表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
California Zombie Killers  作者: 三篠森・N
EP 4 キャプテン・カリフォルニアの最期
15/86

4話

 While ago(少し前)……


「ダニー! ゾンビの群れがやってくる! そこのゾンビキラー兄妹の兄の方とロビンが交戦中だ。俺も加勢しに行く」


 汗をかき顔を真っ赤にしながらニコラスが怒鳴り散らした。ゾンビの知らせを受けてダニーはショックでチーズバーガーを落としてしまう。


「待ってくれよニコラス! 俺はどうすればいいんだ!?」


「町を守れ。いいか、町を守れるのはもうお前しかいない。覚悟を決めろ」


 ニコラスがダニーの肩に手を乗せ、目と目を合わせる。警官コンビの涙ぐましい絆にあくびが出そうになったミランダは少し兄とキャプテン・カリフォルニアのことが気になった。ゾンビの規模がどんなものだか知ったことじゃないが、とりあえず自分だけはこのシェルターにいられる。兄が死んでしまったらしばらくは泣き腫らして母親のことも考えずチョコレートやテディベアのことを考えて前向きになるように努めるだろうけれど、あの兄さんが死ぬ訳がないと確信していた。もしチャールズが死ぬとしたら、妹が町で最も安全な場所にいることを忘れて、無理に救出するためにゾンビタウンになったウィンターパーク警察署までゾンビクエストをしてしまう場合だろう。


「すまない、ゾンビが町まで侵入したら僕は町の住民を先に守らなきゃならない。君を守れない」


 ニコラスから受け取った守る義務が芽生え、少し成長したような殊勝な言葉を吐くダニー。


「大丈夫よ。ゾンビに牢屋のキーを開けるような知能はないから、お巡りさんがここにほんの少しばかりの食料を置いていってくれればわたしは一番安全なシェルターにいられるもの。それにドクがミセスを派遣したはずだから待つのも数日ってところね。楽勝よ」


 それはダニーにとって目からウロコだったらしい。二重顎をタプつかせ目尻が肉で垂れた目を見開いている。


「もっと安全な方法があるけれど聞きたい?」


「あるの?」


「わたしをここから出すことよ」


「でも……。君は犯罪者だ。勝手に釈放することは出来ないよ」


 残念ながらダニーには柔軟な発想というものがないらしい。誰かの命令がないと行動出来ないタイプだ。


「じゃあ、わたしにそのキーをプレゼントしてくれない? 脱獄するから。間違えないでね。チーズ(Cheese)、じゃなくてキーズ(Keys)よ」


「でも……」


「今日は何月何日だっけ?」


「四月十日」


「じゃあ、クリスマスプレゼントの前借ってことで」


「えぇい! 本当に町を守ってくれるんだな!?」


「ゾンビ殺しなら任せて。趣味なの」


 ジャリンとダニーが鍵束をミランダに投げつけた。ミランダは格子の内側から開錠し、まずは肺いっぱいに空気を吸った。


「代わりに入る?」


「僕も町を守る!」


「OK、ダニー。じゃあまずはわたしの銃と傘を返して。それからイチバンマーケットに町中の人間を集めて」


 ダニーのパトカーで最前線に加わろうとしていたニコラスを引き留め、ミランダ、ニコラス、ダニーの指示に従ってウィンターパークの住人全てがイチバンマーケットに集められた。もちろん重症患者のキャプテン・カリフォルニアもベッドと点滴で。今までキャップが食い止めていたおかげでゾンビに免疫のないウィンターパークの住民たちは戸惑い、恐れ、たった二人で戦っている男たちへの驚嘆の声を口ぐちに漏らしていた。ミランダがレジの上に立ち拳銃を天井に向けて一発撃つと全員が静まりかえり、注目が一人の少女に集まる。パラパラと撃ち抜かれた天井の粉が天使降臨の光のように見えた。


