第55話 目的の分からぬ伝言からの真意
「やっぱりか…」
傍聴者からの伝言を見て、俺はその一言が自然と口から出ていた。
連中の狙いはやはりアリスか。
目的が分かってしまえばこっちのものだが…問題がある。
仮にアリスと俺が一緒に居る時に周囲の人間にアリスが人工的に作られたオールイーターであることを公表された場合だ。
俺の立場や学園の評判にも傷が付くだろうし、何よりもアリスがどのような仕打ちを受けるのかが未知数だ。
…分かってる。けど、それは最終手段だ。
ファフニールは…仮にアリスが攫われた際には俺とファフニールのみで武力を振りかざし、取り返すことを提言する。
だがあくまでそれは最終手段だ。
出来ることなら、関係ない人を巻き込みたくない。
「お、お兄ちゃん…」
「大丈夫だアリス。俺が守るからな」
「うん…」
アリスは先程の伝言を見て理解しているのだろう。
恐怖し、俺の身体を密着させてくる。
(オールイーターなのは今でも信じられないが…こんな子供が何の脅威になるって言うんだ)
論理的に考えてオールイーターだからこそ、アリスを攻撃するやらなんやらならまだ理解できる。だが、こんな子供をだぞ。
罪悪感すらわかないのなら血も涙もない。
それこそ…俺が人間を恨む理由になりそうだな。
「とりあえず、お昼だし…ご飯でも食べるか」
「うん!」
このままだとアリスは恐怖で精神的にも辛いだろう。
丁度良く昼食の時間になったので、コックピットから受け取った弁当を取り出す。
まだ温かい。
多分、大きさ的に大きいのが俺なのか?
大きい弁当を手元に持って、もう一つをアリスに渡す。
それを受け取ったアリスはすぐさま、弁当の蓋を開ける。
そこには…
「おぉぉぉ…!」
見事にオムライス。
しかも、ハンバーグ、スパゲッティ、サラダにエビフライもある。
これはどうみたってお子様ランチだ。
もうすっごいアリスは目を輝かせている。
「俺のは…?」
俺も弁当のふたを開けると…そこにあったのは色とりどりのいなり寿司と漬物だ。
包まれているのではなく、オープンになっているタイプのいなり寿司。
いいねぇ、色とりどりでとても風情がある。
まぁ風情なんて感じられない場所にいるが。
「お兄ちゃんのは?」
「いなり寿司だ」
「いなりずし?」
「そう、いなり寿司。食べてみる?」
「うん!」
俺は箸でいなり寿司を一貫、掴んでアリスの口へ運ぶ。
アリスはいなり寿司をパクッと食べる。
するとみるみるうちに顔が笑顔になっていく。
「おいひい!」
「口の中にあるのを飲み込んでからでいいからな、美味しいのは十分伝わってるよ」
俺もいなり寿司を食べる。
うむ…美味い。
ありがとな、赤月さんに珊瑚…それにクラスメイトのみんな。
みんなの心意気のお陰で俺には活力、アリスには笑顔が出てきた。
こういう食事って大切なんだなって心から思いつつ、俺はコックピットの中での食事に舌鼓を打った。
「お兄ちゃん、オムライスも美味しいよ?」
「そりゃよかった」
「食べる?」
「気持ちだけでいいよ」
ーーー
そうして俺たちは昼食を食べつつ、警備にあたっていたが…これといった異常もなく、普通に交代時間になった。
今度はアウローラさんが警備に入る為、ヴィオーラが来たのを確認し、俺たちはパイロット用の格納庫にファフニールをしまった。
ここからはアリスが待ちに待った自由時間。
「おー!」
AT学園の学園祭は…凄いな。
