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タケルとトオル  作者: みゆき
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林田家

 ソウタが、林田家について聞いてきた。


 タケルの覚えている林田ユウジは、社交的で村の人の信頼は厚かった。ユウジは、野菜工場など職場を整え、学校や診療(これはサエコの力が大きいが)などの福祉を充実させて、村の発展に尽力した人物である。そして、この時代では珍しく大幅に村の人口を増やすことに成功している。

 村の人達が頻繁に林田家を訪れ、ユウジと村の未来について熱く議論を交わしていたと、ミドリがよく言っていた。

 だから、そのままソウタに伝えた。

 トオルも、タケルに同調した。

「僕も、ユウジおじさんのことは尊敬しています。情熱に見合う実力を持っていた。それでいて何処か人懐っこい人で、自然と人が集まってくるような素敵な人ですよ。

 村の人達が、ユウジおじさんとサーちゃんは村の恩人だといつも言っていた。本当にみんなに愛されていました。ミドリも父親の事を本当に誇りに思っていて、自慢のパパだといつも言ってましたよ。いつも仲が良い理想の家族だと思ってました。

 ただ、たまに意味ありげにサーちゃんを見てくることがあったので、何も知らないと言うことではないとサーちゃんは言ってました。」

 最後の言葉に、タケルは驚いた。

「えっ、それいつ聞いたの?ユウジおじさん、サーちゃんを何か疑っていたの?」

「この間電話で話したよ。お前サーちゃんにあんまり連絡とってないから知らないんだろ。」

 トオルに言われて、タケルは少しバツが悪い。電話したいと思うのだけど、何を話したら良いか分からなくなり、なかなかタイミングが掴めない。

 いざ、電話をしてみると嬉しくて仕方ないのに、電話するまでがすごく時間がかかる。コミュニケーション能力は誰よりも高いと思うのだが、なぜか電話だとかメールなど、直接顔を合わせないのは、すごく苦手意識がある。


 頭をかくタケルを尻目に、トオルは続けた。

「ミドリも、タケルと同じで感情がすぐ顔に出る。だから、子供の頃は誰も変だとは思いませんでした。

 確かに僕達の成績を考えると何かがおかしいって分かるんだけど、担任の先生も変に騒ぐことは無かった。まあ、子供の成績も個人情報になるから部外者に詳しく言う事は憚られるし、結構頭が良いとしか知られてなかった。村の人たちも僕たちが頭が良いのは、都会の人の教育は違うんだみたいな認識だったと思います。」

「でも、フミカはそれで悩んでたよね。元々努力家だったけど、あんまり夜遅くまで勉強してるから体を壊さないかって、おばさん心配してた。」

 タケルの意見に、トオルは何処か申し訳なさそうな顔をした。

「フミカは必死だったんだと思う。フミカの成績は全国平均を大きく上まっていたものの、周りにいたのは僕達なんだもの。狭いコミュニティの中で疎外感と劣等感に苛まれてたと思う。

 自分だけなんでこんなに頭が悪いのかなって、独り言を言ってたのを聞いたことがある。辛かっただろうね。今だから分かるけど、子供の頃は深く考えなかった。」

「それなのに、いつもニコニコしてて、俺も何にも分かってなかった。」

 フミカの話をすると、今でも胸が締め付けられる。

 知らず知らずにどれだけフミカを傷つけていたのだろうと、居た堪れないような気持ちになる。

「ミドリも、フミカの事故の後なんだか変わってしまったもの。すっかりおとなしくなって、あんまり外で遊ばなくなった。」


 タケルは、村を出てからのミドリが何処かおかしいと、トオルが言っていたのを思い出した。

「そういや、最近ミドリからの連絡は来てるの?やっぱり俺は嫌われてるのかな?思い当たることがないけど、俺・・・やっぱり鈍感だから知らないうちに何か怒らせていることは考えられる。」

