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タケルとトオル  作者: みゆき
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トオルの夏休み

 夏休みが始まっても、トオルの日常はあまり変わらない。

 朝から学校の図書館に行って、ほとんどの時間をそこで過ごしていた。


 都会の夏は、村にいた時よりも暑く感じた。

 気温や湿度は新京市のほうが低いようなのだが、見える景色がそう感じさせるのだろう。

 並木道や公園と植物は多く見られたが、人工的に整備されている木々や花々に、トオルは違和感を拭えなかった。

 タケルも同じように感じているようだけど、そんなものだと気にしていないように見えた。

 トオルは、タケルの順応力に感心する。友達も多くいつも誰かと楽しそうに話している。


 トオルは、人が持つネガティブな感情に流されやすく、人付き合いは苦手である。田舎で暮らしていた時よりも、人見知りがひどくなったようだ。

 

 そんなトオルを心配して、タケルがなるべく一緒にいてくれようとする。

 不思議なことにタケルが一緒にいると、人と会う事にストレスを感じることはない。タケルはそれを知っていて、トオルが孤立しないように気を配ってくれているのだ。

 夏休みに入っても頻繁に連絡が来て、ジュンと三人で会うことも多かった。


 ジュンは、リラックスして付き合える数少ない友達であった。

 ジュンは、人を見る目がなかなか鋭く懐の広い好人物である。トオルの本質をすぐに理解して受け入れてくれた。

 人に誤解され敬遠される事が多いとトオルは、すぐに打ち解けてきたジュンに少なからず戸惑ったが、タケルも一緒にいたこともあってか、今では信頼できる仲の良い友達となった。

 ジュンは外の世界に興味があるらしい。トオルとは違う方向に好奇心を持つジュンは、とても刺激的に映り、一緒にいることが楽しかった。


 学校では夏休み中でも、グランドや体育館など開放されている施設が多く、事前の予約で誰でも使用できた。お金もかからないので、夏休み中でも学校に集まって遊ぶ生徒は多かった。


 学校の中にあるカフェで今日も三人で集まり、いろいろくだらない話をして盛り上がった。

 トオルはもっぱら2人の話を聞いているだけだったが、それでもやっぱり楽しかった。

 

 いつの間にか、話は専門課程を決める話になっていった。

「ジュンはもう専門を絞っているの?」

 トオルがジュンに聞いた。ジュンがどの方向に向かっているのか興味がある。

「うーん、まだ少し漠然としてるな。俺はお前らと違ってやっと専門の体験をいくつか受け終わったところだからね。でも、北海道みたいな特区に興味があるかな?」

「北海道?なんでまたそんなところに?」

 タケルが驚いたように聞き返す。


 フレア後、日本では人口の激減に伴う行政サービスの効率化と、他国からの防衛、エネルギーの確保の問題などの観点から、北海道、九州、日本海側と太平洋側の一部、その他離島などは特区とされて、一般人の立ち入りは厳しく制限されている。

 特区では、軍事施設の他、重工業や再生エネルギーによる発電所などが集められていて、隔離されているために分かりにくいが、この国の根幹を支える重要な場所である。


「フレアが起こってからこの国は鎖国してるだろ?他国の混乱から守るためって習ったけど、いつまでする必要があるのかなって。鎖国に否定的な国も多いって聞くし、いつかは開国する必要があるだろ?別に北海道に限らないけど特区へ行けば何か分かることもあるのかなって思うんだ。まあ、ただ外の世界に興味があるってのが一番かな。」