何というか規模というか熱量というか。
生徒が結構本気でやっているし、先生も乗り気が故に生徒と一緒にご飯を食べてたりもする。
まぁ、警備を行っている人が居るお陰だろう。
「お兄ちゃん、アレは何?」
「どれだ?」
「あの赤くて丸いの!」
「アレはりんご飴。食べる?」
「うん!」
見ての通り、アリスは大興奮。
見る物全てが彼女にとって真新しい物だろうし、興奮は抑えられないだろう。
俺も…これくらいの年齢だったら、興奮してたかもしれないな。
もっとも、その時の記憶がないんだがな。
屋台でりんご飴を一つ買い、アリスは食べる。
りんご飴と同じくらい頬を染めて、笑顔のアリス。
自然とこっちも笑みが零れる。
「美味しい!」
「だろうな」
ありきたりな感想しか出てこないが、ありきたりで十分。
それから俺とアリスで様々な屋台や他のクラスの店を回った。
射的、輪投げ、爆弾解除は…正直何でこんなものを出し物に入れた?というか誰が許可したのかと頭を悩ませていた。
「結構回ったな、アリスは疲れてない?」
「ぜんぜん!」
「そりゃよかった」
元気いっぱいだな本当に。
俺の方が振り回されてしまうな…。
なんて思っていたら
「あれ、零亜にアリスちゃん?」
後ろから声をかけられ、振り向くと…そこには明楽が居た。
「明楽、クラスの方は?」
「丁度休憩に入ったよ、そしたら妹に振り回されてる兄を見ちゃってね」
「そうかい…」
「お兄ちゃんの親友の明楽?」
「え、長…普通に明楽でいいよ、アリスちゃん」
「うん!」
そうか…アリスからしたら俺からの明楽の呼び方は親友って結構言ってたし、そうなるのか。
「ちゃんと紹介しといてよ」
「す、すまん…」
普通に反省。
「それで…二人は何してたの?」
「普通に屋台巡りだな。アリスが行きたいところを片っ端から行ってる感じ」
「だから振り回されてたの…」
「歳を感じる」
「同級生のくせになに年寄りぶってるってるの?」
「正論を言うな」
なんてお互いに話し合いつつ、アリスを交えて屋台巡りに戻る。
やはり…アリスは未だにエンジンが切れていない。
むしろ、食べたり飲んだり遊んだりするたびにどんどん回復していく。
もう…凄いよ、子供の体力っていうかなんというか。
なんて思っていたら
「!!」
「あっ…」
俺と同タイミングでアリスが何かに反応する。
俺は…ファフニールからの伝達を耳にする。
(…こっちを発見したのか)
連中がこっちを見つけ、走ってきている。
…安心しろ、目視で発見した。
白衣を身に着けた連中三人と武装している奴二人。
アリスも見えてしまったのだろう、顔色が悪くなり明らかに恐怖で怯えている。
「どうし」
「明楽、すまん。アリスを頼む」
「え?」
「良いから早く!」
「う、うん!」
恐怖におびえるアリスを抱えて、明楽に預けて二人の前に立つ。
白衣の連中は俺を見るなり足を止めるが、武装している奴らは客の事関係なしに俺に刃を向けながら一定の距離を取る。
学生も客も、突然の事態に混乱はしてはいるが…流石、AT学園の生徒。
すぐさま状況を理解し、連中から距離を取った。
「実験体Compassion…!」
「ひっ…!?」
アリスをその名で呼んだという事は、やっぱりあいつらか。
「今すぐ、施設に戻るぞ…!」
俺の事なんぞ気にせず明楽とアリスにずんずんと距離を詰める一人の白衣。
俺は…割って入り、右手で白衣の男の顔を掴み
――メキメキメキッ!!
