踏み込む!(3)
一同は二手に別れて、邸宅内に侵入する作戦で行く事にした。
トオルはソウタに結束バンドを渡しながら、自分が考えた作戦を伝える。
「ジュンの話だとそんなに玄関ホールは広くなさそうなので、僕ら3人で玄関で大きな音を出して奴らを引き付けます。僕ら騒いでいる間に縁側から中に入って地下室の入り口を探してください。」
「大丈夫か?ジュン君もそれで良いのか?」
今になってもソウタは行動を起こすことを心配している。確かに大人の立場からして、タケル達の行動は無鉄砲にも程があると思うだろう。
「タケルがトオルのことを信じていると言ったんです。俺もこの二人なら信じられる。」
ジュンは澱みなくそう答えた。
「俺も信じられるよ。」
ワタルもそう言ってくれた。
ソウタは深くため息をついて、「分かった。」と言った。
「では行くとするか。くれぐれも無茶はするなよ。」
やっとソウタの覚悟も決まった様だった。
タケル達は今一度玄関の前に立ち、大きく深呼吸をした。
ジュンの話では、玄関ホールはさほど広くはないが、正面に長い廊下と玄関に上がる手前に小さめの引き戸があり、玄関を上がって2メートルぐらいの所の左右にガラス格子のドアが見えたらしい。
右手にあるドアはリビングに繋がっているらしく、左手がトウコ達がいた部屋のドアだろうと思われる。
さっきの発煙筒の効果か、奥の方から男達が騒いでいる声がする。どうもタカオが発煙筒を焚いたと思っているらしかった。
「なかなか好都合だね。じゃあ、バットでそこら辺を殴っていこう。」
タケルはそう言いながらかなり興奮していた。トオルも頬が赤い。きっと同じように感じているのだろう。
タケルが静かに玄関ドアを開ける。ドアを開けたままトオルとジュンはそのままドアの影に隠れる。タケルは玄関脇の引き戸を開けて中を確認する。そこは小さな納戸となっていて、タケル一人ぐらいは隠れそうな空間があった。
「なかなか良い隠れ場所だね」
タケルはトオル達に合図を送った。そしておもむろにバットを大きく振りかぶり、奇声を上げながらあたり構わずあたりを叩き始めた。それを合図にジュンが発煙筒に火を付けて玄関に投げ入れる。
すぐに廊下の向こうからドタドタと何人かの足音が聞こえた。タケルは急いで、玄関横の引き戸の中に隠れる。
「ここにも煙が!くそ、あのガキ調子に乗りやがって!」
一人の男が外に出ようとした時、トオルがその男に向かって体当たりをした。不意をつかれた男はそのまま後ろに尻餅をついた。ジュンがすかさずその男の上にまたがり腕を後ろに回す。トオルがが素早く男の親指を結束バンドで固定した。
ジュンが尚も暴れようとする男の足を押さえつけ、トオルが今度は長い結束バンドを取り出して足首に巻いた。
他に男が3人いて、何が起こったか分からないようで一瞬呆然としていたが、すぐに我に帰りこちらに襲ってきた。
そこにタケルが飛び出し、持っていたバットをブルンブルンと勢いよく振った。
「タケル!脛を狙え!」
トオルから冷静な指示が出る。無我夢中でバットを振っていたタケルは少し落ち着きを取り戻し、今度は男達の脛を狙った。
そのうち一人の脛に見事バットを叩きつけ、男はそのまま倒れ込んだ。タケルは尚もバットを振り続ける。
バットを潜り抜け一人が玄関の外へ飛び出してきた所に、トオルが体当たりをする。トオルのどこにそんな力があるのか、男は簡単に地面に倒れ込む。ジュンはその瞬間を見逃さず男に馬乗りになり、さっきと同じ様に男を固定した。
タケルも最後に残ったの男の脛を殴打する事に成功し、男達を押さえ込む。トオルが結束バンドで固定して回り、玄関にいた男達は全員制圧された。
夢中になっていたから気が付かなかったが、さっき篠山といた二人も玄関先で転がっている。
「さっきの奴らだ。」
ジュンが言う。
「なるほどね。」
トオルがそう言いながら門の外の方を見渡した。トオルの視線を追っていくと、赤いライトが点滅している。
「警察も到着したみたいだね。」
タケルが言うと、「じゃあ、この人たちはとっとと警察の人に引き渡そう。」とトオルが連絡を入れた。
連絡が終わりいささかホッとした様子のトオルが、倒れた男達を調べる。
「この人たちは銃を持っていないみたいだね。最初にタケルを襲った人だけなのかな?」
トオルは独り言のように話す。
「まだ油断できないけどね。」
タケルはそう返した。もしかしたら篠山あたりが持っている可能性も捨てきれない。
「そうだね。」とトオルは返事をした。
