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California Zombie Killers  作者: 三篠森・N
EP 5 ザ・スカベンジャーズ ‐ザ・ファーストアベンジャー‐
16/86

1話

 ベルが告げた乾いたカランカランという来客の知らせは、すぐにバーの喧騒に飲み込まれて消えた。一人の若い女がカウンターに座り、店の男たちのほとんどが彼女を一瞥、もしくは凝視した。


「コーラとナショナルジオグラフィックのバックナンバーで火星の記事が載っていないのがあったらちょうだい」


 コーラ? 笑っちまうぜ。あんなのガキの飲むもんさ。ここはバーだぜ? アルコールの入ってない液体は、風邪薬のように優しい飲み物と便所の水ぐらいだ。車だってガソリンで動くし洗剤だってアルコール消毒だ。

 ここはガキの来るところじゃないぜ。と、朝勃ちすらしなくなったしなびたオヤジ共は鼻で笑った。


「ようお嬢ちゃん。どこから来たんだい?」


 最初に彼女に話しかけたのは朝勃ちしない方の男の一人、ショーン・ピット(45歳 職業:農業)だった。女の隣に偶然座っていたその男は既にムスコが独り立ちしたので下心はない。むしろ独り立ちしてないムスコたちを独り立ちさせようとしているような男たちから守るために最初に彼女の所有権をとったのだった。


「オレンジ」


「随分遠いな」


「別にそうでもないわ」


「ずっと旅をしてるのか?」


「そんな感じ」


「タフだねぇ。……タフといやぁ、お前さんは聞いたかね? MP(メリーポピンズ)製薬がゾンビ化を防ぐワクチンの試作品を開発したって噂だ。見ろ、新聞に載ってる。旅をしてるなら、お前さん、MP製薬のラボに寄ったらどうだい? 長生きするに越したことァねぇよ。特にお前さんみたいな若い娘さんはな。まだまだこれから幸せが来る」


「かもね」


 退屈な会話の盗み聞きに耐えかねたのは町一番のギンギン野郎マット・シーン(24歳 職業:ヒャッハー)だった。


「どけよオッサン。そんな退屈な新聞の話なんかじゃ女はヨロコばないんだよ。女がヨロコぶのはこういうモンだ」


 と、マットが取り出したのは世界が待ち望んだワールドシリーズ再開一回目のチケット! なんでこんな場末のバーの男がこんなモノを持ってるかって? 知らない方がいいこともある。


「俺んとこ来ないか? 大人の女にしてやるぜ」


 さすが町一番のギンギン男マット! ギンギラギンにさりげない!


「大人?」


「最高の酒とハッパでキめるんだ」


「酒ね。今日は何日かしら?」


「ワールドシリーズは四日後、八日だ」


 釣れた! マットが女の服の襟にいやらしい蛇のように手を忍び込ませた。


「ってことは一日(ついたち)はもう過ぎたのね」


「え? まぁ……」


 BLAM! 一発の銃声の後にマットのブーツの先がグチャグチャに! これじゃあもう女とジャパニーズ・ヘンタイ・プレイが出来ない!


「やっぱりコーラじゃなくてバドワイザー」


 マットが足を抑えて泣き叫ぶのに女は顔色一つ変えない。


「え?」


「どうやら知らないうちに二十歳になってたみたい。最初のお酒はバドワイザーって決めてたの。それからおじさん、その新聞、少し読ませてくれない? ワクチンのところだけでいいわ」