「すごいな、この国の未来を考えているのか?」

 タケルが感動したようで、目をキラキラさせている。トオルもジュンの壮大な夢にワクワクさせられる。

「国の未来っていうと大袈裟だけど・・・、お前らもなんとなく感じることはあるだろ?」

「そうだね。なんとなく閉じ込められている窮屈さとか感じることもあるよね。確かに僕らを守るためなんだろうけどさ。」

 トオルたちの世代では、この閉塞感を感じない者はいないだろう。

「それにしてもさ、ジュンって行動力があるから将来すごいことを実現しそうだよな。」

「うん、ジュンの壮大な好奇心がこの国の未来を変えるかもね。」

「煽てるなよ。」

 2人に褒められて、ジュンは照れ笑いをした。


 トオルは2人と別れ、まっすぐ家に帰る事にした。

「それにしても暑い。もう夕方になるのに気温が下がった気がしない。」

 トオルは独り言を言いながら、駅からの道を歩く。

 

 家から10メートルぐらいまで来たところで、玄関から出てくる人影が見えた。

「また、来客があったのか。」

 またジロジロ見られるのが億劫で、トオルは横道に隠れる事にした。


 玄関から出てきたのは、藤原の秘書の塩尻だった。

 塩尻は、1人の少年を連れて来たようだ。

 少年からはまるで生気が感じられない。離れた場所でも異様な雰囲気が分かる。

「この子がトオルくんと会うのを楽しみにしてましたけど、留守ならしょうがないですね。また改めて訪問させていただきますよ。」

 微かだが、塩尻が話す言葉が聞き取れた。

 塩尻と少年は、道に止めてあった車に向かう。

 車に乗り込む時、気のせいかも知れないが少年がこちらを睨んできたように見えた。トオルは言いようの無い不安に駆られる。

 何か嫌なものに巻き込まれるような不安、少年に自分達と同じ何かを感じる。だとすると彼も自分と同じで、轟の研究によって生まれてきたのかもしれない。


「ただいま帰りました。」

「やあ、おかえり。」

 玄関にはまだ轟がいた。

「どうしたんですか?こんなところで。」

「ああ、今お客さんが来ていてね。藤原さんの秘書の人だけど、外で出会わなかった?」

「そうなんですか、気が付かなかった。」

 トオルは、来客に気づかなかったふりをした。

 面倒ごとに巻き込まれるにしても、その前に少しでも情報が欲しい。

「ご子息も連れて来てて、なんでも君に会って勉強のこととか聞きたかったみたいだけどね。」

「へぇ、でも僕なんか役に立たないと思いますけどね。」

「謙遜しなくても、君が優秀なのは彼も知っているよ。」

「知識があるだけですよ。」

 トオルは、本当に関わり合いたく無いと思った。

 多分、いずれ会わされる時が来るのだろうけど、なるべく先に伸ばしたいと思っている。

「そうかな。」

 轟は、もう興味なさそうに適当な返事をした。

 とりあえず、トオルはほっとした。


 部屋に入ると、ミドリからメールが届いている事に気が付いた。


「トオル元気?ここは退屈で死にそう。タケルは楽しそうにやってるの?きっとあのお調子者はフミカのことなんて忘れてるのね。私、タケルがフミカを忘れて幸せになるのは絶対許せない。タケルなんて中途半端なくせに。」

 最近のミドリのメールには、タケルへの悪態ばかりが書かれている。


 ミドリが、なぜ今頃になってタケルへの怒りを感じているのか、トオルには理解できていない。

 村にいた頃は、タケルとミドリはとても仲が良かった。フミカが死んだ後でもそれは変わらなかった。

(もしかしたら、タケルへの怒りを隠していただけなのかもしれないが・・・。)


 ふと、ミドリもタケルと同じように、トオルの感情を簡単に読み取れることを思い出した。

 タケルとミドリが、トオルと容易くコミュニケーションをとれることに、フミカがコンプレックス感じて悩んでいたのは知っていた。

(ミドリはなぜ、僕の気持が分かるのだろう?ミドリのコミュニケーション能力が高いからだと思っていたが、そうでは無いとすると・・・。)


「まさか、ミドリもさっきの少年もどこかで繋がっているって事は無いよな。」

 トオルの嫌な予感は、ますます大きくなっていくのであった。

 

 


 

 

 

 


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