第34話 謎のオールイーターの出現
夏休みの最中。
ソフィー生徒会長から誘われた、バカンスまで残り2日と差し迫ったところで…東雲学園長から呼び出しを受けて、俺は学園長室に向かった。
どうやらナンバーズに伝えたいことがあるという事。
「失礼します」
「来たな、鴉羽。これで全員だな」
学園長室の扉を開き、中に入ると既にソフィー生徒会長、八神さん、アウローラさんの三人が座っていた。
どうやら俺が最後だったようだ。
「すまないな、4人とも。それと急な呼び出しに応じてくれて感謝する」
「大丈夫です」
「同じくです」
「まぁ雑談もこのあたりにして、本題だ。今回はナンバーズである4人に最初に伝えねばならない事象だ。追々他のARMOR’sにも伝える」
これが雑談なのかと疑問に思っている間に東雲学園長はプロジェクターを展開し、ある画像を見せる。
「ムカデと蟷螂…?」
その画像は最近、俺と戦ったムカデと蟷螂の亡骸だった。
ムカデは見事に風穴があいており、蟷螂は頭部がぐちゃぐちゃに潰されている。
んで、片方の蟷螂はファフニールがやったんだよな。
とんでもねぇな…記憶の片隅にある原型と見比べてもあまりにも乖離しすぎている。
「あぁ、知っての通りナンバーズが遭遇した大型のオールイータだ」
「それはわかりますが…」
「次にこれだ」
そう言って次の画面に映る。
次の画面に映ったのは、また別のオールイーターなのだが…これもまたズタズタにされている。
「これは鴉羽を除くナンバーズの三人が過去に対応した大型のオールイーターだ。体格も他のオールイーターに比べると大きい」
「えぇ、ありましたわね」
ソフィー生徒会長がそうつぶやく。
前にもこんな大きなオールイーターと戦ってきたのか…。
「それで…問題なのがこれだ」
東雲学園長の操作でまた、画像が切り替わる。
すると
「…ん?」
その画像はムカデと蟷螂なのだが…写真に写っている二匹は塵となって消えかけている。
何故、塵になる?
現段階で科学的に証明されているオールイーターの習性として…
『人間を食べ、それにオールイーターの細胞を纏わせ、人間の身体をコアにしてオールイーターを増やしていく』
『組織の細胞が死んだ場合はオールイーターは活動を停止し、コアの人間を守りながら少しずつ再生していき、細胞が完治した際にまた動き出す』
『細胞の再生には食べた人間以外の物を糧に再生する』
『コアになっている人間の身体が死ねば、宿主を失ったオールイーターの細胞は活動を停止し結晶となって完全に死ぬ』
という事が分かっている。
俺とファフニールが倒してきたオールイーターも全て元は人間であり、デイブレイクから今に至るまでの犠牲者たちだ。
コアさえ避けて叩けば、喰われた人が死ぬことはない。
最も…避ける必要があればの話だがな。
オールイーター自身もコアを叩かれるとマズいっていうのを理解しているがゆえに、コアを最大限に守る。
その影響でオールイーターを完全に殺し切った事象が限りなく少ない。
だが…今回のムカデや蟷螂は塵となって消えて行っている。
こんなのは聞いたことがない。
「塵に…?」
どうやら他の三人も俺と同じような反応をしているようだ。
ナンバーズの先輩である三人も俺と同じ反応ってことは、塵となって消えていく事象は初めてか。
「あの、東雲学園長はこの事をどう思っています?」
すると、アウローラさんが挙手し、東雲学園長に塵となって消えていく二匹の事をどう考えているかを質問した。
「その辺に関しては関係者や科学者、技術者諸々を集めて前に話し合ったのだが…全員一致だ」
「一致?」
「…わからない。本来、オールイーターは死亡すると結晶のようになるはずだが、塵となる現象は初めてでもあり、全員頭を抱えた」
関係者を集めて話し合ったとしても…結論は不明か。
確かにこればっかりは変に結論を出せないだろう。
塵となって消えていくオールイーターは何なのか、何故消えるのか、他のオールイーターと違う部分は、と。
結論を急げば急ぐほど新たな疑問が生まれるジレンマ。
それに…あの二匹に関しては単体の戦闘能力がかなり高かった。
普通のオールイーターとは違うだろう。
「そこで今回の呼び出しが関係する。実際に戦い討伐したナンバーズの四名にこの二匹の事を聞きたい。関係者たちもそこを聞きたいと言っていてな」
なるほど…関係者たちは現場の声を聞きたい様だ。
「まず八神、お前さんはアレと戦ってどう思った?」
「…やはり、強いというイメージが強かったです。ソフィーにアウローラが居て歯が立たず、鴉羽も参戦してやっと一匹倒せるほどの個体と考えると…そう思ってしまいます」
「なるほどな、真っ当かつ分かりやすい意見だ。アウローラは?」
「私も八神ちゃんと同じです。4機でやっと倒せる個体ですし…正直あの時は私も専用アビリティと『アレ』に任せようと考えましたが」
「いや、良い判断だ。あのアウローラではコンビネーションも図れず共倒れになる可能性もあった」
「…?」
八神さんの後にアウローラさんが二匹の事について答えるが、気になることがあった。
『アレ』に任せるっていうのが気になる。
しかも、あのアウローラに任せればコンビネーションが図れないと東雲学園長は言うが…あのアウローラってどういうことだ?
