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タケルとトオル  作者: みゆき
32/59

買い物へ

 タケルは、朝8時ぐらいに目が覚めた。昨夜はミドリのことを考えていて、あまりよく眠れなかった。顔を洗ってスッキリさせる。

 一階に降りてリビングに行くと、ワタルはもう仕事へ出かけたようだ。トウコがトーストを食べながらユミと話をしている。

「おはよう、タケル。トースト食べる?」

 ユミがにこやかに聞いてくる。

ユミは、タケルに対してやっと力を抜いて接する事が出来るようになったようで、いつもニコニコとタケルに笑いかけるようになった。タケルは、その事が純粋に嬉しい。

「うん、食べる。ユミさんありがとう。」

 タケルは冷蔵庫から牛乳を取り出し、マグカップへと注ぐ。レンジでホットミルクにして、少しインスタントコーヒーを入れて飲むのがタケルのお気に入りである。

 そんな様子を、少し不思議そうな表情でトウコが聞いてくる。

「タケルって、夏でも暖かいの飲むよね。」

「えっ?あぁ、そうだな。なんか朝は冷たいのより暖かい方が良い気がする。気分だけどね。」

「ふーん。分かるような分からないような・・・。」

 ユミも、トーストと自分で飲むコーヒーを持ってテーブルに付いて、一緒朝ごはんを食べ始めた。


「トウコ、今日は何処か行くの?」

 少しおしゃれをしているトウコを見て、タケルが聞いた。

「うん、友達と新学期に必要な物を買い物に行こうかって約束してるんだけど、どうしたものかって悩んでる。」

「ダメって言ってるでしょ。昨日も危ないからってパパに言われたじゃない?」

 ユミは当たり前の事だが、かなり心配そうだ。

「じゃあ、俺も一緒に行くよ。」

「えーっ!、なんか恥ずかしいよ。エイミになんか勘違いされたら嫌だもん。」

 タケルの申し出に、トウコは難色を示した。

「何を勘違いされるのさ?じゃあ、トオルとジュンも誘ってみんなで行こう。トウコが危ない目に遭ったら困るだろ?」

 2人の話を聞いてユミは慌てる。

「危ないのはタケルも同じでしょ!トウコ、エイミちゃんとは何時に約束してるの?パパに聞いてみるから。」


 ソウタは、昨日のうちに家族の警備体制を整えていたようで、警備会社のアドレスとパスワードを教えてくれた。

「外に出ないわけにいかないからね、所定のアプリを入れておいて。それで町中の監視カメラで追いかけて、何かあったらすぐ駆けつけてくれる。でも、トウコはタケルとなるべく一緒にいた方がいいね。まとまっている方が警備しやすい。それからトオル君にもアプリとパスワードを教えてあげて。彼もやっぱり警備の対象だから。必要に応じて他の友達にも警備をつけていくといい。誰が被害になるか分かったもんじゃないからね」

 ソウタがそう言っても、ユミはやはり心配そうだ。なるべく早く帰ることと、絶対にトウコとタケルが離れないことを条件に、2人の外出を許可した。


 トオルとジュンが、途中の乗り換え駅で合流した。

「トウコちゃん、すごい清楚な感じで可愛い。」

 トウコと初対面のジュンが、興奮していた。

 確かに、今日のトウコは白地に紺色の小花模様のシャツワンピースが、背中の真ん中まで伸びた真っ直ぐの黒い髪と良く似合っていて、いつもより上品な雰囲気だ。

「これで、すごく気が強いんだぜ。まぁ、そこが頼りになるんだけど・・・。」

 よく分からない反応をするタケルに少し呆れつつ、トウコがニッコリとジュンに応える。

「今日は、急に呼び出してごめんね。買い物に付き合ってくれてありがとう。」

「じゃあ、行こうか」

 興奮するジュンと、なぜか狼狽しているタケルを尻目にトオルは冷静に一行を促した。


「昨日あんなこと言ったばかりなのに、いきなり今日誘ってごめん。」

 昨日、ジュンの安全のためにしばらく距離をとった方が良いのではないかと言ったのにと、タケルがバツが悪そうに言った。

「誘ってくれて嬉しいよ。それに敵が誰か知らないけど、俺の事もう分かってるなら離れてても無意味だしね。」

 ジュンは、笑いながらそう答えてくれた。本当に肝の座った良いやつだと、タケルは感動すら覚える。

 

 東西線に乗り換えて西7駅で降りて目的のショッピングモールに着いた。 

 駅から一番近い入り口に、トウコの友達が待っていた。

「エイミ、遅くなってごめんね。それとこの人達は前に言ってたタケルと、タケルの友達。ちょっと訳あって、一緒に居なくちゃいけないの。」

 トウコは、手短にタケル達を紹介した。

 トウコの友達は最初、状況が分からず目を丸くしていたが、やがてニッコリと笑い自己紹介をした。

「私、トウコと同じクラスの浅井エイミ。タケル君のことはトウコから聞いてたけど、えっと・・・後の2人は?」

 エイミは、茶色がかった少しクセのあるセミロングの髪を後ろで緩くまとめていた。白いTシャツに、淡いピンク色のゆったりとしたカーディガンを羽織り、白いマキシスカートを履いている。

