第57話 伝えたい事とは
「はぁ…」
翌日。
結局、学園祭は中止となった。
内通者の出現、悪意のある侵入者、そして…死者。
殺害したものがどういう連中なのかは、俺以外誰も知らない為、来賓や生徒、教師にどういう被害や影響が出るかわからない。
そんなわけで学園祭は中止、全校生徒は自室の寮で待機が命じられた。
俺は…ベッドに寝転がり天井を見上げてため息をつく。
(俺の部屋ってこんなに広かったっけ…)
部屋が広く感じるのはいつもよりも静かだからだろう。
静かに感じる原因であるアリスは未だに寝ているままだ。
熱も下がらず、何かにうなされていると保健室の先生から聞いた。
「…」
心配が勝る。
今でも、ずっと。
「そういえば…」
ふと、ヴァルティさんから受け取ったUSBメモリーを思い出した。
今ならタイミングもいいだろう。誰も来ないし、暇だし。
俺はベッドから立ち上がり、机の上に設置しているPCを起動し、モニターに電源が付いたことを確認したらPCにUSBを挿入する。
ピコンと音がなった後、マウスを操作し、エクスプローラーを開いてからUSB内のファイルを展開する。
「何だ、これ」
中に入っているファイルは三つ。
一つ、『計画書』。
二つ、『契約書』。
三つ、『報告』。
凄く淡々としているが、こういう淡々としている方が俺的には好きだな。
何が書いてあるかわかりやすいし、どういうファイルなのか想像もつきやすい。
とりあえず…上から見ていくか。
計画書と記されたファイルをクリックし、中を展開する。
中にあったのは、確かに計画書だ。
「『人格移行手術』…?」
普通にきな臭い計画書だな。
関係会社名は全て塗りつぶされていて何もわからない。
対象者は…アウローラ・ヴァルティ。
うん、対象者にある程度の予想が付いていたがそれ以上に気になるのは手法だ。
対象の脳に特殊な電磁波を放ち、人格を乖離させ、離れた人格を別の肉体に転移するとのこと。
単純明快だが…正気とは思えない。
そもそも特殊な電磁波がどういう物なのかわからないし、人格を乖離させる行為自体、元の対象者の精神を破壊しかねないし…別の肉体って何なんだっていう。
仮にロボットならいい、なんてならない。
最近ではロボットにも人のような心や高度な知能を搭載させようと躍起になっている企業とかがあったが…軒並み手を引いている。
理由は単純だが、そんなことを考えられる時間が無いってことだ。
今はオールイーターの殲滅が最優先であり、数多の技術者の叡智は全てARMORに向いている。
同時に、過去にロボットに人の心を宿らせた企業が居たが…結果で言うと大失敗どころか倒産。
原因は…処分=殺害ってことだ。
例えロボットでも人間と同じように心を持つのなら人間同様、高度な知能や感情を持っている。それも人間と瓜二つの。
そんな状態のロボットを処分なんてするなら…それは人間を捨てるのと一緒だ。
もう、大批判でSNSでは大炎上。
それで国に新たなルールとして『特殊条件下以外の超越したロボットを作成することを禁止する』が追加された。
「それなのに実行しようとしてるやつが居るのか…しかも、普通の人間に」
これは止めないといけない計画だ。
だが、気になることもある。
この事を無理やり婚約関係になったクソ野郎が知ってるかどうかってことだ。
次に契約書を確認する。
「あぁ…ダメだなこれは」
見てすぐに理解した。
アウローラさんの婚約者はそれを理解している…同時に何で婚約関係になったのかを理解した。
記されているのはアウローラさんの婚約者である『ガディ・パヴォーネ』が代わりにサインしたという事。
これを見て理解したのは、婚約者の名前は『ガディ・パヴォーネ』でその婚約者がアウローラさんの人格移行手術のサインを代わりに書いているという事。
代わりに書くメリットがあるとするなら…この婚約者の会社が人格移行手術を行う可能性がものすごく高いという事だ。
「…」
最悪のことを考えるのなら、企業そのものを相手にしなければならない。
ただ…問題は、一企業を潰せるほどの力や地位は俺にはないという事。
…ファフニール、それはダメだ。忘れてはならないのはファフニールはAT学園のARMORだ。乗れるのは俺しかいないけどな。
「どうしろって言うんだよ…」
件の御曹司兼婚約者を潰しても、企業という根があるのならアウローラさんが危険に晒される。
そして人質に取られている『桐ケ谷氷水』という女子生徒も。
一呼吸入れてから冷静に問題を整理するが、あまりにも一人の生徒に解決できる問題という限度を越えている。
ほぼ不可能だ。
「ふぅ…」
現状、今の俺に出来ることはないが…ヴァルティさんが俺に伝えようとしていることは全て確認しないと。
最後の『報告』を開く。
中にはボイスメッセージが記されていた。
『鴉羽零亜、お前に渡す情報は証拠として他の書類の二つだけだ。他の情報は口頭でしか説明できない。仮にお前が先に二つの書類を確認したのなら…解決方法が分からないと思っているだろう。そこで解決方法をこちらで見出しておいた。証拠や記せるものはないが…信じてほしい』
「そんな方法があるのか?」
ヴァルティさんの録音されたメッセージに対して返答が来ないことを理解しつつも、言葉として口から出す。
