表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タケルとトオル  作者: みゆき
34/59

篠山の来訪

 夜になり、ソウタとワタルが帰ってきた。

「ただいま。」

 そう言って玄関を入ってくるソウタの後ろに篠山の姿が見えた。

 篠山は、少しばつの悪そうな顔をして挨拶をする。

「夜分に失礼します。」

 皆、困惑した表情で篠山を迎えた。その様子を見てソウタは手短に説明する。

「いろいろ面倒くさくて、もう直接家に来て貰った。篠山くん、すまなかったね。」

「いえ、誤解は解いておきたいので、こちらとしても助かります。」

 ソウタはトオルにも気遣いを見せる。

「トオル君も夜遅くなるけど、大丈夫?もうウチに泊まって行くかい?」

「ええ、今日は泊めていただきます。」

 トオルが答える。

「博士には言っているのかい?妙に勘繰られるのも厄介だけど。」

「大丈夫ですよ。さっき連絡を入れました。博士はそう言うのはまるで興味がない・・・と言うか少し心境が変わってきてるのかな?」

 思わせぶりなトオルの発言に、タケルはトオルを見る。

 轟の変化はタケルには分からない。いつ行ってもニヤニヤと薄気味悪く、こちらの様子を伺っているだけにしか見えない。ただ、家に行ってもほとんど轟と接点を持たないから、変化に気付かないのも仕方の無いことだろう。

 一緒に住んでいると分かるものだろうか?感受性が高いからこそ、トオルに見えて来ることもあるのかも知れない。


 全員でリビングに集まった。篠山が勧められてソファーに座る。

 ネクタイをきっちりと締めたままのスーツ姿の篠山は、ひどく緊張している様に見えた。

 いつも慌ただしい篠山が座っているのを、タケルは初めて見た様な気がする。新京市に来た時に迎えに来て貰った時以来、まともに会話をしたことも無かった。


「私が、個人的に色々調べていた事もあって、誤解が生じた様で申し訳ありませんでした。」

 皆が座って落ち着いた時、篠山が一度立ち上がり深々と頭を下げた。

 ソウタが改めて、篠山をここに呼んだ理由を話す。

「篠山君を調べてたのが、本人に気付かれてね。いやあ、流石に元敏腕記者の目を欺くのは無理だった。それでもう直接ここに来て、みんなで色々疑問点を聞き出そうと。

 篠山君は俺たちと別の理由で、塩尻君のことを探ってたみたいでね。結論としてお互いの利害が一致したというか、少なくとも彼は俺たちの敵じゃ無くて、協力し合えると思った。そこでまあ、トオル君の真似をして、タケルに本音を引き出して貰おうと考えた訳だね。」

 そう言って、ソウタはニヤリと笑った。

「なんか俺、妙な便利グッズになってない?そんな特技意識したこと無いから、戸惑うんだけど。」

 何となく納得できない。

「俺にそんな特技は無いけど、不思議なもんだ。遺伝子が同じでも個性ってあるもんだね。そう言う根本的なことを、塩尻氏は履き違えている気がする。

 同じコンピュータプログラムを使っても使い方で個性が出るのに、ましてやそれより遥かに複雑な人間で遺伝子を操作したところで、思う様な結果ばかりが出る訳ないのにね。そんな簡単なことが分からないとは。」

 ワタルは、いかにも情けないと言う様な表情で言った。

「良くも悪くも、タケルの人への影響力というのは凄まじいものがあると思う。まだ未熟な部分があるから、しっかり訓練しなくちゃいろんな誤解を生む事になる。俺としてもちゃんと見守りたいと思うよ。」

 ソウタの言葉に今日のミドリの言葉が頭をよぎり、タケルは神妙な気持ちになった。


 ユミと子供達が手伝って、飲み物と軽い食事が運ばれた。篠山は恐縮していたが、長い話になるし遠慮はいらないとユミに勧められて、何度も頭を下げながら「いただきます」と言った。