 どういう訳か、タケルはミドリにひどく嫌われている。ほとんど憎まれていると言っってもいいかも知れない。

 タケルにはミドリに嫌われる原因がまるで思いつかないが、「タケルを許さない」とメールがトオルの元に来るらしい。

「たまに来るよ。・・・ちょっと言いにくいけどタケルの悪口ばかりだ。」

 トオルはそう言いながら、タケルにミドリのメールをいくつか見せた。

 メールは、新岡山で暇だとか日頃の愚痴とタケルへの罵詈雑言が書かれていた。その悪口の中で、「私たちは完全だけど、タケルは中途半端だ。」と何度も書いてあった。

「これって・・・、ミドリとトオルが完全に人工ゲノムだってことだよね・・・。ミドリはそれに優越感があるみたいだけど、誰の影響なんだ?ユウジおじさんがそんなことするってイメージが湧かないし、優越感がある割には、ミドリは楽しそうに見えないんだけど・・・。だいたい、ユウジおじさんは、どこまで研究に関与してるんだろ?」」

 タケルは戸惑う。

「それは、解らない。最近、ミドリはあまり村にも帰ってないみたいだね。ユウジおじさんは本気で心配しているみたいだって、サーちゃんが教えてくれた。村に帰ってきても、なんだか無表情で誰とも会おうとしないんだって。

 ミドリを心配している様子を見ていると、おじさん達は研究の事を知らない可能性もある。別の理由で、サーちゃんを監視しているのかも知れないし。

 ミドリに関しては、誰か接触して何かを吹き込んだんだろうね・・・多分新岡山に行って間もない頃に・・・。」


「俺は林田氏に会ったことも無いから、林田氏については違和感しか感じないんだけどね。でも同じように違和感を持っている北村先生ですら、林田氏について悪く言う事は無いということは、相当な人格者ってことだよね。

