第58話 圧倒的な個の力
俺が転校生をぶん殴った話は瞬く間に学園中に広がっていった。
というか、校内新聞で大々的に張り出されたしな。
『ナンバーズ鴉羽零亜、転校生を返り討ち!?』って。
「何で返り討ち従わなんだよ…」
「多分、事実でしょ。全く…問題を起こすって言われて電話を切られたこっちの身にもなって欲しいな」
放課後でファフニールの整備を明楽と行いながら雑談を交わす。
「それはすまん、ちょっと急いでたから」
「まぁ…噂どころか普通に聞いたけど。何があったのかを」
「誰に?」
「アウローラさん」
それに関しては俺もアウローラさんに言われた。
あの男の人は、私の婚約者だって。知ってたけどね。
それで逆に知らないふりをしてアウローラさんから情報を出来る限り知りたいと思っていたが…ヴァルティさんの言った通り、アウローラさんは抱え込むタイプの人だってこと。
あの男の名前と婚約者であること、そのほかは何一つとして教えてくれなかった。
「婚約者って聞いたけど…何か幸せそうじゃない気がした」
「やっぱり?俺もそれを感じ取って殴られたから殴り返したんだけどね」
「え、殴られたの?」
「うん」
「…傷は?」
「ファフニールからの痛みに比べたらあんなのはダメージにならない。どちらにせよ、安いパンチを喰らった程度で俺は怯みもしないよ。てかアウローラさんは話してなかったのか?」
「あ、あぁ…あの人が婚約者であることくらいしか言ってくれなかった」
「そうなのか」
「それと零亜…」
「ん?」
「零亜は何になりたいんだ…?」
「どういう意図の質問だそれ」
明楽からの質問に若干困惑しつつも、俺はふとスマホを見た。
「そういえばチラチラとスマホを見てるけど、どうかしたの?」
「クラスメイト…というより、珊瑚からの何があったのっていう確認のメッセージが大量に」
「あー…愛染さんは今日、学園に居ないからな」
珊瑚は現在、学園ではなく事務所にいる。
何でもサマーシーズンのイベントが終わり、また別のイベントに備えレッスン中とのこと。
けど、いつもよりかは学園にいる時間も多いし、自然と俺も話す機会も増え、ついでに阿達さんからの定期連絡も復活した。
理由としては前に俺がボディガードとして働いたお陰である意味、珊瑚のいる事務所は何らかの裏の手が回らなくなったの事。
例として聞いたのは珊瑚や他のタレントを狙った枕営業の強要とかね。
『事務所のタレントを狙えば、魔龍が目覚める。』
そんな摩訶不思議に思える『おまじない』みたいな言葉が、事務所を守ってくれてるんだと。それで阿達さんは業務的にではなく個人的に俺と関わりたいとのことなので普通に連絡を取り合っている。
別に阿達さんが気になるとかそういうは一切なく、普通に珊瑚の親と話してるみたいな感じだ。あとはまたボディガードが欲しくなったら言ってくださいと言ったくらいか。
「普通にアイドルと連絡が取れてるって凄いことじゃないかい?」
「かもな、クラスメイトだから俺も感覚が鈍ってきてるんだろうな」
なんて思いながらスマホをしまおうとしたタイミングで、愛染さんからのメッセージに埋もれた『とある連絡先』からのメッセージを一瞬のうちに確認してすぐにスマホをしまう。
(アウローラさんはそれしか教えてくれなかったけどな。アウローラさんは、な)
実は俺がその暴力をやったおかげで別の情報源を仕入れることが出来た。
俺があの婚約者…確かガディ・パヴォーネだったか?アレをぶん殴った後、騒ぎに乗じて俺の懐に一枚の紙を忍ばせてくれた人がいる。
俺が指導を受けた後に教室に戻っていく途中で足を止めてその紙を確認すると連絡先が記されていて、連絡先として登録した後にメッセージが送られてきた。
(まさか、あっちから俺にアクションをしてくるとは思わなかった)
相手は…『桐ケ谷氷水』さんご本人。
物静かな雰囲気を感じ取っていたが、騒ぎの中で俺に連絡先を渡してくるっていう大胆な行動力がある人だと考え直した。
(『本日の夜に貴方の部屋に伺います』ね…)
さっきのメッセージを見て、そう思わざる負えなかった。
ーーー
その夜、俺はいつも通りに床に就くのではなく、普通に起きていた。
あの桐ケ谷氷水さんからのメッセージの通りであれば、俺の部屋に来るらしいが本当に来れるのだろうか。
流石にあっちの事情が分からない分、そういう派手なアクションはしない方がいいと思っているが…なんて思っていると
――コンコン。
「!!」
