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タケルとトオル  作者: みゆき
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タカオへのコンタクト

 沈黙の中時間だけが過ぎて行く。

「ミドリは何をしようとしているんだ。まさか・・・。」

 タケルはそこまで言って、自分がどれほど無神経なことを言おうとしていたのか気がついた。

 その時の林田夫妻の絶望的な表情を、タケルは一生忘れることはできないだろう。


「ミドリに連絡したいけど着信拒否にされてる。トウコちゃんの警備アプリは有効になってますか?もしかしたら居場所がわかるかも。」

 トオルの質問にソウタは首を横に振る。

「ダメだ、電源が切られてる。何も反応がない。」

「私もミドリに連絡してみます。」

 ユウジが申し出たが、ソウタはそれは良くないと言った。

「ご心配でしょうが、それは危険な感じがします。あなた方の娘さんの事も安全に保護したい。ですから、状況が分かるまで必要以上に相手を刺激しない方がいい。」

 ユウジは力無く、「分かりました。」と言った。

「博士、タカオ君の連絡先はわかりますか?」

 トオルが博士に問うと、轟は知っていると答えた。

「タケル、タカオと話してみて。お前なら聞き出せるかも知れない。」

 トオルはそう言ってきた。

「やってみよう。」

 タケルは轟に連絡先を聞き、タカオへのコンタクトを試みる。


 3回ぐらいのコールでタカオが出た。

「どちら様ですか?」

 なんとなくワザとらしく聞こえる。タケルの気にしすぎだろうか?

「北村タケルだ、トウコをどうするつもりだ?」

 どうしても声が喧嘩腰になってしまう。だが、こんなことで相手が動じる訳もなく、呑気そうにタケルの質問に答えた。

「ああ、さっき遊びに来たみたいですね。今、ミドリさんと話してる。」

「なんだって!?」

 頭に血が昇っている分、タケルの方が分が悪い。つい大声を出して相手のペースに飲み込まれる。

「タケル、落ち着いて。」

 トオルが呼び掛けてくる。

「スピーカーにして、こっちにも話を聞かせて。」

 トオルがそう言うまで、気が付かなかった。慌てて通話をスピーカーに切り替える。

 様子を伺っているらしいタカオが、声をかけて来る。

「ずいぶん大勢が集まっているんですね。」

「そうだよ。塩尻さんや篠山さんと連絡が取れないって言ってたし、ミドリがトウコを呼び出したって言うし、いろいろ大変そうだから俺らも集まって作戦を練らないとね。」

 タケルはようやく冷静さを取り戻してきた。油断をするとすぐ相手のペースに飲まれてしまいそうだ。額から汗が流れる。


「藤原だ。タカオか?久しぶりだな・・・と言っても、お前に会った時はまだ赤ん坊だったから覚えていないか。」

 藤原がタカオに話しかける。

「自分の父親をどうする気だ?それにトウコ君は君たちに関係ないはずだろ?」

 まるで、孫に言い聞かせるような優しい口ぶりだが、目は笑っていない。

「父親だなんて思ったこともないですよ、藤原先生。あいつと暮らし始めてまだ2年も経っていない。飲んだくれの母親から切り離してくれたのはありがたいですけど、元はと言えばあいつの身勝手が招いたことだし。」

 電話の向こうから嫌悪感丸出しの声が聞こえた。


 どうもタカオは、あまり良くない環境で幼少期を過ごしたようだ。藤原はなんとなく察していたようで、そこら辺からタカオを揺さぶっていく。

 流石に長い間、魑魅魍魎渦巻く国会で切磋琢磨しているだけはある。子供相手に大人気ないようにも見えるが、タカオの感情が少し揺れたように見える。効果はあるようだ。

「なるほどな。塩尻には子供の事に責任を持てといつも言ってはいたんだがな。あいつも悪気はないとは思うんだが、如何せん要領の悪いやつでな。」

 藤原は大袈裟に塩尻を擁護する。

「僕に罪悪感でも植え付けようとでもしてるのですか?」

 余裕を見せようとしているが、声が少し上擦っている。いくら天才少年だろうが、妖怪じみたこのお年寄りにやはり経験不足だとしか言いようがない。

 タケルは徐々にリラックスしてきた。これでタカオと普通に話せる。


「父親への復讐でもするつもりなのか?」

 タケルの質問はいつも真っ直ぐだ。そこに駆け引きはない。

 タカオは少し呆れたような声で返事をする。

「そんなにストレートに聞かれても、そうだって答えられませんよ。別に無理やりじゃなくて、父には完全に同意してここに来てもらってます。

 トウコさんは、ミドリさんが勝手に呼び出したみたいですが、別に危害を与えるつもりは無いと思いますよ。まあ、幼馴染のあなたならミドリさんがそんな人じゃ無い事ぐらい分かるでしょ?