『まず俺が調べた限りのお前のメリットを説明する。第一に今のお前の立場ですぐさま学園から退学というのは絶対にありえない。単純にお前とファフニールの価値はAT学園のみならず、メディアや世間でもARMOR’sの絶対的なる矛とも言われている。そんなのが外部からの圧力で消えようものなら確実に問題に発展し、圧に負けた学園に外部から圧力をかけた企業の二つはバッシングを確実に受けて、今後は変に動くことはできなくなる』
(俺たちってそんなに評価されてたのか…実感ないな)
なんて思いつつ、久々にスマホを取り出してニュースやSNSを確認すると…確かに俺の記事がちらほらとある。
軽く見ると…俺の決め手になったのが珊瑚のライブの事だ。
ボディガードとして責務を全うし、ARMOR”sとして民を守り、オールイーターを倒した。
最もオールイーターを倒したという記憶は全くないが…そのことを珊瑚が所属する事務所の社長が大々的に話し、俺とファフニールが世間に知られ…今に今に至るってことか。
『正直、このメリットはかなり大きい。相手は一流のARMORの製造企業とはいえ、最前線の矛を務めるお前を潰すことはリスクがあまりにも大きい。多分、アイツはそのことを理解していないだろうが社長である実の母親は別だ。というより、母親事体がこの計画を知らないことも分かった』
「!!」
『聡明な社長なら理解しているだろう。製造企業がお前たちを潰そうものならARMOR自体のシェア率は上がるが、同時に物凄い量のコストとARMOR’sの弱体化につながる。企業としては得しかないが、あくまでそれは一時的な物だ』
「なるほど…」
『この二つの事を纏めれば…私たちのゴールは簡単だ。実の子を失脚させるかどうかは分からないが…アイツの悪行が知れ渡れば人質どころか企業そのものに大打撃を与えられ、最悪失脚に繋がり婚約関係も何もかもが破棄される。故にこの戦いのゴールは…』
『アイツだけを、的確に、慈悲なく、跡形もなく、潰せば終わる。』
ーーー
翌日。
クラス内は転校生の話で持ちきりだった。
学年上の先輩に俺と同様に男性のARMOR”sが来たという事に。
『って話を風のうわさで聞いたけど、どうなの?』
「本当だし、丁度会いに行く」
昼休みとなり、明楽と電話しながら俺は件の婚約者の元へ向かう。
『それはアレかい?同じ男性ARMOR”sとして?』
「いやどっちかって言うとアウローラさんに用がある」
『な、何でそれで先輩に会いに行くことに?』
「すぐに分かる。それと…明楽」
『うん?』
「今から問題を起こしてくる、んじゃ」
『…え!?ちょっとま』
そういって一方的に通話を切った。
別に今日会う予定はなかったんだが…ま、どんな感じの奴かっていうのは把握しておきたい。そんなわけで…学年上のアウローラさんと件のアイツがいるクラスの前についた。
(?)
一応、アウローラさんに声をかけて用事があるよって雰囲気を出してから中に入ろうとしたが…何か静かだな。
てか、他のクラスは普通に話し声とか聞こえて来るのにここだけ異様なほど静かだ。
(どうでもいいか)
何が起きてるかは自分で見て理解する。
少し息を吐いて、気分を落ち着かせ…覚悟を決めて教室の扉を開く。
「失礼します、ナンバーズ鴉羽零亜です。ちょっとアウローラさんに用事があり、教室にきました」
と、声を出して中に入る。
「え、鴉羽君!?」
「…」
中に入ると他の先輩は俺を見てギョッとしているのと助けてほしそうな顔をしてこちらを見ている。
それと、アウローラさんと隣にも知らない女子生徒が立っていて…
(コイツか)
件の奴をこの目で捉えた。
金髪で如何にも金持ちのボンボンみたいな見た目をしていて、少々腹辺りに肉がある。
うん、すっごい違和感を感じる。
「誰だお前」
「ナンバーズ鴉羽零亜、以上。それでアウローラさん、前のナンバーズの事で聞きたいことがあるんですが」
簡易的な自己紹介を済ませて、すぐさまアウローラさんに話しかける。
しかし
「おい!」
その男は俺の肩をやや乱暴に掴み、俺の胸倉をつかんできた。
「ん?」
「許可なく僕の妻に声をかけてんだ」
「そりゃ業務上の話だろ。重いな、お前」
「あ?」
「タダの業務の話程度で嫉妬するテメェに問題あるだろ。てか、早く離せ伸びる」
「テメェ…!」
俺の制服の胸倉をつかんでいる手に力がこもったのを感じる。
とは言え、これで一つの事を確信した。
(無力化…いや半殺しまで行けるな)
力の差を感じ取れた。
贅肉だらけの坊ちゃんに負けを取るほど、俺は落ちぶれていない。
てか、これくらいはさっさと振りほどける。
「か、鴉羽君!その…話はあとで聞くから…!」
明らかにアウローラさんが焦りながら俺を止めに来る。
俺を止めに来るのか…それは婚約者に怪我をしてほしくないのか、はたまた俺に怪我をしてほしくないのかどっちなんだろうな。
「もうメンドクサイのでこのまま話しても?」
「え、えぇ…!?」
「前にソフィー生徒会長が話していたナンバーズのコンビネーションについて聞きたいことがあって、単純に今の俺にコンビネーション云々の鍛錬とかそういうのを聞こうと思ってました」
胸倉をつかまれたまま、アウローラさんを見つつ話していたら
――ドゴッ!!
