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タケルとトオル  作者: みゆき
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轟博士の変容

「俺も、博士とは長い付き合いだ。直接顔を合わせることはないが、今でも月に何度かはオンラインでやり取りはしている。博士が変わってきているとは思えないが・・・、一緒に住んでいるとやはり気づくものなのか?」

 ソウタは博士の様子に興味津々という感じで聞いてきた。

「そうですね。2人とも無口ですから、そんなに会話があるわけじゃないですけど、タケルが来ると明らかに楽しそうにしてますね。あんなに毛嫌いされてるのに、タケルのことがお気に入りなんですよ。

 サーちゃんが『ちょっと、かわいそうに見える。』って笑うぐらいには人間味が出てきたんだと思います。」

「何で俺なんだ?」

 タケルの混乱は続く。

「タケルがが天真爛漫で自分の感情に素直だからだよ。博士の周りには腹黒い人が多いからね。

 多分、藤原さんと会った時のタケルの態度に度肝を剥かれたんだと思います。藤原さんがあんなに本気でこの国を良くしようと思っっているというのが意外だったし、その藤原さんの理想を引き出していくタケルの姿に衝撃を受けたのでしょうね。

 他にも、同じ遺伝子を持つワタルさんとタケルの性格の違いも興味があるみたいです。育つ環境だとかの後天的な理由の方が人格に与える影響が大きいということが実感できたのかな?

 もちろん、今まででも頭では分かってたんですけどね。それが本当に実感できたと。それに伴って、博士自身の中にも自分で説明できない感情があることに気がついたんじゃないかなって思うんです。

 最近、来客する人が減ってきた。明らかにお金目的で実験に参加しているだろうって人が来なくなりました。

 塩尻さんの方で安定して成果を出せるようになったこともあるのかも知れませんが、博士自身でそういう人を断っているみたいですね。」

「ちょっと待って。お金目的で実験に参加している人って・・・もしかしてミドリと一緒にいた少女達はもしかして・・・。」

 ワタルは、報酬を受け取って実験に参加している人がいることに動揺する。少し遅れてソウタも意味を理解して唖然としている。

「そんな話は知らない。なんだ?どういうことだ?」

「僕も今日初めてあの少女達の存在を知ったのでよく分かりませんが、その可能性はあると思います。もっと塩尻さんの周りを調査した方がいいかも知れません。人を集める方法はすごく巧妙です。塩尻さんに入れ知恵をしている人物がいるのかも知れない。

 今まで博士の所に来た人たちは、一応不妊治療の名目での訪問でした。博士も技術的な話しかしてこなかった。DNAを組み立てる仕組みの説明をしてたんですね。DNAを自由に組み立てることは可能だが、100%依頼者の希望通りの子供が生まれる訳じゃない事も説明してました。

 まあ、臨床試験の体裁を繕う茶番でしかなかったようで、博士も来ていた客たちもなんだか適当な感じでしたけどね。特に博士は少し面倒くさそうでしたよ。」

「博士の興味はいつもトオル君の成長過程だけだったからね。北村先生もそんなこと言ってた。だから塩尻氏はただのスポンサーでしかないと言うことか。そして博士の興味がタケルに移っていると?」

 ソウタは、何となく轟の変化が納得できているような表情をしている。

「タケルだけというわけでもなさそうです。来たことはないですけど、他の友達が一緒でも同じように興味を持ったんじゃないでしょうか。

 還暦間近になって、やっと人にはそれぞれ感情というものがあると実感してるんじゃないかな。タケルがきっかけになったのは間違いありませんがね。」

「博士は、今まで好奇心だけで悪気はなかったという訳ですか?こんな悪魔的なものを作り出しておいて・・・。」

 篠山は静かに憤慨しているようだった。全ての元凶は博士であると言いたげである。

 タケルもそう思う。子供みたいに好奇心だけで突き進んだ結果、塩尻みたいな奴につけ込まれた。

 トオルは技術が悪い訳じゃなく、どう利用するべきかが問題なのだと言う。どんな技術も、いつか誰かが開発する。そしてどこにでも危険は存在する。だからどうコントロールをするか考えて行かなければならないのだと、前にも言っていた。


「もちろん、博士には重大な責任があります。そしてそれを放棄して自分の好奇心のままに突き進んだ結果、塩尻さん達に利用された。博士が問題の元凶であることに間違いは無いです。