 正し、あなたの出方次第じゃどうなるか分かりませんがね。」

「結構素直に教えてくれるんだな。」

 トオルの声がした。

「まあ、藤原代議士とタケルさんに質問されれば、誰も嘘はつけませんよ。」

 タカオはの口調が柔らかくなってきている。


「お前、意外に俺たちの敵じゃなかったのかよ。」

 ジュンが口を開いた。

 電話の向こうから、クスリと笑う声が聞こえる。

「ジュンさんまでここにいるんですか?全くあなたたちは本当に仲がいいですね。

 僕は敵じゃ無いと思いますよ。味方というわけでも無いけど。ミドリさんがタケルさんに敵意を持ってるだけで、あなたたちに攻撃したいわけじゃない。」

「それはミドリが篠山さんに誑かされたんじゃ無いのか?

 俺はミドリの誤解を解きたいって思っているけど?」

 タケルがそう言うと、「ミドリさんだって分かっていますよ。」とタカオは小声で言った。

「ミドリさんだって、本当にタケルさんが憎いわけじゃない。

 あの人は僕とどこか似ている。誰も信用したくないって思っているんだ。僕と違って、彼女には子供の頃の優しい思い出があるから、余計に苦しいのかも知れませんね。

 さっき父親に復讐したいのかって聞いてきましたけど、どうなんでしょうかね。自分のことなのによく分かりませんよ。」

 タカオは本音で話していると、タケルは感じた。

「お前も俺たちにSOSを出したいのか?」

 タケルはいつも遠慮がない。スピーカーの向こうから笑い声が聞こえた。

「そうかも知れませんね。僕は自分が普通の子供とは違うって思ってたけど、あなたと話していると、そんなことは無いって思い知りますね。つい無邪気に自分の弱さを曝け出したくなる・・・本当にあなたには敵わない。

 僕たちは、東側の郊外にある一軒家にいます。詳しい場所は地図を送りますよ。」

 素直に居場所を教えて来るタカオに驚く。本当に助けを求めているのかも知れない。

(子供相手に、何やってるんだよ。)

 タケルは、ますます篠山に怒りが沸いてくる。


 通話を切った後すぐに、タカオ達が居るであろう家の住所が送られてきた。郊外と言っても中央からずいぶん離れている。バスは通っているようだが、車がないと不便そうな場所である。

「結構不便なところだね。塩尻は本当にここに住んでいるのかな?」

 タケルは疑問を口にする。

「奴には事務所の車を自由に使っていいと言ってあるからな。それに平日は、俺がほとんど使っていない議員宿舎で寝泊まりしているようだし。」

 藤原は、本当に塩尻の事を信頼していたらしく、ずいぶん優遇していたようだ。

「まだ本当のことが分かっていないが、塩尻に裏切られていたのかと思うと悔しいな・・・俺の人の見る目が無くて恥ずかしい限りだ。」

 そう言う藤原は少し寂しそうにも見えた。

「今日面会してきた大庭先生は、先生の事を人を信用し過ぎるのが弱点だって言ってました。でもそれ以外では理想の政治家だと言っていた。

 俺もそう思います。俺は政治家としての先生の姿勢は凄く尊敬できます。」

 ジュンがにっこりと笑いながらそう言った。

「父とよくやり合っているのを間近で見てたけど、俺も先生のこと結構好きですよ。」

 ワタルにも続いてそう言われた藤原は、「お前の息子はよく分かってるじゃないか。」と、ソウタに嬉しそうに言った。

「藤原先生は、単純なんですよ。そこが憎めないところなんですがね。」

 ソウタは少し呆れながらそう言った。もっとも藤原は気にする様子はない。

(この人も、案外人の上下関係とか気にしない人なんだな。)

 タケルはぼんやりとそんな事を考えた。

 

 藤原の飄々とした態度に、一同落ち着きを取り戻したようだ。

「藤原さんがずっしりと構えていると、なんだか意味もなく落ち着きますね。」

 ジュンが、なんだか楽しそうにそう言った。そう言うジュンもなかなか腹が据わっている。

「本当に意味もなく安心感が出てきますね。」

 トオルが追い打ちを掛けるように、ボソリとそう言った。

「意味もなくは無いだろう。」

 藤原がボヤくので、みんな笑った。みんなの緊張感がいい感じに溶けていく。本当に大丈夫だと思えてきた。

 流石に長年国会議員をしていたことはある。全員の不安を拭い去り、心が一つになった。

 

 トオル達は到着までまだ2時間ぐらいかかりそうだと言った。それまで待つことはできないと言うことで、タケル達は先に教えられた住所へ向かう事にした。

「今日で、決着をつけよう。」と、ソウタが一同を見渡し決意を述べた。

(いよいよなんだな。)

 タケルは全身が熱くなるのを感じた。





 

 


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