「!」
左の頬に鈍い痛み。
「許可なく話してんじゃねぇよ、カスが」
よし、殴ったな?
「殴ったな?」
「あ?」
「待ってたぜ」
そういい、俺は胸倉をつかんでくる婚約者の手を握り返し、そのまま振りほどいたと同時に…拳に思いっ切り力を込めて
――バギャアァッ!!
「ぶっ!?」
婚約者の右頬を思い切り殴り抜いた。
巨体が宙に浮き、教室の黒板に背を叩きつけて…婚約者は蹲った。
「うがぁっ…!?」
「んー…これが俺と同じ男のARMOR”sか。はぁ…流石に風評被害を受けたくねぇ」
「お…おまえ…ぼくに手を上げたな…!」
「先に殴ったのはお前だろ」
「後悔させてやる…僕の家族は」
「一流のARMOR製造企業の社長なんだろ?」
「!!?」
「な、何で知って…!?」
後ろでアウローラさんが驚いたような声を出す。
まぁ…ヴァルティさんが教えてくれたから知ってるってだけだけど。
「用は温室で育ったぼんぼんって事だろ?」
「おまえ…!!」
「ん?何か間違えたか?」
「ふん…!今、僕がママに言いつければお前はこの学園から去ることになるんだぞ!!」
「そう」
「…」
「…」
軽く返事をすると、そのまま静寂がクラス内を埋め尽くす。
「…そ、それだけか!?」
「あぁ、それだけだ。別に勝手にやったらどうだ?」
「何だと!?」
ヴァルティさん曰く、俺が学園から退学になることはないと言われたが…流石に正面から担架を切るのはちょっとやりすぎたかもな。
まぁ謝る気にもならないけど。
「後悔しても遅いぞ…!!」
そういって婚約者は懐からスマホを取り出し、何処かに電話をかける。
十中八九、社長さんだろうな。
「もしもしママ!AT学園の男子生徒が殴ってきたんだけど!え?…うん、確かに手枷足枷を付けてるけど…え!?どうしようもできない!?」
(おぉ…息子はこんななのに社長は結構しっかりしてるっぽいな)
ヴァルティさんが言った通り、俺をこの学園から消すことは難しいみたいだ。
ありがとう珊瑚の所の社長。間接的だけど俺を救ってくれてありがとう。
「ちょ、ちょっと待ってよ!?何で…ママ?ママ!?」
明らかに今までにない感じのようで汗だらけでスマホに必死に叫んでいる。
「く、クソ…!」
「終わったか?」
「う…うわぁぁぁぁぁ!!」
万事休すでパニックになったのか、俺の向かって拳を振り上げながら走ってくる。
遅い、遅すぎる。
しかも、これで俺と同じARMOR”s?
「はぁ…」
ため息をついてから後ろを見る。
「…?」
アウローラさんの隣にいる女子生徒。
やや白みがかった髪色に、細身で少し傷がある。
桐ケ谷氷水さんで間違いないだろうな。
コイツのせいで氷水さんは姉に作ったARMORを盗まれ、姉を失ったんだよな。
(クズ野郎が)
頭の中でそうつぶやきながら、拳が振り下ろされる前に俺の蹴りが…顔を捉え、鼻血をまき散らしながら男はばたっと倒れた。
「…」
この後、ソフィー生徒会長に八神さんも来て俺は生徒指導室に連れていかれた。
そして洗いざらい全て話すと教師は複雑そうな顔を俺に向けている。
一流企業がこの学園に圧力をかけてくることに対する憂いだろう。
気持ちは分からないが…どうか俺の行動は大目に見てほしい。
俺は助けるつもりで、こういう行為をしているんだ。
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