「この中でロジャースさん以外にゾンビ殺しをしたことがある人は?」


 誰も手を挙げなかった。


「ゾンビ殺しなんて出来ないと思う? ゾンビが町に入ってきたらもうおしまい? 全然。余裕よ。知ってる? そこのステロイドボーイ」


 ミランダは最前列にいたいかにもジョックスな少年に視線を傾けた。一目でジョックスとわかる彼でもゾンビの襲撃にビビりまくっているのは一目瞭然だった。

「今やこの大陸じゃゾンビ殺しは一大ブームなの。ベースボールやフットボールよりも手軽な競技だから。この町のみんなは知らないかもしれないけれど、今はどれだけ華麗でアクロバティックにゾンビを殺したか競うゾンビ殺しっていうゲームがあるくらいよ。ハゲて腰の曲がったおじいさんでもレモネード売りの子供でも、明日生きていられるかどうかわからない重症患者でもゾンビ殺しが出来る。そこら辺に転がってる何もかもを使ってね。そこのパキラの鉢植えでも出来るわ。頭に一発くれてやれば一発。何故ならゾンビはものすごく弱いから。じゃあ、健康で若いあなたたちに出来ない訳ないじゃない。足りないのは、勇気よ。なんでも揃うイチバンマーケットがある。そして()れる体がある。あとは勇気だけよ。それともここの住民は町にはヒーローが一人いればいいって思っているような腰抜け?」


 ミランダはレジから飛び降り、目でオモチャコーナーと冷凍食品売り場を探してハッパをかけた。


「やるぞ。俺はやるぞ!」


 ステロイドくんことサイモンはホッケーのクラブを手に取り雄叫びを上げた。


「俺にも銃をくれよ」


「てめぇにゃ第三次世界大戦が始まっても渡さねえよ」


 メルビンとバートもその気になる。


「俺のポテト砲でゾンビの頭を吹っ飛ばしてやるぜ」


 ウィンターパークがついに立ち上がる。ミランダはキャプテン・カリフォルニアを一瞥した。


「じゃあ四十秒で用意して。ゾンビ狩りの時間よ」




CZK2 4-4-A

「ミランダ! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」

「本当に兄さん! 中に入ってるは、えぇ~と」

「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」

「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」

 クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中

CZK2 4-4-B




 NOW (今)…


 ベンジャミン・クルーガー(享年12歳ゾンビ年齢10歳)ほど優れたコーナーバックになるだろうと将来を嘱望された少年はいなかったが彼がゾンビになってから最初にキャッチしたのはドライアイスと砂利と水の入ったボトルだった。スモークが晴れると蜂の巣になった彼の姿が見えた。同じく将来は最高のランニングバックになると誰もが思っていたニッキー・カウロフスキー(享年12歳ゾンビ年齢10歳)は町一番の鈍足ハリスの心臓すら止められず、ナタで頭を割られてしまった。同じチームのワイドレシーバーだったキース・ボウマン(享年12歳ゾンビ年齢10歳)が受け取ったパスはなんと同じチームのタイトエンドだったジェイスン・レーガン(享年12歳ゾンビ年齢10年)の頭だった。ミランダがハンドルを握るハーレーがそのジェイスンごとタッチダウン。転がってきたジェイスンの頭をチャールズが蹴り飛ばした。


「バッキャロウ……」


 チャールズが口元を綻ばせて大地で靴についた血を拭う。


「焼き払え、なんかじゃなくてもっとイケてるセリフにしろよ! もっとヒーローっぽく、遅れてくるもんだとか、It's clobberin' time! とかさ! よぉっと! すまねぇ、町が心配で手術を受けられねぇ少年に今日はホームランを打つから勇気を出して手術を受けろって約束してたもんでな。今のはウィリアムの胸に届いただろう」


 チャールズが外角いっぱいに腕を伸ばしてヒュー・ローガン(享年47歳ゾンビ年齢4歳)の頭を流し打ちでホームラン!


