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タケルとトオル  作者: みゆき
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フミカの気持ち

 夜、タケルは迷っていた。


 タカオから受け取った記録用のチップを眺めながら、腕を組み考えこむ。どうしてもフミカの日記を読む勇気は出ない。悩んだ挙句にトオルへ電話してみることにした。


「何かあった?」

 トオルは第一声にそう言った。そう言うトオルも何だか疲れた顔をしている。

 タカオからフミカの日記を渡されたことを話すと、トオルは「ああ」と納得したような反応をした。

「僕の所にも博士経由でコピーが送られてきた。2時間ぐらい前だったかな。」

 トオルにも日記のデータが送られたらしい。

「読んだのか?」

 タケルは読むのが怖い。

「うん、サーちゃんも読んだよ。フミカが当時何を考えてたかよく分かる・・・飯島のおじさんやおばさんにも読んでもらうべきだけど、今更悲しい思いをさせる事になるんじゃ無いかって迷ってる。」

「読んでもらわなきゃダメだよ。」

 突然、サエコが会話に加わった。

「フミカの親なんだから彼らには知る権利と義務があるわ。何年経とうとも、真実を知りたいと思うのは当然のことよ。私たちは恨まれるかも知れないけど、それも仕方ない。それは受け止めなくては・・・。」

 サエコはまるで自分に言い聞かせるようにそう言った。

「タケルはまだ読んでないの?」

 トオルにそう言われて、なかなか勇気が出ないと答えた。

「タケルもちゃんと事実を受け止めなさい。それがフミカに対して何よりも供養になる。ちゃんとフミカが何を考えていたか受け止めてあげてほしい。」

「うん、分かった。」

 タケルの返事に満足したように少し微笑んでから、サエコは画面から消えていった


「それにしても、タカオは何をしたいのかな?俺が罪悪感に苛まれるようにミドリに頼まれたと言ってたけど、トオルにも日記を送ってきたんだろ?わざわざ博士を経由してまで。こっちのメンタルを削るだけが目的でもなさそうだけど。」

 タケルが疑問を口にする。

「ミドリもかなり追い詰められてるのかも知れない。」

 タカオもミドリのSOSかも知れないと言っていた。

「何でミドリがフミカの日記を持ってたんだろ?」

「フミカが死んだ時、メグミの事が心配で一緒に遊んだりしてたんだけど、ミドリも一緒にフミカの家に行ったことがあったんだ。多分その時に偶然見つけてしまったんだろうね。

 あの2人は本当に仲が良かったんだ。内気でよく揶揄われてたフミカをミドリが守っているように見えてたけど、本当は逆でミドリが守られてた。

 フミカは努力家でいつも芯がしっかりしてた。ミドリは強がっているけどあまりメンタルは強くない。いつも笑っているフミカに救われていたんだ。」

「俺、あんなに近くにいたのにミドリのこともフミカのことも何も知らなかった・・・。ただただ仲良くして楽しいとしか感じてなかった。」

 タケルは自分の鈍感さを呪う。

「僕だって今だからそう思えるだけで、あの当時は分からなかった。仕方ないよ。

 日記を読んでミドリはショックを受けたんだろうね。受け止めることができなかった。僕はミドリを救いたい。」

 画面に映るトオルの顔は、少し悲しげに見えた。

「何が書いてあったんだ?」

 タケルが聞くと、トオルは少し呆れたように答えた。

「自分で読まなきゃ。僕に聞いても仕方ないよ。でもそうだね。トウコちゃんも一緒に読んでもらったほうがいいかも。」

「えっ。あんまりいろんな人に読まれるのに抵抗ない?プライベートなもんだし。」

 タケルはちょっと罪悪感がある。多分フミカの日記が読めなかった理由もその罪悪感から来ている。

「だってお前、女の子の気持ちなんて分からないだろ?トウコちゃんに教えてもらえよ。ミドリが何をしたいかヒントになるかも知れない。」

「ヒント?」

「うん。まだ読んだばかりで考えがまとまらないけど、多分ミドリは当時の気持ちのまま抜け出せないのかなって思った。そんな状態のミドリを誰かが利用したんだ。許せないよね。」

 トオルの声に怒りを感じる。

「塩尻たちはミドリを利用してなにがしたいのかな?」

 タケルには、想像もつかない。

「前も言ったけど、やっぱり塩尻さんがミドリに接触したってのは、なんか無理があるように思えるんだよね。そんなにすぐミドリから信用されるとは思えない。もっと自然にミドリに接触できる人物がいる。」

「それって・・・。でも何で?何のために。」

 タケルは混乱する。

「まだ確証はないけどね。多分間違いない。理由もよく分からない。

 とにかく、タケルは日記をよく読むことだよ。ソウタさん達に見せるかどうかは読んでからの判断に任せる。」


 トオルとの会話の後、やっと決心してトウコの部屋のドアをノックした。

「どうしたの?」

 トウコが訝しげにコチラを見てくる。

 タケルは、フミカの日記を一緒に見て欲しいと言った。

「私が読んでもいいのかな?」

 トウコが躊躇う。

「俺じゃ女の子の気持ちがわからないから、トウコに教えて貰えってトオルに言われた。」

 そう言うと、トウコは笑って一緒に読むことを了解した。

 

 2人でリビングに行き、日記を読み始めた。

 そこにはフミカのタケルへの気持ちが正直に書かれている。



 9月3日

 タケルくんが、私の絵を褒めてくれた。すごく嬉しい。タケルくんが褒めてくれただけで、すごく幸せ。


 9月7日

 ミドリちゃんは、なんであんな風にタケルくんと言い合えるんだろう。ケンカしてるみたいなのに、すごく仲が良い。私はただ、オロオロするだけ。なんだかミドリちゃんがうらやましい。