 少し垂れ目気味の大きな目と服装も相まって、フワフワとした柔らかいイメージの優しそうな子だなと、タケルは思った。

 タケルは普段人見知りをする事はないが、今日はジュンがトウコのことを可愛いと褒めてから、いつもの調子が出ず、エイミに対してもなぜかオタオタしてしまう。

 そんなタケルの様子を知ってか知らずか、ジュンが楽しそうに自己紹介をする。 

「今日は、いきなり参加してごめんね。俺はジュン、そんで、横にいる無口な奴がトオル。タケルとは学校の友達でいつも一緒に遊んでるんだ。トオルは無口だけど、優しい良い奴だよ。喋んなくても怒っている訳じゃ無いから心配しないでね。」

「お前、ほんとに物怖じしないな。初対面でも平気なんだから。」

 タケルが少し呆れる。

「だって、トウコちゃんが美人で興奮してたら、その友達のエイミちゃんもすんごい可愛いんだもん、こんな可愛い子、いきなり2人も知り合いになれたら、誰だって興奮するだろ?なあ、トオル。」

「よく分からない。」

 コメディードラマのようなやり取りに、女子2人が笑い出した。

「ほんと、君たちが仲が良いのがすごくよく分かる。学校でもいつもそんな感じなの?」

 トウコが楽しそうだ。その横で、エイミもすっかり打ち解けたようでリラックスして笑っている。


 平日にも関わらず、店内は混雑していた。

 ここはタケルが新京市に来た時、身の回りの物を揃えに来た場所だ。

 3階まで吹き抜けになった大きな通路と、ところどころに広場がある開放感のある作りとなっていている。広場は小さな公園の様になっていてベンチがあり、イベントも色々企画されている。飲食店や娯楽施設も充実していて、市民の憩いの場として人気がある。

 初めてここに来た時は、あまりにも大きい店内に目を白黒させてたタケルだったが、今では頻繁に訪れている。学校からバスで直通しているので学校帰りにフードコートで友達とおしゃべりしたりすることも多い。

 トウコ達は、学校に着ていく服やハンカチなどを物色して行く。


 男3人はいつもデニムにTシャツやパーカーなどの変わらない服装で、ファッションにはまるで興味が無い。いつもネットで適当な物を買うばかりで、衣料品のエリアに殆ど来ることも無い。ましてや、トウコやエイミが好きそうな可愛いものが溢れている様な所は、なんだか気恥ずかしくて居心地が悪い。女子2人はそんなタケルたちを全く気にすることなく、キャッキャと楽しそうに見て歩いていた。


「君たちはみんな洋服とか興味ないの?」

 トウコは、不思議そうに聞いてくる。

「そりゃ、オシャレが好きな友達も知るけど、俺たち3人はセンスに自信がないよ。シンプルで無難なのが一番。」

「僕は、機能性が一番。」

 トオルがボソリと呟く。

「お前らしいよ。まあ、俺も同じ様なもんだけど。コーディネートって言われてもよく分からない。下手にキメようとすると、とんでも無いことになる自信があるもん。カッコ良く着こなしてるヤツが羨ましいけどね。おかげで全然モテない。」

 ジュンが自虐的に笑った。

「えーっ。ジュン君とか絶対カッコ良くなるのに。今度一緒に買いに行こうか?私がコーディネートしてあげるよ。」

 エイミがニコニコ笑いながらそう言った。第一印象と違って、なかなか積極的な娘なのかもしれない。ジュンが顔を真っ赤にして照れてる。

「ジュン君、エイミってすごくセンスが良いのよ。」

 トウコは、ニヤリと笑いそう言った。

「そ、そうか。じゃあ、今度頼もうかな。」

 そう言いながらも、ジュンはますます赤くなる。意外にウブなのかもしれない。


 店内を物色していた女子2人の後ろを、大人しく着いていく男子3人だが、下着を買いたいと言われた時は困った。流石に恥ずかしくて、一緒に店に入る事は出来ない。

 幸い、1階にあるその店は比較的小さくて人の出入りはよく分かる。タケル達は、店の入り口が見える少し離れたベンチで、2人の買い物が終わるのを待つことにした。


 店の前にも、ヒラヒラとフリルの付いた下着がディスプレイされている。

 タケルとジュンはやはり恥ずかしいのか、必要以上に話に夢中になっているフリをした。

「あの子達、なんか変。」

 トオルの冷静ないつもの声で、タケルはハッと自分たちの使命を思い出す。

「えっ?なに?」

「今、出て行った女の子達。2人いたんだけど、この店ではちょっと年齢が若すぎる様な気がして。気のせいかな?女の子達が下着をどう買うのかよく分からないから、自信ないけど。」

「こっちも、そんなこと知ってるって言われたら反応に困る。」

 タケルは、眉毛を下げながら笑う。

「親だとかお姉さんに頼まれたとか。誕生日プレゼントとかさ。」

「子供が身内にランジェリーなんてプレゼントする?」

 ジュンの推察に、トオルが疑問を呈する。

 男3人が、不毛な議論をしている所に、顔を引き攣らせながらトウコ達が戻って来た。


「どうしたの?何かあった?」

 そう言いながらタケルがトウコに駆け寄った。

 トウコは黙ったままで、トートバックをタケルの目の前に差し出す。ネイビーの帆布でできた少し大きめのそのバックは、いっぱい買いたい物があるからとトウコが持って来たものだった。

 バックには幅広のデープが貼られ、そこには赤い字で「シネ」と大きく書かれていた。


 


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