第54話 傍聴者との遭遇
「よし」
時間になり、俺の警備の時間がやってきた。
搭乗ゲートに乗りつつ、ARMOR”s用のスーツに着替えて両手の感覚を確認する。
長時間の睡眠の影響か脚に異常はあった。言い方はアレだが、痺れみたいな感じだ。
けど、アリスが起きるまでにある程度のリハビリや体操はしたから今なら十分に動ける。
「どうしたの?」
「何でもない」
横に居るアリスは俺を心配しているかのように覗き込みながら声を掛けてくる。
…ファフニール、言わなくても分かってる。
アリスが俺を心配しているのは、最近まで俺や周りに被害が出ているからだろう。
フェンリルの出現、コックピットとの融合、そして目覚めなかった俺。
心配するのも無理はない。
「というか、アリスは良いのか?学園祭を回らなくて」
「お兄ちゃんと一緒じゃないとヤダ!」
「お、おう…」
何というか…負けた。
俺の今までの行動のツケが回ってきたような気がして何も言えない。
なんて思っていたら搭乗ゲートはファフニールのコックピットに橋を作り、搭乗可能となった。
『鴉羽、聞こえるか?』
「聞こえます」
通信機器から八神さんの声が聞こえてくる。
『交代だが大丈夫か?』
「すぐに出撃出来ます。あとそちらの状態は?」
『アウローラもほぼ全域にシールドビットを巡らせて周囲を探索しているが特に異常もなさそうだ。勿論、私の方もな』
「そうですか」
『鴉羽は?』
「え?」
『身体の状態とかだ』
唐突に身体の心配をされ、一瞬たじろいでしまう。
「今のところは大丈夫です」
『そうか、なら良かった。とりあえず待ってるぞ』
「了解です」
そう言うと通信が切れた。
さて、俺も出撃しないとな。
「ファフニール、コックピットを開けてくれ」
そういうとファフニールのカメラアイが赤く光り、コックピットのハッチが開かれる。
あの時、俺がコックピットと融合した時の結晶は…全くない。
多分、明楽が掃除してくれたのだろう。
(ありがとう、明楽)
心の中で明楽に感謝し、コックピットに一歩足を踏み入れ、座席に座る。
俺が座ったのを確認したアリスはそのまま俺の膝の上に乗る。
「一緒に乗った時に思ったけど、俺の膝の上でいいのか?緊急用の相乗りの座席は…俺のファフニールにはないけど、搭載することはできるけど」
「お兄ちゃんの膝の上がいい、ここが一番いい」
「ならいいが…」
異議がないのならそれでいいか。
そう思い、コックピットのハッチを閉めようとしたが
「鴉羽君!!ストップストップ!!」
「!!?」
急に声をかけられ、驚く。
慌ててハッチを一時停止すると、搭乗ゲートの橋から赤月さんと珊瑚が走ってきた。
何でだと疑問に思う。
「はぁ…はぁ…」
「赤月さんに珊瑚…どうした?」
「これ!」
珊瑚さんに箱を二つ投げ渡される。
それをキャッチすると、生暖かい感覚が手から伝播する。
「こ、これは?」
「お昼ご飯!このまま警備に入ると昼食が取れないでしょ?」
「あぁ…そういうこと」
一瞬、クラスで俺にしか解決できない問題やらなんやらが起きたのかと思って焦ったぞ。
「もう一個はアリスちゃんの分だからどっちとも食べないでよ?」
「赤月さんは俺の事を何だと思ってるんだ…」
「アリスちゃんを泣かせる不届き物」
「何も言い返せない…」
普通に言い負けた。
泣かせた件に関しては何も言えない。何せ俺が100%悪いからな。
そうして二人からお弁当を受け取り、そのお弁当の中身が崩れないことを祈りつつコックピットにある医療キットを仕舞っている倉庫の隣のハッチをオープンし、お弁当を入れる。
「何が入ってるんだろう?」
「うーん、候補が多いな。俺のクラスは喫茶店だったしな…なんだろうオムライス?」
「オムライス!?」
「ん?もしかして食堂で食べたオムライスが気に入ったのか?」
「うん!」
アリスはオムライスが好きになったのか…覚えておこう。
昼食に思いをはせているアリスを見ながらファフニールの起動シークエンスを開始すると同時に出撃ゲートへの輸送が開始された。
「痛みもなし」
操作レバーを握りながら思う。
オールイーターのいない戦場であれば痛みは完全に感じなくなったな。
もっとも、これが慣れなのかアリスが居るお陰なのか分からないが。
――ブォォォンッ!!