 「フミカちゃん、本当にタケルのことが好きだったのね。」

 トウコがため息を漏らすように言った。

 タケルは何だか恥ずかしいような悲しいような、複雑な気持ちになる。

 さらに日記を読み進めていくとフミカのコンプレックスが浮き彫りになっていく。

 


 10月12日

 タケルくんとミドリちゃんが私よりもずっと勉強が進んでいた。がんばらなくっちゃ、置いていかれてしまう。もっともっと勉強しなくっちゃいけない。


 10月20日

 みんなどうやって勉強してるんだろう?今日も、こんな時間になってしまった。明日も学校だ。もう寝よう。


 10月24日

 今日、サッカーの試合があった。タケルくんがゴールを2本も決めて、試合に勝った!タケルくんすごいなぁ。ミドリちゃんもそうだけど、あんなふうに活発になれたら、自分にも自信が持てるのかなぁ。



「すごい努力家だったんだね。でも周りがほとんどモンスタークラスの天才しかいなかったんだ。辛かっただろうね。」

 トウコが悲しい顔をする。

「うん・・・辛かったんだろうな。いつもニコニコ笑ってて妹のメグミの面倒を見て、全然気が付かなかった。」

 タケルも悲しくなってきた。



 4月3日

 今日、トオルくんの病気が治るようにみんなで神社へ行った。相変わらず、ミドリちゃんとタケルくんが揉めていた。2人はいつも喧嘩してるけど、ほんとに仲が良い。

 トオルくん、最近よく熱を出すけど、どうしちゃったんだろう?少し心配。

 トオルくんはいつも同じだから、辛いのが分かってもらえなくて1人で我慢してるのかなぁ?早く良くなりますように。


 4月15日

 トオルくんが元気になった。

 タケルくん達が、やっと学校に来れて楽しそうな顔をしていると言っていた。

 私には分からないけど、2人が言うのならそうなんだろう。

 なんで、私だけトオルくんのことが分からないのだろう。なんだかそれがダメなことみたいで、分かっているふりをしているけど、なんだか悲しい。


 5月25日

 タケルくんが帽子を似合ってるって言ってくれた。帽子は私の一番の宝物になった。 

 田植え祭の前に、坂下のおじいちゃん達と神社へ行った。

 無理だって言ったのに、ついてきたメグミが帰りに疲れて、トオルくんにおんぶしてもらってた。トオルくんは本当に優しい。



「ここに書いてある帽子を取ろうとして、フミカは池に落ちてしまったんだ。俺が軽い気持ちで言ったことなのに・・・。」

 タケルは苦しすぎて気持ちが悪くなって来た。トウコが一緒にいてくれて良かった。一人で読んでいたら耐え切れなくなりそうだ。



 7月3日

 今日は、サッカーの試合を応援に行った。

 試合は引き分けだったけど、タケルくんカッコ良かった。

 私のレモネードを、美味しそうに飲んでくれるタケルくんの顔を見ているだけで幸せ。

 でも私、なんでトオルくんがブドウ味を食べて嬉しそうにしてるってわからないんだろう?

 トオルくん、凄く優しいのに、なんで私だけトオルくんの気持ちが分からないのかな?

 トオルくん、ごめん。


 7月17日

 夏休み直前の、先生とのカウンセリングがあった。

 同い年の4人の中で、私だけ成績が良くないのは、努力不足なのかと聞いた。

 先生は、あの3人は特別だから気にすることはないと言ってくれた。私は全国平均を大きく上まっているのだから、自分のペースで良いのだと言うけど、3人が特別って何?

 私は、1人で置いていかれるの?



「ここで日記は終わってるわね。タケル大丈夫?」

 トウコが深く息を吐き出すように言った。その声は心なしか疲れている。

「ああ、フミカはすごく孤独だったのかも知れない。全然気が付いてなかった。」

 タケルの目から涙が溢れてきた。

「うん、ちょっとでも追いつこうと必死だったんだ。」

 トウコが優しくそう言った。

「タケルを大好きだったこともそうだけど、トオル君に対して罪悪感と取り残されるっていう恐怖感がすごく伝わってくる。」

「フミカ、辛かったんだな。」

 タケルはティッシュを引き寄せ涙を拭いながらそう言った。

「辛いだけじゃなかったと思う。悩んでるけど前に進むことに何の疑いもなさそうだもの。

 それなのに・・・学校の先生はフミカちゃんを慰めるつもりだったんだろうけど、『3人は特別』なんて言われて本当に傷ついてるのが悲しいね。」

「フミカは自分の事をあんまり言わなかったからな。愚痴や泣き言なんか聞いた事ない。」

 いつも笑っているフミカの顔が鮮やかに甦る。タケルとミドリが些細なことにぼやいている時でも、フミカは笑いながらやるべき事を淡々とこなしていた。そんなフミカの姿勢に、自分たちが恥ずかしくなって後に続く事もよくあった。

「フミカは、自分はお姉さんだって人一倍頑張っていたんだ。」

 タケルはフミカとの思い出を語り始めた。多くを思い出すことがフミカへの何よりの手向けになるような気がした。

 話しているうちにミドリの苦しみがどう言うものか何となく理解できて、なぜトオルがミドリを救いたいと言ったのか分かるような気がした。


 トウコはタケルの話を黙って聞いてくれた。










   







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