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タケルとトオル  作者: みゆき
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塩尻の邸宅

 塩尻の自宅は、ずいぶん山の中に入った場所にあった。

 かなり大きな庭のある家で、周りをフェンスで囲っている。タケルはなんとなく17村にあった家々を思い出した。村では自宅で野菜や果物を作っている人が多く、広い庭を持つ家が多かった。

 元々新京市のある長野は3000メートル級の山々が鎮座する土地柄で、市街地から離れるとあっという間に山に囲まれる。それにしても新京市郊外だと言うのに何もない。あたりは森に囲まれて塩尻の邸宅だけがぽつりと建っていた。

 

「なんで、こんなところに家を建てたんだ?」

 藤原の訝しむ声が聞こえる。

「なんだか、昔アニメとかで見た悪役の『秘密のアジト』って感じだな。」 

 タケルが感想を挟む。

「確かに、そんな感じかな?なんだか雰囲気に呑まれちゃて。」

 ジュンが頭をかきながら応じた。

「タカオが教えてくれたんだから、インターフォンを鳴らしても平気だよな。」

 ワタルが少し緊張気味にそう話す。

「大丈夫だろう。押してくれ。」

 ソウタが門の一番近くにいたタケルに促した。


 タケルはインターフォンを鳴らしてみるが、応答は無かった。一同、顔を見回して首を傾げる。


 もう一度チャイムを鳴らそうと呼び鈴に指を伸ばしたその時、ガラスが割れるような大きな音が響いた。

「なんだ?」

 藤原が慌てたように叫ぶ。

「トウコ!」

 タケルも思わず大きな声で叫んでしまった。

「あっちの方だ。」

 ワタルの指さす方を見てみると、母屋と思われる大きな建物の横にガレージか物置小屋と思われる平屋の建物がある。

 タケルは早く中に入りたくて門扉を押してみる。それは音もなくすんなり開いた。

 開いた門の前で、一同顔を見合わせ無言で頷いた。


 門から母屋までは、一本の道が10mほど続いていて玄関まで続いている。

 あまり手入れのされていない庭は所々に雑草が茂みになっていて、虫も多いのか玄関にある灯りのそばに黒い影のように飛んでいる。

「虫が多くて気持ち悪いな。」

 都会育ちのジュンが顔を顰める。

「灯りに誘われるからね。見た限り危険な虫はいなさそうだから平気だよ。」

 田舎の街頭は夜になるとみんなこんな感じだ。その言葉に他のみんなが感心したようにタケルを見つめた。

「なんか、この子達みんな頼もしいな。なんか日本の未来が明るく見える。俺はもっと今の子供は全てを諦めているというか・・・。」

「今はそれどころじゃないでしょう?今夜これが解決したら、明日時間をとっていくらでもディスカッションしますよ。」

 ソウタが、いきなり持論を展開する藤原に呆れながらそういった。

「それもそうだな。」

 藤原は悪びれもせずそう言った。

 内心心穏やかじゃないはずのに、藤原は堂々としているように見える。

(やっぱりこの人は大した役者だよ。これが政治家の真骨頂ってやつなのかもな。)

 タケルは、藤原が実は凄い人物なのだと思った。よく考えてみると妖怪が跋扈するような国会で何十年も最前線にいた人なんだから、肝が据わっていて当然だ。でなきゃとっくに隠居していることだろう。

(とぼけた空気もわざとなんだろうな。)

 政治という世界の、底知れぬ何かを感じる。


 何事も無く、物置の入り口まで到着した。中から音は聞こえない。

 

 息を殺しながら、タケルが入り口の引き戸に手をかけようとしたその瞬間、ガラリと音を立てて戸が開いた。

「トウコ!」

 中からトウコが顔を出したので、タケルは思わず叫ぶ。

「トウコ、無事だったか。」

 ソウタはそう言いながら、トウコに駆け寄った。怪我は無さそうでホッとする。

 タケルは緊張の糸が切れたようにその場で座り込んでしまった。それを見たトウコも安心したのか、目から涙が流れた。

「タカオ君が私をここに連れてきてくれたの。母屋は危ないからって。もうすぐしたらきっとタケル達が見つけてくれるから、時々大きな音を出して居場所を教えろって・・・野球のバットを渡されたの。今窓ガラスを割って外を見てたら、みんながこちらに向かってくるのが見えて・・・。」

「とりあえず無事でよかった。」

 ソウタが安堵の声を漏らした。

 タケルはやっと落ち着いてきて、ゆっくりと立ち上がる。

「なんだって、ミドリに呼び出されたからってこんな所まで来たんだよ!心配したじゃないか!」

 タケルはトウコに問いただす。今まで生きた心地もしなかったので、つい声を荒げてしまった。

「ごめんなさい。」

 トウコは素直に謝った。そして、「ちょっと待ってて」と言いまた物置小屋の中に入って行った。


「もう大丈夫だよ。」

 トウコが誰かに呼びかけている。

 一同が訝しんでいると、トウコの後にエイミの姿が見えた。

「エイミちゃん!?」

 ジュンが驚きの声を出す。エイミはそんなジュンににっこりと笑った。

「昼間に近所を歩いていたら私の横に知らない車が止まって、この間の女の子達が『トウコが待ってる。』なんて言うもんだから、ついその車に乗ってしまったのよ・・・トウコ本当にごめんね。」

