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タケルとトオル  作者: みゆき
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秘密の開示3

 みんな、ソウタの話を黙って聞いていた。

 タケルも驚きはあったが、冷静に事実を受け止めていた。


「サーちゃんは別れ際に、自分を恨むことになると言っていた。サーちゃん達の実験で俺達は産まれたんだ・・・。サーちゃんはどんな気持ちで俺達を育てたんだろう?辛くは無かったのかな。」

 独り言のように呟くタケルに、トオルが優しい声で答えた。

「サーちゃんは、あの村で幸せそうだったよ。あの村でよかったんだ。僕達もサーちゃんも17村の人達に、支えられてたんだね。僕も、あの村で幸せだったし、毎日が楽しかった。」

「それは俺もそう思う。あの村の人達は本当に可愛がってくれた。俺達はサーちゃんと村の人みんなに大切に育てられたんだ。」


 ユミが泣きそうな、それでいてホッとしたような、なんとも言えない複雑な表情でタケルを見つめている。

「タケル・・・ごめんなさい。あなたを産んであげられなかった。育てることも出来なかった。あなたに愛情が無いわけじゃない・・・でも罪悪感もあって、素直にあなたのことを受け止めることが出来なかった。私は、あなたと、どういう風に接すればいいのか判らなかったのよ。」

 ユミは、消え入りそうな声でタケルに謝ってきた。

「ユミさんは、よく判らない思惑に振り回されたんだ。俺に謝ることはしてない。さっきも言ったけど、俺は村で本当に幸せだったんだ。それにユミさんは俺に戸惑って見えたけど、愛情はいつも感じていたよ。遺伝上の母親っていうのはピンとこないけど、ユミさんのことは大好きだよ。俺を引き受けてくれて深山家の人には心から感謝しているのは本当だ。」

 ユミが目に涙を浮かべて、うんうんと頷く。タケルは訳もなく照れ臭かった。

「それにしても、やっぱり轟の野郎は許せないよな!!いろんな人の人生を振り回して、ひどい奴だ!!」

 タケルは、照れ隠しで轟に憤慨する。

「確かに、酷いかも知れないね。自分の研究に取り憑かれて、周りの人の気持ちが見えていない。誰かを不幸にしたい訳じゃないのだろうけど。」

 トオルは、少し悲しそうな顔をする。言葉は批判しているが、それは怒りではなくて轟に対しての憐憫のような気持ちが見てとれた。

「トオルは、なんでそんなに冷静でいられるんだよ!みんな、轟のせいでこうなってるんだぜ。許せないよ!」

 タケルは、声を荒げる。

 トオルが一番の被害者と言ってもいいのに、なぜそんなに冷静でいられるのか、しかも轟に対して同情しているような素振りを見せることが、タケルには理解できない。

「北村先生は、自分が博士の人生を狂わせてしまったと、言っていた。俺も決して博士を許すことはできないけど、悲しい男だとも思うよ。」

 ソウタは、トオルの気持ちが少し理解できるようだ。タケルはモヤモヤする。

「俺には理解できない。確かに研究が無ければ俺たちは産まれて来なかった。でも許せるもんじゃない。」

 タケルは、複雑な感情だった。

「それは当たり前の感情だよ。でも今は、出来てしまったこの技術をどうコントロールして行くのかを、考える方が大事なんだと僕は思う。博士を糾弾しても、出来てしまった技術は無かったことには出来ない。」

「前もそんなこと言ってたな・・・。ごめん、俺・・・やっぱり混乱してる。」

 そういうタケルに、トオルは優しく微笑む。

「博士のした事は、許せるもんじゃない。でも研究の結果、僕らがここにいる事もまた事実だし・・・、確かに複雑な気分だね。それはここにいるみんな同じだと思う。それでも僕は実際一緒に生活しているわけで、博士は僕を只の実験体だと思っている訳でもなさそうだし、それなりにお互いのことを尊重しているように感じるから、そんなに博士を悪くは思えないんだ。」

 

 ソウタが、意外そうな顔をしてトオルに聞いてきた。

「俺は、轟博士から感情らしいものを感じたことはないんだけど、やっぱり一緒に住んでいるとそういう事もわかってくるもんなのかな?」

「それはそうです。1年以上一緒に住んでいると、お互い判るもんだと思いますよ」

 タケルはそれを聞いていて、トオルが子供の頃から人の気持ちに敏感に反応していたことを思い出した。

「トオルは、子供の時から人の事がよく見えているんだ。どんな風に考えているかって。トオルの気持ちはなぜか子供にしか伝わら無いのに・・・。

 あれ?でも変だよね。なんで大人たちは、トオルが無表情に見えたんだろう?それでトオルが嫌な思いをしていた訳でもなさそうだけど・・・、そういえばジュンも最初の頃、村の大人たちみたいなこと言ってたな。・・・、これも、俺たちの出生に関係あるのかな?それならなんでミドリとフミカは、トオルが何考えているか判るんだ?」

