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タケルとトオル  作者: みゆき
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踏み込む!(2)

 タケル達は物置小屋にトウコが使ったバットがある事を思い出し、先に小屋の中を見に行く事にした。バットはすぐに見つかり他に何かないかと探してみたが、特に役立ちそうなものは見つからなかった。

 目ぼしいものがないと多少落胆しているところに、藤原が上着のポケットから何かを出しながら言った。

 「車からこれを持って来たぞ。何か役立つかもしれん。」

 藤原の手には、非常事態に使う発煙筒が2本握られていた。

「あんなに慌ててたのに、さすが藤原さん。これは使えそうですよ。」

 ソウタが驚いたように言った。本当にいつの間に気がついたのだろう。

「いやあ、藤原さんカッコいいっす。」

 ジュンが藤原を大袈裟に持ち上げる。

 今日は藤原という男の凄さが際立つ。世間では無神経な言葉で批判されることも多いが、どこか憎めないと言うイメージで語られている。実際は状況を正確に把握しつつ細かいとこをまで気を配り、ソウタとはまた違う意味でリーダーシップを発揮してくれる、頼もしい男なのだとタケルは思った。

 演技しているところもあるかも知れないが、他の若手議員や支援者に慕われる理由がよく分かる様な気がした。

「やっぱり藤原さんには敵わないですね。」

 ソウタはお世辞ではなく本気でそう思っている様だった。


 玄関の他にどこか入れそうな場所を探していたら、物置小屋と母屋の間の通路の真ん中あたりに勝手口があり、その横の少し高い場所に小さな窓があった。とりあえずそこから小型カメラを向けて、中の様子を見ることにした。

 そこはキッチンのようで、カメラをずらせばリビングの方までも見渡せる。

 篠山と二人の武装した男がウロウロしているのが見えた。今のところ他の人間の気配はない。どうも3人はタカオを達を探している様だった。

 二人の男達は手に警棒の様なものを持っている。銃は持っていなさそうだ。ただ、さっき発砲音が聞こえたので、他に人がいるのかも知れない。

 一人は170㎝ぐらいで、胸板が熱く足は細かった。胴体だけじゃなく足まで含めて逆三角形の体格をしている。

(こんなおもちゃ見たことあるけど、なんだろう?)

 緊張感が漂う中で、タケルはぼんやりそんな事を考えていた。

 もう一人は、やや細身に見えるが身長がやたら高く。190㎝ぐらいある様に見えた。

 どうも、細く感じるのはもう一人の男と比べるからで、じっくり見るとしっかり筋肉がついているのが分かる。

 二人とも武装らしき格好はしているが、あまりこういう経験に慣れている様には見えず、タケルはなんとなく安心した。

(踏み込んでもなんとかなるかも知れない。)


「篠山さん、誰もいないんじゃないですか?」

 背の低い方が篠山に話しかける。低くよく通る声だ。

「絶対にいるはずだ。よく探せ!あのガキ余計な事をしやがって!絶対に許せねえ。」

 篠山が普段聞いたことのない乱暴な口ぶりで男達に指示を出した。

「篠山・・・。」

 ソウタとワタルの顔色がショックで変わる。そこには今まで知らなかった篠山の姿があった。

 

 3人は地下室の存在に気が付いてないらしい。多分ミドリ達は地下室で息を潜めていることだろう。

「タカオはこうなることを予測してたみたいだけど、どうするつもりなんだ?」

 ワタルが疑問を口にする。

「わざわざトウコ達を隣の小屋に避難させてたしね。勝算はあるんだろうけど、地下に隠れるとか変だよね。」

 タケルがそう答える。

「俺たちの事も計算に入れてるんじゃない?お人よしが助けに来るって。」

 ジュンが少しおどけて言った。

「そうかもね。」

 タケルがそう言うと、「じゃあ、期待に応えないとね。」とジュンは笑った。

「こやつら・・・本当に大物になるな。」

 藤原が唸る様にそう言った。


 3人が部屋を出て行った後、改めて母屋の周りを調べながら作戦を練ることにした。。

 一周回ってみて、玄関以外で家に入れそうな入り口が3箇所見つかった。

 まずはさっきいた勝手口があり、通路を進んでいくと一番奥には大きな庭が広がっていた。庭に面してリビングから外に出られる大きな窓がある。そして屋敷をさらに回り込んでいくと、リビングのちょうど反対側に和室でもあるのだろうか広い縁側があった。

