昼休み
新京市に来てから1ヶ月が経ち、タケル達も新生活にも慣れてきた。
学校は、それぞれ応用と専門課程の教室に分かれ、クラスという概念はなかった。
同時に、幾つものクラスを受けることも可能で、トオルは現在3つのクラスを掛け持ちしていて、それももうすぐ終了するらしい。
そろそろ専門を絞る頃だと、教授達に言われていると言っていた。
タケルは、トオルの頭の良さは知っていたが、これほどだとは思わず、少々驚きながらその話を聞いていた。
タケルとトオルはそれぞれ別の教室に通っていたので、学校で顔を合わすのは昼休みぐらいになっていた。
人懐っこいタケルは、多くの友達ができたが、トオルは1人でいることが多かった。
村にいる頃から1人でいることが多く、タケルも最初の頃は気にならなかったが 、ここのところトオルの様子が少しおかしい。何がどうと言う訳ではないが、トオルが極端に人を避けているような気がするのだ。
理由はわからないし、タケルが気にし過ぎているだけかも知れないのだが、タケルは漠然とした不安にかられていた。
「なぁ、タケル。トオルってお前のなんだ?一緒に暮らしていたんだろ?」
入学当初から気が合って、一緒に遊ぶようになった、金谷ジュンが聞いてきた。
「うーん、一緒に引き取られて兄弟のように育ったんだよ。俺にとっては大事な家族だよ。」
「あいつ、全然喋らないけどいつもそうなの?」
「まぁ、無口だよなぁ。でも、みんなが言うみたいに感情がないわけじゃないさ。ただ分かりにくいだけで。」
タケルは、周りのトオルに対しての反応が、村にいた大人達と一緒で戸惑っていた。
同年代の人間には、トオルの表情はわかるもんだと思っていたのだ。
「それにしても、ものすごい天才だな。教授達が噂してるのを聞いたよ。お前も大概だけど、お前らどんな英才教育を受けてたんだ?」
それは、タケル自身が一番驚いている。
村にいる時は、自分の成績を意識したことなんて無かった。みんな同じように勉強を進めていると信じて疑わなかった。
村の大人達も、トオルの頭の良さは誉めていたが、タケルが誉められたことはなかった。
「俺は、自分が勉強ができるって意識したことないよ。まぁ、勉強自体は嫌いじゃなかったぐらいで・・・。」
「そんなんで、天才が生まれたら苦労しないって。」
「そんなこと言われてもなぁ。」
答えに困っているタケルを見て、ジュンは笑う。
「まぁ、天才でも中身は惚けてるから、親近感はあるな。」
「それは誉められてるのか?」
「まあな。トオルはなんか取っ付きにくい感じで、なんか損してるけどな。」
トオルは、周りにどう思われてるかなんて関心が無いのだろうと、タケルは思う。
「昔、サーちゃん・・・俺らを育ててくれた人が言ってたけど、トオルは頭が良すぎて、神経回路が表情まで届きにくいんだって言ってた。感情が表現しにくいだけで、嬉しかったり悲しかったりする気持ちはちゃんとあるって。」
「でもお前は、トオルの表情がわかるんだろ?」
「うん、村の子供達もそうだったから、ここにきて戸惑ってるよ。」
本当にトオルが、こんなに誰ともコミュニケーションを取りにくいとは思わなかった。
当の本人は、まるで気にはしていないようではあったが、タケルはどうにももどかしく感じた。
「そうか、タケル、お前があいつの感情を引き出すんだよ。」
ジュンは、突然訳の分からないことを言い出した。
「お前、影響力あるからな。お前と一緒にいると、なんか・・・嘘とか言えなくなるし・・・。」
「何言ってんの?」
タケルは、訳がわからない。
「お前の、態度とか話とかが、人に影響しやすいってこと。お前は、人の感情を引き出しやすいんだよ。・・・なんか、政治家みたいだな。」
「何だよ、訳が分からん。」
タケルは、苦笑いをした。
「今から、トオルと一緒に昼飯食べるけど、一緒にどう?」
タケルは、ジュンを昼食に誘った。
「お前ら、本当に仲がいいよな。」
ジュンが、半ば呆れたように言う。