 ところでミドリ君の母親はどんな人なの?今まで話にも出てこないけど・・・。」

 今まで黙って2人の話を聞いていたソウタが何気なく聞いてきた。

 ソウタの質問に、タケルは不意を突かれた。今までミドリの母親のキミコに対して存在を意識したことも無かった。

 隣にいるトオルも同じなのか、珍しくキョトンとした顔をしている。

「キミコおばさんは、あんまり外に出てる印象は無いよね。」

 タケルはトオルに同意を求める。

「人見知りが激しい人みたいだからね。」

 トオルも、やっぱりキミコの印象は薄いようだ。


「ちょっと待って・・・。ミドリ君の母親はキミコっていう名前かい?」

 なぜか、ワタルがキミコの名前に反応してきた。

 タケルは少し驚きつつも、そうだと答える。

「何だろ、どこかでその名前を聞いた気がする・・・。」

 ワタルはそう言って、右手の人差し指でこめかみの辺りをトントンと叩いた。考え事をするときの癖だそうだ。

「うーん、ダメだ思い出せない。いつ聞いだんだろう?あー、なんか気持ちが悪い。」

 ワタルはもどかしそうに言った。

「珍しいわね。そんな兄さん初めて見るかも。絶対何でも覚えてると思ってた。ずっと前に聞いたから思い出せないんじゃない?」

 トウコがそう言った。

「キミコおばさんか・・・。何で今まで気にならなかったんだろう。」

「ユウジおじさんじゃなくて、キミコおばさんが研究に関わっているってこと?」

 タケルは、何だかゾワゾワと背筋が寒くなるのを感じた。キミコが途轍も無い秘密を抱えていたのだと思うと、異常に人付き合いを避けるのも合点がいく。

 ミドリからも、父親とのエピソードはよく聞くが母親のものは殆ど無かったように思う。キミコの存在感の無さは、今考えるとやはり何処かおかしい。


「ミドリの他にも、完全体だと思われる子供がいるんです。」

 トオルが、唐突に話題を変えたのでタケルはびっくりしてトオルを見た。

 みんなも、一瞬ポカンとした顔でトオルを見る。かなり驚いているようだった。

「えっ?それってもしかして、前に一度学校にきたあの子?」

「なんだ、タケル、誰にあったんだ?」

 心なしか、ソウタが狼狽えたようにタケルに問いただす。

「うん、いつだったかな学校のランチの時に話しかけられた。藤原さんの秘書の息子だって言ってた。塩尻ってちょっと嫌味なヤツの・・・。」

 塩尻の名前を聞いて、ソウタが嫌悪感を感じたのか顔を大きくしかめた。

「塩尻君・・・、彼は結婚しているという話は聞かないけど、その子はどれぐらいの年齢なんだい?」

「来年、応用学校に進むって言ってたから、多分15歳になるかならないかだと思う。

 一見、人当たりは良さそうだったけど、何だか変に大人びていて違和感があった。ジュンは普通に接してたけど、俺はなんかすごく嫌な感じがしてあんまり話したくはなかったね。

 トオルにすごく関心があるように見えたのは、やっぱりそういう事なんだ。俺、塩尻って名前だけでそう見えるのかとも思ってたんだけど、やっぱりあの変な感じは完全体だからって事なのかぁ・・・。

 塩尻タカオって名乗ってた。別に礼儀正しいし、一見良い子そうなんだけど・・・なんて説明していいのか分からないな。とにかく違和感がある子だった。」

 タケルは、昼休みに突然来たタカオと名乗る少年を思い出していた。妙に大人びた話し方がどうにも嫌らしく見えて、友達になれないと直感的に感じてしまった。

「彼はきっと全て知っていると思うよ。僕を訪ねて来たけど留守だったって話してたよね。実はその時、彼と塩尻さんが家から出てくる所を見てたんだ。挨拶するのが面倒で、10メートルほど離れたところで横道に隠れたんだけど、彼は真っ直ぐこちらを見つめて来た。まるで睨まれてるようで少し怖かった。塩尻さんとあの子が何をしたいのかは分からないけど、きっと碌なもんじゃないと思う。

 深山先生、僕は藤原代議士を疑っていました。全ての黒幕は彼じゃないかって。」

「そりゃあ、塩尻君は藤原さんの秘書だし、一番疑わしいのは当然じゃないか?北村先生があんなに藤原さんを毛嫌いするのも、彼を疑っているのだと思うし、俺も怪しんでいた時期がある。

 ただ・・・そうだね、黒幕になるには・・・こう言っては何だけど、藤原さんはなんか単純すぎるんだよね。良くも悪くも隠し事ができない。あれが演技なら大したもんだけど、多分違うだろうね。」

「俺、結構藤原さん好きだぜ?口は悪いけど、面白いおじいちゃんって感じで。」

 確かに藤原氏は疑わしい立場にいるが、裏で画策するには性格が明るすぎるように感じる。

 タケルは、藤原と会った日のことを思い浮かべていた。あの時、藤原を見る塩尻の軽蔑したような表情を思い出して、藤原は多分塩尻に利用されているのだと思う。

「塩尻さん、藤原さんを尊敬して秘書をしてるって感じには見えなかった。」

 タケルが言うと、「僕もそう感じた。」とトオルが同意した。

「そうだね。藤原代議士という人は、君達も会ったことがあるらしいから分かると思うけど、よく言えば純粋で本気でみんなが幸せな良い国にしたいと思っている。だから、失言なんかで叩かれることも多いけど、国民には人気がある。

 きっと博士の研究が、本当にこの国と人類の幸せに役に立つ、そのために自分が汚れ仕事をしても構わないとと、大真面目に考えていたんだろうね。そういう人だよ。

 俺は少し苦手だけど、今はそんなに嫌いじゃない。でもデリカシーに欠けるところがあって、北村先生なんかは、本当に合わないらしいね。

 まあ、ワタルに研究のことを話したときは、殺してやろうかと思ったけどね。」

「あの時は大変だった。俺は前々からなんとなく気付いていて結構冷静だったんだけど、父さんと北村先生が怒り狂ってた。俺の方が父さんを宥めるのに、これって逆じゃ無い?って思ってた。」

