くねぇな。おい、今すぐ俺の言う通りの放送をしろ」




 〇




 Now……


「ジョー! ジョー! ブラッディー・ジョー!」


「ジョー! ジョー!」


「アァァイム! ジョー!」


 巨大バギーに生バンドを乗せて演奏させ、周りにバイクに乗ったヒャッハーの群れを引き連れているのは、ノースダコタ全域を縄張りとするヒャッハー軍団の頭目、“人喰い”ブラッディー・ジョーだ!

 “Bloody-Joe”  WZKランキング最高5位

 殺害数:☆☆☆☆ 芸術点:☆☆☆ 人気:☆☆




「行くぜ相棒!」


「ホイ来た相棒!」


 元IT企業勤務のオドネルと元ゼネコン勤務のダースのコンビはゾンビ現象を機に脱サラし、ゾンビ殺しへ。「パパと同じ洗濯機で洗わないで!」と言っていた娘も今では「今のパパはワイルドでセクシーだわ!」と掌返し! “Wild Hogs”オドネル&ダース!

 “O'Donnell&Dozen” WZKランキング最高18位

 殺害数:☆☆ 芸術点:☆ 人気:☆




「安心しろ! 私が来た!」


 難病と息子の死を乗り越えた奇跡の男! 御年五十九歳にしてウィンターパークの守護神、ウィリアム・ロジャース! またの名を“キャプテン・カリフォルニア”!

 “Captain California” WZKランキング最高39位(心を打ったゾンビ殺しランキング最高1位)

 殺害数:☆ 芸術点:☆ 人気:☆☆☆☆




「イッフュッスッメ~~~~~ゥ、ワッツァ、チャック、イズ、クッキン!」


 パパになったからには妻と娘にいいとこ見せたい! 引退? そんな宣言していない! ナタリア、そしてクララよ! パパの雄姿を刻み付けろ! 激戦区カリフォルニアを制した王道ゾンビ殺しの継承者! 通称『カリフォルニアゾンビキラーズ』チャールズ・ディーン・ノーマン!

 “Charles Dean Norman” WZKランキング最高5位

 殺害数:☆☆☆☆ 芸術点:☆☆ 人気:☆☆☆☆




 そしてそれらを率いるのがゾンビ殺し界の帝王!


「さぁぁぁ存分にブッ殺すぞ行くぞお前らァァァ!」


 その殺しは量・質共に異次元! “キング・オブ・ゾンビキラー”ミッキー・ローリネイティス!

 “Mickey Laurinaitis” WZKランキング最高1位(永世ゾンビ殺し)

 殺害数:☆☆☆☆……☆ 芸術点:☆☆☆☆……☆ 人気:☆☆☆☆……☆




「以上のメンバーで行くぜー! 乱入上等! ランクを上げたい奴は今すぐMP製薬カリフォルニアラボに来な! 住所は……」




 〇




「バラチ兄弟は残念だったにゃ」


 ドクターが両手を合わせてジャパニーズアーメンのポーズをとる。ベラトリクス、ミセス、リカルドもそれぞれ自分の流儀でお祈りを捧げる。


「あのバケモノを相手に最後まで勇敢だったにゃ。ミセスが仇を取ってくれてよかった。ミランダは足をケガしたけど、あれくらいなら後遺症も残らないししばらくチャールズのところで大人しくさせてればまたゾンビ殺しに復帰できるだろう。そこは素直に感謝にゃ。ウチの店の無期限割引券をあげるにゃ」


「アンタは本当にそれでいいと思ってんの?」


 ベラトリクスが尖った声で言った。ラボの中でずっとミランダと行動を共にしていたベラトリクスはミランダの異常な怨念やゾンビ殺しへの執着を感じていた。東洋人が言っていたように倫理のタガが外れた獰猛で冷酷な殺意。ミランダの原動力はただそれだけだった。


「ミランダのゾンビ殺しのことかにゃ? あれはもう止められないにゃ。ミランダ自身ももう引き返せないんだにゃ。ボクが止めてもチャールズが止めても無駄にゃ」


 ゾンビへの復讐でしか生きられない。その人生が幸福を迎えることがあるのだろうか。十三年前には既に大人になっていたベラトリクス、リカルド、ドクター、ミセスと違い、ミランダには普通の人生とそれで得る幸福のビジョンがない。どれだけゾンビを殺してもきっと満たされないだろうし、ゾンビを殺しつくしてしまったら目的を失ってしまうし、ゾンビを殺すことに疲れてしまったらやっぱり生きる理由を失ってしまうだろう。


「だからお前らに頼んじゃないかにゃ。ああなったミランダを止められるのはもう母親だけにゃ。お前ら、ボクが貸したミセスがいなかったら何回死んだにゃ? 命を儲けた分、ちゃんと返すにゃ。つまり」


「ノーマン兄妹の母親を探せ、でしょ。わかってるわよ」


「ならいいにゃ」




 〇




「来なくてもよかったのに」


 一仕事終えたチャールズはタバコに火を点け、ふてくされる妹から目を逸らして煙を吸い込んでいく空を眺めた。


「ピンチだったくせによ」


「ピンチだったけどどうにかできたわ」


「どーにか出来るとか出来ねーとかそういうことは関係ねぇんだよ。妹がピンチなら、助けるのが兄貴の務めだ」


「何それ。そういうドラマでも観たの?」


「そういうドラマも結構観てたりしたが、案外なまってなかっただろ?」


「うん」


「まぁ、気に食わなかったんなら、せいぜい俺なんかに助けられないように強くなるんだな」


「……」


 そんなに悪い気はしなかったけどね。かっこよかったよ、お兄ちゃん。

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