3話
「こんなことになって本当に残念だ」
「大丈夫よ兄さん。ちょっぴり銃が恋しいけれど」
「キャプテンに事情を話したら明日のランチはシャバで食えるようにしてくれた」
「その条件が、これ?」
格子越しに会話をする兄妹の隣には警官のダニーとあのロビンがいた。ミランダが拘留されてしまう約二十四時間、ロビンが便宜上ではあるがチャールズのサイドキックとなる。平和ボケ野郎のせいで妹が逮捕されてしまうのはチャールズにとっていい出来事ではなかったが、ゾンビのコスプレをするほどの平和ボケがいる程の町の将来は危険だった。せめて一人でもゾンビ殺しに積極的な姿勢を持ち、最低限のゾンビ殺しが出来る人物がいなければ……。今まではキャプテン・カリフォルニアがいたがいつまで持つかわからない。キャプテンの交換条件は息子のロビンをチャールズが一日預かることだった。
「見てみろよ。ロビン、銃を構えてみな」
「こうかい?」
チャールズに借りた銃でポーズを決めながら構えるロビン。それを見てミランダはため息を吐いた。
「そうやって横に構えると薬莢が横に飛んで隣にいる人が火傷するわ。ついでに腕が反動でへし折れる」
「そうなの?」
次にため息をつくのはチャールズの番だ。
「こいつに一日訓練だとよ」
〇
「とあるハイスクールのフットボールクラブの大一番の夜、勝利したチームのチアリーダーのヘザーが突然ぶっ倒れた。不思議に思って検死解剖したら胃袋から一ガロンのザーメンが出てきた」
「それが今何の関係が?」
「どこにでもある話さ。俺が知ってるゾンビ殺しは大体知ってたがチアリーダーの名前もケイトだったりサマーだったりする。つまりゾンビ殺しになるためのファーストステップだ」
「つまりどういうこと?」
「派手な仕事をぶっ放すだけじゃなくて見えない仕事もきちんとしてろって話だよ。だからお前は銃の手入れをしながらラジオを聴いてろ。俺は町をちゃんと見ておく」
「ま、待ってよチャールズ。それはアルフレッドの仕事だ。せめてロビンになりたいよ」
「バカめ。ヒーローには一朝一夕じゃなれねぇんだよ」
「僕がアンタに教わるのはたった一日だけだ!」
「ああ、だからその後は独学でやるか他を探すんだな。言っておくが習ってゾンビ殺しになったヤツなんていねぇぞ。みんな殺る必要があるついでに殺りたいからなっただけだ」
「……。ラジオで何がわかるの?」
「通信が途絶えた方角からゾンビが来る」
「なるほど」
クールなことは教えてもらえそうにないな、とロビンが落胆した瞬間、チャールズのインパラの無線に電波が入った。
「こちらチャールズだ」
「サンフランシスコのイマガワだにゃ」
「どうしたドク」
「ウィンターパークにいるって言ってたからゾンビ情報をと思ってにゃ」
「マジか。規模は」
「ウィンターパークの南から五十人以上」
「チッ、ってことはまたロスから流れてきた連中か。町には入れられない人数だ。ミセスはもう出発してるだろう? どこかで防衛線を張ってミセスを待……ディミット!!! ミランダが逮捕されてるんだった!!!」
「逮捕?」
「息子のバースディパーティにゾンビのコスプレをしたオッサンを撃って警察署に拘留されてる」
「にゃは、そんなボケた町の住人じゃ使えそうにもないにゃぁ」
「ミセスは?」
「ゾンビの方が先だろうにゃ」
「お前は十年来の友人を見殺しか? 誰か使えそうなヤツを寄越せよ」
「まぁ、僕はお前さんらを信じてるにゃ」
「ああ、ありがとよ!」
乱暴に無線を切り、チャールズはタバコに火を点け少しうつむき、キッと鷹のような鋭い眼差しをロビンに向けた。ロビンは恐怖とも好奇ともとれる興奮で頬を赤く染めている。
「って訳だ。楽しんでる余裕がねぇくらいのゾンビの大群がやってくる」
「いよいよデビューか……」
「危機感はねぇのか」
「あんな状態のパパでもできたんだ」
「……お前、俺がいてよかったな。いなけりゃ死んでたところだ」
「どういう意味だい?」
「やってみりゃわかる」
チャールズが地図を広げ、ウィンターパークの南に青ペンで×印を書く。
