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タケルとトオル  作者: みゆき
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踏み込む!(1)

 車を母屋がよく見えるように止め直して、観察することにした。一応照明を消して目立たないようにはしているが、門のすぐ近くであまり関係ないかも知れない。

 家の周りは玄関の灯りしかなく、あたりは暗闇に包まれている。


「そういや窓ガラス割っててかなり大きな音がしてたけど、誰かに聞こえてなかったのかな?」

 タケルが疑問を口にした。

「それなら大丈夫。タカオ君が全員地下室へ連れて行くから、外の音は聞こえないって言ってた。」

 この家には地下室まであるのかと驚く。辺鄙な土地だとは言え、塩尻はよほど収入があるのかもしれない。

「藤原先生って塩尻氏にずいぶんお給料渡してるんですね。」

 ワタルも同じようなことを考えていたらしい。

「奴は親が資産家だったんだ。かなりの遺産が入ってるはずだ。」

 タケル達はなんとなく納得した。

「大庭先生が、あまり深く考えないで行動するっ言ってたけど、お坊ちゃんだったのもあるかも知れないね。」

 タケルは大庭の話を思い出していた。

 ワタル達も「それはあるかもしれない」と腑に落ちるものがあったようだ。


 車内はなんとなく明るい雰囲気になっていた。トウコとエイミを無事救出した後とあって、みんなに余裕の表情が窺える

「家の中はどんな雰囲気だったの?何か起こりそうな気配とか無かった?」

 ワタルがトウコに聞く。

「私達はここに来てからずっとミドリさんと同じ部屋に居たの。他に部屋にいる人は居なかったわ。その部屋は玄関ホールの横にあって、客間みたいな感じだったよ。来てすぐその部屋に入れられたから、どんな間取りだとかもよく分からない。

 それで、みんなが来る30分ぐらい前かな?タカオ君が部屋に入って来て、母屋にいると危険かも知れないとだけ言って、あの物置小屋みたいなところに連れて行かれたの。」

 タカオは何も説明しなかったと、トウコは言う。 

(タカオは何を考えているのだろう?危ないと言うことは、何か暴力的なことを想定しているのだろうか?)

 一体これから何が起こると言うのだろうか。

 

 車に戻ってしばらくすると、運転手が車のライトがこちらに向かっていると言ってきた。よく見ると、麓の方から小さな灯りが近づいてくる。

「山野、もう少し目立たないところに車を移動してくれ。」

 藤原が運転手に指示を出す。

「トオル達にしては早すぎるよね、」

 タケルは独り言のようにそう言った。

 ソウタが眉間を指でつまみながら、「少し様子をみよう。」と言った。

 車は少し離れたカーブの先に停められた。

「ちょっと見てくる。」

 タケルはそう言いながら車を降りようとする。

「ちょっと待って、一人じゃ危ない俺も行く。」

 ジュンが後に続く。

「ワタル、お前も降りてふたりが無茶しないように見ててくれ。」

 ソウタが慌ててワタルに指示を出した。ワタルは苦笑いをしながら、「分かった」と言って車から一緒に降りた。


 3人は、道路を挟んだ歩道の脇にちょうど隠れるぐらいの茂みを見つけ、近付く車を見つめていた。

 車は門の前に止まった。後ろのドアが開き中から一人出てくる。

「篠山さんだ。今来たところか・・・。」

 タケルが小声で喋ると、ほかの二人も無言で頷く。

 一人だと思っていたら、他にもガタイのいい二人分の影が車から降りてきた。暗くてよくわからないが、武装しているようにも見える。

「やばくないか。」

 ジュンが目で訴えてくる。タケルの額から汗が流れる。3人は緊張感に耐えながら男達の様子を伺う。

 男達はしばらく辺りを見回すと、静かに門の中に歩いて行った。

「何が起ころうとしてるんだ?」

 タケルの声が震える。

「分からないが、篠山さんにとっても何か不測の事態なのかも知れない。とりあえず車に戻って今の事を父さん達に相談しよう。」

 3人は数メートル離れた車に戻った。


「武装しているやつがいっしょだと?」

 ソウタが怪訝そうな顔をした。

「篠山さんは何をしようとしてるんだろう。」

 タケルはそう言いながらも、心の中では最悪のことしか浮かんでこない。それは皆同じようで、嫌な沈黙が流れる。


 中に踏み込むべきか悩んでいたら、トオルから連絡が来た

「メディアセンターのニュース速報を見て!」

 珍しくトオルが少し慌てている様だ。

「ちょっと待ってて。」

 横でワタルがニュースサイトを開いて叫んだ。

「なんだ!?どうなっているんだ?」 

 ワタルも慌てている。急いでワタルの出したサイトを見てみると、そこにはスクープとして人工ゲノム開発のことが書かれていた。

 サエコ、轟、ソウタ、藤原と開発に初めから携わった4人の実名と、人工ゲノム開発をセンセーショナルに書かれていた。困った事に、中には陰謀論的な事実無根な話も面白おかしく書かれている。