しまっているゲートが開き、光が襲い掛かってくる。
『出撃ゲート、ハッチオープン。ARMORの全ジェット及びスラスターをチャージし、出撃に備えよ』
機械のナビゲーションに従い、操作レバーを動かしてチャージを開始する。
ふと思ったが、網膜投影をせずにファフニールを動かすのは初めてだ。
初めて動かしたあの時も網膜投影はしてたしな…。
『出撃ゲート搭載機体。機体名ファフニールのチャージを確認。カタパルト臨界状態到達、出撃可能』
「アリス、出撃するからしっかり捕まってて」
「うん!」
「よし…鴉羽零亜、ファフニール!出撃する!」
全てのジェットとスラスターを解放すると同時に臨界状態のカタパルトのロックが外れて、前に進んでいき全身に圧力がかかる。
「ッ!!」
ドラゴンスローンの慣れよりも…ARMORの移動やらなんやらで全身にかかるGには慣れてきたと思えるな…!
カタパルト射出高度限界につき、全身に浮遊感を感じたと同時に網膜投影を開始し、再度ジェットとスラスターを展開し、警備箇所に向かう。
「アリス、もう大丈夫だ」
「うん!」
アリスに一言かけてからAT学園の警備箇所に向かい
――ドシィィィィン!!
轟音を響かせて到着した。
『待ってたぞ鴉羽』
『アリスちゃんも一緒ですか?』
「一緒ですよ」
アウローラさんと八神さんからの通信を受け取るが…ふと気が付く。
「ソフィー生徒会長は?」
『まだオーバーホール改修中ですよ、結構苦戦しているようで…』
『まぁこればっかりはソフィーの機体の性能がピーキーが故だろうな』
「ピーキーな機体なんですか?」
それはちょっと意外だ。
整備科としてソフィー生徒会長の機体であるロビンフットは良い機体だと勝手に思っていた。
ロングレンジで戦え、決定打があり、何よりソフィー生徒会長の操作能力とも合致している。
あれほど良い機体はないだろうと思っていたが…アレがピーキー?
『ソフィーの機体のロビンフットのエネルギー出力は変にいじりずらいんだ。出力を上げ過ぎればグリーンアローが内側から壊れてしまうからな』
「えぇ…」
『そうなれば機体全体の出力をあげればいいかもしれないが…それをすると今度はグリーンアローに他のエネルギー分配は可能になる代わりに、機動力が上がりすぎてソフィーの手になじまなくなる』
想像以上にピーキーだった。
というより、今のロビンフットの形態が黄金比という事だろう。
出力、操作技術、性能の三角形が綺麗な正三角形を生み出して居るからこその『ロビンフット』という機体。
『そのおかげで今日のソフィー生徒会長はちょっと不機嫌でしたよ』
「あー…」
今日も出撃出来ないからだろう。
また『もしも』が起きたとき…ソフィー生徒会長がキレるかもしれないな。
『ま、とにかく警備の交代だ』
「わかりました」
そうしてアウローラさんのヴィオーラ、八神さんの紫苑を見届けた。
ここからは俺がAT学園を守る。
「ファフニール、サーチ範囲を広げてくれ。何かを感じ取ったら随時報告してくれ」
網膜投影を一度終了し、俺は手元の端末で現在の学園内の状態の確認を行う。
警備員や他のARMOR”sの不審者の情報や不審物、トラブルなど逐一見逃さす全てを確認する。
ナンバーズとしてもそうだが、何よりも俺はアリスと共に学園祭を回りたい。
この子に色々教えたい。
あんなゴミのような空間で生きてきたアリスにもっと楽しいことを教えてあげたい。
知ってほしい、この世界にはいい物があるって。
「…」
「お兄ちゃん?」
「ん?どうした?」
「ずっと怒ってるような顔をしてるから…どうしたのかなって」
「あぁ、ごめん。別に怒ってるわけじゃない」
