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第33話 変わりゆく

夏も渦中に入り、期末テストもきちんとこなし、補習もなく普通に夏休みに入ったと同時にありとあらゆる学生が苦しめられるはずの夏休みの課題の諸々を全て終わらせる。

まぁ…暇だったしな。他の人たちと違い帰る場所もない俺にとってはいとまが一番の敵だった。

だから、終わらせる。

ついでに


「ふぅ…終わった~」

「お疲れ様、零亜」


明楽も一緒に俺の部屋で課題を終わらせている。

何か明楽は家に帰れないらしいので俺と同じように寮で夏休みを過ごすというわけなので協力しながら課題を卒なくこなし、…俺は本日、計3日くらいで終わった。


「明楽はあとどれくらいだ?」

「数学の課題を終わらせたらお終い。整備科での製作関係は免除を貰ってるしね」

「免除?」

「ファフニール用の新装備の開発とか色々やってたら『課題は良いから、新しい装備を作ってあげて』だって」

「ふーん?どこぞの教師とは比べ物にならないくらいいい先生だな」

「そうだね、どっかの教員と比べたらねぇ…」


と二人でとある教員の事を皮肉りつつ、笑いながら話す。


「そういえば、パイロット科は最近どう?」

「言わずもがなだよ。大変といえば大変だけど基本的にナンバーズでの出撃が多いからな…そっちの方が大変だ」

「あれだけ包帯まみれに点滴、更には出血してれば大変さはわかるよ」


まぁ…うん。

コックピットが真っ赤になるほど血を出したし、点滴もつながったし、医療室には二回訪れたし…もうね、よく生きてるな俺って。


「…大丈夫?」

「ファフニールのことか?」

「うん…毎回毎回血まみれのコックピットを見てるとね」

「大丈夫だ、説得力はないと思うけど」


明楽の顔を見ても、やはり心配の色は無くならないようだ。

俺も同じだ、仮に明楽が禁忌機体に乗ってて俺が整備でコックピットが血まみれだったら心配だけじゃ済まない。


「…ただな」

「ただ?え、何かあるの?」

「ちょっと見てもらってもいいか」


俺の身体には何もないはずなんだが…最近、身体に違和感があった。

ただその違和感は不調だとか、病気だとかそういう物じゃない。

それを証明するために、俺は冷蔵庫から一丸のリンゴを取り出した。


「え、リンゴ?」

「あぁ、リンゴだ。ほらよ」

「おっと…」


何の変哲もないリンゴだと証明するために、明楽に投げて渡す。


「うん、ただのリンゴだね。それで何かマジックでもするの?」

「まぁ…フィジカルマジックだ」


投げ返されたリンゴを右手でキャッチし、左手でボウルを持つ。

そして右手に少しだけ力を籠める。


――メシャッ!


「え?」

「…」


リンゴは…握り潰れた。


「えぇ…?零亜ってそんなに握力が強かったっけ」

「俺も最初は整備とかコックピットでオールイーターと戦い続けているうちに握力が育ったんだって思ったさ。けどな」


そういいながら俺は左手に握られているボウルに力を籠める。


――メギャッ!!


