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タケルとトオル  作者: みゆき
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ホームシアター3

 みんなが喧々囂々と騒いでいる中、トウコが不安そうな顔をしてソウタに耳打ちしているのが見えた。

 タケルは気になり声をかける。

「トウコどうしたの?」

「う、うん。あの子達がね・・・。」

 トウコが5人の少女たちを指して、答えた。

「さっきからこんなに騒いでいるのに、まるで無表情なの。まるで何も聞こえてないみたいで・・・。」

「まあ、不安そうには見えるんだけど・・・、多分俺があの子たちに共鳴してるから分かってるのかな?確かに感情の動きがほとんど見られないよね。」

 タケルは、自分の思ったことをそのままトウコに伝えた。


「その子たちは、研究所からほとんど出ないで育てられてますからね。外部からの刺激を受けてないから、反応が薄いんですよ。」 

 話が聞こえたのか、タカオが説明した。

「酷い話だな。そんなこと指示したつもりはないぞ!どう言うことだ。」

 藤原が塩尻に問いただす。塩尻は首を引っ込めながら、しどろもどろに言い訳をする。

「先生は何も分かっていらっしゃらないと思いまして・・・、あの・・・、まあ、独断ではありますが・・・。」

「どう考えたって、倫理的にやっちゃいけない事だと判断もできなかったのかね。」

 藤原はじろりと睨んだ。さっきまでの飄々とした雰囲気からは考えられないほどの凄みがある。

 タケルまで藤原が怖いと思った。

 篠山が、縮み上がってオロオロする塩尻を心底バカにするように見ている。その様子を見ていたソウタが、篠山に怒鳴りつける。

「お前が唆したんだな?目的はなんだ!ただ、世間に復讐するとか子供じみた理由じゃないだろうな?

 そうだとすれば、本当にふざけるなよ!!」

 篠山にソウタの怒りは届いてないのか、それとも開き直ったのか、篠山はニヤリと笑い言い返してきた。

「そんなに怒ることでもないじゃないですか。あなたのお子さんは二人ともちゃんと遺伝子を受け継いでいる。なら別に良いんじゃないですか?」

 この発言にタケルは心の底から怒りを感じた。

「あんた何考えてるんだよ!ミドリはあんたの姪に当たるんだよ。遺伝子とか関係ないだろうが!よくもそんなこと言えるもんだな。」

 篠山は怒り狂うタケルにはお構いなしに、トオルへと嫌な笑い方で問いかけた。

「まさか、自分が人間なんだと勘違いしてないですよね。ミドリもあなたも所詮人工の化け物でしかないかないんですよ。」

 じっと篠山を睨んでいたユウジがここで口を開いた。

「そう思っているのはお前だけだよ。真実を聞かされてもミドリが俺の娘であることに変わらない・・・いや、変わってたまるか!」

「それは強がりですか!それともそう思いたいだけですか?」

 篠山はニヤニヤ笑いながら、ここにいる全員を牽制しているようだった。


「お前?何言ってんだ?この子達見てて、人間じゃないって思える人間がいるのか?

 ・・・なんだか、差別の根源に触れた気もするな。自分と違うものを排除したいのは生物の本能なのかも知れんが、俺たちは人間だぞ?相互理解を深めて納得して友好を深めようと思う、俺は甘いとでも言うのか?

 確かに理想論に過ぎないのは理解しているが、理想を掲げるのが政治家の役目だと、俺は思っているのでね。お前の意見には同意できんよ。」

 藤原が、ハッキリとそう言った。

「・・・全く、本当に藤原さんには敵いませんよ。俺も藤原さんと同じ意見だ。理想が無くて、国民に大見得切るほど恥知らずじゃないと、自分で思いたいのでね。」

 二人の政治家に対峙している篠山は、負けじと目を見開き睨み返しているが、やはり迫力負けしたのか額から大量の汗が流れているのが見えた。

 さっきから、こちらを威嚇しては言い負かされたり迫力負けしたり、変な話だがタケルは篠山に少し同情してしまう。


「この子達・・・戸籍の方はどうなっているんですか?」

 トオルが話をぶった斬って聞いてきた。恐ろしいほどの迫力で、篠山を睨んでいる。

「ありませんよ。それどころか、ミドリさんが付けるまで名前すら無かった。番号で呼ばれていたんです。

 今までこの子達は研究所から出たことが無かった。ミドリさんがここにきて彼女たちを連れ出すまでは、研究所の中庭ぐらいしか太陽を見たこともなかったんじゃないですか?」

 タカオの告白に一同が凍りつく。名前すら無かったとはどう言う事なんだ?

