ホームシアター2
「あの日何があったの?」
トオルがミドリに聞いた。
「あの日?」
「フミカが池に落ちた日。あの日なぜフミカがあんな場所に一人で行ったのか、心当たりがあるんじゃない?」
トオルの呼びかけに、ミドリは落ち着きを無くす。
「ミドリが罪悪感を持ってタケルが許せない理由はそこなんじゃないの?」
「あの日・・・、でも・・・。」
ミドリが苦しそうな顔で躊躇する。
「大丈夫だ。ミドリが悪い訳じゃないよ。タイミングが最悪だったんだ。」
「トオル・・・、何か知ってるの?」
ミドリの目から涙がこぼれる。
「僕の憶測になるけど・・・、多分そういう事なんじゃないかなって。」
トオルはそう言いながら、タケルに向き直り言った。
「もちろん、お前のせいでも無いよ。でもお前には辛い話だと思う。覚悟はあるか?」
タケルの鼓動が激しくなる。でも、聞かなくてはいけない。タケルは真っ直ぐトオルを見つめ、「大事なことなんだろう?俺は逃げる気はないぜ。」と答えた。
それを聞いて、ミドリの覚悟も決まったようだった。ゆっくりではあるものの。フミカが死んだあの日の事を、ゆっくりと話し始めた。
「タケルとの会話をフミカに聞かれたんじゃないかって・・・。あの子、私たちに置いて行かれないようにって、必死で勉強してたのよ。
あの日、タケルと一緒に下校してたの。理由は覚えてないけど、確か先生に頼まれ物されて遅くなっちゃったんだと思う。
いつもみたいに冗談とか言い合ってたんだけど、そのうち修了後の話になって・・・タケル達は新京市に行って私は新岡山に進学するんだって言ってた気がする、それでフミカはどうするのかなって。
タケルがフミカはこのまま村を離れない方が幸せになるんじゃないかって話をしてて・・・、私もそう思ってしまったの。」
タケルは突然あの日の事を思い出してしまった。頭から血が引いて、額から嫌な汗が流れてきた。
「あの時の話を聞かれてたって?」
タケルは震える声でそう呟いた。
「やっと思い出した?全くアンタは昔から鈍感なんだから。」
ミドリが、恨めしそうにタケルを睨む。
「あの日、一人でトボトボと神社の方へ歩いていくフミカを何人かの人が見てたらしいの。子供だけでは行くなって、坂田のおじいちゃんが言ってたじゃない。なのになぜあの日・・・、普段のフミカなら、絶対そんなことしない!
だからよほどショックなことがあったのよ。だから、私たちの話を聞いてしまったとしか思えなくて。」
ミドリの話が本当なら、確かにフミカの事故の原因はタケルにあると言える。タケルは目の前の光景が歪んでいくような錯覚に陥る。
「確かに俺は・・・フミカは村で暮らして行く方が幸せだって言った。今もそう思う。
でも、それはフミカを置き去りにするってことだったんだな・・・。」
胸が苦しい。
「フミカは自分でもそう思ってたよ。村を出ること自体考えてもいなかったんじゃないかな?僕達が修了後に村を離れることも、小さな頃から知っていた話だし。
だけど、頭で分かっていても心では理解出来ない事ってあるよね。だから、フミカは必死で勉強してたんだろうな
フミカは僕たちに囲まれてて・・・、研究の間接的な被害者だったんだと思う。」
トオルの言葉に、ミドリはハッとした顔をする。
「フミカは私の一番の友達だった。いつもニコニコ笑ってた。私の存在が彼女を苦しめてただなんて・・・。」
ミドリの目から涙が溢れる。
「フミカちゃんだっけ?彼女もミドリちゃんが大好きなはずだよ!」
エイミが口を挟む。
「だって今日会ったばかりだし、しかも騙された形でここに連れてこられたけど、私はミドリちゃんが大好きになったよ。絶対友達になりたいもん。
同情じゃないよ。あなたみたいな純粋な人初めて会ったような気がする。トウコもそうでしょ?」
エイミはトウコに意見を求めた。
「私も友達になりたい!今日話してて思った。バカにするなって怒られるかもしれないけど、私はあなたを守りたいわ!
