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タケルとトオル  作者: みゆき
33/59

ミドリの復讐

「絶対あの子達だよ!」

 トウコのバックに付けられたテープに、エイミは憤りながらそう言った。

 トウコは何も言えず、顔色が悪いままだ。

「あの子達って?もしかして、10歳ぐらいの女の子二人組のこと?この店から出て来た時、ちょっと若過ぎるんじゃないかって違和感があっったんだけど。」

 トオルがエイミに聞いた。

「あの子達見たの?わたしもそう思ったんだよね。まだ子供なのに、この店で見るものがあるのかって?まあ、たまに成長の早い子とかいるけどね。でもそんな感じしなくて背も小さかったし、ホントまだ子供って感じだったから変だなって。」

 エイミは自分の見た違和感を熱弁する。

 いつもなら、タケルが真っ先に熱くなって怒り出す所なのに、今日はエイミの迫力に押されている。最初のフワフワしたイメージはもはやエイミからは感じられない。


「トウコ大丈夫?まだ顔色悪いよ?一体何があったの?」

 タケルはトウコを心配する。

「うん、大丈夫。でもホントやな感じ。やっぱりあの子達なのかな?レジで並んでる時に軽くぶつかって来て、すぐ謝って来たんだけど・・・なんか少しニヤニヤ笑ってて嫌な感じだった。子供だけみたいで変だと思ったし・・・やっぱりあの子達なのかな。」

 トウコは混乱してるみたいだった。


「あっ、あの子達だ。」

 トオルが2階の通路を指差した。

「えっ?」

 全員、トオルの指さす方を見た。

 女の子2人がエスカレーターに乗って登っていくところが見えた。彼女たちはエスカレーターを降りると1人の少女の所へと走り寄った。

 少女は、白いTシャツにデニムというシンプルな出立ちで、ショートカットの髪が遠目にもサラサラと揺れているのが分かる。

「ミドリだ・・・。」

 タケルは呆然と呟く。

 ミドリはゆっくりとタケル達に顔を向けて、口元だけで笑った様に見えた。そしてそのまま踵を返し歩いて行った。

「あっ、待て。」

 タケルが追いかけようとしたが、トオルに止められた。

「人が多くて、すぐ見失うよ。それに1人で行動するのは良くない。」



 買い物をする気も無くなり、この日は解散する事になった。

「エイミ、ごめんね。まだ見たい所あったのに。」

 トウコは申し訳なさそうにしているが、エイミの方は気にしていない様だった。

「仕方ないよ。でも、なんか変な事に巻き込まれてる?トウコ達も気を付けなきゃ。」

「まだ、何が何だか分からなくて説明できないけど、絶対ちゃんと話すから。エイミが危険な目に遭うのは、私耐えられないから・・・連絡するまで待ってくれる?」

 トウコは泣きそうな顔をしている。そんなトウコの背中を撫ぜながら、エイミが優しく笑った。

「分かった。連絡来るの待ってる。でも力になれる事があったら言って。私もトウコに何かあったら耐えられない。だから、そこは絶対に遠慮しないで。愚痴を聞くぐらいしか出来ないかもだけど。」