 トオルが深くため息をつきながら、ミドリに聞いた。

「だから・・・この子達のために今日ニュースセンターへのタレコミをしたんだね。このままでは、この子達がどうなるのか分からないと。早くどこかに保護されるようにと。名前も付けてあげたの?」

「・・・そうよ。初めて会った時から、ずっとこの子達は不安の中にいたの・・・。

 村の・・・、村に咲いていた花の名前でその子たちを呼んであげたのよ。私はこの子達を助けてあげたいって思った。だからタカオに協力してもらって、ちょっとした証拠を提示してニュースにしてもらったのよ。

 まさか、あんなに面白おかしく書かれるとは思ってなかったけど・・・研究所の存在を知らしめることにはなったはずよ。

 会ってから2週間ぐらいだけど、妹のように思っているわ。そりゃ、トウコさんの嫌がらせに付き合ってもらったけど・・・。トウコさん、ごめんなさい。完全に私の逆恨みよ。悪かったわ。」

 ミドリは素直にトウコへ謝罪した。

「そんなのもういいの。とっくに誤解は溶けてるし、さっきも言った通り、私もエミリも絶対ミドリさんの味方だから!」

 トウコはにっこりと笑いそう言い切った。エミリも横でウンウンと頷いている。


「貴様・・・、本当に何をしているのか自分で理解しているのか?」

 ソウタが、呆れたような悲しいような複雑な顔をしながら篠山に話しかける。篠山を怒鳴ることさえ嫌になっているような感じもした。

「だから、なぜこいつらを人間だと思う必要があるんです?全てが人工なのに遠慮する必要なんてないじゃないですか。」

 それを聞いていたトウコが反論する。

「私には、普通のお友達だとしか思えない。私にはあなたの方がよっぽどモンスターに見える。何があったか知らないけど、私たちを信用させて嘲笑っていたの?私はあなたのことが大嫌いです。」

 はっきりそう言われて、篠山の顔が愛憎が絡まったような複雑な表情で醜く歪んでいく。トウコを大事に思う気持ちに偽りは無かったのだろう。


「あの泣いてた人どこいった?」

 ジュンがポツリとそう言った。

「あれ?本当に塩尻さんが居ない。」

 タケルもいつの間にか、塩尻がいなくなったことに気が付いた。

 タカオが一瞬、しまったと言うようななんとも言えない表情を浮かべたのが気になる。トオルもそれを見ていたのか、少し不安そうな顔をした。

「外に出ても警察が周りを囲んでいるはずだから大丈夫だ。」

 タカオの表情に気付いていないのか、藤原はそう言った。

「なぜ警察を呼ぶ必要があったんです?大袈裟な。話し合いで済むじゃないですか。」

 塩尻がいないことには関心がないのか、警察という言葉に驚いたのか、篠山が戸惑うように聞いてきた。

 トオルは少し呆れたように話す。

「あなた達に罪はないとでも思っているのですか?少なくても横領や背任の罪はありますし・・・、当然児童虐待の罪もありますよ。人身売買も未遂であるかも知れない。」

「何を大袈裟な」

 篠山はキョトンとした顔をして言い返す。。自分が仕出かした事の重大さに気が付いていないようにも見える。本気か?


「大した事ないと思っているのか?この子達にした事が許されるとでも思っているのか?そんな訳無いだろうが!!」

 今まで黙って聞いていたワタルが叫んだ。部分的とは言え、人工ゲノムで産まれた最初の子供ということで、いろいろ思うところもあったのだろう。

 気にしていない風を装っていても、悩むことも多かったと思う。そんなワタルの感情がタケルの心の中に入ってきて、少し苦しい。

「アンタ、倫理観がバグっている!その少女たちを最終的にどうするつもりだったんだ?もしかして・・・、誰かに売りつけようとしてるんじゃ無いだろうな!

 アンタのしてる事は、犬や猫のようなペットだとしても決して許されることじゃ無いんだよ!人工ゲノムがどうしたと言うんだよ。トオル君たちは何も変わらないだろが!!」

 ワタルの怒りは収まらない。しかし篠山はそんなワタルを馬鹿にしたように嗤う。

「君が化け物の仲間だと思い出したよ。しかも、中途半端な人工ゲノムで産まれた不良品だ。」

「なんだと!!俺の息子達をバカにするな!!」

 これにはソウタも黙ってはいられない。

「お前、何言っているのか分かっているのか?

 この子達の方がお前よりよっぽど道理を弁えている。俺にはお前の方が化け物にしか見えない。」

 藤原が怒鳴る訳でもなく蕩々と篠山に反論し、そして語り出した。

「お前がなぜそう思うのはこの際どうでも良い。ただな、青臭い事を言うようだが、この子達は全員この日本を、いやもしかしたら世界を担う子供たちなんだ。

 今、世界レベルで深刻な少子化が進んでいるのは誰でも知っている事だ。だから俺はこの研究の意義があると思っていた。だが・・・。

 そうだな、この研究は諸刃の剣だ。分かっていたのに、ここにいる北村君にあれほど忠告を受けていた筈なのに、俺は事態を軽く考えていた。塩尻を信用していたのもある。だが、危険性を知っていながら任せっきりにしていた。

 これは俺の責任なんだな、北村君。」

「私の責任でもあります。私は話が大きくなることに恐れを抱いた・・・、だから逃げた。この子達を育てると言う大義名分を盾に、本当の問題から逃げてしまったのです。最初の目的から逸れたとは言え、生み出した者の責任があると言うのに・・・。」

 サエコは苦悩の表情を浮かべ、そう言った。



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