30秒の死闘 中
祝100話到達。
「誓約の魔眼ッ!!」
一か八かで魔眼を見開く。
観測しろ、見極めろ――!
奴の魔法を……!
「『氷槍』」
涼やかな声と共に、極大魔法が撃ち出された。
同時に、右腕を消し飛ばされた自分の姿が鮮明に映し出される。魔眼が映した未来か、それとも僕の恐怖心によるものか……。
考える間もなく、全力で横に飛ぶ。オールドマギを抱いたまま、無様に地を転がった。
空間を切り裂いたような、強烈な音が鳴り響く。地に臥した顔を上げると、僕がいた場所に槍を象った氷塊が突き刺さっていた。
「し、死ぬだろあれ……」
あんなの喰らったらミンチになるぞ……。
遅れて、頬から血が垂れた。掠りもしていないのに、余波だけで頬に擦り傷ができた。
どんな攻撃魔法だよ。
「今の、避けたの……?」
口調こそ平淡だが、メイドが瞠目していた。
驚きたいのはこっちだ。
「博打に勝った、か……」
この眼は全て見えていた。
出現座標、魔法の性質、軌道。魔法が放たれる直前に、見通すことができた。
オールドマギは、この眼は万物を観測する瞳だと言った。今までは動作の予知にしか使っていなかったから確証はなかったが……。
やはり、魔法も観測することができるようだ。
だが、形勢は何も変わってはいない。あの魔法を撃たれると全てをかなぐり捨てて回避に徹しなければならない。
同じ手は、二度と通用しないだろう。
「『蒼穹を駆ける者。無窮の地より時を置き去る。刹那よ、今永遠のものとなれ』」
起き上がりつつ、詠唱する。既に十秒が経過している。
右眼が鈍い疼痛を発していた。この眼を失えば、勝機は完全に霧散する。
堅実な手を打つのは悪戯に時間を浪費するだけだ。
僕は、再度博打に出ることを決意する。
残りの十秒が正念場だ。
「『疾風』!」
全力で距離を詰めてくる執事を正面から見据え、魔法を発動する。
スペックに差があるのなら、無理矢理それを埋めるまで――!
僕は後退することなく、前へと駆けだした。
先程までの足取りが嘘のように軽い。視界に映る風景を置き去るような急加速。
「なっ――!?」
初めて、執事が明確に表情を崩した。
一瞬で執事の懐へと潜り込んだ。この神をも恐れぬ速度に、さしもの執事も驚愕を禁じ得ないとみた。
迷宮で練習した中で、最も速く動けるだけの魔力を注いでいる。これを完全に対応されたらなす術はない。
なにせ、この魔法は十秒の制約を設けられている。加えて、両足にかかる負担も尋常のものではない。
この一戦に、全てを賭けているからこそできる芸当だ。
「シィッ!」
短剣を振り上げる。狙いは非武装であることが明白な右手首。靴先に仕込みがあった以上、迂闊に胴体を突くのは避けたい。まずは武装を解除させる。
「ぐぅっ……!」
苦悶と共に、剣の柄底で阻まれる。だが、加速の勢いをつけた一撃を殺し切れていない。剣が弾かれ、上体のガードが空いた。
僕は身を捩り、先程の意趣返しとばかりに空いた胴体へと蹴撃を見舞った。仮に服の下に何か仕込んでいようと、威力は殺しきれないだろうという算段だ。
靴先に固い感触が伝わる。いつか武具屋で見かけた鎖帷子という奴だろうか。ジャリっという音と共に脇腹を蹴り抜く。
「ぐぁ……!」
防御を貫通して、幾らかダメージが通ったようだ。執事の目つきが鋭さを増し、獣性を帯びていく。
「『薔薇咲く園の乙女。水面に映るは鏡の姿』」
再び、歌うような声と共にメイドが詠唱を開始した。
この戦いは一対二だ。どちらか一方を相手に優勢だったとしても簡単に覆る。
戦闘開始前の僕は手早く一対一に持ち込むつもりだった。
だが、執事の予想を超えた力量にその目論見は淡く崩れ去った。
ならば、どうするか。
簡単なことだ。
僕は距離を取る執事へ駆け出しつつ、メイドに被せるように詠唱を開始する。
「『薔薇咲く園の乙女。水面に映るは鏡の姿』」
執事とメイド。その両者が目を見開いた。
僕の答えは、二人同時に相手取ることだ。
これは賭けだ、大博打だ。
僕に彼女と同じ魔法が使えるかは分からない。だが、僕は一度誓約の魔眼で彼女の魔法を見た。
魔法の性質、構造は把握している。ならば、あとは詠唱さえ完了すれば魔法を使える筈だ。
そして、同じ魔法を扱うならば僕の方に分がある。
一般の魔法使いが魔導書に規定された威力の魔法しか行使できないのに対し、オールドマギを有する僕はその縛りを受けない。
つまり、相打ちはあり得ないのだ。
僕は魔眼の未来予知を駆使して、執事にインファイトを仕掛ける。
執拗に右手首を狙い、時折フェイントを混ぜ確実にダメージを蓄積させていく。
「「『茨姫の血を以て、冷たき心を穿つ』」」
輪唱するように、詠唱が響き渡る。
執事は背後に後衛が控えている為、後退できない。僕の、速力に任せた暴力を足で、剣で、脇で、ひたすらに受け止める。
無理矢理空けた脇腹を蹴り、兄妹を一直線上に並べた。
「「『永久に、訪れることない春を願い』」」
最後の詠唱と共に、僕は背後へと跳躍した。
――20秒が経過。疾風の効果が消える。
この一撃を以て、勝負を決する――!
「「『氷槍』!!」」
そして、魔法は放たれた。
リスクを背負って前に進む姿は主人公らしいですよね。
それはそうと、100話行きましたね。
話数で三桁いったのは初めてです。
さあ、誰か祝おうか。




