ミドリの喪失感
夏休みが終わった。
フミカの事故の後ミドリの記憶は曖昧で、葬儀の記憶だけがぼんやりと繰り返される。
フミカの葬儀の時にフミカの顔を見た。穏やかに眠っているようで、もう動かないことがどうしても信じられなかった。
それはタケルとトオルも同じようで、葬儀の時、3人は泣くこともできなかった。
葬儀は、事故から1週間後に行われた。
出張所の中にある集会所に、村中の人が集まっていた。
ミドリ達は部屋の隅に3人で座り、黙って大人達が泣いているのを見ていた。
メグミが、不安そうに周りをキョロキョロ見回していたから、多分状況がよくわかってなかったのだろう。
葬儀の後、津山市まで火葬に行く。
手配されたマイクロバスと、村に1台しかない車に、フミカとその親族、そして村を代表してミドリの父親が乗り込んだ。
ミドリ達は、やはり黙って車が遠ざかるのを見送った。
後で聞いた話だが、火葬の後、メグミが泣きじゃくったらしい。
火葬され、小さな箱に収められたフミカを見て、もう二度と会えないと理解したのだろう。
その話を聞いたミドリは、ほんの少しだけメグミが羨ましくなった。
ミドリは、未だフミカの死を受け入れられない。そして泣くこともできない。
フミカの死を知らされてから、時間が止まったままで・・・とても苦しい。
夏休みの間、ミドリ達はあまり外で遊ばなくなった。
少なくとも、ミドリは外に出る気がしなかった。母親達が心配しているのは分かったが、そっとしてくれた。
タケルとトオルは時折メグミと遊んでいたそうだ。サエコに言われてたのかもしれない。ミドリも何度か行こうとしたが、勇気が出なかった。
サエコとユウコは担任の松下と共に、フミカの家族と子供達の心のケアに忙しそうだった。
ミドリも何度か、カウンセリングを受けたが、楽にはならなかった。
夏休みが終わる頃には、村は日常を取り戻して普段と変わらなくなった。そんな普段通りの風景の中に、フミカだけいないことがとても辛かった。
始業式で松下が、フミカの事故の話をして、子供だけで森に行くことがどれだけ危険なことかを話していた。子供達は神妙な顔で聞いていたが、ミドリにはどうでもよかった。
今頃注意しても、フミカは帰ってこないのだ。
学校でも、子供達のカウンセリングが続いていた。
その効果があったのか2週間もすると学校も元に戻って、フミカの名前も出て来ることは無くなった。
ミドリは最後まで先生に呼ばれてカウンセリングを受けていたが、面倒くさくなって普通を装う事にした。
タケルとトオルは元気にしていたが、ふとした時に悲しそうな顔をする。それを見てミドリは、自分と同じように普通を装っているのかなと、少し安心した。
秋が深まり村中が紅葉に染まる頃、ミドリはフミカの家にいった。
トオルがメグミと遊ぶという事で、少し勇気を出して自分も行く事にした。
フミカの家にいくと、メグミとマチコが出迎えてくれた。
マチコは、にこやかに出迎えてくれたけど、やつれていてまだ辛そうだ。
フミカの部屋へ行った。
勉強机の上には、フミカの写真と遺骨の入った小さな陶器の箱が置いてあり、花が飾られていた。
写真のフミカは、楽しそうに笑っている。
ミドリとトオルは、写真に向かって静かに手を合わせた。
メグミがトオルの手を引っ張ってどこかへ連れて行ってしまった。
トオルは、よくここへ来てメグミの遊び相手になっているらしい。
「トオルくんが、よくメグミの面倒を見てくれるんで、本当に助かるわぁ。」
マチコがそんなことを言っていた。
1人部屋に取り残されたミドリは、小さくため息を吐く。
「来るんじゃなかった・・・やっぱり苦しい・・・。」
独り言を言いながら、部屋をぼんやりと見渡した。
何度も遊びに来たことのあるこの部屋は、フミカの写真が飾ってある以外は、なにも変わっていない。
ふと見ると、本棚の下の方に小さな箱が見えた。それは子供用のジュエリーボックスだった。
「懐かしいなぁ。」
小さい頃、樹脂でできた指輪だとかペンダントで、お姫様ごっこをしたのを思い出した。
蓋を開けで中を見た。
見覚えのあるアクセサリーに少し微笑ましい気持ちになった。
「あれ?チップが入っている。」
ミドリはジュエリーボックスの中に、記録用のチップが入っているのを見つけた。
チップの中にフミカの秘密が隠されていることを直感し、ミドリは急にドキドキし始めた。
「きっと、マチコおばさんも知らないんだ。」
ミドリは思わず、そのチップを自分のポケットに入れた。
しばらくすると、トオルとメグミがやってきた。
「ミドリちゃんも、一緒にあそぼ。」
メグミは、無邪気に笑いかけてくる。
「いいよ。」
結局、夕方までメグミ達と遊んだ。
帰り道、トオルと話しながら少し歩いた。
「メグミは、家の中が暗くならないように、わざと明るくしてるんじゃないかと思うんだ。」
唐突にトオルが言った。
「なんでそう思うの?」
「なんとなくだけど・・・、だからメグミがほっとけなくてね。なるべく遊んであげようって。」
「そうか・・・、トオルってそういうところあるよね。落ち込んでいる人を見つけて、そばにいてあげようとする。優しすぎるよ、トオルは・・・自分以外の人に・・・。」
ミドリは、トオルの優しさが悲しく思えた。
(だって、トオルは人に誤解されやすくって、すぐいじめられたりするのに・・・。)




