ワタル
タケルはベッドで横になりながら、今日の出来事を考えていた。
いろんなことがありすぎて、朝にサエコと別れたことが、遠い過去にように思える。
(サーちゃん、1人で寂しくないのかなぁ・・・。)
タケルは、サエコのことを思う。トオルへの心配もある。
そして何よりも、これから住むことになる深山家に対する疑問が湧き上がってくる。
タケルは、同じ顔をしたワタルと顔を合わせた時のことを考えていた。
夜、ワタルが帰ってきた。
本当に似ている。
タイムマシーンか何かで、未来の自分が会いにきたのではないかと、タケルは奇妙な気分になった。
ワタルも同じように感じたようで、2人でしばらくボーッと見つめ合ってしまった。
そんな様子を見て、トウコが笑いながら声をかけてきた。
「並んでいると、本当にそっくりね。2人ともびっくりしすぎて声が出ないの?」
「いやぁ、本当にびっくりだよ。まるで、自分が昔の写真から出てきたみたいだ。」
ワタルも、笑い出した。
「タケル、同じ顔をしたよしみで、よろしく頼むよ。」
ワタルは少しおどけたように、タケルにそう言った。
「はい、・・・よろしくお願いします。」
「なんだか、緊張してる?」
「えっ?いや、緊張というより、びっくりしすぎで・・・。」
「はははっ。そりゃびっくりするよなぁ。俺も、初めて写真を見た時は、絶対自分の写真だと思ったし。今も、なんだか変な気分だ。」
タケルはワタルと話をしながら、ふと深山夫妻の方を見た。
2人は、複雑な表情でこちらのやりとりを見ていた。特に、ユミは今にも泣き出しそうな、困っているような、なんとも表現し難い表情で、ワタルの反応を窺っているように見えた。
タケルは、ベッドの上で何度も寝返りを繰り返して、なかなか眠れずにいた。
(どうも、ただの親戚というわけじゃないみたいだよな。夫妻のあの顔はなんだろう。ユミさんなんて、本当に困っているように見えたし・・・。)
タケルは、サエコが別れる前に行っていた、言葉を思い出した。
「私のことを、心から恨む事もあるかも知れない。」
あの時、サエコはそう言った。
しばらく考えた後、タケルは起き上がり頭をブルブルと振った。
「今は考えてもしょうがない。何があってもサーちゃんのことは信じるさ!」
タケルは、自分に言い聞かせるように独り言を言い、毛布を被りそのまま寝てしまった。
日曜日になった。
ソウタが車で、いろいろ案内をしてくれた。
トウコとユミも、一緒に来て、車内は結構賑やかだった。
車は、地下鉄の駅やタケル達が通う学校、普段の買い物をする商店街などを周る。
トウコが、横で指を挿しながら詳しく説明してくれたので、自分の行動範囲内のことが、かなり把握できるようになった。
一通りの案内が終わり、やがて車は郊外にある大型のショッピングモールへと入って行った。
店の中でも、トウコが中心になって、タケルの物を買い揃えていく。
物に執着心のないタケルは、何が必要なのかさえよく分からず、トウコに任せっきりだった。
結果、すごい量の買い物となってしまった。
「すみません、こんなに買ってもらって・・・。」
タケルが遠慮がちにいうと、ソウタが言った。
「このお金は、北村先生から預かっている分だから大丈夫だよ。児童手当の分をずっと貯金していたらしい。だから、このお金は君のものだよ。」
「えっ?サーちゃんが?」
「タケル、北村先生をサーちゃんって呼んでたの?」
ソウタは意外そうに聞いてきた。
「村の子供はみんな、サーちゃん先生って呼んでましたよ。」
タケルはキョトンとした顔で答えた。
「私も、北村先生にお会いしたことはあるけど・・・、人にも自分にも厳しいイメージの人だから・・・意外ね。」
ユミも、自分が持つサエコのイメージと繋がらないらしい。
「うん、でも・・・、北村先生は中央病院時代、患者さんに優しく丁寧な先生と評判はすごくよかったんだ。先生は、現場の方がやりがいを感じてるのかも知れない。」
「サーちゃんは、村でもすごく信頼されてますよ。俺たちの誇りだもの。」
「そうか・・・。地域医療の使命感でこっちに戻らないのかと思ってたけど、村の暮らしが先生に合っていたのかもなぁ。」
ソウタは、何かを納得したようだ。
「きっと、すごく優しくて責任感のある人なのね。」
トウコが、タケルにそっと言った。
「うん、すごく優しくて強い人だよ」
タケルは、トウコに答えた。




