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タケルとトオル  作者: みゆき
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篠山の言い分

 部屋全体がヒリヒリとした空気が流れる中、開いたドアの向こうから声が聞こえ出した。

 藤原の声が、凍りついた様な緊張感を霧散させる。

「深山君はここか?」

「ここにいますよ。俺達もここで篠山さんを見つけたところ。」

 タケルがドアから顔だけを出して藤原に呼びかけ、それに気づいた藤原を先頭に車に残っていた連中が部屋の中に入って来た。大人数が入って来て部屋の中が少し狭苦しい。

「結構広い家でびっくりだな。」

 藤原が飄々とした表情で部屋の中央辺りに陣取った。

「おお塩尻、こんな所にいたのか?なんだその顔、深山君の秘書にいじめられたのか?」

 藤原が意地悪そうにそう言ったが、塩尻はそれどころでは無いらしく、情けなく泣きじゃくるだけだった。


「ミドリは?ミドリはどこにいるんだ?」

 ユウジが篠山に殴りかかりそうな勢いで詰め寄ってきた。

「ユウジさん・・・キミコも来たのか。・・・ミドリの居場所はこの情けなく泣いている塩尻が知っているはずですけどね。僕も彼に聞いていたところですよ。」

 篠山は塩尻をバカにする様な目で見ながら言った。

「お前、ミドリに何を吹き込んだ?」

 ユウジが怒鳴る。

「事実をそのままに。自分たちは完全な遺伝子を持って産まれたんだと思い込んでいるみたいですけどね。」

 篠山は楽しそうにそう言ったが、目は笑っていない。睨みつけるように一同を見渡した。


 しばらく無言で睨みつけて来た篠山だが、皆の中にトウコの姿を見つけて驚いたように話しかけて来た。。

「トウコさんまで、ここにいらっしゃたんですか?」

「あなたが、ミドリさんを使って呼び出したんじゃないんですか?」

 トウコはは悲しみを堪えたような目で篠山を睨み、そう言った。

「・・・あなたを巻き込むつもりはありませんよ。できたら車を用意するので帰った方が良い。」

 篠山はそう提案してきた。

「あなたの手配する車になんて乗れるわけないじゃないですか。」

 トウコは篠山に激昂する。

「本当に今日の朝まであなたのことを信じていたのに・・・。」

 トウコの目に涙が光る。

「僕はトウコさんを裏切るようなことはしていないと思いますが?」

 篠山はトウコに裏切り者呼ばわりされたことを、本当に心外だと思っているようだった。


「ソウタさんを裏切っておいて、何を言ってるんだ?」

 タケルは、篠山が何を言っているのか分からない。

「篠山さんは、裏切っているつもりは無いんですよね。トウコちゃんのことを本当に大事に思っている。深山先生にもある程度のリスペクトしている感じはするんですけどね・・・。

 僕は今日どうしてもあなたの本心が聞きたかったんですよ。あなたも意識していない可能性もありますがね。」

 トオルが冷たい目で篠山を見据えながら、話しかける。

「天才か何か知りませんが、大人に対して威圧的な態度は感心しませんね。」

 篠山もトオルを威嚇しようと睨みつけるが、どうも気圧されているようで言葉の最後には目を逸らしてしまった。トオルの迫力に圧倒されて、他のみんなもトオルを見守る事しか出来ない。

「別にあなたを威嚇するつもりもありませんし、そんな事をしても意味はありませんよ。ただ、僕はミドリを救いたいと思ってるんです。ミドリに害をなすなら、僕はあなたに容赦しませんよ。」

「こ、子供が、生意気だな。君に何が出来るって言うんだね?」

 トオルの迫力に負けじと言い返すが、篠山市に勝ち目があるとは思えない。いや、トオルは別に勝ち負けにこだわっているわけではない。今にも篠山へ殴り掛かろうとばかりに睨んでくるユウジを少し牽制をしつつ、塩尻にミドリ達の居場所を聞いた。

「ユウジおじさん、篠山さんに言いたいことはたくさんあるんでしょ?でも、その前に・・・塩尻さん、ミドリ達の居場所は何処なんです?もしかしたら後ろの本棚が隠し扉なんですか?」

「隠し扉だって?」

 タケルは驚く。なんでそんな事が分かるんだ?

「だって、ミドリ達がこの家から出ていった気配はないんでしょ?そんなおあつらえ向きな本棚があれば、そこが地下室への入り口なのかなって。その一画だけジャンルが不自然な形で本が並んでる・・・て言うかダミーですよねこの本。」

 トオルは涼しい顔でそう言った。

「本当だ。良い観察眼だな。」

 ソウタが感心した。そして、塩尻に質問する。

「塩尻君、君の息子はなんて言っているんだい?君はタカオ君に同意してここに来たって聞いてるけど?」

 ソウタの落ち着いた物言いに、塩尻はなぜか安堵した様な顔をする。

「同意って言うか、脅されたんですよ。あなたの娘さんとお友達を呼び寄せたことは、今まで知らなかった。私はずっとここでタカオに脅迫されてたんですから。」

「脅迫とは、穏やかじゃないな。今まで息子を蔑ろにしたツケだ。だから、息子のことをちゃんと気にかけろって言ってたんだ。いくら血が繋がってなくて、人工の遺伝子を持っていたとしても、その子は感情がある人間には違いないんだ。」

 藤原が顔を顰めながら話に加わる。意外な意見にサエコは驚いた様に藤原を見た。今まで印象が最悪だった藤原から、タカオを心配していたような言葉が出るとは思ってなかったんだろう。