 最初、タケルが今日の出来事を報告した。

 トウコの顔がまた強張った。よっぽど怖かったのだろう。無理もない。訳も分からず、得体の知れない奴らから攻撃対象に選ばれたのだ。恐怖以外の何者でも無い。その原因が、幼かったタケルの無責任な言動かも知れないと思うと、本当に居た堪れない。

「私、もう心配で。一体何が始まるのかしら。そのフミカちゃんの件についても、だからタケルにどうしろって言うのかしら。どうしようもない事なのに。」

 珍しく、ユミが愚痴を言った。家族が狙われることを理不尽に感じているんだろう。だけど自分には何も出来ないと言う事に歯痒さもある様に見えた

「今は、身を守ることしか出来ないな。タケル、お前とトウコが一緒だと余計に相手を刺激するかも知れない。トウコには警備をつける様にしよう。プロに守ってもらう方が良いだろう。」

「そんな大袈裟な。」

 トウコがそう言ったが、ソウタは首を振りながら言った。

「しばらく不便かも知れないが、トウコに何かあってからじゃ遅いから。」

「父さんの言う通りだ。相手の狙いがトウコだと分かった以上、用心に越したことは無い。」

 ワタルも、ソウタに賛成する。

 タケルは、自分の行動でトウコが危険な目に遭うかも知れないと思うと辛かった。フミカの事とトウコは関係ないだろう、自分を攻撃すればいいのにと、ミドリに文句を言ってやりたかった。


 ミドリの話を聞いていた篠山は、顔を真っ青にして俯いていた。少し震えている様にも見えた。やっぱりワタルの記憶通り、ミドリの母親のキミコと何らかの繋がりがあるのだろうか。タケルは林田家との関係を篠山に問うた。

 やがて、篠山はゆっくりと顔を上げ話し始めた。


「キミコと私は父方の従兄弟同士でして。家も近所で同い年という事もあり、子供の時から仲良くしていました。私の父親の姉がキミコの母親です。」

「確か出身は東北の方だったね。」

 ソウタが合いの手を入れる。

「そうです、仙台の郊外にある片田舎の町に住んでいました。基礎教育を修了した後も、仙台にある応用学校に一緒に進学して、後にキミコと結婚するユウジさんともその頃に出会いました。彼はふたつ上の先輩で、その頃から明るく行動力のある、周りから頼られる様な人でした。」

「僕らの知っているユウジおじさんも、まさしくそんな感じの人でした。」

 トオルがそう言うので、タケルも頷いた。

「私は社会心理学の研究に興味を持っていて、18歳の時に上京してこっちで専門課程に入りました。キミコとユウジさんは地元で専門課程に進んでいて、その頃から2人は交際を始めました。よくキミコから惚気のようなメールが来て、楽しそうでしたよ。。ユウジさんはその頃から地方の活性化に情熱を持っていて、そんなところにキミコは惚れた様でした。

 タケルさんたちがキミコにどう言うイメージを持っているか知りませんが、その頃のキミコはよく笑う明るく朗らかな性格だったんですよ。」

 そんな性格のキミコに何があったと言うのか、タケルは緊張してきた。隣を見ると、トオルも同じように緊張の面持ちで篠山の話を聞いている。


「僕は、ほとんどキミコおばさんと話した事がありません。ミドリからも母娘の様子が伝わってくることはあまり記憶が無い。でもユウジおじさんのイメージなのかも知れませんが、家族仲はすごく良かった印象です。キミコおばさんも会えばいつも微笑んでいましたから、ただ大人しい人なのかと思ってました。」