縁側の方からドスンと大きな音が鳴った。
「ソウタさん達だ。」
タケル達は音のあった方へと向かう。
「トオルって意外に力持ちなんだね。結構デカい男達なのにあんなにコロコロと転がっててさ。」
ジュンが感心した様に話しかける。
「えっ?別に力なんて出してないよ。重心を崩して相手を倒す、よく覚えてないんだけど何かの動画を見てやっただけだよ。」
トオルは、こともなげにそう話した。
「だから、普通は見ただけで実行できないんだってば。」
タケルは半ば呆れてそう言った。
廊下にあった襖を開き、縁側から入って来たソウタ達と合流することができた。
「うまくやった様だね。こっちは、少し手間取った。」
少し安心した様な顔でソウタが笑った。足元に一人の男が倒れていて、足と手の親指は結束バンドで固定されている。
「トオル君、これ便利だね。助かったよ。」
そう言ったワタルの指さす男の顔は、少し腫れている様に見えた。
「殴っちゃった?」
タケルが聞いた。
「少しね。慣れないから手加減が分からなかった。」
ワタルはそう言って少し恥ずかしそうに笑った。
普段人を殴る様なことは体験したことは無いはずで、どんな表情をすればいいのか困っている様にも見えた。
「これで暴力的な人はいなくなったはずですよね。」
トオルがそう言いながらスマホを取り出し。おもむろに通話を始めた。
「あっ。サーちゃん?今から篠山さんを見つけるところ。武装してる人はもういないから全員でこっち来ても大丈夫だよ。うん、ユウジおじさん達早くミドリに会いたいでしょ。うんじゃあ。」
「本当に冷静だな。」
ソウタがトオルに感嘆する。
「やっと今日で決着がつきますからね。色々シミュレーションして考えてました。」
トオルはにっこりとそう答えた。
ソウタの言う通り、ここに来てからのトオルは終始冷静で、むしろ楽しそうにさえ見える。いや、ここにいる全員が非日常なこの状況に軽く興奮していた。
「サーちゃん達が来る前に、ミドリ達を探しながら家の中を調べようか。」
タケルがそう提案すると、みんな賛同してくれた。
暗闇の中でもう少し背が高い家だと思っていたが、奥に屋根裏らしき所へと登る簡素な階段があるだけで、どうも全体的には平屋造りの家の様だった。
家全体を見ても篠山の姿がない。
「リビングの窓から外に出たのかな?」
ジュンが不思議そうに言う。
「もしかしたら、地下室の入り口を見つけたのかな?だとしたらミドリ達が危ない。急がなきゃ。」
タケルは少し焦り始めたが、トオルはあくまで冷静だ。
「焦っても仕方ないよ。もっとじっくり探そう。もしかしたら隠し扉みたいのがあるかもしれないし。」
そう言いながら一番奥にあったドアを開けようとドアノブに手をかける。
「あれっ?このドア少し変。すごく重たい・・・防音でもしてるのかな?」
トオルが少し驚いたようにつぶやき、慎重にドアを押した。
タケル達は固唾を飲み込み、ドアが開くのを見ていた。すると中から大きな怒号の声が聞こえてきた・・・篠山だ。
トオルは意を決したように、そのまま大きくドアを開いた。
全員で中に入ると、篠山が驚いたような顔をしてこちらを見ていた。
そこはあまり大きな部屋ではなく奥の壁に備え付けの大きな本棚があった。そして、本棚を背にして大きめのデスクが置いてある。どうも塩尻の書斎のようだ。
篠山はデスクの後ろで中腰で立ち、誰かの胸ぐらを掴んだまま固まっている。胸ぐらを掴まれているのをよく見ると、そこに涙でグシャグシャになった塩尻の姿があった。
二人の他に誰もいない。
「ミドリはどこだ!」
タケルは思わず叫んでいた。
タケルが叫んで我に返ったのか、「それをこいつに聞いていたんですよ。」と不敵に笑いながら篠山が答える。
「篠山!お前今まで俺に隠れて一体何をしてきた!」
ソウタが篠山に向かい叫んだ。
「面白そうなので、色々試してみたかったんですよ。」
篠山は無邪気にも見える笑顔でそう言った。まるで子供のように目をキラキラさせながら一同を見渡す篠山の姿に、タケルは戦慄した。
(こいつはなんなんだ?)
底知れぬ恐怖を感じる。みんなも同じなのだろうか、誰も喋ろうとはしない。
いや、トオルだけが涼しい顔で篠山を見ている。この状況に飲まれず、顔には少し笑みさえ浮かべている。
「好奇心は結構ですが、つまらない自尊心で人に迷惑かけるのはやめた方がいいですよ。」
トオルは篠山を静かに威嚇した。
二人は静かに相手を睨みつけていた。