扉がノックされる。
俺はすぐに立ち上がり、扉に付いているドアスコープを覗き込む。
やや白みががかった髪色をした女子が周囲を見ながら俺の部屋の扉を見ていた。
それ確認し、ドアを開ける。
「!!」
「桐ケ谷氷水さん、だな?」
「な、なんで私の名前を…」
「良いから入って」
そう言って、手招きするとすぐに桐ケ谷氷水さんは俺の部屋に入ってきた。
「大丈夫?」
「う、うん…」
「とりあえず、飲み物を出すよ。今ならお茶か水になるけどどっちがいい?」
「水で…」
「わかった」
桐ケ谷氷水さんを椅子に座らせて、食器棚からコップを一つ取り出して、氷を入れてから水を汲んで桐ケ谷氷水さんの向かいに置いた。
それから俺の向かいの椅子に腰を掛ける。
「それで…もう一度確認するけど桐ケ谷氷水さんであってるよね」
「はい…私の質問を返しますけど、何で私の名前を」
「細かに言えないけど、とある人から依頼を受けててね」
「依頼っていうのは…」
「ガディ・パヴォーネを潰す」
「!!?」
「それでアウローラさんを救ってほしいっていう依頼を受けた」
「アウローラさんを…あ、もしかしてヴァルティさんからですか?」
「知ってたのか」
この人は桐ケ谷氷水さんで合っていて、同時にヴァルティさんの事も存じている。
尚更、関係者であることは間違いない。
「たまにアウローラさんの話せない情報を私に話していたので…」
「なるほどね」
「ということは、貴方が協力者ですか?」
「ヴァルティさんから何か言われたのか?」
「は、はい…何でも圧倒的な個の力を持つ協力者が俺たちを守ってくれるとかなんとか」
圧倒的な個の力…それはどちらかというと俺ではなくてファフニールの方なんじゃないか?
いやまぁ、ARMOR”sとしての戦績であれば個の力は少しだけ納得は出来るが、生身は…って思ったがそういえばファフニールの影響なのかわからないが身体能力が向上しているのを思い出した。現に殴り飛ばしたしな、あの脂肪の塊を。
「多分、俺であってると思う」
「わかりました。えっと…それでヴァルティさんから既に頼まれたことを貴方に話しても?」
「あぁ、教えてくれ」
「それと…名前は?」
「鴉羽零亜。呼び方はそっちに任せる」
そんなわけで深夜の作戦会議という名の、情報共有が始まった。
まずは俺が知ってる情報と桐ケ谷さんが知っている情報の交換が始まる。
「俺が受けた依頼としてはアイツだけを潰す事。それで潰すにあたってアイツの母親はこの事を知らないとヴァルティさんから聞いた」
「それはこっちもです。私もヴァルティさんからそれを聞いて、ARMORの整備をしつつ、本社内のデータサーバーにハッキングを仕掛けて情報を抜き取りました」
「さ、サラッと言ってるけど、とんでもないことしてるな…!?」
本社内のデータサーバーをハッキング!?
そ、そういえば桐ケ谷さんは姉の為に、一からARMORを創ったって聞いたな。
そりゃハッキングの一つや二つは造作もないって認識でいいのだろうか。
「それで分かったことは?」
「計画である人格移手術は本社ではなく、別の研究所で行われるという事です」
「別の?場所は」
「…ここです」
そう言いながら桐ケ谷さんは俺のスマホに何かの情報を送ってきた。
それは…座標だ。
その座標を入力し、場所を確認すると…。
「エデン研究所…?」
「はい、ここはパヴォーネ社直属の研究所です」
「!!」
「確実にここで人格移行手術が行われると思います」
なるほど、ガディ・パヴォーネの会社の研究所か。
非常にきな臭く、手術とかをするならうってつけの場所だろうな。
「ただ、既に私個人で調べてマズイことが二つ有ります」
「教えてくれ」
「一つ目はもうその手術が決行される可能性が高いという事です」
「!」
「データサーバーにアクセスする際に監視カメラやその他の情報も確認して、人がせわしなく出入りしていることが分かりました。最初は人の異動などを疑いましたが…見たことない機材や大量の物品がその研究所に流れていることを確認したので、決行はもうすぐだと思います」
見たことない機材に大量の物品か。
確かに準備が完了している可能性としては十分にある。
「それで二つ目。アウローラさんを確実に手に入れるために…ソフィー生徒会長が狙われている事です」
「は!?」
急にとんでもないことを言われて、声を荒げてしまう。
アウローラさんを手に入れるためにソフィー生徒会長を狙っているだと!?