「…失礼、鴉羽零亜」
話し合いの最中、ソフィー生徒会長が話を止めて俺の方を見てくる。
「は、はい!」
「貴方は知りませんわね、アウローラのアレっていうのを」
「はい…」
図星だ。
正直、かなり気になっている。
「アウローラ、説明しても?」
「いいえ、私がします」
そういいながら今度はアウローラさんと目が合う。
「鴉羽君、君は私がどう見える?」
「え、えっと?」
「そのままの意見でいいから」
「淑やかで、落ち着きがあって、綺麗で、気配りが出来て」
「ちょ、ちょっと待って…そこまで答えなくていいから…!」
「???」
「即答でそこまで出てくるのは女たらしの可能性があるな、鴉羽」
「何でです…!?」
ぱたぱたと手で顔を仰ぐ、アウローラさんは一度呼吸を整えてからもう一度俺の顔を見て話し始めた。
「あの『アウローラ』っていうのは…私のもう一人の『人格』の事」
「人格…ってことは」
「鴉羽君の予想通り私は『解離性同一性障害』…いわゆる『多重人格』なの」
アウローラさんが多重人格…?
いや嘘を疑うとかそういうことは絶対にしない。
しないのだが…多重人格のような片鱗を見たことがないから驚きが勝っている。
「疑う気持ちもわかるけど、本当なの」
「疑いませんよ…誰だって秘密やそういう過去もありますし」
「記憶の無い鴉羽零亜が言うと説得力が違いますわね」
その通りではある。
ソフィー生徒会長の言葉に納得しかない。
「…細かくは言えないけど、今は過去に色々あって人格がもう一つできたという認識でいいから」
「分かりました、覚えておきます」
アウローラさんが多重人格であることはちゃんと覚えておこう。
いつか会うかもしれないし、配慮に欠ける行動や発言をしないように気を付けないと
「では話を戻すぞ、ソフィーは戦ってどう思った?」
「…確かに強いというのもそうですが、それ以上におかしいと思いましたわ」
「おかしい、というのは?」
「今までも大型のオールイーターを倒してきましたが塵となって消えていく事象はありませんでした。ですが…塵となって消える個体のみ戦闘能力が逸脱するくらい強く、同時に何らかの力がありました」
「力…?」
「頭部を結晶で覆っていた奴か」
俺も八神さんの言葉で思い出した。
あのムカデは最後の衝突で頭部を黒い結晶で覆った。
しかも、それを活用して攻撃を仕掛けてきたし、口の中が弱点と知って頭部を結晶で覆った様にも見えた。
「確かに。そういわれると他のオールイーターにはそんな力はなかったはずです」
「ふむ…鴉羽」
「はい」
「お前はムカデだけではなく、蟷螂とも戦った。ソフィーのいう能力のようなものはあったか?」
「ありましたし、蟷螂に関しては再生能力が異常でした。斬っても切っても再生し、乖離した腕すらも元通りのように再生するくらいです」
「…なるほど、ソフィーの意見も真っ当でありそれを援護する鴉羽の意見もある。実証できるそうだな」
「そうだったんですの?」
「そうですね…ずっと再生されるせいで長時間の戦いになりましたし、愛染さんが来なかった俺は死んでます」
本当にその通りなんだよな…頭部を殴りたいのに手数が足りないし、決め手に欠ける。
そんな時に来てくれたからこそ、勝ったと言える。
…分かってるよ、ファフニールも専用アビリティを使ってくれたから勝てたのは事実だし、覚えてる。
「最後に鴉羽、お前さんはあの二匹と戦ってどう思った?」
「俺は…」
と言おうとしたタイミングで
「ぐっ…?」
頭痛。
大体、俺の頭に伝播する痛みはファフニールの情報伝達の影響か、オールイーターが目覚めたとかそういうものになる。
痛いは痛いが…何だこれ?
