第38話 鍛錬の日々を送るうちに
「ぐっ…はぁっ…!」
肩に乗せている重りを背負いながら、両手に握られているダンベルを上げて下げてを繰り返す。
ガコンガコンと重々しい重低音が俺の背中の重りから鳴り響く。
――ドッゴォン!
「はぁっ!はぁっ!ふぅ…!」
2個の30㎏のダンベル、50㎏の重りを外し、そのまま床に落とす。
丁度いいことにここは学園内にあるジム。床は耐衝撃用のカーペットが敷き詰められているお陰で元の床にダメージはないし、重りが跳ねることもない。
「あぁ…重かった」
肩をグリグリと回して骨を鳴らす。
一週間前にヴァルティさんから言われたことを思い出す。
あと大体一か月後に件の男が来る。相手がどんなものかわからないがクズという事だけはわかる。腕っぷしで全部ぶっ潰せるくらい強くなりたいし、ファフニールのリミッター解除の為にも身体を鍛えなければならない。
その為にもパイロットとしての技量もそうだが、肉体の強化は必須だ。
「凄いね、零亜」
「あぁ…明楽か」
ゆっくりと呼吸を落ち着けて居たら明楽が水の入ったペットボトルを俺に手渡しながら、声をかけてきた。
俺はペットボトルを受け取り、ふたを開けて水を飲む。
水を飲むたびに喉から音が鳴り、疲労を感じ乾いた身体が水を吸収していく。
「ぷはぁ…うめぇ」
「それだけ頑張ってればね、凄いよ?身体中から湯気が」
「凄いだろ?」
「はいはい、凄い凄い」
「適当だな…」
「いや凄いのは事実だよ?ただ、零亜は元々筋トレはしてたけど最近はかなり負荷を上げてるから何かあったのかなって」
「何かあった、か…」
確かに何かはあるが、正直に話すわけにはいかないしな。
半分正直に答えるか。
「ファフニールの為だよ」
「ふぁ、ファフニール?」
「あぁ、ずっとコックピット内で血を流し続けるわけにもいかないしな。何より、俺の肉体強化をファフニールが進めてきたんだ。なら負荷も上げるだろ」
「なるほどね」
嘘は言ってないぞ、半分だけ正直に告げただけ。
悪いな明楽…この事は誰にも言うなって言われてるんだ。
「けど、これ以上化け物になるの?」
「俺化け物なのか!?」
「自分の戦績を思い出しなよ、零亜パイロット?」
「えぇ…?」
どうやら俺は化け物らしい。
何というか、悲しいような嬉しいような…物凄く複雑な気分だ。
なんて思いつつ、床に腰を下ろす。
「そういえば何で明楽はここに?」
「アサルトライフルが完成したよ」
「マジか!?」
腰を下ろしたがすぐさま立ち上がる。
「つ、疲れてないの?」
「たった今、吹っ飛んだ」
「そ、そんなにうれしいの?僕の作った武装が」
「当たり前だろ。てか、前に回転寿司を食ってる時に言っただろうが…」
「あれ、そうだっけ…残りの夏休み期間を使って集中して作ってたら忘れてたかも?」
「まぁその話は追々だ。早く見に行きてえ」
「その前に、シャワーを浴びて来てよ?そんな汗だくでファフニールに乗ったりしたら匂いが移っちゃう」
「それもそうか…ちょっと待っててくれ」
そんなわけで今日の筋トレはここで切り上げて、シャワー室に向かいシャワーを浴びて身体に付いた汗を全部丁寧に洗い流し、身体を拭いて制服に着替えなおした。
シャワー室から出て、ジムから退室して外へ向かう。
「すまん、待たせた」
「待ってないよ、それじゃあ行こう」
「あいよ」
そのまま外へ向かうと明楽が待ってましたと言わんばかりにトラックに乗って俺を見て居た。俺もトラックの助手席に座りシートベルトを締めると、明楽はアクセルを踏んで進みだす。空いている窓から吹き込む風が心地よい。
「風が気持ちいいな」
「トレーニング後なら尚更でしょ?」
「かもな…」
「そういえばもうトラックは乗ってないの?」
「乗れないんだよ。整備科からパイロット科になったから整備科で取った資格とか全部失効された」
「じゃあ運転できないんだ?」
「そういうわけだ」
なんて車内で会話を繰り広げる。
「僕は免許以外にもARMORの武装製作の資格も取ったからね~、死角はないよ?」
「だろうな」
「その分、他の人にも整備とか武装作成とかお願いされるけどね」
「したのか?俺以外のARMORを…」
「しないよ、僕は零亜の専属の整備士だから。というか専属だから他の機体の整備はできないし武装作成は零亜のファフニールで手一杯だし」
「何か絶妙に安心した…」
「僕が離れると思ったの?」
「少しな…正直、明楽が離れると気が気じゃない。整備もそうだが流石に親友に離れられるとな…」
事実だ、嘘はない。
戦った後も、戦う前も俺は明楽と二人三脚だ。
明楽が整備してくれたおかげで俺は戦場で戦える。
整備無くして、戦場に立てるものなし。整備科に居たときの俺なりの言葉だが…本当にこの通りだ。整備されていないARMORで、武装で戦えるわけがない。