 エイミはトウコに手を合わせて謝った。

「私はエイミを人質に取られて・・・ミドリさんに呼び出されて。ここに連れてこられたの。」

 トウコも申し訳なさそうにここに来た経緯を説明した。

「二人の友情を利用したんだ。全く卑怯なやり方だな!」

 いつも飄々としているジュンが珍しく声を荒げる。

「まあ、二人とも無事でよかった。」

 ソウタが心から安心したようにそう言った。


「ミドリちゃん、大丈夫かな。」

 どういう訳か、エイミがミドリの心配をする。

「どういうこと?二人ともミドリに無理やりここへ連れて来られたんだろ?なのになんで?」

 タケルは不思議に思い二人に聞いた。

「ミドリさん、別に私たちに危害を与えるつもりはなかったみたい。タケルのことも本当に恨んでる訳じゃなくて、どこに怒りをぶつけていいのか分からないみたいなんだよね。

 今は母屋にいるはずなんだけど、何だか無茶しそうで・・・。」

 トウコも本気でミドリの心配をしている。

「タカオ君がなんとかしてくれればいいけどね。それにしてもあの子何をするつもりなんだろう?危険なことが何かは教えてくれなかったけど・・・だいたい子供のくせに落ち着き過ぎだよあの子。」

 エイミは訳が分からないと首を横に振る。

「そういや、タカオがこの小屋に避難させてくれたって。」

 タケルにはどうも状況が分からない。

「ここで、ちょっと揉め事が起こりそうで危ないから避難しててって言われた。詳しく聞こうとしても笑顔ではぐらかされて・・・。」

 二人は本当に何も聞かされてはいないらしい。


「ミドリちゃん、私たちを呼び出したは良いけど、それからのことはあまり考えてなかったみたい。ただ、タケル君のことを困らせたかったのと・・・亡くなったお友達、フミカちゃんだっけ?そのフミカちゃんの気持ちにはなぜ答えられなかったのかって。あと言って良いのかな?フミカちゃんとトウコの違いはなんだろうって言ってた。」

 エイミがミドリとの会話を思い出すように話してくれたが、トウコとフミカの違いと言われても困ってしまう。トウコと顔をみあわせ、黙ってしまった。

「タケルって絶対女の子に奥手じゃないか。基礎学校の年齢で恋愛だなんて考えられないよな。って言うかタケル、トウコちゃんのこと好きなの?」

 ジュンも、タケルと同じく恋愛には鈍感らしいことは分かった。

「こんなところで言えるか!」

 タケルはそう言った後で、それは肯定してるのと同じじゃないかと焦り、さらに言い訳じみたことを言う。

「好きかどうかなんて、すぐに答えなんて出ないだろう?トウコのことは大事に思ってるけど、恋愛かどうかなんて・・・。」

 タケルはどんどん顔が赤くなる。横でトウコまでもが恥ずかしそうに顔を赤くしている。

「私はジュン君が好きだって、すぐに認識できたけどね。」

 エイミはあっけらかんとジュンに告白するもんだから、ジュンまでが顔を真っ赤にして黙り込んだ。


 ソウタ達が反応に困っている中で、藤原だけが大笑いしてた。

「若いというのは良いもんだな。俺も青春時代に戻りたくなってきたわい。」

「笑っている場合じゃないですよ。そのまま踏み込んでも良いもんか考えなければ。」

 ソウタが真面目な顔をして、その場を引き締めようとする。

「いや、悪い悪い。あんまりこの子が潔く愛の告白をするもんでな。」

 藤原はものすごく楽しそうにそう言った。


 とりあえず落ち着こうと、車に戻りトオルに連絡を入れた。

「後どれぐらいで来れそう?」

 タケルが言うと、後10分ぐらいで新京市の駅まで来れそうだと言った。

「車を用意してるから、着いたらここへ連絡してくれ。」

 藤原が、連絡先を送信する。

「ありがとうございます。博士はそこにいないの?」

 トオルがそう言ってきた。

「留守番するってんで、置いてきた。」

 タケルがそう言うと、サエコが怒り出した。

「全くあの人は、自分が関係ないとでも思ってるのかしらね・・・いいわ、私が引っ張っていく。彼には見届ける責任があるはずよ。私もそうだけど・・・始めてしまった事に対する責任がね。たとえそれが自分の手を離れても、無くなった事にはならないのよ。」

 最後の方は少し悲しそうな声に聞こえた。


「じゃあ、あと1時間ぐらいでこっちに来れるってわけだ。じゃあ、あの家の様子を見ながらここで到着を待つことにしよう。」

 ソウタがそう提案してきた。

 誰も異論は無い。そうすることにしようとなった。

 



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