表情までは気にしてられなかったが、そこまで怒っているかのような表情をしていたのか俺。
操作レバーから手を放してから自分の頬に触れて横に伸ばす。
硬い表情のままじゃ、またアリスに変に心配をかけてしまう。
今は少しだけ、気を抜いたっていいだろう。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん」
「どうした?」
「下にいるあの人たちもがくえん…さい?来た人なの?」
アリスはモニターに映る外の光景を見て、指をさす。
車から降りて学園に足を踏み入れる人たちが見える。
「あぁ、多分そうかもな」
「たぶん?なんで?」
「偶に悪さをするやつが紛れ込んでる時もあるって事」
「なんで悪さを?」
「さぁな…俺は悪人じゃないしそこまで分からない」
「うーん?」
「まぁ、アリスは気にしなくていいよ」
この子が知らない方がいい物もあるってことも自覚しなきゃな。
「…?」
ふと、正門を見ていた。
入ってくる人たちをただ見ていた。
それだけなのに、目に映る1人の女性。
その女性はベージュの髪にやや青みがかったメッシュ、耳元にやや大きい黒いヘッドホンみたいなのを付けていて、シスターのような服装だ。
「なんか…」
「?」
「何か見覚えあるんだよな、あの人」
「どの人?」
「あそこにいる大き目のヘッドホンを付けている女性」
「んー?あ、本当だ。こっちを見てるよ」
「へ?」
アリスに言われ、また先程の女性の方を見ると…確かにこちらを見ている。
何でこっちをと思っていた、その時
『傍聴、確認、応答』
「は!?」
突然、ファフニール内に響く女性の声。
誰からの通信だ!?繋いだ覚えもないし、そもそも俺のファフニールの現在の通信状況はプライベート…誰からも感知されず、許可している人だけが通信できる状態のままだ。
だけど、この女性の声は知らない!
何処のどいつだ…!?
「誰だ!」
『私は、傍聴者』
「傍聴者…?」
傍聴者…前の観測者みたいな感じの奴か。
だが、そんな奴が何処にいる。
てか、どうやってファフニールのプライベート通信に潜り込んできた!?
『鴉羽零亜。傍聴、確認、了承』
「お前は何処にいる」
『此方、確認、終了』
「…」
特徴的な言い方だが、言っていることは理解できる。
俺は既にその傍聴者を見つけているってことだ。
となると、さっきの人の中に傍聴者が居るってことか?
「ねぇねぇお兄ちゃん。さっきの耳につけてる人がこっちを見て手を振ってるよ」
「は!?」
アリスに言われ、すぐさまさっきの人を見る。
確かに大き目のヘッドホンを付けた女性がこっちを見て小さく手を振っている。
ファフニールから見ている俺たちにしか伝わらないようにしているのはわかるが、何で俺が見たことがあっちにバレてるんだ。
「何でこの学園に来た」
『情報、伝言、伝達』
「情報に伝言?」
『送信』
そう聞こえると同時にファフニールにデータファイルが送られてきた。
すぐさま端末を操作してファイルを開いて中身を確認する。
写真が2枚とテキストファイルが1枚。
何のデータ何だこれ。
『確認、至急』
「すぐ見たほうがいいのか?」
『此方、撤収、露見』
「バレる?」
『再開、直近』
「あ、おい!?」
もう一度、モニターからさっきの女性を見たが…もうその場には居なかった。
前の観測者といい…何なんだあの人たちは。
掴みずらい人というか、何というか…とりあえず、今は送られてきたデータだ。
それを確認しよう。
「何が映っている…?」
写真のデータを確認する。
映っているのは…白衣を身に着けている奴の亡骸か?