「が、がぁぁぁぁぁぁ!?!?!」
上に持ち上げる。
「き、貴様!?誰に手を上げてるか分かっているのか!?」
「お前たちこそ、ここが何処なのかわかっているのか?」
俺に捕まれ、悲鳴を上げる男の事なんぞ気にせず、他の白衣の男の質問に答える。
「ここはAT学園、しかも学園祭だ。他の来賓や重要人物がいることを理解しての行動か?」
「黙れ!」
「こっちのセリフだ。お前たちのよく分からん行為に理解しようもする気もない」
バキッと音が鳴り、右手から音が鳴り掴まれた男の両手はプランと下に下がった。
それを確認した俺は他の白衣の連中に投げ返す。
「ぐあっ!?」
「安心しろ、殺してない。まぁ…気絶はしているだろうがな」
「貴様…!!」
「それと言っておくが、武装している二人」
「!」
「別に俺を攻撃してもいい。だが…悪いが今俺は虫の居所が悪くてな、手加減は出来ん。死ぬほど痛い思いをしたくなければ刃を納めろ」
「…ッ!?」
俺の言葉に何かを感じ取った武装している二人は…静かに刃を納めた。
「な、何をしているお前ら!早くアイツを殺してサンプルを…!」
と、白衣の連中は武装している二人にやや怒鳴りつつも告げるが二人は無視して駆け足でAT学園から走り去っていった。
「くっ!使えないゴミが…いくら金を積んだと思っている!」
「金で命は買えないって事だろ。無論、品性もな」
そう告げながら俺は指をパキパキと鳴らし、明らかに腰が抜けている白衣の連中に歩み寄る。
「AT学園、ナンバーズ鴉羽零亜。不法侵入者及び武装不可区域にて武装し、他の来賓や生徒に刃を向けようとした対象を拘束する」
淡々と言いながら一歩一歩と距離を詰める。
すると、白衣の連中の一人が声を上げた。
「い、いいのか!周囲で見ている奴ら!あの少女はオールイーターなんだぞ!?」
正直、一番言ってほしくないことを。
「オール…イーター…?」
「嘘、アリスちゃんが…!?」
「あんな少女が…?」
やじ馬たちがアリスを見ながら、各々の意見を交わす。
一部は驚き、一部は疑問を持っているようだ。
「そうだ…だからこそ、その少女を」
…あぁ、そうだなファフニール。
オマエと俺の考えは一致している。
そして何をするのかも決まっている。
「渡すわけねぇだろ」
そう告げて、俺は白衣の連中の首を掴み持ち上げる。
「が…!?」
「ぐっ!?」
明らかに苦しそうにこちらを見ている。
何の罪悪感も感じないな。オマエらは同じ人間とは思えないしな。
「そんな戯言誰が信じる?」
告げなくていい真実はある。
言っていい嘘もある。
俺は…俺たちはアリスを守る。
「何かを勘違いしているようだが、第一にお前たちは…この学園の侵入者だぞ?ただ偉そうにふんぞり返り、アリスを攫いに来た不審者だ。不確定要素を信じるほどこの学園は馬鹿じゃない」
「がぁぁっ…!?」
「英雄、名探偵ごっこをしたいならよそでやれ。てかさ…お前たちが言う通りあの少女がオールイーターだったとしよう。じゃあ聞くが、『誰が』オールイーターにしたんだ?」
「!!?」
二人の白衣の表情がぎょっとする。
「今のところ人型のオールイーターなんて情報はない。おかしいよな?最前線に位置しているAT学園のARMOR”s達、ましてやナンバーズを知らないことをただ白衣を着ている連中が知っているなんて明らかに不自然だ…なぁ?お前たちは何を知っている?」
「ぐぅっ!?」
俺の両手に力がこもる。
「俺はあの子と共に過ごした。一緒に授業を受け、共に食事をし、楽しいことを経験した。喰われることも襲われることもなかった!そんな子がオールイーターっていう証拠があるんだろ?なぁ?言ってみろよ…示してみろよ!!」
「がぁぁぁぁ!!?」
「なぁ!?」
そう叫び、両手に力を込めたタイミングで
「お止めなさい」
「!!」
横から声がかかり、俺の手に別の手が添えられる。
その手の主は…
「鴉羽零亜、そこまでですわ」
「ソフィー生徒会長…」
「貴方の意見はごもっともで、行動も理にかなっておりますわ。しかしやりすぎでしてよ」
「わかりました」
俺はソフィー生徒会長に言われた通りに手を放す。
白衣の連龍は地面に転がった後、思いっ切り咳き込んで俺を睨んでくる。
「もうすでに警備の者は呼んでおりますわ」
「ありがとう、ございます…」
「…その気持ちはしまっておきなさい」
「はい…」
そうして警備の人たちがこちらに走ってきた。