「何でソフィー生徒会長が…」
「簡単に言うならあの男が欲しているのはこの学園の『生徒会長』という権限です。権限自体には上限がありますが、生徒会員であるナンバーズの出撃や任務などは生徒会長の権限で動かす事もできます。仮にその権限でアウローラさんを特定の場所へ向かわせることが出来たら…」
生徒会長の権限でナンバーズの特定の人財をエデン研究所に送らせるって手法か。
正直、生徒会長というものにそんな権限があったことは知らなかったが…その為だけにソフィー生徒会長が狙われるのは理には適っているが腑に落ちない。
てか、ソフィー生徒会長に勝てるのかと疑問に思ったが…ふと思い出す。
「!!!」
改めて考えれば、『今』はソフィー生徒会長の生徒会長という肩書を狙う絶好のチャンスだって事が。
「今…ソフィー生徒会長のロビンフットは使えない」
「それです。既にあの男が根回ししてロビンフットの改修を遅らせています」
「そこまで用意周到なのか」
「はい。しかし…あの男がどこの企業にその根回しをしたのかはわかりません」
「いや、十分だ。ありがとう」
分からない事もあるかもしれないが、情報としてはあまりにも大きく重要性も高い。
あのガディ・パヴォーネが狙っているのはソフィー生徒会長の『生徒会長』という肩書ではなく権限。その権限を行使し、アウローラさんをエデン研究所に送らせる事。
「やっぱり、あの男をぶっ潰すしかない」
それ以外は無い。
「何か俺に出来ることはないか?」
「私なりの考えですが、それでも良かったら」
「教えてくれ」
「…まず私から鴉羽さんに出来ることとしてあの男の位置情報としていることを逐一報告します。鴉羽さんはとにかくそれを阻止してくれませんか?」
「それは良いが、何でだ?」
「こんなふうに言うのもなんですが、あの男の矛先をアウローラさんではなく鴉羽さんに向けさせたいのです。今、あの人に抵抗できるのはこの世界であの母親か鴉羽さんだけです。その鴉羽さんがひたすらにやりたいこと全てを邪魔すれば嫌でもヘイトは鴉羽さんに向き、貴方を排除する動きに変わると思います」
「…」
「そうすればおのずとソフィー生徒会長へと向けられた決闘の刃は自然と貴方に向く可能性が高いと思っています」
「つまり、ソフィー生徒会長へのヘイトを俺に向けさせて俺が叩き潰す。そういうことか?」
「はい…ですが」
なるほどな…単純明快で理に適っている。
けど、桐ケ谷さんは申し訳なさそうにしているのは単純に俺がヘイトを受けないといけないって事だろう。
「私たちの問題を鴉羽さんに背負ってもらうのは…」
「構わないよ。俺としてもナンバーズとして同じ仲間が危険にさらされているのも嫌だし、助けられる人がいるなら出来る限り助けたい。これはナンバーズとしてもかなり合理的な考えだと思うし…それに」
「それに?」
「俺はああいう奴が嫌いだ。人の価値観を押し付け、挙句の果てには人を平気で危険にさらさせるような奴が」
そうして俺の目的が再度改まった所で、そろそろバレるとまずいので部屋に戻りますと言い残した桐ケ谷さんを見送り、俺は静かに眠りについた。
ーーー
翌日。
俺は早速桐ケ谷さんに言われた通りに、ガディ・パヴォーネがしようとしたことを片っ端から潰していった。
ある時は他の生徒に詰め寄っていたところで
「アウローラさん」
「え!?鴉羽君!?」
「げっ!?」
「ん?あぁ、居たのか…んで?お前は妻も居るのに他の生徒の腕を握ってるのは俺の幻覚か?明らかに嫌がっているが」
「う、うるさ」
「それ以上変な事をすればまた吹き飛ばしてやるが…どうする?」
「くっ…!?」
ある時はソフィー生徒会長に喧嘩を売ろうとしたところで
「あ、八神さんにソフィー生徒会長!」
「鴉羽零亜?」
「鴉羽か、どうした?」