普段のミドリさんには到底勝てないだろうけど、あなたは今傷ついてるの。タケルや私たちがそばにいたいと思うのは迷惑な話なの?」
トウコにとってそれは本音らしく、真っ直ぐにミドリの目を見てそう言った。
「何言ってるの?私のこと何も知らないくせに!」
ミドリは叫んだが、明らかに動揺している。
「しょうがないじゃん。今日話してて、ほっとけなくなったんだもん。いつ出会ったかなんて関係ないよ。」
エイミが力強くそう言った。彼女の真っ直ぐな感情表現に驚かされる。トウコとはいつもこんな感じなのだろうと思う。実に身勝手だと自覚もするが、少しだけタケルの罪悪感も救われているような気分になれた。おかげで、冷静さは取り戻せている。
エイミの訴えを、憎々しげに見る篠山が視界の端に映った。まるで主人公の座を追われたかのような不満そうな顔をしているように見える。
「ミドリ、こっちに戻っておいでよ。今の状態はフミカの望むことじゃないと思うよ。フミカがミドリやタケルを恨んでいる所なんて、想像できないだろ?」
トオルは優しくそう言った。
「タケルはなんで、平気な顔でいられるのよ!その子の話で安心したような顔するんじゃないわよ!!トオルもそんなこと言って簡単に分かったってなる訳ないでしょ!」
ミドリに痛い所を突かれたとタケルは思う。言い訳したいけど、その言葉も出てこない。
(俺は、何してんだろう・・・。)
ほとほと自分の情けなさが嫌になる。
「タケルの鈍感さなんて、今更責めても仕方ないだろ?」
トオルは助け舟のつもりだろうが、逆に責められている気がする。タケルはますます何を言って良いのか分からない。
「メグミがね、メグミが言ってたんだよ。お姉ちゃんは恨んでるって思われるのは、嫌だろうって。
そりゃ、自分の姉がそんな恨めしいこと言うだなんて、嫌だよ。飯島のおじさんやおばさんもそうだよ。それどころか、ミドリが苦しんでいるのなら助けてあげて欲しいってフミカなら考えるはずだって。そんなフミカの家族の気持ちも考えてあげてくれないかな?
『私との楽しい思い出をずっと覚えておいて。』ってフミカなら願うはずだって、メグミは訴えてたよ。」
トオルの話を聞きながら、ミドリは泣き崩れた。タケルも涙が溢れて視界がぼやける。
「フミカ・・・、ごめんよ。俺は忘れたことないよ。今ここに居たとしても、フミカの気持ちには応えることは出来そうにないけど、大事な友達なのは間違いないし、それは今でも変わらない・・・。」
タケルは無意識に叫んでいた。そして、ミドリへと向き直り続ける。
「ミドリ・・・、ごめん。俺本当に考えなしで行動して・・・。いつもサーちゃんやトオルに注意されてたのに、何にも考えてなかった。みんな俺と同じ考え方してるって疑いもしなかった。そりゃミドリは俺を許せないよね。」
ミドリはしばらく考えてこう答えた。
「そうね。すぐには無理よ。自分の事もタケルの事も許せない。でも・・・、ゆっくり考えてみたいとは思う。タケルも考えて・・・、フミカのことも・・・。」
「うん、そうだな。俺らにゆっくり考える時間は必要かも知れない。」
しばらく子供達の様子を見守っていたユウジが、少し安心したようにミドリへと語りかける。
「ミドリ・・・すまなかった。ミドリのことを一番に考えていたつもりだけど、助けてあげられなかった。」
「ううん、パパは私を一番に愛してくれてたのは知ってる。それを疑うようなことしてごめんなさい。」
ミドリがユウジに駆け寄り、二人はしっかりと抱き合った。周りにいた人達も一部を除き、祝福するように親子の姿を見守っていた。
ただ、キミコが複雑な顔をしているのが少し気がかりだった。
「なんなんだ?なんて言う茶番劇なんだ?」
篠山が不機嫌そうに怒鳴り散らす。
「これが茶番だと思うなんて、どれだけ卑屈なんですか?」
今度はタカオが篠山を挑発するように言ったが、その後すぐ自虐するように小声で、「僕も同じよなものですがね。」と悲しそうに言った。




