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タケルとトオル  作者: みゆき
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轟家に集まる面々

 大庭との面談の後、タケル達はそのまま轟の家に行くことになり、ジュンも同行を願い出た。

「俺は全然大丈夫だよ。タケルは?」

 ワタルは快諾する。

「俺もいいに決まってる。でもミカさん心配しない?」

 病院でのミカの剣幕が頭をよぎる。

「それは大丈夫。意外に放任主義なんだぜ、俺ん家。母さんは気は強いけど話は分かる人だよ。病院では、いきなり叔父さんが来たから警戒してたけどね。」

 ジュンはそう言って、ミカに電話するからと少し離れた。

 しばらくすると戻ってきて、「大丈夫。気をつけてしか言われなかった。あんまり遅くなるとタケルの家に泊まるって言っておいたけど、勝手に決めてよかった?」とニカっと笑った。

 ワタルは大笑いしながら、「結構ちゃっかりしてるんだ。もちろん君のことは大歓迎だよ。」と言った。

 

 轟の家に着くと、主はいつになくハイテンションで出迎えてくれた。よっぽどサエコに会えるのが嬉しいらしく、意外に一途な一面に驚く。

「新しいお客さんだね。お友達?」

 轟はジュンの顔を見てそう聞いてきた。

「ああ、俺らの学校の友達。この間来た金谷さんの甥っ子だよ。」

 タケルがジュンを紹介する。

「君がジュン君なのか。会いたかったよ。」

 轟はニコニコ嬉しそうにジュンに握手を求めてきた。ジュンはいささか驚いたようだ。

 ぎこちなく手を出して、「初めまして、金谷ジュンと言います。」と轟と握手をした。

「トオル君達はまだみたいですね。」

 ワタルが聞いた。まだ夕方の6時になったばかりだ。いくら交通の便が良くなったと言っても、流石にまだ新京市に到着するのは難しいだろう。

「17村は遠いからね。深山君も来るって言ってたし、今日は賑やかだな。」

 無邪気に笑う轟に、少し呆れてしまう。

「おいおい、遊びに来る訳じゃ無いんだぜ。」

 そう言うと、「分かってるよ。」とやっぱり楽しそうに返された。


 リビングで轟が入れてくれた紅茶をみんなで飲む。

 轟がいる所為でも無いのだろうが、なんとなく会話をすることが憚れ、みんな無言のまま時間が過ぎていった。

 どれぐらい時間が過ぎたのだろうか、突然玄関のチャイムが鳴り、客を出迎えるために轟がリビングを出ていった。

「なんか、緊張したぁ。」

 ジュンがため息と共にそう言った。

「初めて博士に会う人は、大概緊張するみたいだよ。なんか人を寄せ付けない雰囲気があるんだよね、あの人。」

 ワタルがそう言って笑った。

「俺もすごく苦手だったけど、最近ただの情けない親父だって分かったから、そんなに緊張することもないよ。」

 そんなことを言っていたら、轟がソウタと藤原を伴って戻ってきた。


 まさか、ソウタと藤原が一緒に来るとは思っても見なかったので、タケルは驚いた。

 横を見ると、ワタルとジュンも口をアングリさせている。

「訳あって、藤原先生にも来て貰った。」

 そう言うソウタの声に焦りが感じ取れる。見ると、藤原もかなり混乱しているようで、いつもの元気が無い。

(なにがあった?)

 タケルは自分の中の緊張感が一気に高まるのを感じた。

「一体何が起こっているんだ。轟君、君は何をしたんだね?」

 藤原に詰め寄られても、轟はキョトンとした顔をしている。

「何があったのですか?」

 ワタルが藤原に聞く。藤原の代わりにソウタが答える。

「塩尻君の行方がわからないんだ。連絡が取れない。その話を聞いた篠山君も慌てたように事務所から出て、それきり連絡が取れない。何があったのか皆目検討もつかないんだ。研究所が関係していることだけは明白だから、藤原先生にも来て貰った。」