 そのうちのリビングは、篠山達が拠点としているようで、人が途切れそうに無かった。。そこで勝手口に発煙筒を投げ込んで奴らを引き寄せ、反対側にある縁側の入り口から入るのが良さそうだという結論に達した。

「中に入ったら、玄関の鍵も開けておいた方が良いかな。藤原先生、すみませんが一度車に戻って北村先生達が来たらこの事を伝えてもらえませんか?」

 ソウタが頼んだ。藤原は少し不満げな顔をしたものの、それを了解した。

「確かに、俺が言っても足手纏いになりかねん。後から来る連中と出直すことにしよう。」

「中の安全が担保できる様になったら連絡します。」

 ワタルがそう言った。

「ああ、よろしく頼む。無理せんでくれよ。」

 藤原はそう言って車に戻った。


「俺があいつらを引き寄せるから、みんなは先に縁側の方へ行ってくれ。」

 タケルがそう言うと、「子供にさせられるか。」とソウタが言った。

「危ないことは大人がするもんだ。俺がやる。」

 そう言うソウタをタケルは諌める。

「ソウタさんはここの監督的立ち位置なんだよ。一番真ん中に居ないとどうするんだよ。大丈夫、俺はちゃんと出来るから。ジュン、俺がすぐ中に入れるように真っ先とに玄関の鍵を頼む。」

「分かった。」

 ジュンはそう頷いた。

「父さん、タケルの言うとおりだよ。責任者が一番に中に入って俺たちに指示を出してくれ。」

「・・・タケル、決して無理はするなよ。」

 ワタルにも先頭に立つように言われ、ソウタは絞り出すようにタケルに奴らを誘い出すように頼んだ。


 タケルは他のみんなを見送ってから、一つ大きな深呼吸をして勝手口の前に立つ。

「さあ、やるぞ。」

 自分に気合を入れるように独り言を言う。

 勝手口のドアに縦に細長いガラスが嵌っている。強化ガラスの様だが、今持っているバットで割ることができそうだ。

 タケルは大きく振りかぶりガラスを破ろうとしたその瞬間、背後から男の声が聞こえた。

「なんだ?お前。」

 目をぎらつかせながらこちらにやって来る。手に銃らしきものを持ってこちらに向けて来た。さっき篠山のそばに居たのとは違うやつだった。

(やばい!どこから現れた?)

