14話 百合宮邸への招待
3月30日。麗央は耀を家に招待し、自宅の門の前で立っていた。
百合宮邸は、少し坂を登ったところにある白亜の洋館だ。耀たちが門を通って歩いた道のそばには、麗央の母が丹精込めて育てたバラのうち、何種類かが咲いていた。百合や牡丹なども、場所ごとに分けて植えられている。休日には麗央や弟達も、庭の手入れを手伝っているらしい。玄関は吹き抜けで、舞踏会の会場のような階段があった。映画の中の建物のようだったが、冷暖房など設備は現代的で快適だった。
「おじゃまします」
「あなたが美澄さんね、いつも麗央と仲良くしてくれてありがとう」
耀が母に持たされた手土産の焼き菓子を渡すと、麗央の母は麗央と耀を見て、微笑んでいた。
(レオはお母さん似なんだなあ)
麗央の部屋で投資の打ち合わせをしていると、フルーツタルトと紅茶を出してくれた。
「ヨウ、明日誕生日だろう?おめでとう。もし2年生で別々のクラスになっても、時々こうやって過ごしてもらえると嬉しい」
そう言って麗央は、金属製の白薔薇の栞と文房具セットを手渡した。
「ありがとうございます。とっても嬉しいです。こちらこそ、麗央といっしょに過ごしていると毎日が楽しいんですよ?また同じクラスだと良いんですが」
2人が微笑みあっていると、部屋にミニチュア麗央のような小さな男の子が入ってきた。柔らかそうな髪質以外はそっくりだ。
「兄ちゃん、遊んでー。ちぃ兄ちゃん、友達と遊びに行っちゃったー」
麗央の膝にしがみつくと、耀の方をじっと見つめた。
「誰ー?」
「兄ちゃんの大事な友達だ。…ごめん、ヨウ。ちょっと遊んでくる」
「了解です。いってらっしゃい」
(とっても可愛いですね。うらやましい……)
耀がショルダーバックに入れていた英単語帳を、最初のページから赤シートで確認し始めた。そこには間違えたところに付箋が貼ってあり、日付とページ数の書かれたルーズリーフが折り畳まれて挟まっていた。耀は、兄や姉や白石先輩に追いつきたい気持ち、麗央と対等に向き合いたい気持ちから、根を詰める癖が悪化してきていた。心の底には甘えたい気持ちもあったのだけれど…。
残り半分くらいに差し掛かったところで麗央が戻ってきた。
「ごめん、遅くなった」
麗央の顔を見て耀の表情がパッと明るくなり、天使のように微笑んだ。
「いえいえ、大丈夫ですよ。弟さん可愛らしいですね。少し羨ましくなっちゃいました」
「ありがとう」
麗央の目元が優しくなり、微かに笑みが浮かぶ。
麗央と耀は同じ目標を持つ同士兼親友としてその後も過ごし、同じ都会の難関国立大学の経済学部に合格した。2人は、生涯の友でありたいと思っていた。
――その時点では、まだ。