 ソウタは首を横に振りながら、「訳が分からない。」と言った。

 轟の顔から微笑みが消えた。流石に事態の重さを感じているのだろう。


 みんなが混乱するのを見て、ジュンが申し訳なさそうにした。

「タケル、俺帰ったほうがいいかな?なんか場違いな気がしてきた。」

 タケルにそっと話しかけると、ワタルはそれを否定した。

「いいんだよ、君はここにいても。いや、俺としてはいてもらいたいと思ってる。」

 ワタルはよほどジュンに惚れ込んでいるようだ。

 タケルはソウタと藤原にジュンのことを軽く紹介する。

「金谷と言います。よろしくお願いします。」

 ジュンはおずおずと遠慮するように自分の名を名乗った。

「金谷って、再生製薬の金谷君と親戚か何かかね?」

 藤原がその名前に反応する。

「はい、最近知ったのですが、母方の叔父さんだそうで。」

「ジュンは園田の血を引く人物ってことで、相手から近付かれて怪我までしたんだ。この件と無関係じゃないよ。」

 タケルはジュンが怪我をした経緯を二人に説明した。

「今日、大庭先生の所に同行して貰ったんだけど、彼の洞察力がなかなか鋭くて、おかげで面白いことが聞けたよ。」

「お前がそこまで人を褒めるのも珍しいな。」

 ワタルの話を聞いて、ソウタもジュンに興味を持ったようだ。ジュンはただただ恐縮している。


「一体これから何が起ころうとしているんです?ただの話し合いとはならないようですね。」

 轟の顔が引き攣っている。こんなに不安そうな轟を初めてみた。

「こんな気持ち悪い状況から早く抜け出したくてですね。北村先生もこちらに来ると言うことで、関係者を集めて一気に問題を解決しようと思ったんですけどね。」

 ソウタがみんなを集めた理由を言うと、藤原がうなづきながら補足した。

「俺がぼんやりしていたら、いつの間にか話が変な方向へ行ってしまった。これは俺の責任だ。深山君はゲノム研究を早く公にしたほうがいいと言った。今の状況を見ると、俺も早いほうがいいと思う。でもうちの塩尻君は反対しそうだよなって考えてた矢先に、あいつと連絡が取れなくなった。何が起こっているのか全く分からない。」

 藤原は情けなさそうに俯いた。

「篠山君はどう関わっているんだろう。この間の話が全く嘘だとは思わないけど、やっぱり動きが怪しいね。」

 ソウタと藤原は混乱から抜け出せない。


「とりあえず落ち着きましょう。藤原先生、塩尻さんと連絡が取れないことに気がついたのはいつのことですか?」

 ワタルが藤原に状況説明を求める。

「昨日まで別に変わったことは無かったんだ。今日の朝、10時ぐらいに塩尻が迎えに来る予定だったんだけど、待てど暮らせどやつが来ない。メールも電話も反応がないし、他のスタッフが連絡しても同じだった。研究所にも聞いてみたけど今日は来ていないと言うし、八方塞がりだよ、」

「今日、いきなりですか?」

 タケルが聞くと、「ああ、そうだ。意味が分からない。」と藤原は頭を抱え込んでぼやいた。

「二人同時にいなくなると言うことは、やっぱり篠山君には俺たちに言えない何かの秘密を持っているんだろうな。

 何か不測の事態が起こったのは間違いないが、一体研究所はどうなっているんだ?塩尻君に何が起きたと言うんだろう。」

 ソウタはため息混じりにそう言った。

「ミドリとタカオが動き出したんだ。」

 タケルはそう確信した。


「タカオって言うのは、塩尻の息子だな?あんな子供に何ができるんだ?それにミドリって誰だ?」

 藤原はますます混乱する。

「ミドリは俺の幼馴染で、完全人工ゲノムで生まれました。トオルも俺もそんなことは知らずに、一緒に村で育ちましたけど、その頃から塩尻さんと篠山さんが何かを目論んでいたのかも知れません。」

 タケルはミドリのことを簡単に説明した。

「やはり、篠山君が裏で動いていたわけか。」

 ソウタは心なしか意気消沈している。でも予感はあったのだろうか、何かを納得したようにも見える。

 ワタルが、今日の会談の音声を二人に聞かせた。

「篠山君も塩尻君も今とずいぶんイメージが違うな。篠山君が園田周太郎のファンだなんて初めて聞いたぞ?」

 ソウタの顔に困惑の色が広がる。

「俺も篠山さんのことがよく分からなくなってきたよ。ただ言えることは、篠山さんならミドリを新京市に誘い出すことが自然に出来るってことだよね。」

 ワタルは、眉間に皺を寄せて苦しそうにそう言った。


「まあ、ここで話していても仕方ないでしょう。もうすぐサエコがここに来る。なんでもそのミドリ君だっけ、彼女のご両親も来ると言う話ですし、それを待ちましょう。」

 柄にも無く轟がその場を収めた。他のみんなも妙に納得して、サエコ達の到着を待つことにした。


 しばらく誰も話すこともなく、いささか気まずい雰囲気の中、トオルから連絡が入った。どうも山間部に大雨が降ったそうで、鉄道に遅れが出ているらしい。

 ただ移動中も話が出来るようにと個室を予約していたらしく、オンラインでの話し合いに参加できると言うことだった。

「どうも岐阜のあたりで大雨らしい。」と、開口一番にトオルがぼやいた。

 画面越しに、震えるキミコの肩を抱いているユウジの姿が見えた。二人とも緊張の為か顔色が悪い。

(知りたくない話を聞かされたんだろうな・・・。)

 タケルは夫妻に同情した。


 


 

 


 

 

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