「くっ…またお前か…!!」
「こっちとしては行く先々にお前がいるせいで気分が下がるんだが?」
「くっ…ずっとついてきやがって!!」
「あ?」
「ひっ!?」
全ての行動を敗走させた。
そういうある時で何もかもを叩き潰し、やりたいことも権力も全てを俺が全部未遂に変えていったが、一度だけアイツをまた吹き飛ばした。
今でも許せないのはアイツが明楽を狙ったことだ。
勿論、問答無用で拳を叩き込んだ。俺の親友や仲間に手を出す奴は絶対に許さない。
また怒られたけど…。
『明らかにあの男のヘイトは鴉羽さんに向いています。自然と私もアウローラさんもひとりの時間が増え、アウローラさんの調子も戻りつつあります』
「それは良かった。それで…決闘の矛先はどうなってます?」
『決闘をすると教員に報告し、三日後に決闘場で決闘が行われますよ。対戦相手は…貴方です』
「分かりました。こっちも準備しておきます」
『ですが、気を付けてください。何をしてくるかわかりません、もしかしたらARMORに何らかの細工がされる可能性もあるかと』
「それは絶対にありえないので、安心してください」
『どういうことです?』
◇◇◇
「クソ…クソ!!あの男…!!」
件のガディ・パヴォーネは明らかにイライラしながら、パイロット科の格納庫に来ていた。
相当ムカついているのかアウローラと桐ケ谷を置いて、一人でここまで来ている。
(しかし…決闘を申し込めばこっちのものだ…!)
ガディの手に握られているのはARMORの制御をガディ本人の移す装置。
ARMORの製造企業が故の、市場には出回っていない言わば黒寄りの品物。
それと鴉羽の専用機『ファフニール』に無理やりつけさせ、決闘で蹂躙するというのが彼の作戦。
既に決闘の日時は決まっているので、細工をしておきその日まで待つというのはこの卑怯者の手はずだった。
「これか…」
ガディは憎い鴉羽のファフニールを見つけ、装置を手にしてファフニールに一歩寄ろうとした。
次の瞬間
――…ィィィィィンッ…!!
「なっ!?」
唐突にファフニールはカメラアイに光りを灯し、ARMORの拘束具を外そうとする。
「な、何で動く!?アイツは今授業中のはず…!!」
そう、この男はファフニールという機体がどういう物なのか、鴉羽の関係性と全く知らない。
目先の勝利のために行動しようとした。
その結果、ファフニールは自身の拘束具を片方はずし、ガディ目掛けてアームを振り下ろす。
「ひっ!!?」
ガディは装置をおいて、巨体を引きずり回避する。
ガディ自身は怪我をすることはなかったが…先程の装置はひとりでに動き出したファフニールの拳によって鉄板に変わり、クレーターが出来上がった。
「な、何だよ…何なんだよアイツは!!」
そして、ガディは頭の中の鴉羽にひたすらに怒りをぶつける。
しかし、頭の中にいる鴉羽は例えガディの心の中の世界でも…煽るかのように嘲り笑っていた。
「クソ!!クソクソクソ!!」
床に拳を叩きつけ何度も何度も声を荒げる。
そして、怒りのままにガディは次の計画を立てる。
「…こうなったら、計画を強制的に実行してやる…!!」
そう決意したガディは…深夜になったAT学園の寮の部屋の前に到着する。
そこは女寮の為、本来は男子生徒は入ることはできないが…ガディは武装した連中を連れてとある部屋に入る。
「…んん」
「よし、連れていけ」
その部屋のベッドの上ですやすやと静かに寝ている『アウローラ・ヴァルティ』を確認して武装した連中に命令を下し、両手両足を拘束して口元に布を付けてから運んでいく。
そうして…アウローラ・ヴァルティとガディ・パヴォーネは夜の闇に消えていった。
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