「鴉羽?どうした?」
「ちょっと待ってもらっても?」
「あぁ、わかった」
東雲学園長に待って欲しいことを告げてからファフニールに問いかける。
「ファフニール、何処かでオールイーターが目覚めたのか?」
「え?」
「なに?」
アウローラさんと八神さんが反応するがそんなのもお構いなしにファフニールの答えを待つ。
すると
「…微小なオールイーターが目覚めたが、敵対意識がない?」
あまりにも理解できない解答が飛んできて疑問が浮かぶ。
「何だそれ…どういうことだ」
「敵対意識のないオールイーターが出現した、そうファフニールは言っているのか」
「は、はい」
東雲学園長に問われ、ファフニールに言われたことをそのまま返す。
しかし、あまりにもおかしい事象に頭が付いていかない。
普通に考えて、オールイーターは敵対している。人間を襲い、人間を食べ、地上を喰らう…そんなオールイーターに敵対意識がないだと?
何を言っているんだファフニールは…?
「その敵対意識がないオールイーターは何処にいる?」
俺はそのオールイーターの位置を問う。
…反応が微小すぎるがゆえに大まかな位置しか分からない、か。
いやこの際、大まかでもいい。
何処だ?
「…ん?」
ファフニールは本国のマップを表示してほしいと欲した。
言われた通りに、携帯端末でマップを投影すると今度は言われた箇所にマーカーを付けてほしいとのこと。
「ここから…ここか」
言われた箇所にマーカーを範囲で刺すが…これは無理だな。
「大まかで良いとは言ったが、ここまで広いのは無理だな」
マーカーの位置。
それはマップの陸地のほぼ全域。この全域に敵対意識がないオールイーターが居るらしいが、これは探せない。
というか、敵対意識がないと分かる前に他のARMOR”sに倒される可能性があまりにも高い。
これは…諦めたほうがいいのだろうか。
「…」
…諦めるべきなのに、何故俺の心は焦燥感に駆られる?
「…」
少し、考える。
オールイーターは倒すべき存在。それは変えようがない事実だ。
けど、仮に…仮にだ。
そのオールイーターでも、味方になってくれる個体がいるのならどうだろう。
絶対にありえない事象だが、物事に絶対はない。
というより、ファフニールが敵対意識がないと判断できる事が唯一信じられる理由にもなる。
なら、やることはひとつだ。
「ファフニール、一応情報のインプットは常に頼む。特にこの敵対意識がないオールイーターは最優先でな」
「鴉羽?」
「…あぁ、わかった。出来れば俺の身体が悲鳴を上げないように頼む」
俺は、敵対意識がないオールイーターを探すことにした。
「鴉羽零亜、正気ですか?敵であるオールイーターを探すなど」
「わかってます。はたから見れば狂気の行動ですが、少し思い当たる節がありまして」
ソフィー生徒会長の言葉は至極まっとうだ。
何の否定もできないが、一つだけ思い当たる節がある。
「何だそれは?」
その質問を東雲学園長が向けてくる。
俺はその質問に答える。
「実は前の任務で愛染さんとエレベーターに閉じ込められ、彼女の過去を聞きました。それで気になることが」
「気になること?」
「愛染さんは過去で家族に監禁じみたことをされましたが、それを助けてくれたのが…黒い龍だそうです」
「はぁっ!?」
「なにっ!?」
「なんですって!?」
その節が、愛染さんの話だ。
普通じゃありえない事象が彼女の目の前で起きた。
昔の記憶違いかもしれないが…これだけでも信じられる理由になるだろう。
「本当なのか?」
「愛染さんから聞きましたので事実かと」
「あり得ませんわ!あの黒龍がそんなことを!」
「…」
ソフィー生徒会長は怒りに震えるかのように声色が変わり始めた。
その反応は凄く普通だ。オールイーターという存在のせいで世界は変わった。
その影響で家族や居場所を失ったものが居るのは重々理解してる。