 ジュンも、同じ様なことをタケル達に言った事がある。トウコも自分も本当に良い友達がいるんだなと、タケルは人知れず感動していた。


「ジュン、エイミちゃんを家まで送って行ってくれないか?多分君たちが狙われる事はないと思うけど、一応警備用アプリを入れといた方がいいね。」

 トオルがジュンにそう頼む。

「了解。エイミちゃんそれでいい?」

「うん、ありがとう。ジュン君よろしくね。」

 エイミがにっこり笑う。ジュンは顔を赤らめる。案外2人はお似合いなのかも知れない。

 タケルにパスワードを聞いてアプリの登録を済ませた後、ジュンは心なしかギクシャクと変な歩き方で帰って行った。

「ジュンの奴、無茶苦茶緊張してるな。」

 トオルの一言で、3人は大笑いした。

 トウコも落ち着きを取り戻したようだ。


 帰り道、ソウタからメールが入り報告したい事があると言うので、トオルも一緒に深山家へ帰る事になった。


 地下鉄の駅から出て、大きな通りを家に向かって歩いている時、後ろから来た自転車がトウコ向かって走って来て、危うくぶつかりそうになった。

 タケルが先に気が付いて、トウコの袖を引っ張り避けさせたのでぶつかる事はなかったが、追い越す際にトウコは背中を叩かれた。

「きゃっ」とトウコが短く叫ぶ。

 自転車の人物がこちらを一瞬振り返りそのまま走り去った。その顔を見てトウコが硬直する。顔が真っ青だ。

「あの子・・・、さっき私のカバンにイタズラした子・・・。」

 余りのことに、頭がついて行かないタケル。呆然としていると、トオルのスマホに着信音が鳴った。

「もしもし」

 トオルが電話に出る。

「ミドリ・・・。何してるの?今のも君の仕業?目的は何?」

 電話はミドリからだった様だ。スピーカーにしてタケル達にもミドリの声が聞こえる様にしてくれた。

「あら、タケル久しぶりね。相変わらず鈍感でバカっぽいのね。トオルが居ないとオロオロするだけで、何にも出来ない。」

 何処にいるのか、ミドリはこちらの事が見えているようだ。タケルのことをバカにするように煽ってくる。

「お前、何処にいる。トウコは関係ないだろ!なんでトウコにこんなことする!」

 電話に向かいタケルは怒鳴った。

「アンタがその子を守るからじゃない!」

 ミドリがいきなり激昂した。

「アンタのせいでフミカが死んだのに、何代わりの女の子を守ろうとしてるのよ!」

「何言ってるんだ?俺のせいでフミカが死んだってどう言う事だよ!」

 タケルは混乱する。

「ミドリ、フミカの事はタケルは悪くないよ。どうしようも無かったんだから。」

 トオルが、タケルを擁護する。

「じゃあ、なんでフミカはあの帽子を取ろうとして池に落ちたのよ!タケルが鈍感だからフミカが苦しんだのよ!」

 タケルには何の事かさっぱり分からない。タケルは何も言えなくなってしまった。

「それでも、タケルに責任はないよ。フミカだってタケルを恨むような子じゃないのはミドリにだって分かるだろ?ミドリが苦しむことは無いんだ。」

 トオルの言い方がすごく優しい。トオルはミドリの目的を知っているのか。それでいてミドリの事を救おうとしている様に感じる。

 それにしても、なぜミドリがフミカの死をタケルのせいだと言うのか?トオルはその理由を知っているようだ。

「べ、別に私は苦しいとは思ってないわ。タケル、アンタの守るものは全てぶち壊してやる。じゃあね。」

 電話の向こうで一瞬ミドリがたじろいだ様に感じたが、それでも言いたいことを一方的に言って、電話は切れてしまった。


「トオル、どう言う事だよ。お前何を知ってるんだ?俺に何を隠してるんだよ。」

 タケルがトオルに詰め寄る。本当に訳が分からない。

「フミカちゃん、もしかしたらタケルの事好きだったの?」

 トウコが、ポツリとトオルに問うた。

「えーっ!!そんな訳ないじゃん。だってそんなこと言われた事ないぜ?」

 タケルは狼狽える。

「片思いだったんじゃない。私のイメージだけど、フミカちゃんって自己主張とかあんまり無かったみたいだし、タケルだって自他共に認める鈍感だし。」

 トウコに畳み掛けられて、タケルは何も言えなくなった。でもいきなりそんな事言われても困ってしまう。タケルは思わず泣きそうな情けない顔をしてトオルの方を見た。そんな訳ないと否定して欲しかったのだが、その希望はすぐに打ち砕かれた。

「実は、そうなんだ。」

 タケルは目の前が真っ暗になった様な衝撃を受ける。

「何で黙ってたんだよ・・・。」

 絞り出すようにトオルに訴える。

「言えないよ。フミカは本当に健気にお前のことだけを見てた。メグミが生まれた時、緊急に帝王切開になっただろ。後からすごく危険な状態だったって聞いたけど、フミカすごく不安だったんだ。お前が一生懸命に励ましてて・・・その時からお前はフミカの王子様だったんだよ。」

「それにしたっって・・・。何で俺のせいでフミカが死んだことになるだ?」

 タケルは、思考が追いつかない。

「帽子だよ。お前がフミカに似合ってるって言ったんだ。それでその大事な帽子が風に飛ばされて、木に引っかかったのを取ろうとして、フミカは池に嵌まったんだ。」

「帽子を誉めたって、覚えてない・・・俺、また何にも考えてなくて言ったんだ。でも。帽子のことは覚えてる。お気に入りなんだって。」

「だいたい何であんな所に、フミカが1人で行ったのかは分からないけどね。」

 タケルは、自分の無自覚な言動が取り返しのつかない事になったと絶望的な気分になるが、トオルはフミカが危険な場所に1人で行ったことの方が木になる様だった。

「何かショッキングな事があったのかしら?ミドリさんはそれを知っているとか?」

 トウコも疑問を口にする。

「そうかも知れないね。でもタケルの性格はフミカも十分承知しているはずだし、完全に片思いになることも覚悟している様に見えたけどね。ずっと黙っているつもりだったんじゃないかな?自分に自信が持てない子だったからね。だから、片思いが直接原因になったはずはないんだ。」

「でも、ミドリさんはそう思っていない。タケルが原因だって・・・。」

 トウコは、顔面蒼白になったタケルを見て言葉を飲み込んだ。

 タケルは、もう何も考えられなくなっていた。

「タケル、ごめん。顔色悪いけど、大丈夫?」

「大丈夫・・・。でも今はちょっと・・・。フミカが俺をそんなふうに見てたなんて、考えたこともなかったから。俺、ほんとに鈍感なんだな。嫌になる。」

 トオルは黙って、励ますようにタケルの肩を軽く叩いた。

「トオル、本当に大丈夫。急な展開で驚いたけど、ミドリの変化にあの日の事が関係あるなら、ちゃんと思い出さなきゃね。ミドリともしっかり話し合わなきゃしけない。

 トウコのことも絶対に守る。ミドリに指一本も触れさせないから。大切なトウコを傷付ける奴は、誰だろうと絶対に許さない。」

 タケルは顔を強張らせながらも、そう言った。

 まるで公開告白の様なタケルの宣言に顔を赤らめたトウコだが、当然タケルは気が付かない。

 その様子を見ながら、トオルがボソリと言った。

「タケルは、自分にも鈍感なのかも知れないな。トウコちゃんもこの先苦労すると思うよ。」

 トウコが苦笑いするが、タケルにはよく分からない。

「どう言うこと?」

「それこそ、タケルが自分で自覚しなきゃいけない事。」

 トオルは呆れた様にそう言った。

「ただ、ミドリの攻撃の対象がトウコちゃんだと言うことははっきり分かった。」

 トオルの言葉で、トウコの顔が引き攣った。

 

 フミカの気持ちを知って、タケルはまだ動揺している。それでなぜトウコが狙われるのかもよく分からない。

 タケルは、人の気持ちを推し量るのが苦手だ。トオルのように観察眼も持っていない。多分そんな所が今回の騒ぎの根本にある気がして、普段能天気なタケルもひどく落ち込んだ。

 

 



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