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タケルとトオル  作者: みゆき
19/59

家族

 新京市に来て初めての夏休みが近づいてきた。

 夏休みと言っても、教室によってスケジュールが違うので、学校全体で決まった期間というものがある訳ではないし、始業式のような区切りがある訳でもない。

 それでも、生徒達はワクワクするのか、あちらこちらで夏休みの予定が話題に上っている。


「お前ら、夏休みは村に帰るのか?」

 ジュンが、タケル達に聞いてきた。

 

 最近ジュンも加わって、三人で昼食を摂るようになっっていた。

 人付き合いの悪いトオルもジュンには心を許しているらしく、リラックスしているように見える。このままトオルが、誰にも心を許さないままだったらどうしようと、1人で心配していたタケルは、この状況がかなり嬉しかった。


「いや、遠いから大変だし僕はここにいるよ。タケルはどうするの?」

「俺も、今回は帰る予定はないかな。サーちゃんに会いたいけど、やっぱり遠いよな。」

 2人とも帰りたい気持ちはあるものの、やはり津山17村はあまりにも遠い。

「そんなに遠いのか?」

 ジュンが質問してくる。

「遠いよなぁ。たどり着くのに2日かかる。途中の新岡山で一泊しなくちゃいけない。」

「それは大変だなぁ。でも俺、新京市から離れたことないから、鉄道で遠くに行くってなんか憧れるよね。」

「新京市から出たいとか、考える時ってあるの?ここには何でもあるじゃない。」

 新京市に来るときのワクワク感を思い出していた。

 タケルの気持ちを代弁するかのように、トオルが口を開いた。

「僕はここに来るときに、すごく興奮したよ。僕達がいた村は本当に小さくて、交通も不便だから滅多に村の外に行くことはなかったんだ。だから今までいた世界の外に出るような感覚になって、すごく刺激的だった。」