「こうでもしないと、トオルは1日誰とも話さないだろ?」
「過保護だな。」
「違うよ。俺が嫌なの。トオルが知らない人になりそうで。」
「なんだ、それ。」
「俺にも、よく分からない。」
本当に、最近のトオルは様子がおかしい。何か1人で抱え込んでいるのかも知れない。
トオルと合流して食堂へ入り、日替わり定食を頼み食べた。
「トオル、意外に食べるんだな。もっと少食だと思ってた。」
ジュンは、くったくない笑顔で、トオルに言った。
タケルは、ジュンの大らかで物怖じしない性格が、気に入っていた。
入学当初から、まるで以前からの友達のように接してくる人懐っこさが、自分の性格に少し似ているような、安心感があった。
それに、ジュンは人をよく見ている。たまに本質をついたことを言われて、ドキッとすることもある。
「そんなに意外かな?ここの定食、美味しいよ。」
トオルも、ジュンに気を許しているらしく、他の人に比べてよく喋る。
「タケル、やっぱりお前といるとトオルは感情を表に出しやすいんだよ。俺、今トオルが楽しそうなの、何となく分かるもの。」
ジュンは、タケルにそう言って、ニカッと笑った。
「それはあるかも知れない。僕もタケルといる時の方が、人とコミュニケーションしやすいもの。でも、ジュン、君も人懐っこいから、僕は助かってる。」
トオルがそういうと、ジュンはすごく照れくさいような顔をした。
タケルは、珍しく照れているジュンのかをを見て、大笑いをした。
授業の終わり、タケルは久しぶりにトオルと帰った。
「トオル、お前、何か隠し事してない?」
タケルは、トオルに聞く。
「タケルは、いつも真っ直ぐに質問してくるよね。」
そう言うトオルは、笑っている目をしていた。
「だって、心配なんだよ。」
「うん、でも・・・僕にもまだ分からないんだ。だからタケルに伝えようがないんだよ。ただ・・・ミドリの様子が変なんだ。お前ミドリにメールしてる?」
「最初してたけど、返事があまり来ないから今はあまり・・・お前のところには返事が来るの?」
タケルは、なぜ自分には返事か来ないのか分からない。
「うん、返事は来るけど、文面が・・・うまく言えないけど何かおかしいんだ。元々自信家だったけど、それがエスカレートした感じというか・・・。新しい環境で、周りにチヤホヤされてるだけならいいんだけどね・・・。ちょっと気になる。」
トオルは、ミドリを心配しているのだ。
ただ、それだけじゃない。他にも何か隠しているとタケルは直感した。
「他にも何か隠している?1人で背負ってないで、俺にも教えてくれよ。あの、轟のこと?あいつなんか怪しいし。」
タケルは、轟が気に入らない。
そんなタケルに対して、トオルは苦笑いをする。
「そんなに、信用ならないような人じゃないよ。不器用な感じがするけど。」
「なんか、信じられないんだよね。気取ってる感じが俺は苦手だ。」
「珍しいよね。タケルが理由もないのに、こんなに不信感を持つのは。」
タケルだって、自分が理不尽に轟のことを嫌っているのは自覚している。多分、生理的に受け付けないということなんだと思う。
「それから、博士とサーちゃんとは結婚していたらしいよ。」
突然、トオルが爆弾発言をした。
「えっ、えーっ!!ウソだ!!なんで、教えてくれなかったんだよ!!」
タケルは驚きのあまり大声で叫んでしまって、周りからジロジロ見られてしまった。
「ごめん、言う機会がなかったんだ。僕も最近知った事だし・・・サーちゃんが、僕らを引き取る前には離婚してたらしいけどね。でも、今でも連絡は取っているし、仲は悪くないのかも、そこら辺のことはよく分からない。」
「なんか、ショックだな。」
「サーちゃんのプライベートだよ?」
「そうなんだけどね・・・ハァ・・・。」
ショックを隠せないタケルを、トオルは黙って見ていた。
「まあ兎に角、何かあったら絶対にタケルに言うよ。だから心配しないで。」
トオルは、タケルにそう言って別れた。




