永い終焉の始まりの日⋯⋯夏休み八月 三二日 二三時 一五分
「ダラさんダラさん呼ばれとりゃーすもんだで」
「はあ」
「ダ○・イラマかしゃん、という駄洒落を禁じ得にゃー」
「こ れ は ひ ど いwww」
「このネタは必ずやウ=ス異本となるであろう」
「確かに相手はペドやなwww ショタにイラマかあ」
「それにしても、裏ピクでは残念なあつかいだったあの姦姦蛇螺がアニメに再登場とは、喜ばしい」
「姦姦蛇螺ちゃうちゃう。山田 ギマダラ」
「そんな鈴木 土下座ェ門みたゃーな……」
「姦姦蛇螺の元ネタはあきらかにマリリスやさかいな。気を使ったのか、高度なギャグなのか……どっち?」
「こんなマシンガンつきの装甲車が、ここの地下に?」
しばし投稿動画の新宿を見つめていた美沙希が、与魅子に尋ねた。
「ある。ネオソビエト軍に先を越されてなければ」
「それを、動かせる?」
「スズキ……普通自動車の操縦は覚えた。ネオソビエトの装甲車はゴムタイヤだし、動かせる可能性は高い」
「地下駐車場。地下か。一階の外から回りこむしか……」
「より安全な行動としては」
与魅子はPS90と印刷されている銃の外箱を指でつついた。
「これを有効活用して、近くのホテルなりマンションなりで車を調達する」
「いきなり強盗って」
「戦争ではよくあること」
「……どっちがいいの?」
与魅子は脚立から立ちあがって、パーソナルではなさそうな市販のコンピューターで監視カメラを切り替えた。
地下一階、脳缶喫茶のむかい、ビル辺縁部に車留めがある。駐車場としては狭く、停まっている自動車もない。
「強敵には近づきたくないけど、武器と装甲がそろえば美沙ピも安心かなって」
「アーマード・ヴィークル?」
与魅子と美沙希の会話を利口電話で翻訳していたショタコン氏が、モニターを覗きこんで尋ねる。
「ここ↑。地下一階の、ここが車用エレベーター。ビークル・エレベーター? 隠した装甲車を出し入れするなら、ここ↓」
地下一階の車留めは地上の公道とつながっている。その奥側に、空母の甲板と同じ床だけのエレベーターがあった。
「下の連中が装甲車を使うなら、出てってからマンションで『こんばんは。車を貸せ』してもいい」
「こんばんはしたほうが安全そう」
「一息ついたから石門閣を調べようって気になると困るけどね」
降霊会は大成功だったのか、負傷者が回復している。腹が裂けていた重傷者は、疲労困憊して寝転がったままではあるが、裂傷は塞がっていた。
モニター越しでも、投薬と催眠術の合わせ技などではなく、本当に傷が治っていることがわかる。精霊に憑依でもされたらしい患者は、シチューを煮すぎたように傷口から粘質の体液を噴きこぼし、それが治まると、皮膚も治っているのだった。
降霊会の術師はサソリ女がつとめており、鋏腕につけた奇怪な金属板で、もっと奇怪な〝箱型メタリック甲殻類シリーズ〟を操っているように見える。
「傷口からブヂュブヂュゲロ噴いたら通販番組みたいに治ってるとか……なにがどうなってる? ナノマシン?」
「あれが最後の患者らしいし、こっちも動きましょうか」
新たな負傷者が降霊台に寝かされた。それを囲む〝箱型メタリック甲殻類シリーズ〟が傷口ではなく全身に、なにか触手めいたものを伸ばす。布服や髪は〝精霊〟の邪魔にならないらしく、患者はヘルメットなどは外されているがマッパにはされていない。
書記長は降霊会を手伝わず、大型モニターを注視したまま、意外にも電話をかけていた。
「UFOに、結界の魔法に、治癒の魔法があっても電話を使うのか……」
「まあ、ファンタジー世界から来た令嬢とかエロフとかロマンス派のローマ人とかが機械を使えるようになってちょろいもんだぜ地球人ブヒれオルァはド定番だから(オタ特有の早口)」
「彼らは、どこか別の世界から来たと?」
「いや、そんな深い意味はないです」