血まみれで、ぐだっと寝ており…明らかに生きているような感じではない。
「あ…」
すると、アリスが反応する。
「アリス?」
「この人…施設にいた人」
「!!」
「お兄ちゃんと出会った施設で居た人だよ、この人」
アリスの言葉で確定した。
死んでいるコイツらは白衣の連中と同じ奴だ。
それはいい…コイツらは何で死んでいる?
写真に写る背景で分かるが、あの施設の付近ではない。
そもそも避難していた人たちは別の場所へと退避していたはずだ。
そうなると別の場所で殺されたのか。
ダメだ…殺される理由が、思いつかん…!
あり得た理由を挙げるとしても、それに結びつくのは…アリスのような施設に囚われていた人が復讐で殺したのか。
はたまた俺のようにアリスが受けた仕打ちを知って殺したかしか思い浮かばない。
「それ以外がないぞ…!?」
それ以外にアイツらを殺す理由や動機が生まれない。
ダメだ、一度忘れよう。先入観だけでは変に混乱するだけだ。
次に二枚目の写真を見る。
それは…上から見たAT学園の写真だ。
丸が付いている箇所が3か所ある。
一つは前橋、二つと三つは他の学園に入る壁の門だ。
つまるところ、AT学園に入るためのゲートだ。
だが…前橋ともう一か所は丸の上にバツが付いている。
この写真の通りに感じるのならバツが付いている箇所は何らかの理由があったという事だ。
多分、入れないとかそういう感じの。
「…」
尚更、解せない。
すべてのゲートには警備員が4名ずつと専用のゲートもある。
ただの医療班風情がAT学園に入れるほど、ゲートは簡単に開かないはずだ。
問題は…『入れるほどの地位』を持っている場合だ。
そうなってくると止められない。
同時に入ってくる目的を考えられるとするなら十中八九、アリスの事だろう。
丁度良かった。
ぶん殴れる手間が省けた。
アリスに指一本でも触れてみろ…触れた指をへし折り、死んだほうが心地いいと思えるほどの痛みを教え込んでやる。
「最後は…」
テキストファイルだ、何が記されている?
中身を確認すると…こう記されていた。
『ファフニールのパイロット 鴉羽零亜へ。
傍聴者からこのメッセージを受け取ったと思う。
私は観測者や傍聴者の主に当たる存在。
本当は君に会いたかったけど、まだ会えないし会うべきではない。
とにかく君に伝えるべきことを伝える。
写真についてだけど、まず白衣を身に着けている奴が死んでいる写真。
その写真に写っている奴らを殺したのは私。私自身の手で、きっちり殺した。生存している可能性は無い。
この写真を見せた理由としては私たちは君の味方だという事を知っていて欲しいから。
次にもう一つのAT学園の上からの写真。
それは本日のどこかで白衣を着ている連中が丸が付いている箇所からAT学園に侵入し、アリスという少女を誘拐しようとしているわ。
これは絶対に阻止しなければならない。
それと…多分だけど、周囲の人間に知ってはいけない情報が流れる可能性も高い。
恐らく知っていると思うけど、アリスは人工的に作られたオールイーター。
それを公表する可能性が高い。その場で公表されればマスコミや周囲からの拒絶。
そしてアリス自身が自らの意思で白衣の奴らに付いていく可能性が高い。
出来れば、阻止してほしい。
一応、傍聴者を向かわせたけど…連中にバレて戻ってくる可能性が高いわ。
だからこそ、君にお願いしたい。
アリスを守って。
そして信じてほしいの。
私たちは君の味方であるという事を。
彼女たちの主より』
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