「しまった。先を越された。これは・・・国民がパニックになる。これじゃまるで都市伝説じゃないか。」

 記事を読み進めていたソウタが顔を青くした。

「誰が、情報を流したんだ?」

 藤原が大きな声を出す。

「タカオなのかも知れない。」

 トオルがボソリと呟く。落ち着きを取り戻したようで、いつものトオルの声だ。その声を聞いて、タケルも少し落ち着きを取り戻す。

「何の為に!?」

 ソウタが聞き返す。

「さっき言ってた。父親への復讐になるのでしょうか。」

「だけどこれじゃあ、自分たちも好奇の目に触れることになるかも知れないぞ?」

 藤原は納得できないと怒鳴る。

 確かに実名報道が無いとは言え、完全人工ゲノムの噂はやがて本人達まで巻き込むかも知れない。もちろんタケル達も例外ではない。

「自暴自棄になっているのかも知れない。」

 暗い声でトオルが言った。

「私たちの名前が出て非難されるのは仕方ない事とだと思うけど、この子達が好奇の目で見られるのは困る。」

 サエコが辛そうに話す。

「子供達は将来どうなるのでしょう。いやこの子達が一番不安でしょうが・・・。」

 ユウジも悔しそうな声を出す。


 暗い沈黙が続き、耐えられなくなったタケルが話題を変えた。

「出てしまったものは今はしょうがない。今は屋敷の中が問題だよ。」

 タケルは、武装した人間を引き連れ屋敷の中に入って行った篠山の話をトオル達に説明した。

「やばいな。もしかしたら、報道のことを知って篠山さんが暴走し出したのかも知れない。」

 トオルはそう呟くと、ソウタに提案した。

「念の為に、警察に連絡して屋敷の外で待機してもらえないですか?僕たちはあと30分もしないうちにそちらに着く。いきなり警察が踏み込むのも理由がない・・・というか、僕はどうしても篠山さんの話が聞きたい。警察に先に押さえられて、それができなくなるのは困る。僕たちが着いたらまずは僕たちだけで中に踏み込みたいんです。」

「武装した連中がいるのに、危なくないか?俺も話し合って解決の糸口を掴もうと思ったのだが、そうも言っていられないんじゃないか?」

 藤原はどうすれば良いか考えあぐねているようだ。。

「俺は一人でも行くぜ。何よりミドリが心配だし、タカオがSOSを出しているのなら、それにも応えないといけないような気がする。」

 タケルは危険など、どうでも良いような気さえしてきた。

「俺も行くさ。」

 ジュンも今にも突撃しそうな勢いでタケルに同調する。

「待って、勢いだけで動かないで。」

 サエコはそう心配する。

「タケル、無茶はいけない。ミドリを心配してくれるのはありがたいが・・・。君たちを危険に晒すわけにはいかない。」

 ユウジも懇願するようにタケルに言った。

「真正面から行くわけじゃないですよ。僕も一緒に行く。僕が着くまで待てそう?」」

 いつも冷静なトオルまでもが一緒行くと言い出したので、ソウタが慌てる。

「待って。出来るかわからないが、もう一度タカオに連絡を入れて中の様子が分からないか聞いてみよう。とにかく闇雲に中に入るのを許可するわけにはいかない。」

 子供達は渋々といった様子でソウタの意見を聞き入れた。


 タカオに連絡を入れてみる。

 さっきと違いなかなか呼び出しに出てくれない。

「やっぱり、何か起こっているのかな?」

 タケルの不安はますます膨れ上がり、一刻も早く中に行ってミドリの無事を確かめたいと思った。

 10回ぐらいコールしただろうか、もう一度かけ直すべきか思案している時に、屋敷の方から何か発砲音みたいな音が聞こえた。

 車に乗っているみんなは、驚いたように屋敷を見る。全員に緊張が走る。


「ごめん、俺行ってくる。」

 タケルは居ても立ってもいられなくなり、反射的に車の外に出た。

「待て。」

 後ろで静止しようとする、ソウタの声が聞こえる。

 後ろを見ると、ジュンとワタルも一緒に車から降りてきた。3人とも無謀で危ないことは百も承知だが、もう待っている事はできなかった。

 それがどう言う気持ちなのか3人とも分かってはいない。正義感だけで動いている感覚でもなく、ただどうしようもない衝動が抑えきれない。

 3人が車から出て屋敷の方へ向かおうと歩き出すと、後ろからまたソウタの声が聞こえた。その声は少し怒っているようだった。

「俺達も行くから・・・まったく、子供達だけで行かせる訳ないだろう。先に警察に連絡するから、ちょっと待ってて。

 トウコ、お前はエイミちゃんとここに残ってトオル君達と連絡を続けてくれ。」

 ソウタはトウコにそう言った。

「分かったわ。」

 トウコは素直にソウタに従った。そしてタケルの方を見て、「無茶はしないでね。」と心配そうに言った。

「分かってる。」

 タケルは神妙にトウコに応えた。


 ソウタが警察と警備会社に屋敷の外で待機して欲しいと依頼の電話を済ませると、藤原と一緒に車から降りてきた。

「藤原先生も一緒に来るんですか?大丈夫?」

 タケルが驚いてそう尋ねる。

「おお、俺も行くさ。俺だってちゃんと見届ける責任がある。」

 その顔は何か覚悟を決めたようで、まっすぐに屋敷の方を睨んでいた。藤原もタケル達と同じような衝動に駆り立てられてるのかも知れない。

 そこにいた全員が深く深呼吸をして、前方をを睨みつける様に見た後、ゆっくりと屋敷の方へ進んでいった。

 







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