「ところで、この人を唆して完全人工ゲノムの子供を産ませて、一体何が目的なわけ?」

 ずっと聞きたかったことなんだろう。サエコは轟を指し示し質問した。

「あなたは・・・?もしかして北村サエコ女史ですか?」

 篠山はサエコの顔を見て、少し興奮気味に聞いてきた。

「そうだけど、それがなにか?」

 サエコが篠山を睨みつける。

「あなたが、この素晴らしいシステムを始めたんですよね。これで我が国は世界的な主導権を握れる。」

「何を言っているの?」

 突然訳の分からない事を言われて、サエコは困惑する。

「だってそうでしょう?軍事にも使えるし、労働者の確保も容易に出来る。まだ感情のコントロールまではいかないが、それを出来る様に改良すれば利用価値の高い子供が無限に生まれる。もしくは富裕層の思うがままの理想の子供を高額にて提供することもできる。」

「本気で言っているのか?」

 篠山の意見にソウタは呆れたようだ。

「僕はそんなつもりじゃないよ。ただ、人工のゲノムが何処までいけるのか試してみたかっただけ・・・、と言うより、サエコとの子供が欲しかった。」

 轟が悲しそうにサエコを見てそう呟いた。

「えっ・・・。」

 轟の告白は初めて聞いた事らしく、サエコは絶句してしまった。

「あの時、トオルは実験室で育てる計画だったんだけど・・、色々理由をつけてサエコに託せる様に頑張ったんだ。まさか、田舎に引きこもって自分で育てるとは思わなかったけど、それで良かったんだって、トオルやタケル君を見てそう思うよ。

 もちろん、亡くなった子供の代わりになるとは思わないよ。それでも穏やかに子供の成長を見守ってるんだって、サエコからの報告は嬉しかった。僕はあまり興味は持ててなくて、ただトオルの成長による変化が楽しみだった。だけどタケル君に会ってみて、考えが変わったよね。

 僕はその楽しさを分かった事を幸運だと思うけど、篠山君は違うんだね。」

 轟が同情する様に言うのが気に食わなかったか、篠山は不愉快そうに「下らない。」と吐き捨てた。

「大体、完全人工ゲノムは本当に人間って言って良いんですかね。」

 篠山はそう嘯いた。多分本音だろうが、それよりもトオルを揺さぶって自分の優位性を取り戻そうとしている様だった。


 トオルは無表情に言い返す。

「僕達の人権なんて今は関係ないです。自分が人間だろうがロボットだろうが、自我がある以上僕は自分が幸せになれる方向に向かうだけです。幸い僕はサーちゃんや村の人達に優しくなる様にと育てられた平和主義者です。もし、世の中を恨むように育てられたら・・・あなた達に太刀打ちできない力で、この世界に復讐する様になるかもしれませんね。」

 トオルはそこまで言って、一度深呼吸をして篠山と塩尻を睨みつけ語り出した。普段のトオルからは感じたことのない激しい怒りを感じた。 

「あなた達は、タカオを使ってそう言う危険な状況を作ろうとしているんですよ。でも、タカオはそうなりたくないんだ。理不尽さにとても腹を立てていて実験そのものに復讐したいと思っているけど、普通の子供のように無邪気に将来のことを考えたいんだ。彼はまだ14歳、基礎学校さえ修了していない子供なんですよ。何を考えているんですか。

 ミドリだってそうだ。ミドリを孤独になるように誘導して何がしたいんですか?あと、ミドリといた少女達は、ちゃんと愛情をかけてもらっているんですか?

 さっきも言いましたが、人権問題以前に僕達にはちゃんと自我というか心があるんです。だからあなたがどう思うとも、僕達は幸せになる方へと向かうだけです。」


 最後の方はほとんど叫んでいた。トオルが激昂するところなんて今までみた事がない。激しい怒りが篠山と塩尻に向けられている。

 タケルも今までない程に怒りを感じていたが、トオルと共鳴しているのか何処か冷静な自分もいた。

「なんだろう。すごく腹が立つけど、自分の感情じゃないみたいだ。」

 ワタルが小声でそう言ってきた。

「多分、トオルに共鳴しているんだと思う。」

「共鳴?」

「僕達の感情はなぜか共鳴しますからね。」

 ワタルの疑問にトオルが答える。

「え?そうなの?」

 轟が初めて聞いたと驚いた。

「だからね、僕達をコントロールすることは出来ませんよ。どうしても自我が芽生えるし、近くにいる仲間とその感情を共有してしまう。」

 トオルはニッと笑い篠山に向き直った。


「だいたい自我だの心だの、科学的にちゃんと定義できてないモノをコントロールしようだなんて出来る訳ないですよね。土台無理な話なんですよ。」

 畳み掛けるトオルに、篠山は負けじと反論する。

「それでも、育て方次第では洗脳することだって出来るんだよ。所詮人工物つまりお前らはロボットなんだよ。遠慮は要らない。」

 底意地悪い顔で篠山は言った。

「だから、無理なんですよ。必ず何処かで破綻する。僕達は遺伝子レベルでも普通の人間と変わりません。

 古代からあった奴隷制度だって、深刻な差別は長く続きましたし、何百年と続く事もありましたが、奴隷制度自体はいずれ破綻していった。奴隷達は自我があるから反抗する。

 奴隷の子供達は産まれた時から奴隷として育てられた。洗脳されているのと変わりませんよね。でも、どうしても反抗する子供が出てくる。心があるからです。」


 トオルは暗い目をして続ける。

「こんなこと言いたくはありませんがね。僕達と自然妊娠した子供たちとの知能レベルは違いは明らかです。そのように博士たちがデザインしましたからね。だから僕達と半目してもどちらが有利かなんて一目瞭然です。あなたは本当に愚か者ですよ。」

 篠山は悪鬼の如く通る睨みつけた。その顔は酔っ払いのように赤黒く変化していく。



 

 



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