すぐさま状況を話した。
「くっ!?やめろはなせ!私たちを何だと思っている!?」
明らかに抵抗しているが、警備の連中に組み伏せられ、拘束されていく。
「西園寺明楽、アリスちゃん。二人とも大丈夫ですか?」
「は、はい…けど」
ソフィー生徒会長が明楽とアリスの様態を確認するが
「やだ…やめて…」
明楽は大丈夫なのだが、問題はアリスの方だった。
恐怖に飲まれ、明らかに顔色が悪くなりぶつぶつと呟きながら涙をぽろぽろと流している。
「…」
怒りがあふれる。
「鴉羽零亜」
「…」
「落ち着きなさい、気持ちはわかりますわ」
「はい」
「それと、怒りのあまり出血していますわ。よろしくて?」
「はい…」
言われたまま、手を見ると握りこぶしを作ったせいか手のひらに爪が刺さり血がぽたぽたと垂れていた。
その手をソフィー生徒会長が握り、ガーゼのようなもので血をぬぐってくれる。
すると
「…先程の話、存じていますの?」
ソフィー生徒会長は先程の白衣の連中が話していたことに疑問を持っているようだ。
「信じているんですか?」
「私が信じる物は自分で判断しますの。それで…どうなのですか?」
「…」
話すべきだろうか。
ソフィー生徒会長…というより、ナンバーズはオールイーターを敵視している。
それは俺も理解してるし、分かっているつもりだ。
だからこそ、話す事に抵抗がある。
「…もし」
「?」
「もし、仮にあのアリスがオールイーターだとしても…私は襲い掛かったりしませんわ。勿論、八神にアウローラも」
「!」
「何せ、私たちナンバーズは貴方とアリスの過ごしている日々を知っていますから」
「ソフィー生徒会長…」
「かける言葉はこのくらいですが、如何です?」
「分かりました。ただ学園祭が終わり、アリス自身の気分が落ち着いてからにしてください。そうでもないと俺が気が気じゃないです」
「わかりました。それと処置も終わりましたわ」
見事に俺の手には綺麗に処置が施され、出血も止まった。
「ありがとうございます」
「さて、では私はあの不法侵入者に処遇について学園長と警備隊と話す必要がありますのでここで」
と、ソフィー生徒会長が言った。
次の瞬間
「ぐおっ!?」
「がはっ!?」
「えっ!?」
白衣の連中を拘束していた警備の人たちがこちらに吹き飛んできた。
すぐさま俺は身体を使って吹き飛んできた警備の人を受け止める。
「大丈夫か!?」
「だ、大丈夫だ…何が起きた…!?」
俺も今の一瞬で何が起きたのか分からないが…理解出来てしまった。
AT学園の外壁の上、そこには…三人の白衣の連中が持ち上げられている。
ただ持ち上げられているのではない。各々が首を掴まれている。
「!!」
そして、その首を掴んでいるのは
(ぼ、傍聴者!?それに観測者も…あと一人は誰だ…!?)
目元、耳元、口元にそれぞれに黒いガジェットや布が巻かれている。
(聞こえる?)
「はっ!?」
「鴉羽零亜、如何しました?」
「え、いや今…話しませんでした?」
「いえ…何も聞こえていませんが」
(当然よ、コレの声は心の中にしか聞こえないから。それにコレが今が話しかけているのは貴方よ、鴉羽零亜)
「!!」
今の声は…上のあの三人目の奴からか。
傍聴者、観測者とは違い口元に歪なマスクのようなものを付けている。
ベージュの髪にやや黄色いメッシュ。他の2人と同様、シスターのような服装だ。
(安心して、コレの声は貴方以外には聞こえない)
(そうなのか…)
(えぇ、それにあなたの声もコレには聞こえてる。時間もないからやることをやらないと)
(どういう…)
どういう原理かわからないが、三人目の奴の声が俺の内から聞こえてくる。
理解が追い付かないまま、壁の上にいる三人は同時に
――ドッ!!
持ち上げた白衣の連中の胸を己が手で、貫いた。
血しぶきがまき散らされ、命が刈り取られた連中。
(何してるんだ!?)
(全ては主の命令の元に。それとコレから貴方に)
(?)
(私は『言及者』。無事、アリスは守り切れた。そのまま彼女と一緒に過ごして…そしていつの日か私たちとまた再開する、また会うその日まで)
「!!」
その言葉が聞こえたと同時に三人は亡骸となった白衣の連中を連れて、何処かへと飛んでいった。
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