「フミカは、僕の表情を読み取る事は出来なかったよ。それがフミカの一番のコンプレックスだった。フミカはそれで僕に苦手意識があったんだと思う。疎外感も感じていたんじゃないかな。僕に対して、なんだか罪悪感みたいなものを持ってたみたいで、フミカは辛かったんだろうね。」

「嘘だ!だってフミカはいつも・・・。」

 タケルは驚いた。しかし、実際フミカがトオルに対してどう反応していたか思い出せなくて、言い淀む。

「フミカのコンプレックスはミドリも感じてた。お前は、気付いて無かった・・・その大らかさがフミカの救いであって、悩みだったんだね、きっと。」

「俺が鈍感なのは自覚はあるけど・・・。フミカは、自分だけ違うって思ってたわけ?なんで言ってくれなかったんだよ。」

 もしかしたら、フミカを傷つけていた事もあったのかと今更ながらに焦り、タケルはなんだか情け無い気持ちになる。


「ミドリと言うのは、確か村の出張所の所長の娘さんだね。その子はタケルと同じようにトオルくんの感情を、普通に読み取れていたってことかい?」

 ソウタが、少し怪訝そうな顔をして聞いてきた。

「はい、ミドリはタケルと同じように僕の表情が読み取れた。そして基礎学習も、僕たちと同じペースで進んでいました。」

「それって・・・。」

 ソウタが絶句する。

「はい、サーちゃんも間違いないと言ってました。子供の頃はそれが当たり前で、気が付かなかった。でもどう考えたって異常だった。4人しかいない学年で、そのうち3人までが基礎学習を全て終わらせるなんて。だから、ミドリもやはりそう考える方が自然だと思います。」

「おい!なんだよ!ミドリも研究で産まれてきたって言うのか?そんな筈はない!!だって・・・。」

 タケルはひどく狼狽する、トオルが下手な冗談を言っているようなしか思えなかった。


「トオルくんの表情が判るって、そんなに大変なことなの?クールな感じはするけど、そんなに不自然な表情じゃないと思うけど。」

 トウコが不思議そうに聞いてくる。

「確かに、先生から以前聞いていたイメージより表情は豊かに見えるな。ワタル、お前にはまた違っているように見えるのか?」

 ソウタも、トオルの印象が聞いていたのとは違うように感じていたらしい。そこでタケルと同じ遺伝子を持つワタルに聞いてみたのだろう。

「俺には、表情を選んでいるように見える。タケル以外で研究で産まれた子、それも完全体に会ったのは初めてだけど、変な感覚だね。多分トオル君は、父さんたちが思っているよりずっと感情が豊かだと思うよ。」

 ワタルは、トオルの表情が他の人とは違う見え方がすると、言った。新京市に来てから、トオルの感受性に気が付いたのは、ワタルが初めてだ。

「理由は解りません。多分サーちゃんや博士も気付いていなかったけど、研究で産まれた子供たちは、お互いの気持ちが細かいところまでわかるんだと思います。テレパシーというのとは違うけど、お互いの表に出てこない表情まで手に取るようにわかる。タケルみたいに、思っていることが顔に出やすい人は普通の人とあまり変わらないけど、僕のように表情が出てこないタイプでは、見え方が変わって来るんだと思います。」

 トオルは淡々と説明するが、タケルには俄かには信じられない。でも他の人と自分とのトオルに対する反応を思い出すと辻褄が合うような気がしてきた。

「わざと、気持ちを分からないようにしたって事はないの?轟ならやりそうじゃない?」

 タケルは、この気持ち悪い現実は全て轟のせいだと思いたかった。轟が何処かの組織と結託して悪巧みをしていると、その方がよっぽどスッキリすると本気で思いトオルに聞いた。

 そんなタケルにトオルは少し苦笑いをして答える。

「お前は本当に博士が嫌いなんだね。博士はゲノムの中身は専門じゃないから、最初からそんなこと出来ないよ。ハード面での参加だったからね。今はそれなりにゲノムのことも理解を深めていると思うけどね。この現象のことも知らないんじゃないかな。・・・いや、薄々勘付いているのか?。確信はしてないだろうけど。」

「ごめん、俺は誰かのせいにして楽になりたいのかも知れない。そりゃそうだよな。俺も、今日初めてトオルの表情が他の人と見え方が違うって知ったし・・・やっぱり俺、すごく鈍感なのかもしれないなぁ・・・。」

 落ち込むタケルを見て、トオルは吹き出した。

「僕は、タケルらしくっていいと思うけどね。それで傷つく人がいるかもしれないけど、お前はそれが分かるとちゃんと認めて反省できるし。お前は確かに鈍感だけど、自分の非にちゃんと向き合えるからいいんだよ。」

 トオルの話し方は、あくまでもタケルに優しい。


「林田と言うのは、どんな人物なのかな?」

 ソウタが聞いてきた。

「先生は、林田氏が自分を監視するために赴任してきたのではないかと疑っていたようだね。でも、林田氏の村の運営への情熱は本物で、村民の信頼も厚い。先生も、林田氏の態度に引っかかる時もあるけど、村に対する姿勢は尊敬に値するものだと言っていた。彼らはどこまで知っているんだろう?」


 話は、林田家のことに移っていく。

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