「…!?」


ボウルすらも握り潰れ、中に入っていたリンゴの残骸が鉄屑と共に床に落ちる。

そのまま落ちた鉄屑とリンゴの残骸を手の中に集めて、思いっ切り圧縮すると、手の中にはリンゴと鉄が混ざりあった球体があった。


「肉体に変化が起きてるのはこれでわかるな?」

「そ、それはわかったけど…」

「しかもな、俺の身体がおかしいのは分かるが…逆なんだよ、色々と」

「逆?」

「最近、ずっと調子が頗る良いんだ。別に環境が変わったとか、食生活をきちんとしたものにしたとかそういうことをしたわけじゃないのに、調子がいい」


両手をぐーぱーと閉じて開いてを繰り替えす。

あの蟷螂と戦って、ファフニールの事を少し知って…その日から身体の調子が良くなってきた…リンゴも、鉄のボウルすら片手で握りつぶせるほどにまで。

俺の中では体育会系の人ならわかる『ゾーン』のような状態だと考えている。

自分なら何でもできる、何でも変えられる、世界は自分を中心に動いている…それだと。

けど、明らかにこれは異常だ。

俺の身体で出していい力じゃない。


「本当に何もしてないの?」

「強いてあげるなら筋トレとかそういうのだけだが、それは明楽も知っての通り整備科の時からやってる」

「そうだね、それが今実を結んだとか?」

「そうだとしても、ボウルを片手で潰せるくらい握力を鍛えたわけじゃないぞ」


全体的にまんべんなく筋トレをしていたが、握力だけ異様に発達するのは…正直、おかしい。


「ファフニール…あとはどんな力が眠っているんだろうね」

「そうだな…パイロットである俺ですら知らないことはまだあるしな」


手首につけられている黒い輪を見てそう呟く。


「そういえば…零亜は夏休み予定があるの?」

「一個だけ」

「一個?」

「ソフィー生徒会長からな。ナンバーズで軽い慰安旅行に行くから一緒に来ないかって」

「へぇ~…行くの?」

「あぁ、夏休みなんていう無限に続く虚無の日を過ごすくらいなら何らかの予定がある方がましだ」

「無限に続く虚無…」

「ん?どうした」

「何でもないよ、ちょっとだけ昔を思い出しただけ」

「そうか?」


一瞬、明楽が悲しそうな顔をした。

前から思っているが、定期的に何かを思い出したように明楽は悲しい表情をする。

何か俺に隠してることでもあるのか?

まぁ聞く勇気が俺にはないが…如何せん、人のプライベートに土足で踏み入るほど俺は馬鹿じゃない。


「あー、でもたまには明楽と出かけたいな」

「え、僕と?」

「あぁ、親友だしな。たまには親睦を深めたいなって」

「そ、そっか…けど男二人で何処かに出かけるってなんか変じゃない?」

「別にいいだろ」

「…わかったよ。なら零亜がソフィー生徒会長達との慰安旅行から帰ってきたら何処かに行こう」

「よっしゃ、楽しみにしとく」

「…じゃあ、私は課題に戻るね」

「あいあい」


慰安旅行後の予定もできた。

虚無の夏休みが予定で塗りつぶされていく、何て充実しているのだろう。

これが俗にいう…リア充って奴か?

てか、さっきの会話にちょっと違和感があるな…何でだ?


(ま、いっか)


ーーー


あの後、明楽も無事に課題を終えて自分の部屋に戻っていき、日が落ちてきた。


「うし」


俺は着替えてランニング用の服に着替えて、外に出る。

肉体強化の一環として体力作りも必要だと感じた。

2時間ぶっ通しで戦い続けたら意識が吹き飛んだしな、せめてファフニールの燃料が尽きるまで戦い続けられるくらいの体力は付けたい。

もはや化け物かもしれないが、化け物で結構。


(守れないのは、嫌だしな)