 ショーンは目の前の唐突な事件に目を白黒させながらも女に新聞を渡す。


「このMP社っていうのはどこ?」


「え? カリフォルニアのどこかって聞いたが……」


「カリフォルニア。OK。ありがとう」


 女は差し出されたばかりのバドワイザーを一気に飲み干し、床で血に塗れてのた打ち回っているマットの頭に銃を向ける。


「チケット、くれるんでしょ?」


「うぅ……」


「ありがとう」


 女はマットのポケットから財布とチケットを引き摺り出し、財布の中身を検めた。マットは涙ぐんだ目で財布を見つめ、カウンターに手を伸ばしている。


「バドワイザーと床の掃除と修理はこれで足りるかしら?」


「あ、あぁ足りるよ」


 女はマットの財布から紙幣を全部抜き取って震える店主の前に置き、硬貨は全てショーンに渡した。俺の金……とマットが呻いた。


「新聞ありがとうおじさん。あなたは、去年ゾンビに殺されたわたしの大切な荒野のオッサンっていう人にすごく似ていて親切ね」


 ショーンはその金を受け取っていいのか心底迷った。いや、これはこの瀕死のガキが今の目の前で強盗された金だし……。


「お、お前さんいったい何者なんだ?」


「ミランダよ。ミランダ・レイチェル・ノーマン。こういう脳ミソの腐ったヤツらをぶっ殺すのがわたしの仕事」






EP5 The Scavengers -The First Avenger-






「あんぜーん、安全いらねぇかー」


 一人の男が地平線まで広がる麦畑の端っこで、地べたに座り、タバコを咥え、赤ん坊を乗せた揺りかごを片手で揺らし、もう片方の手で銃を弄繰り回していた。その表情は満たされているのか退屈なのかわからない。何故なら何も読み取れないほど無表情で、声もモデルかボディビルダーかYouTuber出身の大根役者よりも抑揚のない、言わされているセリフ。シュワちゃんだってマシーンの役の時はちゃんと棒読みになるのに! この男の言葉はそれ以下だ!


「平和ー、平和はいらんかねー。無料だよー今ならタダで安全と平和ー」


 日曜日の神父様の言葉と祝日の乾杯以外はサラサラと風が麦を撫でる音以外はほとんど何も聞こえないこのヴァレーオブザウインドに、ふさわしくない爆音が響いた。男が爆音の方向に目を凝らすと、土煙を上げて一台のバイクが向かってきている。男はそれを認め、気だるげに腰を上げグキっと筋を伸ばした。バイクの音を聞いたのか、彼の妻も麦畑から嬉しそうに笑みを溢れさせながら男のそばに立つ。そして妻と子の三人で待つ男の元に、彼の妹がバイクで乗り付けた。


「おかえり、ミランダ」


「ただいま。久しぶりね。兄さん、ナタリア、それからクララ」


 ミランダは兄、兄嫁と再会のハグをし、この世の何よりも可愛い姪っ子クララを抱き上げた。


「また大きくなった」


「お前もそんな頃はそんなもんだったぞ」


 チャールズが笑うと、ナタリアが嬉しそうに彼の腕に寄り添った。


「で、今日はどうした? どうしたってのもおかしいか、帰ってくるのに」


「ワールドシリーズのチケットを手に入れたからそれを渡しに来たのと、それからドクと連絡を取りたくて」


「マジかよ! ワールドシリーズ!? 最高だ! 最高だぜミランダ!」


「ちょっと汚れてるけどね」


 と、ミランダは野球好きの兄に最高のプレゼントをした。ちょっと汚れてるのはちょっとの汚れをごまかすために、事前にブラッディ・マリーを零して汚しておいたからだ。


「ありがとうミランダ! 本当にいいの?」


「クララの分がないけどね。しばらくはこの町にいるつもりだから、クララの世話はわたしが見る。だから二人で行ってきてちょうだい。でも兄さん、無線機だけは借りるから」


 チャールズは腕組みをし、低く唸った。


「別に悪用しないならいいんだが、そもそもドクターが悪人だからな」


「ドクターは悪人じゃないわよ。ズレてるって自覚がないだけ」


 ふふっと天国で流れる天使のハープが奏でる音のように、ナタリアの声が二人に割って入る。


「まずは帰ってディナーにしましょう。ミランダのバースディパーティの用意もしなきゃ。チャールズ、忘れてたでしょ?」


「いや、忘れてないぜ?」


「ふふ、もう」




 CZK3 5-1-A

「ミランダ! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」

「本当に兄さん! 中に入ってるは、えぇ~と」

「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」

「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」

 クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中


CZK3 5-1-B




 家族揃って誕生日祝いの豪華なディナーを食べ、成人祝いのお酒を少し飲んだ後、ミランダは酒蔵から一本ウイスキーをくすねて家をこっそり脱出し、町の端にある小さな墓に行った。