 タケルは恐怖で目を瞑ってしまい、身を縮こませる。

 一瞬の間が空いて、「グヌっ」と低い呻き声が聞こえたかと思うとガサリと何かが倒れる音がした。

 恐る恐る目を開けると、そこには男を押さえ込んでいるトオルの姿があった。

「トオル?」

 タケルが呆然としていると、トオルが叫んできた。

「僕じゃこの男を押さえきれない!早く手伝って!!」

 タケルは我にかえり、慌てて男を押さえ付ける。

「手を後ろにやって。」

 トオルは指示を出すと、パンツのポケットから小さな結束バンドを取り出して、男の親指同士をくくりつけた。いつの間にか口にハンカチを詰め込んで猿轡までしている。

「すみません、この男を警察が来たら引き渡してもらえますか?」

 トオルが誰かに話しかける。すると今まで何処にいたのか、タケル達の乗って来た車の運転手が現れ、無言で頷き男を連れて行った。


「間に合っってよかったね。篠山さんがガタイのいい男を二人連れてきたと言ってたけど、他にもいそうだね。運転手さん連れて来てよかった。」

 トオルは何事も無かった様に話しかけてくる。

「いや、どうやってアイツを制圧したの。」

 目の前で起こった事が信じられない。

「動画でやり方を見た。」と事もなげにトオルが言った。

「いや、普通は動画で見ただけでこんなこと出来ないよ?それに結束バンドまで用意して、どんだけ用意周到なんだよ。」 

 タケルは呆れた様に呟いた。


 昔からトオルにはこんなところがある。

 サッカーに試合の時にも、昔のワールドカップか何かのプレー集を動画で見て、そのまま試合で再現したことがあった。頭でイメージしたことがそのまま体で再現出来るらしい。 

 ただ、圧倒的に持久力がないのでワンポイントでしか使えない。おかげで試合ではあまり役に立った記憶はない。

 そんな事を思い出しながら、タケルはトオルに礼を言いつつ思ったより早く着いたことを喜んだ。

「博士がもっとごねると思ったんだけどね。サーちゃんに言われたら、素直について来た。」

「あいつ、ホントにサーちゃんが大好きなんだな。まあ、轟がサーちゃんに叶うわけもないか。」

 タケルは妙に納得した。


「じゃあ、予定通りに発煙筒使って、篠山さん達を惹きつけよう。向こうでみんながヤキモキしてる。」

 トオルにそう言われてタケルは本来の目的を思い出した。

 タケルが、勝手口のガラスをバットで叩き割る。周りに大きな音が鳴り響いた。すかさずトオルが発煙筒に火をつけて家の中に放り込む。

 音を聞きつけた篠山達がリビングに入ってくる。

「なんだ?火事か?」

 煙の向こうから男達の慌てる声が聞こえてきた。

 その声を確認した二人は、頷きあって玄関の方へと向かった。


 暗闇に紛れて玄関まで走ると、ジュンが手を振って待っていた。。

「思ったより早かったんだね。」

 ジュンもタケルと同じ様な事を言った。

「まあね。なんか、篠山さんの連れて来た人よりも多くいそうだよ。さっきのやつはなんか銃らしきものも持ってた。」

 トオルがジュンにそう説明すると、ジュンの顔色が強張った。

「本物かどうかはわからないけどね。」

 トオルはそれがどうしたと言う様な顔でそう付け加えた。

 リビングの方から大きな怒号が聞こえる。

「どうする?先にモブキャラの方を処理する?」

 トオルがそう提案する。

「なんだかお前が恐ろしくなって来た。」 

 タケルが溜息をつきながら首を横に振った。


「思ったより人が多そう。元々ここにいた人かな?」

 ジュンが玄関の鍵を開ける時、何人か確認したようだ。

「何人ぐらいいるか分かる?」

 トオルが聞く。

「4人ぐらいで話してるのを見たよ。見つかるかと思ってドキドキした。」

「まあ、トウコちゃん達を連れてくる時の運転手とかいただろうし。」

 トオルは頷きながら思案した。

「一度ワタルさんたちと合流しよう。」

 とりあえずジュンの提案に乗ることとした。


「やはり、さっきの発砲音は銃だったのか。」

 ソウタは顔を青くしながら、警察を待とうと言った。

「そんなリスクは負えない、一旦戻って警察を待とう。」

 ソウタはそう言ったが、タケル達には納得できない相談だった。

「相手が銃を持っていると分かったら、なおさらミドリが心配だよ。少なくとも俺とトオルはこのまま行くよ。」

 タケルはそう言った。

「なんとかなると思いますよ。早くタカオ達と合流したいし。体力のある人たちを制圧したら、流石に篠山さんも大人しくなるでしょう。」

 トオルは楽観的にそう言ったが、どんな勝算があるのだろう。確かに、タケルを助けた時のあの動作ができるのなら問題なさそうだが、トオルの体力は大丈夫なのだろうか。タケル達にはあんな真似は出来ない。タケルはトオルに思った事を聞いてみた。

「まあ、他の人がフォローしてくれて、一人ずつならいけると思うけど。」

「大した自信だな。」

 ワタルが少し呆れた様に言った。

 タケルはしばらく考えて、トオルを信頼する事に決めた。トオルは勝ち目の無いことを簡単に安請け合いはしない。

「トオルにかけて大丈夫だと思う。」

 タケルはそう言い切った。

「それは、幼馴染としての信頼というものか?」

 ソウタが聞いてくる。

「分からない。でも、トオルなら大丈夫だと確信している。」

 タケルが答えると、ジュンも「俺も信じるさ。」と言ってくれた。

「父さんは大人だから慎重にならざる得ないのは理解してるつもりさ。でもね、俺もこのメンバーならどうとでもなると思えるよ。」

 ワタルも一緒に行くと言ってくれた。

 しばらく考え込んだ後、ソウタは苦虫を噛み潰したような顔で了解した。

「分かった。俺も行く。くれぐれも無茶はしてくれるな」

 ソウタの声を聞きながらも、タケルは怖いはずなのになぜかワクワクするのを自覚していた。






 

 







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