旅立ち
春が近づいていた。
タケルは15歳になり、もうすぐこの村を離れることになっている。
フミカが死んでから、タケル達の生活は少し変化していた。
ミドリは、たまにトオルとメグミのところへ遊びにいくだけとなっていて、3人で遊ぶことはほとんどなかった。
学校でのミドリは、相変わらず我が儘で、タケルと喧嘩ばかりしていたけど、それを止めてくれてたフミカがいないことに気づくのか、すぐおとなしくなってしまうことが多かった。
ミドリは、フミカの死をまだ受け入れることが出来ないのだろうと、タケルは思う。
タケルだって、いまだに信じられない。メグミを誘いにフミカの家に行くと、奥の方からニコニコと笑いながら、フミカが現れる様な気がしてならない。
タケルは、坂下の爺ちゃんの所へ行くことが多くなっていた。爺ちゃんの畑仕事を手伝いながら、あれこれと話をした。
爺ちゃんの子供の頃は、フレアの影響がまだ大きく、国が大混乱で、そばにいた人が沢山死んでいった話や、そこからみんなで立ち直ろうと努力した事なんかをポツリポツリと話してくれた。
「あんな悲しいことはもう無いだろうと思ってたけど、・・・。」
フミカの死は爺ちゃんにとっても辛いことだと教えてくれた。
辛いことがいっぱいあっても、前を向いていかなくては立ち行かないのだという、爺ちゃんの言葉にタケルは強く共感した。
ミドリも早く前に向けていけたら良いのにと、タケルは考える。
トオルはどうだろう?
トオルだって、フミカのことは辛くて仕方がないはずだ。でも、最初からトオルは前を向いている。トオルは大人なんだと、タケルはそんなトオルがなんだか悲しかった。
タケルは、サエコも一緒に新京市へ行くものだと思っていたが、サエコはこの村に残ると言った。
新京市に行くと、トオルとも離れて暮らすことになる。学校は一緒だし、割と近くで住む事になると聞いているので、毎日のように会うのは今と変わらないと思うのだが、タケルは不安だ。
今までずっと家族で過ごしていたのに、もうすぐバラバラになるのだと、とても寂しく感じた。
ミドリは1人で、新岡山の学校へ行くという。
(ミドリは寂しくはないのだろうか?きっとミドリのことだから、どこへ行っても人気者で楽しくできるのだろうし、村に気軽に帰れるぐらいには近くだから大丈夫なんだろうとも思うけど・・・。)
タケルは、坂下の爺ちゃんに今の不安な気持ちを打ち明ける。
「みんなと、離れ離れになるのが辛いんだ。」
そう言うタケルに、爺ちゃんは笑いながら答える。
「すぐ新しい友達ができて、寂しいことなんて無くなるさ。それにトオルとはいつでも会えるんだろ?」
「そうなんだけどさぁ。今まで一緒に暮らしてたんだよ。俺の行く所は4人家族らしいんだけど、いきなりそんなところへ行って馴染めるもんなのかな?同じ歳の子がいるって言ってたけど、女の子らしいし・・・やっぱり不安だよ。サーちゃんには会えなくなるし、寂しいよ。爺ちゃんは俺らがいなくなるのは寂しくないの?」
「そりゃ、悪ガキが元気で、走り回るところが見れなくなるのは、静かすぎて寂しいさ。」
爺ちゃんはおどけて言う。
「サーちゃんは俺らがいなくなって、平気なのかなぁ。一緒に来てくれると思ってたのに。」
「それは、俺も驚いたな。またこの村が無医村になるんじゃないかってみんな不安だったから、助かるけど、先生はそれで良かったのかな?ただ、新京市のように慌ただしいところは、肌に合わないみたいなことを言ってたなぁ。」
「新京市出身なのに?」
「それは分からんさ。でもなタケル、人間生きていれば、いろんな出会いや別れを繰り返すもんなんだよ。それを繰り返して大人になっていくもんなんだよ。お前が将来どう言う大人になるかは分からんが、そんな出会いと別れがお前を成長させるんだ。元気に行っておいで。」
爺ちゃんは、少し真面目なそしてとても優しい顔でそう言った。
2週間後、タケル達は新京市へ出発する日が来た。
ミドリは2日後に、新岡山へ行くと言っていた。
タケルは、ミドリが準備に忙しく、まともに別れを言えずにいたのが少し心残りだったが、またメールでもすればいいと、あまり気にしなかった。
サエコが新岡山までついてきてくれる事になり、3人は村の人に見送られながら、駅のある新岡山まで行った。
鉄道がつながっているのは各地方の主要都市までで、一番近くの駅はここになる。
人口15万人のこの都市は、田舎の村に住んでいたタケル達には、クラクラするほどの都会に見えた。町中にバスが走り、道路には人や車などが沢山行き交っている。
今度行く新京市は、日本で唯一100万人を超える大都会だ。タケルはソワソワする。トオルを見ると、トオルも珍しく緊張しているようだ。
朝早くの特急を予約していたので、駅の近くのホテルで、一泊することした。
ホテルの部屋で、タケルとトオルはサエコに今まで育ててくれた感謝を伝えた。
「サーちゃん、今までありがとう。俺たち本当に感謝してる。」
「気にしなくていいわ。あなた達は、きっとこれから色んなことを経験して辛い事も多いと思う。頑張りなさい。」
「辛いこと?」
「今は言えない。でも、新京市で驚く事も多いと思うわ。もしかしたら、私のことを心から恨む事もあるかも知れない。」
「どう言うこと?・・・なんで・・・」
狼狽するタケルを遮りトオルが答えた。
「何があっても、サーちゃんが僕達をここまで守ってくれてたのを知っている。サーちゃんは僕達のことを愛してくれてたのは信じている。だから、やっぱり、今までありがとう。」
「トオルは何か知ってるの?」
タケルがトオルに詰め寄る。
「何も知らない。でもサーちゃんが僕達を守り、自分で人生を切り開くために教育をしてくれてたことは知ってる。」
「うん、そうだな・・・そうだよサーちゃん、俺もサーちゃんが何があっても味方でいてくれるって信じてる。」
サエコは2人の言葉に、目を潤ませながら、「ありがとう・・。」と言った。
次の朝、タケル達は、サエコに見送られながら、特急列車で新京市へと旅立った。