 “KO-YA NO OSSAN”


 そこにはそう刻まれている。


「死んじゃったんだね、本当に」


 ミランダはそう呟き、ウイスキーのビンを墓標に叩き付けて割った。


「……荒野のオッサンを理由にするなよ」


「兄さん」


 どうやらチャールズには、妹がどこに行くかわかっていたらしい。彼もこっそり抜け出し、待ち伏せしていたのだ。タバコに火を点け、ミランダの横で墓標を見下ろす。


「荒野のオッサンは幸せだったよ」


「最期以外はね」


「かもしれないがお前のせいじゃない」


「それは兄さんの意見。わたしの意見は違うし荒野のオッサンの意見も違うわ。むしろ荒野のオッサンを理由にしてるのは兄さんよ」


「何の理由だ?」


「俺の仇を取るためにお前が死ぬことなんて望んでないぞって荒野のオッサンが言ってるからゾンビ殺しはやめろってわたしに言う理由」


「まぁ、遠からずってところだ」


「逆に荒野のオッサン本人は仇を取ってくれって言ってるかもしれない」


「言ってないかもしれない」

「そう。わからないのよ」


 フゥーとチャールズはため息と一緒に紫煙を吐いた。元から頑なになりがちな気質の妹だったが荒野のオッサン絡みになるとさらに面倒くさい。何を言っても無駄だろう。


「ほらよ」


 チャールズが角の塗装が剥げた携帯電話をミランダに投げ渡した。


「何?」


「バドワイザー基地のヤツらがこないだ通信出来るようにした。ドクターの番号が入ってるから使えよ。俺の部屋の無線機じゃ」


 チャールズはぐぐっと背伸びをした。ミランダから見る兄の背は以前ほど高く感じなかった。


「どーせ話せないようなことなんだろ」


「うーん」


「まぁ、最低でも生きて帰ってきてくれりゃどうにかなる。もう親しい人間に先に死なれるのはまっぴらだ」


「それはないから大丈夫」

NEXT CZK3 5-2


犯罪者(テロリスト)から祖国(ステイツ)を守るために立ち上がれ! ウィー・ザ・ピーポー(我々こそ真の愛国者)!」

WZKランキング最高3位 41歳 ♂ テリトリー:リオ・グランデ川周辺

殺害数:☆☆☆☆ 芸術点:☆☆ 人気:☆☆☆☆

『一人国境警備隊』リカルド・マクファーレン!


「俺のケバブ屋台の!」

「いや俺たちのケバブ屋台の!」

「「復讐だ!!」」

WZKランキング最高2位 33歳&31歳 ♂&♂ テリトリー:アナハイム周辺

殺害数:☆☆☆☆☆ 芸術点:☆ 人気:☆☆☆

『怒れる北米大陸最強のバカとそれに次ぐバカ』バラチ兄弟!


「別にアンタたちのためじゃないわ」

WZKランキング:最高1位 29歳 ♀ テリトリー:シアトル周辺

殺害数:☆☆☆ 芸術点:☆☆☆☆☆ 人気:☆☆☆☆☆

『狂乱のセクシーナース』ベラトリクス・サンダーランド!


「You are already dead」

WZKランキング最高5位 20歳 ♀ テリトリー:カリフォルニア全域

殺害数:☆☆☆☆ 芸術点:☆☆☆ 人気:☆☆☆

『カリフォルニアゾンビキラーズの妹の方』ミランダ・レイチェル・ノーマン!


「……」

WZKランキング最高11位 39歳 ♀ テリトリー:サンフランシスコ日本人街

殺害数:☆☆☆☆ 芸術点:☆☆☆ 人気:☆☆

『ラストサムライ』ミセス・ミチルこと円谷みちる!


「meow……」

WZKランキング圏外 29歳 ♂ テリトリー:サンフランシスコ日本人街

殺害数: 芸術点: 人気:

『ゾンビキラーズ斡旋業者』ドクターこと今川忍!


ワクチンを製薬会社ごとぶっ殺せ!

Scavengers(スカベンジャーズ)! Assemble(アッセンブル)!


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