アークデーモン
「ドウシタ、もう戦意喪失カ?」
私は巨大な肉体から放たれる威圧感を受け、一歩も動くことが出来ない。
(アークデーモン・・・伝説上の怪物がこの世界に存在するとは・・・。)
そもそも悪魔というのは別世界の住民で、他の生物の体を吸収し続けて強力な能力を得た怪物である。
彼らの世界では力こそ正義で、戦いや殺し合いを好み、最終的には自らの世界すら滅ぼしたという恐ろしい存在である。
それゆえ、今は魂だけの存在となりあらゆる世界をさまよっていると言われている。
ただ、力を求める者には貪欲で簡単に呼び出す事が出来るが、代償として彼らに肉体という生贄を捧げなければいけない。
成功した物は、悪魔を使役する事で自らの願いを叶えたという。
しかし、失敗した物は体を乗っ取られ、自らが悪魔になるという。
(つまり、不老不死を望んだ魔導士は後者という事か。)
悪魔には序列があり、下位悪魔であるレッサーデーモン、上位悪魔であるグレーターデーモン・・・さらには最上位悪魔のアークデーモンがいる。
上位の悪魔ほど、強い力と欲望を好む。
乗っ取られたとはいえ、不老不死の魔導士は相当な力を持っていたのだろう。
「ナンダ・・・かかってこないのか?」
「くっ・・・・。」
「何度も私を殺したお前なら、この姿でもいい勝負が出来ると思っていたが、キタイハズレだったラシイナ。」
「・・・何を言っている?」
「オット・・・覚えていなかったナ。しかし、今のお前をただ殺しても興ざめだ。お仲間の助けを得た方が良い・・・やりすぎてしまったが、まだ生きているかもシレンゾ。」
「舐めてくれるじゃないか・・・だが甘えさせてもらうぞ。」
奴の余裕な様子は腹立たしいが、少しでも生き残るチャンスがあるなら、どう思われてもしがみつく・・・それが冒険者のプライドだ。
私は仲間の元に駆け寄って、1人1人様子を確認していく。
まず、ザンゲキの様子を確認するが首が潰されて死んでいた。
壁に叩きつけられる前にすでに絶命していたのだろう。
ルキリア、アウグスト、ミリアムは爆発の熱で焼け焦げており、さらに壁に叩きつけられ絶命していた。
マリーシャは四肢が折れ曲がっており、哀れな姿になり果てていた。
(私の復活の奇跡レザレクション《蘇生》を使いたいが、もう枯渇してそんな大きな奇跡は使えない。それに使えたとしても、これだけ損傷が激しいと可能性が低い。死んでいなければなんとかなったのだが・・・。)
「・・・ぃたぃ・・・たす・・・。」
かすかに声が聞こえる。
一瞬空耳かと思ったが、かすかな声だが確かに聞こえる。
「誰だ?」
私はもう一度仲間達の元に駆け寄ると、すぐにその声の主がマリーシャなのが判別出来た。
すぐさま回復の奇跡を使用する。
「この者の傷を癒し塞ぎたまえ・・・・ヒーリング《快癒》!」
彼女は曲がった四肢が元の形に戻っていく。
「いだぃいいいいい・・・ぐぁああああああ!」
無理やり元の形に戻したせいか、彼女は首を振り回しながら絶叫した。
「大丈夫か?」
「ううぅううう・・・いだぃ・・・。」
いつも気丈な彼女も、凄まじい痛みのせいで子供のような表情で涙を浮かべている。
少し時間を置くと彼女も落ち着いてきて表情が変わっていった。
「私は生きているの?」
「ああ、私と君だけは・・・。」
周りの仲間を見ると惨憺たるありさまだ。
「何だい・・・あの巨大な化け物は?」
「不老不死の魔導士の成れの果てだ。アークデーモンらしい。」
「アークデーモン!どういう事だい?」
彼女に簡単に説明をすると、みるみる顔の表情が絶望へと変わる。
「そんな・・・私達二人であいつに勝たないと生きて帰れないなんて・・・」
彼女は震えているが、無理もない。
伝説上の化け物に2人で挑む上に、私の奇跡はつき、彼女の魔術も大魔術一発が限界だろう。
戦わずとも結果は見えている。
「アリーシャ聞いてくれ。一つ手がある。」
「あるとも思えないけど・・・。」
私は彼女に最後の作戦を教える。
「そんな・・・それじゃあ、あんたは・・・」
「それは仕方ない事だ、力の差がありすぎる。それより可能なのか?」
「可能ではあると思う。ただ、うまくいくかどうかは・・・。」
「そうか・・・しかし、やってみる価値はある。」
私達は互いの目を見て頷き、凶悪な悪魔の方に向き直す。