「いいか、よく聞け。町の住民がアテにならず防衛をする場合は町に入る前に殺るのがセオリーだ。町に侵入されたらどこに隠れられるかわからない。そうなったら町ごと焼くってことも覚悟しなきゃならない。特にこの町は半端に入り組んでるな。マズいぜ」
チャールズは少しだけ金色の原っぱを歩く青い服の女性を思い出していた。彼女の町はゾンビが隠れるところもなく、もうゾンビはゾンビとして割り切って殺すことが出来る。だから焼かずに済んだ。もしこの戦いから生きて帰れたらもう一度彼女のところへ行ってみよう。特に何をするわけでもなく、ただ行ってみよう。
「行くぞ。車は持ってるか?」
「ああ」
「ありったけ詰め込んでいくぞ」
CZK2 4-3-A
「ミランダ! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」
「本当に兄さん! 中に入ってるは、えぇ~と」
「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」
「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」
クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中
CZK2 4-3-B
生前はボディビルダーだったナオミ・ジョンソン(享年24歳 ゾンビ年齢2歳)の額に空いた穴からはカリフォルニアの広大な大地とそれを埋め尽くすゾンビの群れがよく覗ける。もちろん、ゾンビに転職する前はサーカスの団員だったキーン・オドネル(享年34歳 ゾンビ年齢2歳)や、フットサル好きでマラドーナ弁護士と呼ばれたロベルト・アルマス(享年55歳 ゾンビ年齢5歳)に空いた穴からでもよく見える。
「そうらランチの時間だ!」
チャールズはミッキー&マロリー社のチキンブリトーを放り投げそのパックを空中で撃ち抜く。ゾンビが大好きなにおいをまき散らしながら粉々になったそれがゾンビたちに降りかかり、やがて共食いを始める。カウボーイの投げ縄のように空中を舞う腸にロビンが少しえずいた。
「どうした?」
「思ってたより少しヘビーだ」
「そうさ、ヘビーさ! 三.四オンスのバットなんてフルスイングできるのは俺くらいだァッ!」
三番ショート チャールズ・ノーマン(カリフォルニア州オレンジ郡出身、27歳)。市販のバットにクギを打ち込んで増量した改造バットで今日のところ三の三で大当たり! 四打席目となるミゲル・ラミレス(47歳ゾンビ年齢8歳)の頭も見事ホームラン!
「ハウトゥゾンビ殺し、セカンドステップ! ユーモアと個性を持て! そっち行ったぞロビン!」
一方のロビンはまだゾンビ殺しのスイッチが入らない。ゴミ箱の蓋を父譲りに盾として使って遠慮がちに発砲するだけだ。それも当たっているかどうかすら定かでない。
「おぃ何やってんだ撃て!」
「チャールズ!! 弾詰ま……うわぁぁぁぁ!!!」
ヒュン! と空気を切り裂きチャールズの弾丸がロビンを襲っていた元ミス・ルイジアナのオリーブ・コズロウスキー(享年28歳ゾンビ年齢10歳)に二度目の人生のピリオドを打った。
「バカ野郎ロビン! だから銃の手入れをしろって言ってたんだ!」
「ごめんチャールズ」
「ごめんじゃすまねぇぞ!! ゾンビが町に侵入してる!」
ゾンビの群れの先頭は既に町の看板(今日の死者の数のパネル)に差し掛かっている。あれ以上の侵入を許すと明日あの看板は大変な数字になってしまうぞ。
「クソッ! ミランダならバイクで追えたのに!」
チャールズが全速力で駆け出すと先頭を走っていたリッキー・オースチン(享年67歳ゾンビ年齢8歳)ら数人が爆発に飲み込まれ消し飛んだ。
「Did you call me ?」
土煙が晴れると先頭のゾンビがいたところの少し先に、ラジコンのリモコンを持ったミランダが立っていた。その後ろにはホッケーのスティック、芝刈り機、拳銃、塩ビで作った大砲などありとあらゆる物で武装した勇敢な顔つきでゾンビを威嚇するウィンターパークの住民たちの姿。
「Burn them!!!」