 トオルは自分の記憶にある林田家の印象を篠山に伝えた。

「人見知りするタイプではありましたよ。口数も多い方では無い。でも、私がキミコに塩尻を紹介しなければ・・・、とても後悔しています。」

 意外なタイミングで塩尻の名前が出て、タケルは驚いた。篠山は塩尻と繋がりがあったのだ。

 他のみんなも驚いたようで、言葉を失ったように黙り込んだ。場の空気がヒリヒリと痛いぐらいだ。


「塩尻さんとはどう言う関係だったんですか?」

 一瞬の沈黙の後、トオルが質問する。

「学生時代の知り合いです。共通の知り合いがいると言うだけで、友達付き合いとかは無かったです。ただ、結構人付き合いが派手でよく噂は耳にしました。」

「・・・と言うと?」

 派手な人付き合いというのはどう言うものだろう?タケルはうまくイメージできない。

「女性関係とかはそんなに聞かなかったですけど、彼は成績も良く口も上手いですからね。先生方には可愛がられていました。その伝手もあってその頃から政財界に顔が効く様になって、どこそこのパーティーに参加しただの、有名な政治家と食事しただのと言う噂をよく耳にしましたね。」

「本当に派手ですね。その頃から妙な承認欲求があったんですね。」

 トオルが少し呆れ顔でそう言った。トオルの物言いに、篠山は何か腑に落ちた様な顔をした。

「承認欲求だったんですね。その頃はすごい奴がいるなあとしか思わなかった。確かに自分の利益になる人物以外は眼中になかったみたいだし、同年代の友達はほとんどいなかったんじゃ無いかな。別に嫌われてるわけじゃ無いけど、みんな少し遠巻きに彼を見てた様な気がします。」

「なぜ、キミコおばさんに塩尻さんを紹介する事になったんんですか?」

 トオルの質問が続く。

「私は、卒業してからニュースセンターへし就職しました。渡辺先輩の下で記者として働いていたんです。トウコさんの亡くなったお父上ですね。先生と出会ったのも、その頃でしたね。あの頃は楽しかった。」

「ああ、楽しかった。俺はその頃、まだまだ駆け出しの医者でね、北村先生の元で働いていたんだ。先生の患者の中には重篤な人も多かったんで、毎日がすごい緊張感の連続だった。ジャンルの違う君たちとの飲み会はすごい息抜きになったよ。ジュンイチも正義感に溢れるジャーナリストだったし、君も色々社会に思う事もあったみたいで、毎回熱い議論が巻き起こって、横で聞いているだけでも良い刺激になった。」

 ソウタが、懐かしそうに目を細める。


「先生が研究に参加したを決めたぐらいの時期だと思いますが、キミコがユウジさんと結婚したと連絡が来たんです。キミコは結婚当時から子供を欲しがっていました。今考えるとある意味、病的ではあった。実家が自然妊娠率の高い家系だったことが、かなりのプレッシャーだったみたいです。

 実際、私の父は4人兄弟で、父の下にも弟が2人いました。父は実家のそう言うプレッシャーに辟易としていたみたいですが、叔母は自然妊娠をとても誇りに思っていたらしく、『若いうちに子供を産め』とキミコによく言っていたらしいです。

 なかなか子供が出来ないキミコに対して、自然妊娠は無理でも早く不妊治療を始めるようにと、叔母から言われていたみたいです。キミコも精神的に追い込まれて、ユウジさんもすごく心配してましたね。

 叔母から私に、『ジャーナリストなら良い不妊治療の医者の情報はないか』と聞いてくることもありました。

 

 そんなある日、ちょっとした同窓会みたいな集まりがあって、塩尻と再会したんです。彼はその当時、官僚として厚生省に勤めてました。

 世間話のついでに、キミコの話をしました。職業柄、塩尻なら良い情報を持っているかもしれないと思って。

 塩尻はしばらく考えた後、『新しい研究がある。今、臨床実験が始まったばかりなんだけど。』と答えました。画期的なその研究は世界を救うかもしれないポテンシャルを持っているとも言ってました。その時には、まさかそれが先輩が追っていた人口ゲノムの話だとは思っていませんでした。」


 みんな、篠山の話を喰い入る様に聞いていた。



 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