「…またそういうことを言う」
「またってどういう?」
「何でもないよ、ほらそろそろ付く」
「うい」
明楽に言われた通り、もうすぐそこに整備科の格納庫が見えてきた。
夏休み中はずっとここだったしな。そろそろファフニールもパイロット科のARMOR格納庫が恋しくなったころだろう。
ーーー
トラックから降りてファフニールの格納スペースに一人で向かう。
明楽はトラックを止めたりするから先に行っててほしいとのこと。
「久々だな、ファフニール」
パスワードを入力し、シャッターを開けると…ピッカピカの俺の相棒がそこに鎮座していた。
実際、声は敵対意識のないオールイーターの話を聞いたのが最後でそれ以降は聞いてないし、機体は愛染さん…じゃなくて珊瑚さんの任務以来だ。
「…わかってるよ、すまないな。ここに来れなくて」
来て早々、ファフニールはもっと会いに来てほしかったと苦言を俺に零す。
俺にできるのは謝罪だけだ。
なんて謝罪しつつファフニールを見て居ると
「!」
ファフニールのちょっとした変化に気が付いた。
よく見ると肩のホルスターに付けられていた大剣が背面に変わっており、その大剣の単体側のホルスターにはどこからどう見ても銃らしきものが装備されていた。
アレが明楽が作ったアサルトライフルか。
凄いな…元々の大剣のホルスターの位置を移動しつつ、その反対側に銃を装備させるとは恐れ入った。これなら背中から取る際に左右で切り替えもできるな。
「気に入った?」
「明楽…あぁ、ついでに大剣のホルスターも移動したんだな?」
「まぁね、そこはファフニールが手伝ってくれた」
「!!?」
急な新事実に驚きを隠せない。
ファフニールが手伝った!?
「明楽も声が?」
「声は聞こえないけど、背面のスラスターの中間に増設で銃用のホルスターを付けてたらファフニールが急に動き始めて肩に付いてる大剣のホルスターを外して増設したホルスターに密着させたから付けてほしいんだと思って付けたよ。まぁ…本当にその通りだったかどうかはわからないけど」
「だそうだが、ファフニール?」
ファフニールの声を聴く。
「…どうやら明楽を信頼してるみたいだ。優秀でこっちの意志にも気が付いてくれる良い整備士だって」
「おぉ、ファフニールのお墨付き」
「…ついでに何処かの誰かと違って私をほっておかないって…」
「そこはパイロットの零亜がしっかりしないと」
「ぐうの音も出ない」
そうして一人と一機にぐうの音も出ない言葉をぶつけられた。
しょうがないだろ、と心の中で文句を言う。
「とりあえず、武装の切り替えとかだけど簡単に言うと背面のホルスターには専用のジョイントが付けられていて、操作するとジョイントが動き始める。それで武装を握って変換…みたいな感じかな」
「今すぐ動かすは…無理か」
一度、明楽が増設してくれたホルスターを動かしてみたいが…今日は訓練の予定もないし、後学期が始まったというわけでしばらく決闘場は上級生で埋まっている。
何でも腕を戻すとかそういうのでね。
お陰様で上級生の整備科の生徒や下級生が駆り出されているのをちらほらとみる。
大変だろうな…。
「次に決闘場を借りれるのはいつになるんだろうな」
「僕も動かしてるところみてみたいよ」
その場で座り込む俺と明楽。
「何というか…懐かしいな、こうやって二人でARMORの話で盛り上がるの」
「回転寿司を食べてる時も話してたでしょ?」
「まぁ…それはそうだけど、実物のARMORの近くでこういう話をするのが懐かしいってふと思っただけだ」
「それもそうだね」
俺がまだ整備科の生徒だったときはよく明楽と一緒にARMORの整備をして、二人で意見を交換して…みたいな日々を過ごしていた。
まさか、整備科に入学して2カ月くらいでパイロット科に俺が編入することになるとは思わなかったけど。
「思えば俺たちって2ヶ月で結構な資格とか取ったよな」
「大型免許、単独整備とかかな」
「それだ。普通じゃ後学期や前学期の後半で取るモノだったって聞いたけどトントン拍子で二人で勉強して整備科の希望の星なんて言われるようになったよな」
「今じゃ希望の星は僕だけだし、希望の星はとあるパイロットが独占中だしね」
「いいだろ独占したって」
「確かにねー」
なんて懐かしい会話をしていた。
すると
――ィィィィ…!
「あ?」
「どうしたの?」
「ファフニール、何で起動した?」
急にファフニールが動き始めた。
それと同時に
――プルルルル。
俺の通信端末が鳴り響き始めた。
すぐさま着信を受け取ると
『鴉羽零亜!今どこにいますか!?』
「ソフィー生徒会長?」
相手はソフィー生徒会長だ。
ただ声色からしてかなり焦っているのが分かる。
何かあったのか?