後悔する前にまずは行動だ。

地面を蹴って走り出す。


「…ふっ…ふっ…」


呼吸のリズムを一定にしながら、一定のスピードで走り続ける。

夏は確かに暑いが、夕方になるにつれて気温はほんのちょっぴり下がる。

そのちょっぴり下がった気温を風で感じるのが気持ちいいんだ。

景色もいいしな。

整備科としていろんな場所をトラックで走ってきたが、こうやって足で駆けるのも悪くない。


「…」


誰も居ない。

自分だけの空間。

そこへ


――プルルルル


「?」


携帯電話に着信。

一度、走っていた足を歩きに切り替えてから携帯電話を手に持って、応答する。


「もしもし」

『ソフィーですわ』


相手はソフィー生徒会長だった。

通信端末じゃなくて、携帯電話で通話をかけてくるのにはちょっぴり驚いた。


「ソフィー生徒会長、どうしました?」

『前の慰安旅行についてですわ、通常通り参加でよろしいですか?』

「はい、参加で大丈夫です」

『分かりましたわ、では前に話した日にAT学園のパイロット科の校舎前に来てください』

「分かりました」

『…そういえば、今は何を?』

「ランニングです、ちょっと体力を付けないといけなくて」

『殊勝な心掛けですわ、これからもファフニールと鴉羽零亜に期待しています』


そういってソフィー生徒会長との通話は終わった。

内容は慰安旅行の話だったか。

何か声色も良かったし、ソフィー生徒会長も結構楽しみなんだな。


「よし、再開するか」


無音のまま走り続けるのも良いが、気分転換にイヤホンとスマホを接続しイヤホンを耳につけて音楽を流す。

音楽は愛染さんが新しく出した新曲。SNSでも結構話題になっていたのは覚えている。

覚えているんだが…何か重いとか何とか聞いたことがある。

まぁあの太陽のような明るさを持つ愛染さんがそんな重い曲を歌うとは思えない。

多分、気のせいだろうと思いつつ…音楽を流しながら走り出す。


「…」


――ねぇねぇ好きでしょ?


「…」


――ねぇねぇ愛してるでしょ?


「…」


――作りものだけど、私の心の容器は貴方で満タンになっちゃった。


「…。」


――だから、好きな色も好きな物も知っちゃう。


「―――。」


――全部知ってるよ。これは運命、これは絶対、これは宿命。


――だから、私で染めたい。


俺は曲と足を止めて、ある人に電話をかける。

2コールめで繋がった。


『鴉羽君?お久しぶりね』


相手は阿達さん。


『それで…どうしたの?定期連絡はもう終わったと思うけど』

「阿達さん」

『なに?』

「最近…愛染さんに何かありました?」

『え?そ、それはどういうことなの?』

「新曲、聞きました」

『あー…』


俺の一言に何かを察したのか、阿達さんから何か納得したかのような声が聞こえてくる。


『何かあったというか何というか…うん』

「…」

『乙女心は複雑なのよ、鴉羽君』

「そう、ですか」

『と、とりあえず特にこれといった異常はないから安心して頂戴。もし何かあったら連絡するから』

「わかりました、では」


そういって阿達さんとの電話を切った。


「乙女心は複雑、か」


何度も言われたが、いつになっても解ける気がしない。

まるで真っ白なルービックキューブを解けって言われているような程、難解だ。


「はぁ…走るか」


愛染さんには悪いが曲を止めて、イヤホンを耳から取り、また無音で走り始めた。


◇◇◇


「…はぁー…」


場所は変わり愛染珊瑚が所属している事務所。

ソファーに身を預けて、息を吐く阿達。


「聞いた本人ですら、心配を覚えるのね…乙女心って怖いわ」


愛染の新曲、題名は『黒を日で濡羽色へと』。

一見、詩的な題名で恋を歌ったようなものだと最初は言われたが中身は愛がたっぷりと詰まった曲だった。

愛染のファンたちも流石に驚き『これが愛染ちゃんの曲!?』『路線変更なのかもしれないけど、ちょっと驚く』『それでも好きだ』と様々な考察や意見が飛び交っているが、阿達は違った。


「…伝わっていないだけ、マシね」


阿達は題名と曲の理由を知っている。

ある動物の羽の話だ。

黒い羽を持ち、空へとはばたく鳥。

その鳥の羽は一見真っ黒だが、太陽光の下では金属光沢により青紫や緑色に輝く『濡羽色』になる。


「愛染…暴走だけはしないで頂戴よ…?」


その意味を理解した物だけが、真の意味で彼女の心境を知れたと言えるだろう。

誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします


感想も待っていますので気軽にどうぞ!


超絶不定期更新ですがご了承ください…

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