 ワタルは、当時を思い出しながら笑った。ソウタも苦笑いをする。聞く限り、結構な修羅場だったんじゃ無いかと思えるが、それを笑い話にできるのは親子の信頼関係が深いのだろう。

 ソウタは、話を戻す。

「藤原さんが悪い人じゃないのはわかるけど、人の言う事を間に受けて突っ走ることがある。藤原さん自身、影響力が大きいから、そこを利用する人が出てくると本当に厄介だと思うよ。」

 ソウタも、タケル達と同じ様なことを考えている様だった。


「ところで、なぜトオル君はタケルと藤原さんを合わそうと思ったんだい?」

 ソウタがトオルに聞いてきた。

 藤原と会った話をした時、ソウタは少し怪訝な顔をしていた。もしかしたらあまり会わせたくないと思っていたのかも知れない。

「タケルが、誰とでもすぐ打ち解けて相手の本音を引き出すからです。」

 トオルは、しれっとした顔でそう答えた。

「僕は、藤原氏が一番の黒幕だと最初思ってたんです。でも皆さんがおっしゃる通り、良くも悪くも嘘の付けないあの性格で、陰謀めいたことを画策するには違和感がある。塩尻氏の態度も気になるので、タケルに一度会ってもらおうと思いました。

 まさか、あんなに意気投合するとは思いませんでしたが、僕も藤原氏に対して印象が変わりました。嘘の付けない気の良いおじいちゃんなわけで、意外にもご自身の無能さ加減を自覚していました。」

 トオルのあまりな物言いに、タケルは思わず笑ってしまった。ソウタも苦笑いしている。

「確かに、深く物事を考える事が出来なさそうだけど。まあ、デリカシーが無いと北村先生が毛嫌いするのは、そこら辺が大きいね。

 それで、自分が無能なのを自覚しているから、塩尻君を信用してしまったと?」

「俺は、塩尻って奴がすごく失礼なやつに思えるよ。息子もなんか怪しいし・・・でも、トオルは塩尻は小物で、まだ他に誰かいるんじゃないかって言ってたよね。」

 タケルの言葉を受けて、トオルは今考えている事を言葉を選びつつ話だした。

「うん、塩尻さんは自分が黒幕だと思っているんだろうけど・・・何だろう、立場だとか能力とかそう言う意味でも無いんだけど、中心で糸を引くにはどうも小物感を拭えないと言うか・・・。

 塩尻さんは、人工ゲノムで何をしたいのかは何となく予想できます。多分、藤原氏を利用して新しい分野での権力を持ちたいのかな?もしかしたらこの国だけじゃなく世界さえ動かせる力が欲しいとさえ思っていそうですね。何にせよ、つまらない承認欲求を実現したいのかなって思えます。

 僕は、塩尻さんより息子のタカオ君が怖いと思うし、タカオ君とミドリの変化も無関係じゃ無いと思います。誰がユウジおじさんを津山17村に赴任させようとしたのか、多分その人が核心に近い人物に思えます。深山先生、調べることは可能ですか?」

 ソウタは驚いたようにトオルを見て言った。

「時間は掛かるだろうけど、調べられると思う。でも、なんだ?何が起ころうとしているんだ?気持ちが悪いね。

 俺も塩尻さんの事は少し怪しいと思っていた。だから、篠山君に頼んで秘密裏に調べてもらってはいたんだけど・・・。」

「篠山さん?ここに来た時に迎えに来てくれた深山先生の秘書の方ですね。僕はあれ以来会っていないんですけど・・・。」

 トオルは、篠山の名前に反応した。

 タケルは、家に来る篠山をたまに見かけるが、要件を済ましてサッサと帰る印象だ。何だかいつも忙しそうにしている。

「俺も、ほとんど挨拶ぐらいしか話してないね。なんか慌ただしい人だねっていつも思ってる。」


 篠山の話をしている時、急にワタルが叫んだ。

「思い出した。子供の頃に篠山さんが電話で『キミコ、そんなに心配しなくて良いよ』って言ってたのを偶然効いてしまったんだ。」

 



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