「もし、その黒龍が他の記されている情報と違う点がある点があるとしたらどう思いますか?」
「…どういうことです」
「愛染さんの見た黒龍は図体は記されている情報と同じでしたが、違う点がありました」
「それは?」
「口が封じられている事と人間を理解しているという点です。食べ物を与え、衣服を与え、逃げ道も教えてくれた…勿論、嘘だと思うのも当然ですが、それが嘘なら何故愛染さんは今も生きているのですか」
「…」
正面からソフィー生徒会長に俺の考えと意見をぶつける。
「鴉羽よ」
「はい」
少し険悪な空気になりつつあったが、そんな中で東雲学園長は俺に問いかける。
「もし、その敵対意識がないオールイーターと遭遇した際にはどうするつもりだ」
「ファフニールと共に考えます」
「仮に襲ってきた場合は?」
「遠慮なく潰します。俺はまだ死にたくないですよ、過去も取り戻せていない状態ですし」
「…そこまで考えているのならいい。なら敵対意識がないオールイーターの捜索を許可するが、捜索は鴉羽とファフニールのみで行え。いいな」
「構いませんし、元々そのつもりでした」
そんなわけで、敵対意識がないオールイーターの捜索の許可が俺にのみ降りた。
まぁ許可が降りただけで十分だ。
「…鴉羽零亜」
「はい」
「信じますわ、貴方の行動を」
「ありがとうございます、もし俺が逸脱した行為をした時はナンバーズから除名してもらっても構いません」
「わかりましたわ」
「いや、鴉羽を除名は無理だろ…お前とファフニールがあまりにも強すぎる」
「そうですね…かといって除名云々は起きてほしくないので鴉羽君もその辺は心得てくださいね」
「わかりました」
それから色々な情報共有を行った。
戦ってきたオールイーターの事、これからの訓練の話、任務など。
そんな情報共有をして言っているうちに時間は過ぎていき、日は落ちていった。
「おっと…もうこんな時間か。悪いな4人とも、老人は長話が好きでな」
「構いませんわ、私たちにもこういった話し合える時間が必要ですから。そうですわね?」
「あぁ」
「そうですね」
「はい」
何て返事をして今日はこれでお開きかと思っていたが
「…そういえば、最後に鴉羽に聞きたいことがあったな」
「俺に、ですか?」
学園長が俺に聞きたいことがあるようだ。
もう何回目の質問かわからない為、今更ではある。
「何、難しい話ではない。他愛もないただの老人の話だ…近頃、パイロット科の中で鴉羽の話を耳にした。やれイケメンだの、カッコいいだの、近づきたいだと」
「はい???」
「年頃の男子としてそういう噂はどう思う?」
「ちょっと待ってください」
言っている意味がまるで理解できんぞ。
い、イケメン?俺が?
その噂を流した奴は相当、目が死んでいる可能性があるんだが。
「ごめんなさい、どう思うも何も困惑が勝ちますが」
「あー、そういえば私のクラスでも聞いたな。鴉羽ってどうなのとか」
「私もですね。鴉羽君の素性とかそういうの」
「え、えぇ…?」
「モテモテですわね」
「モテたことが無いので困惑が強いですが?」
「え、ないのか?」
「ないですよ!?というか誰が俺を好きになるんです?」
「あー…」
「なるほどな…」
「これは…」
「???」
三人の目が『マジかコイツ』みたいな眼になって俺を見てくる。
そんなに変な発言したか俺…!?
「まぁ鴉羽。お前さんはモテた試しがないと」
「はい」
「率直には困惑と」
「はい」
「…苦労するな、特に愛染は」
「何故そこで愛染さんの名前が?」
「…はぁ」
小さくため息をつかれ、困惑が勝りつつも一旦はお開きとなった。
残りの夏休みの予定は慰安旅行と明楽とのお出かけだ。
虚無に続く夏休み…何処かで俺の記憶の片隅を拾えたらいいなって思いながら、俺は自分の部屋に帰っていった。
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