 ただ、ここで博士を糾弾したところで問題の解決にはならないし、もう博士の手を離れています。」

 敵は博士じゃなく、それを変に利用しようとしている塩尻やその周辺であると、トオルは篠山に答えたが、篠山は納得できない様だった。

「では、博士には何もお咎めがなくていいと言うことですか?」

「そうは言っていません。ただ、ミドリやタカオ君を始めとする人工ゲノムの子供達の問題で、博士を糾弾しても仕方がないと思います。

 トカゲの尻尾切りみたいに博士1人に罪を被せて、塩尻さんがアンダーグランドに潜ってしまうかも知れません。その方が何倍も恐ろしい。

 出来てしまった技術はもう後戻りはできません。どうコントロールをするかが問題なのです。なるべく早く技術をオープンにして、監視の目を増やすのが一番いいとは思うのですが、政治的には難しいものなのでしょうか?」

 トオルはソウタに尋ねた。

「難しいね。いろんな思惑を腹の中に詰め込んだ一筋縄では行かない連中ばかりだ。自身の保身や背後にいる支援者の意向もある。

 変な話、一番国民のことだけを考えているのは藤原さんぐらいじゃないか?それでも塩尻君の口車に乗ってしまっている有様さ。秘書を差し置いて藤原さんに近づくのも難しいと思う。」

「塩尻はそう言う所に慎重ですからね。藤原先生の人間関係には目を光らせているでしょうね。」

 ソウタと篠山は、ため息をつきながら議会での不自由さを嘆いた。

「藤原さんは情報公開するのに適任かも知れませんね。でも下手に情報公開したらいろんな憶測が飛んで、世の中が大混乱になってしまう。」

「頭の痛い問題だね。」

 ソウタは目頭を摘み、首を横に振った。


 話はそれ以上進まなくなり、塩尻の事をもっと詳しく調べると言うことぐらいで、大した結論も出ないまま篠山は帰って行った。

 

 タケルは簡易ベッドを用意して、トオルを自分の部屋に招き入れた。

 子供部屋で遊んだり勉強したりした日々を思い出す。あの頃はいつもトオルと一緒だった。

「子供の頃、遅くまで話してて、サーちゃんに注意されたよね。何だか懐かしい。」

「タケルが1人で喋ってたんじゃないか。でも、ほんとに懐かしい。」

 トオルが自然な笑顔を作る。トオルにとっても村での生活は大事な思い出なのだろう。

 

 色々分かったことも多かったが、情報が錯綜している。トオルはソウタと対等に意見を交換していたが、タケルは途中から会話について行けなかった。

「トオル、凄かったね。ソウタさん達と対等に議論してた。」

「そう?」

 トオルは、「何がそんなに凄いんだ?」とキョトンとしている。

「言ってる意味はわかるんだけど、なんて言うかね、スピードについて行けなかった。考えている間に次々と場面が変わる様な感じっていうか・・・。

 ソウタさん達は議論するのが仕事だから、そういう場面は慣れているんだろうけどね。トオルはそんな訓練している訳じゃないし、アウトプットするのは苦手な方だと思ってたから、ちょっとびっくりした。」

 意外に高いトオルの順応力を素直に凄いと思う。それと同時に、自分もディスカッションの力を付けていきたいと思った。そういうことで今まで漠然としていた将来の夢が形作られていく様な、そんな気がした。


「トオル、まだ起きてる?篠山さんの話、どう思った?」

 ベッドに横になって暫くして、タケルはトオルに話しかけた。

 トオルは少し眠そうに答える。

「うーん?そうだね。ミドリと親戚だったのは、さすがに驚いたね。話に嘘は無かったと思うよ。でもその話を深山先生に秘密にしていたところが、ちょっと変だよね。それにも理由を答えてたし、それも本心だと思うけど、何だろうねなんか違和感を感じた。」

「それは俺も感じた。信用できる人だとは感じたけど、まだ何か秘密にしてそうだよね。」

「うん、博士に対する感情がそうさせてるのかな?お前は博士を毛嫌いしてるけど、そう言うのとも少し違う。なんか複雑そうな感情が見えたよ。」

「なるほどね・・・。」

 なるほどと言いつつ、タケルにはよく判って無かった。

「それにしても、今日は大変な1日だった。」

 買い物に行ったのが遠い過去のようだ。タケルがそう言うと、トオルは「本当に・・・。流石に疲れたよ。」と呟いた。

 タケルはまだまだ話していたかったのだが、トオルはもう限界の様だ。

「僕はもう寝るよ。すごく眠い。タケルも眠いまま考えてても、何も出てこないよ。」

 そう言って、本当にそのまま眠ってしまった。


 そっけないトオルの態度に何だか寂しさを感じ暫く悶々としていたが、タケルも疲れていたのか、いつの間にか眠りに落ちていった。

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