「どうしました?」
『緊急任務ですわ!ある医療施設がオールイーターに襲撃されてます!』
「はぁっ!?」
とんでもない緊急任務に驚きの声を上げてしまう。
『現在、他のARMOR’sが対応していますが…予想以上に数が多いのと避難に時間がかかっていいて援護が欲しいとのことですわ』
「それで俺たちが…」
『私たちもこれからARMORに乗り込み出撃しますが…貴方は何処にいるのです?』
「丁度、ファフニールの新装備の話をしていて目の前にARMORがあり、今すぐにでも出撃出来ます」
『わかりました。では一足先に出撃してください…私たちも後から向かいますわ!』
そういってソフィー生徒会長との通信は切れた。
「どうしたの?声を上げてたけど…」
「今、ある医療施設がオールイーターに襲撃されている」
「何だって!?」
「他のARMOR”sが対応はしているが予想以上に数が多く、避難に時間がかかってるみたいでナンバーズに救難要請が来た」
「出撃だね」
「あぁ、ファフニールは行けるか?」
「勿論!」
「頼もしいな…ファフニール!」
――キィィィィ…!
そう呼びかけると準備万端と言わんばかりにアイカメラを赤く輝かせた。
明楽が出撃準備をしているうちに俺はパイロット用のスーツに着替えよう。
パイロット科のバックからパイロットスーツを取り出して、すぐさま着替える。
「よし…明楽!」
「固定器具は外してあるし、出撃準備は完了してる!」
「了解、ファフニール!」
そう呼びかけるとファフニールは座り込み、俺に手を広げて伸ばしてきた。
その手の上に乗ると、コックピットに近づけてくれたので、そのまま空いたコックピットに飛び込む。
ハッチを閉めて、一呼吸入れてから
「起動シークエンス、開始」
起動シークエンスを開始する。
「ぐぅっ…!久々だな、この痛みは」
忘れていた…痛みだ!
『零亜、聞こえる?』
「あぁ…!」
『だ、大丈夫?』
明楽からの通信が入ると共に心配をかけられるが、問題は無い。
むしろ、今まで通りに戻っただけだ。
「問題ない、絶好調だ」
『なら良いけど…とりあえず、出撃用のカタパルトまでのマッピングを送るね』
「了解」
返事をすると同時に網膜投影を開始する。
目的の医療施設はここからおよそ180km先にある。仮に車を使って高速道路で向かうなら1時間から3時間ほどかかるかもしれないが、こっちはARMORだ。
空から行けば障害物を無視して行ける。
次に出撃用カタパルトに向かって歩き出す。
「久々に動かすが、結構覚えてるな俺…ファフニールのお陰もあるけど」
一ヶ月ちょっと動かしてなかったけど、問題なく動かせて何よりだ。
「カタパルト搭乗完了」
『カタパルトの射出機能を臨界状態に移行。零亜、ファフニールの全ジェットのフルチャージをお願い』
「了解…というか明楽ってナビゲーション出来たのか?」
『勉強したよ!いいから、出撃に集中して!』
「あいよ!」
全スラスターとジェットの出力を上げてチャージを開始する。
『カタパルト臨界状態!零亜、ファフニールは?』
「こっちも行ける!」
『わかった、出撃タイミングを零亜に譲渡したから行きたいタイミングで全てのスラスターとジェットを解放して!』
「わかった…それと明楽、一つ良いか?」
『な、何?』
「出撃するとき、何か言った方がいいか?」
『今それ聞くの!?』
「い、いや…ふと思ったんだよ」
『飛翔でいいんじゃない?ファフニールって名前だけで言ったら龍だし』
「そうだな…」
飛翔か…そのまんまだけど、それでいいかもな。
「ファフニール、飛翔する!」
そういってから全スラスターとジェットを解放すると同時にカタパルトが上へと打ち上げていくが、やっぱり身体への負荷はすさまじいな…!
ただ、俺だって何十キロの重りを背負ってトレーニングしていたんだ。
このくらいじゃ弱音は出ない!
「最高高度に到達!」
『わかった。ここで通信は切れるけど…無事に帰ってきてよ?』
「勿論だ、行くぞファフニール!」
最高高度に到達したと同時にジェットの出力をさらに上げて、目標の医療施設を目指して飛翔する。
飛んでいく中で…少し考える。
(ファフニールが起動したのはいい。ただファフニールが起動するタイミングとしてオールイーターが目覚めた、あるいは俺が目覚めてほしいとお願いした時がほとんどだ。けど…今回は自動的に目覚めたからオールイーターが医療施設を襲っていると気が付いたからだろうが…)
少しだけ気が付くのが遅いと感じた。
そもそもオールイーターが目覚めたのなら一足先にファフニールが起動するが今回に関しては襲撃が起きてから動き始めた。
何か起きたのかと内心、ファフニールを心配するが…目を覚ますのが遅れた理由をファフニールは話してくれたと同時に
「…なに!?」
俺は声を荒げてしまう。
「あの医療施設に…」
「敵対意識の無いオールイーターが居るだと!?」
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