「別に、そんなにかっこつけることないじゃない。ただのゾンビ殺しじゃないの」


 ミランダは兄の後ろに立っていた元教師のハル・モンロー(享年33歳ゾンビ年齢2年)、元銀行マンのエリック・スチュワート(享年55歳ゾンビ年齢4歳)の頭と心臓をいつも通り撃ち抜いた。


「……?」


「弾切れかよ! お前らしくもない!」


 チャールズは真後ろゾンビの最後の一人、元スクールバス運転手で子供たちに毎朝毎夕「ハロー、ミスターリベロ!」とあいさつされていたフランシスコ・リベロ(享年40歳ゾンビ年齢5歳)のブッシュ・ド・ノエルのような足を払い、顔面にバットを突き立てる。


「ミランダ受け取ってくれ!」


 チャールズのそばで身を縮めていたロビンがミランダに拳銃を投げ、パスが通る。


「Show's over, mother fuckers」


 ウィンターパーク南防衛戦最後のゾンビ、ダニエル・コルター(享年48歳ゾンビ年齢9歳)の頭がはじけ飛ぶ。


「汚い言葉だな。帰ったら罰金ボトルに罰金一ドル入れないと」


 かちどきの声を上げるウィンターパークの住人の声を聴きながらミランダは一つ息を吐き、張りつめさせていた緊張の糸を少し緩めて声をチューニングした。


「ええ、でもわたしが今ので一ドルだったらきっと家の罰金ボトルにはホワイトハウスで大統領と一緒にディナーが食べられるくらいの罰金が溜まってるはずだわ」


 ジョークを言い合って状況終了を確かめ合う。いつものことだった。いつもの二人。


「ふぅ。ひとまずウィンターパークに帰るか。ロビン。……ロビン?」


 チャールズの呼びかけにロビンはドス黒い血を吐いて答えた。顔は既に土気色で手足の先が震えている。ゾンビになりかけているのだ。


「ロビン! お前やられてたのか!?」


 ロビンがズボンの右の裾を捲るとカーブしたミシンの縫い目のような歯型がついていた。どのゾンビにもついているその紋章がロビンにもあったのだ。


「畜生! いつだ!? いつだよおい! ヤバかったらなんで助けを求めなかったんだよ!」


「い、言えなかったたた」


 ロビンは考えていた。ヘザー(或いはサマーやケイト)がしたように後からわかるような重大な仕事を隠れてしたいと。だからカッコ悪くてチャールズに助けを求められなかった。そしていざとなってブルってしまった臆病な自分にはそれが無理だとわかってからも、せめてチャールズの邪魔だけはしまいと助けを求めなかった。噛まれてからも、優しいチャールズが巻き添えになることを恐れて彼は言えなかったのだ。言わない。それが彼の考える彼の最大の仕事だった。


「バカ野郎……。バカ野郎! キャップになんて言ったらいいか……。じゃねぇ。ロビン! まだ返事できるか? どうしたらいいんだミランダ!」


 いつになく狼狽する兄とゾンビ化するロビンを伏し目がちに見て、ミランダはロビンに拳銃を差し出した。ゾンビ化が始まってしまったらそれを止める手立てはない。たった一つの方法を除いて。


「ミランダ……」


「これはわたしが兄さんよりもロビンと過ごした時間が短いからとかそういう理由じゃないわ」


 ウィンターパークの住人たちの興奮も徐々に冷めてくる。被害の確認が始まった。


「ゾゾゾンビを一人も殺せなかった。ハハ、最初で最後のゾンビがががが、まさか僕だったなんて……。でも一人は殺せるんだ。チャールズ、僕はヒーローになれるのかな」


 ドス黒い血を吐きながら震える手で銃を握り、ロビンが自分のこめかみに銃口を向け、チャールズの言葉を聞くのを待つ。彼はそれを最後にするつもりだった。


「バカ野郎」


 チャールズが汚れていない左の袖で目をこすった。


「一朝一夕じゃヒーローにはなれねぇって言ったろ」


 ウィンターパークの南に一つの銃声。




 〇




「言わなくていい」


 病院から避難していたキャプテン・カリフォルニアが帰還したノーマン兄妹に言った最初の言葉はそれだった。


「いいんだ。君たちが辛い思いをすることはない」


「本当にすまないキャップ」


「いいんだ。だが一つ聞かせてくれ。町を守った(ロビン)はヒーローになれたのかね?」


「ああ。一番殺すのが難しいゾンビを殺した」


 ロビンがロビンを撃った時、ロビンは既にゾンビだったのだろうか? それともまだ人間だったのだろうか? それはきっと神様かゾンビの神様にしかわからない。だがチャールズは、ゾンビだったと言った。それはヒーローの役目はゾンビを殺すことだからだった。


「それが出来たのはロビンだけだった」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