「そう? 鋭い考察だと思ったけど」
「異世界って、マジで?」
「ロボットよりは異世界のあーゆー種族、文明的モンスターと考えたほうが納得できる」
「治癒の魔法箱より、ナノマシンの母機のほうが納得できるじゃない。武器庫もネコくらいのロボットが作った、でいい」
「まあ……、結界はナノマシン。ここにもナノマシン。もう体内に侵入されて、機械の神経回路を構築されているとしても、そのほうがまだ魔法より対処のしようがある」
「よせよー」
「むこうが侵入者をほったらかしにするわけは、そ」
「やめて! そんな、バッドエンドは確定してるみたいな」
与魅子は溜息をついて、話を戻した。
「貧弱一般人から車をもらう。家族を回収して東京を脱出、でいいのね?」
「う、うん」
「下の、避難所は?」
「アメリカ軍が暴れてるんでしょ?」
「防衛と生活に充分な施設はあるかも」
「ナノマシンが体内に侵入とか言ってるじゃんアゼルバイジャン」
「その場合は、もう手遅れかもしれな」
「やめて! ……できるだけすぐに東京から離れたほうがいい。そうなんでしょ?」
「そうね……ニューヨークがなにかしらUFOと交渉できれば、今日にも、これからの一時間や二時間で東京を核攻撃はないと思う」
「じゃあ帰ろうよ。おウチ帰りたい」
「わかった。UFOがニューヨークに応答したかだけ確認する」
タブレットは作業机でコンセントにつなげてある。段ボール箱からポテトチップや煎餅を駄菓子屋台のガラス瓶へ入れ替えたり、店員が食事をしたり、売上金を数えたりすることに使うのだろう。
今はPS90の外箱が三個。銃本体が三挺。付属の弾倉が三個。オプションパーツのサプレッサーやらナントカスコープがいくつも。五〇発が入るオプション弾倉が六個。未開封の弾薬箱が七個。それに与魅子とショタコン氏のタブレットが、ゴッチャリと置いてある。
「[スーパーキネティック……まさか、それじゃ駕、艦む、あーいや! メンタルモ、あーその、なんというか……つ、つまりサイオニクス・コンピューターが〈メサン〉を動かしているというのですか!?]」
「[そのとおりです]」
与魅子はキャリーバッグから衣類(使用ずみ)を出し、店の空段ボール箱へ放りこんだ。これでオプションパーツは入る。弾薬箱は、伊豆の別荘地へ出かけるときに食品をつめたリュックサックでよさそうだ。残っていたプロテイン袋はモニター室の食品棚にまぎれこませた。
「[繰り返し、決定を告示します。ネオソビエトは大ニューヨーク帝国の降伏を認めます。これは全地球人へ向けての告示です]」
「[それは、人道を尊重した、高貴なる判断です]」
「……?」
ニューヨーク市公式チャンネルでは、リチャードがまた日本語で喋っている。放送室の誰かとではなく、演説台の後ろにある大型モニターと喋っていた。
「[インペラートル、あなたは卓越した指導者です。わたしの予測を上まわる早さでニューヨークを正解へと導きました]」
「[それは……どうも]」
「UFO……?」
「[あなたの決断と行動が、二〇〇〇万人を救ったのです]」
「[褒められても……、自分にできることをしただけです]」
そつない返事をするリチャードを、同時通訳者のそつない仕事によってか、放送室の観衆がしめやかに拍手した。
「[それゆえ、卓越した指導者たるインペラートル=ホソカワに、我々は特典を授けます]」
「[復興支援ですか?]」
「[それは次にしましょう。今回は、あなたが望む都市を、好きに選びなさい]」
「[望む都市とは? ……降伏の説得をしろと?]」
「[ニューヨークの代わりに破壊する都市のことです]」
「[代わりに、破壊……? Σ(゜Д゜)ワッタ!? トクテン!? トクテンナンデ!?]」
「[ニューヨークの代わりに破壊する都市を、あなたが思いのままに選ぶのです。すばらしい特典でしょう?]」