「ああ、それは俺もワクワクしたな。新しいところに行くって不安だけど、やっぱりワクワクするよな。」

 タケルは、トオルも同じような感じていたんだと激しく同意した。

「やっぱり行ったことのない所って、興味深いよな!そりゃここは何でもあるけど、一度は外に出てみたいって思うよ。」

 新京市にいる人たちは、ほとんど外に出ることはない。

 ジュンは、好奇心が強いから新京市以外のところに興味があるのだろう。


「トオルは、夏休みに予定とか立ててんの?」

「うん、学校の図書館が開放されてるって聞いたから、そこに行くかな?」

 トオルの答えに、タケルはため息をつく。

「お前ねぇ、夏休みも毎日勉強ってどうなの。」

「なんか、トオルの頭の良さがわかった気がする。勉強が娯楽なのか?」

 ジュンも、半分呆れたようだ。

「勉強っていうより・・・。うん、本が好きなんだ。僕にとって読書は至福のひと時だよ。」

 トオルは、にっこりと微笑んだ。それはジュンも感じたようで、「本当に、幸せそうに言うなぁ。」と笑った。


「まぁ、それなりに長い夏休みなんだから、ここにいるんなら一緒に遊びに行こうぜ?」

 ジュンが提案してくる。

「いいね、トオルも参加しようぜ。図書館もいいけど外でも遊ばなくっちゃ。」

 タケルがトオルを誘う。

「いいけど・・・タケル、ここで外で遊ぶって難しくないか?村とは違うんだぜ。」

「そうなんだよな。本当に都会は季節感がないくせに、外に出ると馬鹿みたいに暑い。」

 タケルは顔を顰める。

「ここでは、あんまり外で遊ばないよ。だいたい屋内だな。お前、村ではどんな生活してたの?みんな外で遊んでるのか?」

「えっ、そうだねな、校庭でサッカーとかもしたけど、なんか訳もなくずっと走り回ってたような・・・。」

「本当に野生児だな。トオルはどうしてたの?」

「僕は、やっぱり本を読むことが多かったね。」

「でも、サッカーとかすると誰よりも上手いんだぜ、トオルは。」

 タケルが、トオルに変わって自慢する。

「へぇ、意外だ。トオルって運動神経が良いイメージがわかない。」

 ジュンが驚いている。タケルはなんだか自分のことのように気分が良い。

「でも、持久力がまるでないから、一瞬でへたばってしまう。」

 トオルがそう言うと、

「それはイメージ通りだな。」とジュンが大笑いした。


 家に帰ると、トウコが話しかけてきた。

「タケル、夏休みはいつから?村に帰ったりとか考えてるの?」

 ジュンにも同じことを聞かれたけど、そんなに村を恋しがっているように見えるのかなと、タケルは思う。

 確かに、サエコや坂下の爺ちゃんに会いたい気持ちはあるけど、この新しい環境は気に入っている。

 遠いこともあるし、今はまだ帰りたいとは思わなかった。

「そんなにホームシックになってるように見えるのかな?今日、ジュンにも同じこと聞かれた。」

「うーん、そんな風には見えないけど、今まで育ってきたところから遠くに来てるから、やっぱり気になるよ。」

 トウコは、タケルの目を伺うように言った。タケルは別に気分を害した訳ではない。

「ごめん、みんな心配してくれてるんだ。」

 タケルはトウコに笑いかける。

「まあね。私だったら家族と離れると思うと、すごく不安だもの。タケルもそうかなって。」

「確かに、ここにくる前はすごく不安だった。坂下の爺ちゃんって言って、近所にいるお年寄りなんだけど、村を出る前の日まで愚痴を聞いてもらってた。」

「やっぱり、村を離れるのは怖かった?」

「そうだな・・・怖かったのかな?とにかく不安だったよ。でもワクワクもしてた。新しいところに行くのってそう言うもんだって、爺ちゃんも言ってた。」

 タケルは、別れと出会いが人を成長させるのだと言ってくれた爺ちゃんの顔を思い出す。

「なんだか、タケルの話を聞いてると、村の人って本当にいい人ばかりね。」

「それは間違いないさ。俺もトオルも本当にあの村でサーちゃんに育てられたことが幸せなことだと思っているよ。」


「楽しそうだな。」

 ワタルが話に加わってきた。

「ワタルさん、今日は休みだったんだ。」

「まあね。ちょっと息抜きにさ。何話してたの?」


 ワタルは、情報科学で国民の健康を管理するための、厚生労働省直轄の研究所に身を置いている。

 20歳と言う若さでの、異例の登用だったらしい。

 議員をしている父親、ソウタのゴリ押しではないかと批判が少なからず上がったが、いざ入ってみると、ワタルの実力を誰もが認めざるを得なかったらしい。

 ワタルは、頭の良さもさることながら、少し頑固なところがあるものの社交的でチームの中でもムードメーカー的な役割もできるようだった。

 ワタルは、将来父親の手伝いをするためにキャリアアップを目指していると話してくれた。そのためなのか休みの日も、何やら忙しそうに勉強していることが多かった。


「タケルが、ホームシックになってないか心配してるって話をしてたの。」

 トウコが、イタズラっぽく言った。

「遠いから、夏休みに村に帰らないって話だよ。ホームシックにはなってないし。」

 タケルが、ホームシックと言われるのは心外だと言い返す。


 最近、ワタルともかなりフランクに話せるようになってきた。

 同じ顔をしているからと言う訳でもないのだろうが、ワタルとは昔から一緒にいたような親近感があり、何を考えているかわかるような気がする。

(なんだか、トオルといる時のような安心感があるのはなんだろう。)

 たまに感じる、この説明しようのない感覚が不思議だった。


「津山の村は遠いだろうね。でもホームシックになるなら、無理しないで帰省してもいいんじゃないの?」

「だから、ホームシックじゃないって。サーちゃんともまめにメールしてるし、たまに電話もしてるし、寂しくないよ。」

 タケルは唇を尖らせて文句を言った。

「はははっ。ごめんごめん。そうだよな。タケルは結構この街に馴染んでるしな。」

 ワタルは笑い出した。

「まぁ、友達のジュンには野生児って言われてるけどね。」

「確かに、お前は野生児でもあるな。」

「ワタルさん、口が悪いな。」

 タケルの抗議するのがおかしいのか、トウコまで大笑いした。

「タケルったら、ワタル兄さんにイジられっぱなしで、敵わないよね。」

「ホント、絶対勝てない。」

 タケルが眉毛を下げて情けない顔になる。


「まあ、お前が何日か居なくなるだけでも、この家は寂しくなるね。」

「うん、タケルが来てからこの家すごく賑やかだもんね。」

 改めて言われると、すごく照れ臭い。

「それって、俺1人がうるさいってこと?」

「素直じゃないな。」

 タケルの照れ隠しの一言に、ワタルはまた大笑いした。


 タケルはこの家にすっかり馴染むことができたことに感謝している。


 最初少し苦手だったユミとも、最近は普通に話せるようになっってきている。

 ユミはタケルに対して、未だに戸惑うような表情を見せる時があるが、別に嫌われている訳ではないようだ。それどころかすごく愛情を感じる時さえある。

 ユミが見せる複雑な表情の意味は分からない。

 サエコに引き取られた理由とも関係していることは、なんとなく分かるがそれ以上は思いつかない。

 それでも、ユミが自分のことを受け入れようとしてくれるのは感じる。

 今はそれだけで十分だとも思う。


 タケルは、ここの家族の事がとても好きになっていた。


 


 


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